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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

飼われる男と一般人=その二

飼われる男と一般人の続き





 大学の学食で、オムライスを頬張りながらフロックは浮かない表情をしていた。

 前はそれなり美味しいと感じていたはずの料理が、やたらと不味く感じるのだ。
 こんなに不味かっただろうか。首を傾げてみても味は変わらない。
「フロック、随分、険しい面してんな?腹でも痛いのか?」
「いや、何かさぁ……、学食不味くなってねぇ?作る人変わったとか?」
 話しかけて来た友人に向かって、スプーンでオムライスを指し示しながら疑問に思ったままを口にする。友人は幾許か考え込んではいたようだが、首を振って否定した。
「俺もさっき食ったけど、別にいつもと変わんない感じだったぞ。可もなく不可もなく」
「そうかぁ?久しぶりに食ったからなー。不味さを再確認してる所だった」
 友人はけたけたと笑い、フロックの言に同意をして見せた。
「解るわー、暫く実家に帰ってかーちゃんの飯食った後とかさ、学食まっず!ってなるもん」
 友人の言葉に、最初こそへぇ。と、返したが、食べ進めるごとに表情が曇り出す。最近の食生活を脳裏に思い浮かべ、羅列してみれば原因が明確に輪郭を持って浮かび上がってきたのだ。
 フロックの食生活は、購買やコンビニで買ったパンか、ジャンが提供してくれる食事、あるいは居酒屋の店長が作ってくれる賄いなどのいずれかであり、自らの手料理はほぼ皆無である。何故、不味く感じたのか。答えは簡単だ。無意識に最近食べたジャンのオムライスと比較していたからだ。

 目の前にあるオムライスは、ケチャップの入れ過ぎなのか、舌触りはべちゃっとしており、ご飯同士がくっついて硬く、やたらと味が濃い。やや焦げた風でもある、上に被さった玉子の膜は妙に甘く、後味にしょっぱさと甘さがしつこく残った。
 ひたすら安さが売りで、貧乏学生に大人気の学食ではあるが、一度舌が肥えると微妙に感じてしまうようだった。舌が肥えた原因は、己の腹が知っている。
「お前、最近、ちょっと顎んとこ肉ついてねぇ?賄いで美味いもんばっか食わせて貰ってんだろ」
「まーな、賄い付きのバイト先ってのはほんと重宝するぜ。食費が浮くだけでも大分違うからな。お前も探せばあるんじゃねぇの?」
「無理無理、俺に接客とか、まじ無理って奴。お前はいいよな、いつもへらへらしてて悩みとかなさそうだしさ」
 揶揄るような発言に、一瞬、かちんと来たが、こういう手合いには幾ら言っても、でもでもの水掛け論になるのは学習済みだ。要は、自分の方が苦労しているとの苦労自慢がしたいだけなのだから。
 友人に適当に相槌を打っていると、用事があると手を振って去る。合わせるように手を振り返し、最後の一口を掻き込んで水で流し込めば、腹は満たされたが、別の何かが満たされなかった。

「あー……、かえりたい……」
 後、数十メートル先に自宅の玄関がある。にも関わらず、帰りたいと零すほどにフロックは疲れていた。
 週末の居酒屋は忙しい。予約以外にも飛び込みで客はわんさか来るのだ。
 人の手も席数も足らず、人が多ければ横柄な客、迷惑な客も必然的に増える。比較的、安く設定している店の宿命と言えばそうだろう。
 事前に料理の提供に時間がかかる。と、断られて尚、了承したにも関わらず、遅いと怒鳴り付けてくる客。子連れで来店までは良いが、お喋りに夢中になって悪戯し放題で走り回る子供を放置する客。飲み過ぎた挙句に、部屋にトイレに吐き散らかして汚して帰った客。今日はそれらが重なり、疲労も何十倍に達していた。

 閉店時間を告げても、だらだらと居座り、スマートフォンを弄り回す客。家でも出来るだろそれ。
 酔っぱらい、床に転がって寝だしてしまった客。さっさと帰れ。
 汚物だらけになった個室とトイレ。死んでしまえ。

 ぶつぶつ愚痴を零しながら扉の前に立ち、肩にかけたメッセンジャーバッグから鍵を出して開けようとするが、中の何かに引っかかって鍵が出てこない。
「あー……、くっそが……!」
 強引に取ろうとすれば、鍵についたキーホルダーがちゃりちゃり音を立て、それすら耳障りで苛立ちを助長させた。
「何、夜中に吠えてんだお前」
 コンビニの袋を手にぶら下げたジャンから声をかけられはっとなる。人の気配に気づかないほど、精神がささくれ立ち、みっともない所を見られてしまった。
「疲れてるなー。ちょっとうち寄ってけば。疲労回復にいいお茶あるぞ」
 返事もせず、顔ごと背けた様子を見て、ジャンは色々と察してくれたようだ。
 直ぐに風呂に入って疲れを落としたかった気持ちもあったが、さっき買ってきたプリンあるぞ。との一言に、ふらふらついて行ってしまった。

 紅茶用の硝子のポットの中に広がった色は驚くほどに赤く、口に含めばあまりの酸っぱさに身が竦んだ。ローズヒップと言うらしく、ビタミンが豊富なのだと説明してくれた。
「酸っぱいか?蜂蜜用意してやるよ」
 ジャンは飲み慣れているのか、飲んでも平然としている。
 自分が過敏すぎるのかと、もう一口飲んでみるが、酸味がびりびりと口の中を刺激するばかり。
「ほら、好きなだけ入れな」
 机の上に置かれたのは、一キロお徳用ディスペンサーに入った蜂蜜と匙一本。
 数度、蜂蜜の容器とジャンを交互に見返す。
「何だよ……」
「いや、意外で。……こう。小洒落た瓶に入れてあって、ハニーディッパーみたいなので取るんだろうな。めんどくせぇなって思ってたから」
「あの人が来た時はそうするけど、いいだろ別に、補充が面倒なんだよ……」
 ジャンは視線を逸らしながら紅茶を啜るが、見詰めてくる視線に耐えかねたのか、ぼそぼそと言い訳がましく、目元に朱が差していた。フロックは小さく笑い大量に紅茶の中へ蜂蜜を投入する。
「甘過ぎねぇ?」
「疲れてるからいいんだよ」
 蜂蜜が入る事で、更に色が濃くなった紅茶を飲む。
 喉が焼け付くほどに甘い。ぐっと傾ければ解け切れなかった蜂蜜が口の中へ入り、更に甘さが増した。口の中をもごもごと動かし、カップをジャンの方へ差し出せば、やや温度の落ちた紅茶を注いでくれる。
「あ、プリン忘れてた。要るか?もう口の中甘ったるいんじゃねぇの?」
「食べる」
 フロックが簡潔に告げて手を差し出すと、ジャンは無下に叩き落す。くれるんじゃないのか。
「せめてこっちは飾ってやるから待っとけ」
「そんなに待てない。眠いし」
 時間がないと急かせば、一つ息を吐いて、既製品のプリンをそのままくれた。紅茶を混ぜる用に貰った匙でのんびり食べていく。
「偶に食うと旨いな」
 口の中で蕩けるカスタードプリンを堪能していれば、いつものようにジャンは微笑みながら見ている。何とはなしに母親を彷彿とさせたが、プリンを掻き込んで呑み込む事で妄想は打消した。
「いつも手作りのイメージあったけど、そうでもないんだな」
「暇だから掃除したり、ちょいちょい作ってるだけで、元々はずぼらだよ」
 意外な情報だ。常に部屋は綺麗に片付いていており、埃一つ落ちていない。手の込んだ料理に、丁寧に淹れてくれる飲み物。無精者の印象は持っていなかった。が、今回の蜂蜜の出し方を鑑みるに、印象が先走って気が付いていないだけで、細かく思い返せば見えるものも出てきそうではあった。
「ちゃんと人間らしいとこあったんだな。お前」
「何だそりゃ。頭のてっぺんからつま先まで生粋の人間だわ」
 人間らしい。との言い回ししか浮かばなかったため、そう伝えたが、微妙に伝わってない気がして呻りながら酸味のあるお茶を口に含んだ。
「なんつーか、隙がない?いつも背筋伸ばしててさ、きちんとしてる感じだった」
 何でも我慢していて、人形じみていた。とまでは口にしないが、ジャンの口角が片方だけ上がった。
「きちんとしてないと余計に痛い目に遭うからな。そりゃあするようになるだろ?」
「なるほど、しっかりと躾が行き届いてるな」
「手のかからない『いい仔』だろ?」
「本当にな、実に飼い主想いだ」
 この会話は一体、何の皮肉の応酬か。
 冷めたお茶を啜り、下らない会話を繰り返しながらも、徐々に出てくる言葉は減っていく。

 黙っていると瞼が落ちそうになって来る。
 本格的に帰らねば不味い状況である。
「あー、睡魔がやばいから帰るわ。ごっそさん……」
 欠伸で浮いた涙を擦りながら鞄を持って立ち上がる。スマートフォンで確認すれば、既に二時は回っており、普段ならシャワーを浴びて、ベッドの上に居るはずの時間だった。少々夜更かしが過ぎた。
「あぁ、ちゃんと歯磨いて寝ろよ」
「解ってるって……」
 まるで心配性の母親の如き科白を吐きながらジャンは見送りに来る。眠気のあまり、ぶっきら棒な返しになったが、気を害した様子はなく、おやすみ。と、優しい声色で、扉を閉めるまで玄関に立っていた。外に出れば体が寒々しい空気に包まれる。五月も半ばで暖かくなり出したとは言え、夜は肌寒い事も少なくない。
 首元の隙間から入って来る風を避けるために、首を竦めながら鞄を開く。先程は鞄に引っかかって抵抗していた鍵が、随分とすんなりと出て来たものだから、フロックは舌を打った。ジャンに会いたいがために、わざとらしくもたついていたような気になったからだ。そんな訳はないのだが。
 夜中の音が響くとは言っても、誰が出しているかも知れない音に、ジャンが反応して出てきてくれる保証もない。

 ジャンが野良猫なら、俺は野良猫に餌付けされた犬か。

 美味しい餌を与えられ、懐いて尻尾を振り回しながら構って欲しがる犬の気分である。
「阿保くさっ!」
 ここ最近の、痛々しい自らの妄想を切り捨てるために吠え、玄関でスニーカーを乱雑に脱ぎ、鞄を廊下へ投げ捨てて浴室と一緒になっている洗面所へ直行。歯を磨き、顔を洗い、風呂は諦め、着替えてベッドへ身を投げる。

 疲れてるんだ。
 風呂は明日の朝入ればいい。
 一晩しっかり寝て、起きれば馬鹿な妄想もしないだろう。

 〇●〇●〇

 今日のアルバイトは暇であった。
 ぽつぽつと客が来ては直ぐに帰っていく。
「あー、いつもこんくらいならなー」
 客が居ない間、フロックはバックヤードで業務用の冷蔵庫を背に、だらけながら適当にスマートフォンでゲームをして時間を潰す。
「頑張っても別に時給上がる訳じゃないしなー」
 バイト仲間が同意しながらお茶を飲んで寛ぐ。フロックよりも長くいる先輩だ。
「君達のお給料がどこから出てると思ってるんだ……、お客さんあってこそでしょうに」
 同じくバックヤードで店長も寛いでいた。フロックも先輩も、決して舐めている訳ではないが、店長を前にして好き勝手に放言できる程度には距離が近い。
「でも、もう来るなって思うような客も一定数は確実に居ますよ?」
「あるある、ちょっとは客選んだ方がいいと思います。酒に酔って喧嘩始めるようなのとか、一々怒鳴るようなのとか、店中に響く大声で騒ぐとか、店長が何も言わないからでかい顔しやがってんですよ?他のいいお客さんが、あそこは客の質が悪いからもう行かないようにしよう。ってなるだけっす」
 先輩は店長の甥であり、身内であるためより言葉がきつい。それに乗じてフロックも一緒に店長に向かってやいやい言えば、全く思い当たる節がなくもない店長が眉を下げ、沈痛な面持ちで呻る。
「優しいと気弱や優柔不断は似てるように見えるけど違うもんです。ここで一番デカい面していいのは店長なんですから、しっかりして下さいよ」
 飽くまで一従業員、出来る範囲は狭い。店長にしっかりして貰いたい場面場面は良く起こるので、先輩が発破をかけるが、店長に向けられた言葉はフロックにも、つきんと痛む棘を刺す。
「うーんと、アイス食べる?好きなの食べていいよ?」
「甘いもんで懐柔しようとしないで下さいよ。そんなんで誤魔化されてやるの俺等くらいっすよ?」
 誤魔化されてやるのか。店長の言動が笑いのつぼに嵌ったらしい先輩が、震えるように笑いながらも、しっかり冷凍庫を開けて好みのアイスボックスを探している。
「フロック、何食いたい?」
「抹茶、黒蜜かけたの」
「オッケーオッケー、生クリームもあるし、丼パフェ作ってやるよ。客が来たらお前が対応しろよ」
「一応言っとくけど、商品だからね?」
 調子に乗った甥を嗜める店長をさり気なく無視し、先輩は丼を用意し、ボウルで生クリームを泡立てだした。硬くなったクリームを丼に放り、そこにフロックが要望した抹茶アイスを三つも掬い入れ、砕いたコーンフレークをまぶし、黒蜜をかけて差し出してくる。
「お、まぁまぁ美味そう」
「たんとおたべー」
 興に乗り出した先輩は、自分の分もパフェにするべく冷凍庫の中を漁り出した。完全に仕事を忘れているようだ。
 作って貰った丼に入ったパフェもどきは生クリームと、抹茶アイス自体の美味しさもあって、あっさり完食した。少しばかり、筋肉トレーニングを増やすべきか、プロテインを控えるべきか、デニムパンツのベルトの上に乗った肉をしみじみと感じ、アイスを盛り過ぎて店長に止められている先輩を尻目に捉えながら、使った丼を片付けて、このまま平穏無事に終わる事を願うばかりだ。

 斯くして、願い通りに残業もなく、アイスを食べ過ぎた先輩が凍えて震えながらコンロの火に当たり、店長が呆れながら生姜湯を作る問題が起きた程度で、迷惑な客も来ず、平和に終わった。その帰り道、不安を煽るような文言が書かれたメールに気が付いた。マルロからだ。
『最近、お前の周囲で変わった事や、問題、騒ぎは起きていないか?何事もないならそれでいい』
 どうにも含みのある雰囲気を受け取り、足を止めて暫し考えてはみたが、これと言って思い当たる節はなく、特に何もない。とだけ返しておいた。

 〇●〇●〇

「これは……」
「プリンアラモード。プリン好きみたいだからちゃんと蒸して作ってやったんだぞ」
 大学の帰りに、おいでおいでとジャンに呼び出されて向かってみれば直径十五センチ程の皿に盛られたプリンと、周囲を彩る飾り切りを施された林檎、桃、葡萄、さくらんぼ、キゥイ、メロンの果物各種に、たっぷり乗った生クリームが目の前に据えられた。
「これだけで腹一杯なりそうだな」
「サンドイッチあるぞ、玉子とチキンカツの。プリンはデザートにするか?」
 どれだけ食わせたがるのか。実は肥えさせようとしているのか。
 ジャンは塔に閉じ込められたお姫様と言うより、子供を太らせて食おうとする魔女の方が近い気がしてきてしまう。食料は文句なく美味しく戴いたが。
「あのさ、いつも俺ばっか食ってる気がするんだけど、お前は小食なのか?」
 概ね、フロックの食事風景を眺めるジャンが恒常化している。
 飲み物を口にする姿は見ても、食べる姿はあまり見た覚えがない。
「作りながらつまみ食いとか、味見で結構、腹一杯になるんだよな。プリンも作りながら失敗したのとか、果物の切れっぱし食ってたし」
 プリンのお供に、いつか飲ませて貰った苦みの少ないコーヒーをカップに注ぎ、フロックへ渡しながら言葉を否定する。
「ひょろひょろしてるから、碌に食ってないのかと思ってたわ」
「元々、筋肉はつき辛いけどな、これでも中学の時は陸上で先輩を差し置いてレギュラー張ってたから、運動神経はいいんだぜ」
「へー、人は見かけによらないな」
 とは言いつつも、確かにすらりとした長身は足が速そうに見えた。
「勿体ねぇな、こんだけ色々出来るのに」
 淹れる飲み物も、料理も旨い。運動神経も良い。頭も良く回り、賢く、見目も悪くはない。
 道を間違えなければ、今頃、才覚を発揮し、会社であれ個人事業であれ、役職に就いて他人に頼られながら働いていたのではないだろうか。と、思わざるを得ない。あまり良い事ではないが、フロックは、ジャンと比較して自身の運の良さを感じていた。
 当たり前に産んで育てて貰い、大事にされて、こうして大学にも行かせてくれた。一つでも違えば、今ここには居ないだろう。何事かあっても、生きようとすれば、余程の事態でもない限りはどうとでもなりはすれど、ジャンと同じ状況に陥った場合、己であればどう生きたのか。
「おい、眉間に皺寄せながら食うなよ。美味いもんは美味い顔して食え」
 指で皺を伸ばし、気もそぞろになっていたフロックをジャンが引き戻す。
「この後もバイトだろ?元気出していけよ」
「うん……」
 ジャンは元気づけようとしてくれているのだろうが、フロックの顔を凝視したまま、両手で頬を挟んで揉む行動は何なのか、伸びた眉間の皺は再び寄って行く。
「最初の頃より、大分肉ついたな……」
「まぁ、お陰様でな、栄養がついてついて」
 絞らなければと思った矢先に、この対応は中々心に来ると初めて学習した。
 ジャンは面白そうに顎の下の肉を摘まんで遊んでいる。
「お前も食え。そして太れ」
「やだよ。ぜってぇだらしなく腹が出るし、体形は意識して保ってんだよ」
 大きな匙に掬ったプリンを食べさせるべく、フロックはジャンに近づけるが、かなりの抵抗をされ、掬ったプリンはべちゃりと落ちて机の上で死亡した。
「あー、勿体ねぇな。勿体ないお化けが出んぞ」
「ふはっ、懐かしい響きだな。祟られたくねぇし食うわ」
 フロックの一言にジャンは破顔し、笑い終えると落ちたプリンを手で摘まみ、口の中に放り込んだ。柔らかいプリンは崩れて、完全には取れなかったが、味わう程度の塊は掴めたのか、流石俺だな。と、指を舐めながら自画自賛をしていた。

 ちらりと見えた舌の赤さに、フロックはそわそわと落ち着かなくなる。
 残りの残骸は台拭きで手早く片づけ、ジャンは残りを食べ切るように促す。本当に腹は減っていないのか。滅多に食事をする姿を見ない事も、あまり人間味を感じさせない要因の一つであると、今更ながらフロックは気が付いた。
 あるとすれば、フロックが食べさせた粥程度しか記憶にないのだ。
「ほら、まーた、眉間に皺が寄ってる。何考えてるか知らねぇけど、食う時くらい頭空っぽにしろよ」
 ジャンの食事方針なのか、それともそのくらいしか楽しみがないからか。視線をやれば微笑み返してくれる。知ってるようで知らない隣人。

 許して貰えるのなら、もっと知りたいとフロックは思った。

 〇●〇●〇

 朝、家を出て直ぐ、片手にごみ袋を持ったジャンと鉢合わせ、黒いハイネックのセーターを見てフロックは眼を細め、何も言わずに手を伸ばす。
「え、なになに……」
 ジャンは伸ばされた手から笑い顔で誤魔化し、逃れようとしたが玄関の扉は既に閉まっており、進退窮まったジャンの首を包むセーターに指に引っ掛けて下げれば、真新しい赤く鬱血した指による締め痕が現れ、フロックの表情を更に険しくさせた。
 単純に考えれば、フロックがアルバイトに行った後だろう。
「わざわざ見せないように気を使ってんだから、覗き見るのは止めとけよ。いい気分じゃねぇだろ」
 誤魔化し笑いから、悲し気な笑みとジャンの表情は移り変わり、傷を暴いたフロックの手をそっと外した。見た所で被虐の事実を知るだけであり、どうにか出来もしないのならば見るなとジャンは忠告する。
 柔らかく避けられた手を握り締め、俯くしかない。無力である。希望も抱けず、慰めにもなりはしないほどの。

 並んで階段を降り、ごみ捨て場へとジャンは直行し、フロックも同じ道を行く。ついて行っているのではなく、ただ行く道が一緒だと言うだけだ。
「あ、言い忘れてた。明日から、そうだな……、三日くらい居ないから、餓死すんなよ」
「随分急だな。と言うか、良く許して貰えたな」
「ま、色々頑張ったんだよ。休暇下さいって」
 その代償が首の痕だろうか。否、余計な詮索は止めよう。
「そんまま逃げればいいのに、帰ってくんのかよ……」
「約束は約束だからな。じゃあ、元気に学校行って来いよ」
 数度、ジャンはフロックの肩を叩き、来た道を帰っていった。

 ジャンの居ない三日間はあっという間に過ぎ、その間の食事が何につけても不味い。以前は好きだったパンも味気なく、学食は言わずもがな。唯一、アルバイト先の賄いは、相応に美味しいが、どうにも満足感が薄く、暇があれば筋肉トレーニングをして、体を鍛える。兎に角気を紛らわしかっただけであるが。
 特別な問題もなく一日の大学生活も終え、疲れで強張った体を揉み解しながら帰途を歩いていれば、件の男と擦れ違い、一瞬で体が強張った。不意に漂ってきた精の香り、ここに居ると言う事は、『そう言う事』なのだろうが、いつかの倒れて気を失っているジャンが脳裏に浮かんでしまい、にわかに緊張する。
「おや、お隣の。あれからご迷惑はかけておりませんでしょうか?」
「この間はどうも。今の所、気を使って戴いてます」
 流石、不特定多数の人間と毎日のように会う市議だけあって記憶力は良いようだ。たった一度顔を合わせただけで覚えられている。声が掠れ、どこか怯えている事に勘付かれはしないか、出来得る限り不自然でないようにフロックは頭を下げた。当たり障りのない会話ですら心臓が早鐘を打つ。
「うちの愚息と良く食事をしてらっしゃるようで、仲良くして戴いてありがとうございます」
 口元は笑っているが、やはり目は冷たい。
 感謝を口にする言葉の裏で、何を考えているのか、フロックには見当のつきようもなく、生唾を呑み込むばかりである。
「僕が碌な食事をしてないのを気にかけて下さって、ありがたい事だと思います。少し、ご好意に甘え過ぎかなとも思うんですが、美味しくて……」
「あぁ、確かに、あれの作る料理は絶品ですからね。これからも是非宜しくお願いします。どうか友達で居てやって下さい。何せあまり家から出れない仕事なものですから人付き合いがなくてね」
 飽くまでも表面上はにこやかに男は去っていく。
 言葉の裏を考えれば、自分の愛玩動物に近づくなと言いたいのか。それとも、言葉通りに、本気で仲良くしてくれる事を願っているのか、お前など居ようが居まいが変わらぬとの尊大さがなせる業か。幾ら考えても、答えは右往左往する。
 男性はこちらを一切振り返る事なく姿を消し、見えなくなった瞬間、フロックは走り出してジャンの部屋の前に辿り着く。荒くなった息を整え、インターホンを押すかどうかは迷った挙句、押さずに玄関扉に手をかけた。
 あっさりと扉は開き、先程よりも濃い匂いに吐き気が込み上げる。
「おい、ジャン……、ジャン?」
 声はかけてみるものの、返事はない。確実に中に居るはずである。もしも、以前のように気絶して動けなくなっているとしたら。何もなかった場合のお叱りは後で聞く覚悟をしながら不法侵入を試み、来訪を告げるために声を上げ、音を立て室内に入って行く。
 念のために浴室も見てみたが、真っ暗で水音もしない。ならばダイニングか、ベッドが置いてある寝室か。
「ジャン、居るなら返事しろよ」
「なんだよ……」
 寝室から少しだけ扉を開けて顔を覗かせるジャンの声は掠れ切っており、聞き取り辛く感じられた。
「あのおっさんと擦れ違ったから、怪我とかしてんじゃねぇかなって……」
「いつものこったから気にすんなよ。ほら、生存確認したならさっさと帰れよ。あんま見せたいもんじゃねぇから」
 扉の隙間越しの会話。
 物理的な距離がもどかしい。しかしながら、無理矢理、踏み込めるか。と、言えば。
「動けないほどの怪我は、してないんだな?」
「幸いな……、解ったなら帰れよ。くっせぇだろ?」
 優柔不断、ただの気弱は優しさとは違う。アルバイト先の先輩が言った言葉がまたちくちく刺さり出した。踏み込む度胸もない癖に中途半端にかかわり、手を拱いているばかり。
「ん、解った」
 従順な振りをして、すごすご帰る情けなさ。非常に居たたまれず、不甲斐なさばかりが募ってきてしまう。
 どんな力が、知恵があれば、この状況を打開できるのだろうか。自宅に戻り、そればかりを考えながら一時間ほど時間を潰し、ベランダから外出はしていないであろう様子を確認すると、居酒屋で習った雑炊を作って鍋のままジャンの元へ持っていく。少々、ストーカーの気分である。
「作り過ぎたからやる」
 使い古された言い訳と共に、出来立ての雑炊を玄関先でジャンへ押し付ける。
 腫れた頬には湿布が貼られており、唇が切れて、確実に他にも傷があろうとは推測出来たが敢えて触れないでおく。
「お前が作ったのか?」
「いつも食わせて貰ってるからな。まぁ、滅多に料理しねぇから、味は保証しねぇけど」
「味見をする間も惜しんで持って来てくれた訳な。冷めてぶよぶよになったら勿体ないし、早速食おう、一緒に食うだろ?」
 鍋の中身は、材料を適当に突っ込んだせいで、明らかに数人分はある。冷えてご飯が柔らかくなっても、フロックは嫌いではないが、ジャンは硬めが好みのようだと、言葉の端々から理解出来た。
「美味いな」
「口ん中痛くねぇ?」
「痛いけど美味い、お前料理出来るんだな」
「出来るけど、ちんたら料理してる暇があるなら、勉強か筋トレしてる方がいいってだけだ」
 成程。と、ジャンは納得して雑炊を頬張る。冷凍庫に入れたままになっていた小海老や、椎茸、卵。何となく買っておいた顆粒の出汁と醤油を混ぜただけだが、それなりには美味しい。やや冷凍臭さはあるが。

 せめて、暴力を止めさせられないか。と、考えても、無為に終わる。相手は狡知に長けた熟練の狸なのだ。愚策が失敗した事を考えれば、生半可なやり方では露見せぬように、秘事となっていくだけであろう。自らの地位を揺るがすような真似はすまいが、首を絞めるなどの危険行為がある。毎回、安全に済むとは考え辛い。いつか。
 知り合った人間の、陰惨な死体など見たくはない。だからだ。と、フロックは頭の中で懸命に自分へ向けた言い訳を立てる。ジャンとどうにかなりたいとは考えていない。見てしまったからにはどうにかしてやれれば。とは思っても。
「最近、やたら難しい面が増えたな。もっとへらへらしとけよ」
 ジャンの科白に、フロックの表情はますます不機嫌になる。普段からへらへらしている。にやついているような顔だと他人から言われ、あまり嬉しく思えた事がないせいだ。
「何だよ。お前まで悩みがなさそうでいいな。とか言うんじゃねぇだろうな」
「あ?悩みのない人間なんか居ないだろ。表に出すかどうかの違いだけで。俺が言いたいのは……、前も言った気がすっけど、飯くらいは楽しく食おうぜってこった。美味そうに食ってくれるから俺はお前と一緒に食うの好きだぞ」
 フロックが少しばかり噛みついた事は意にも介さず、さらりと躱しながらジャンが零した『好き』と言う科白に、脳が過剰反応し、全身がかっ。と、熱くなった。『どんな意味で』口に登りかけた言葉を呑み込む。口にした以上の意味はないはずだ。
「ご馳走様、美味かった」
 熱の上がった自身の体に動揺するフロックを他所に、ジャンはいつも通り、食べ終わった食器を手早く片付け、お茶の用意を始める。
「お茶くらい俺も淹れられるから、座っとけよ」
「別に動けない訳じゃねぇし……」
 茶葉を用意するジャンの手を制し、いいからと奪い取る。自分が解らなさ過ぎて、何かをしてないと可笑しな事ばかりを考え、口走ってしまいそうな危うさしか感じない。一人で冷静で居る時は、ただ気を揉んでいるだけで済むと言うのに、ジャンを目の前にすると、良からぬ事ばかりが浮かんでしまう。
 玄関先で顔を見た瞬間、

 俺だったら殴らないし、優しくするのに。

 などと、荒唐無稽な感情が湧いた。
 一体、ジャンとどうなりたいと言うのか、本当に自分が理解し辛い生き物なってしまっていた。自分が自分でないようだ。
「三日間、どっか旅行にでも言ってたのか?」
 お茶を淹れ終え、椅子に腰を落ち着ければ、ついて出た問い。
 余計な詮索はすまいと考えていたはずが、沈黙に耐え切れず零れ出してしまった。
「そうだなぁ、まだどうなるか判んねぇから内緒」
 はぐらかされて良かったのか悪かったのか、どことなく釈然とせず、わだかまりがフロックの心の中に澱のように溜まる。
「どうにかなる目途はあるのかよ……?」
 顔にある傷さえ除けば、ジャンは至って落ち着いた様子で、ほんの数時間前に暴行を受けたとすら感じさせない。非道も日常になってしまえば慣れるのか。それとも、ジャンだからこうなっているのか、何故、ジャンはこうも穏やかに笑っていられるのだろうか。それはフロックには理解しがたいものだ。
「案外お茶の淹れ方上手いな。今度からお前に任せようかね」
「何で……」
 またはぐらかす。言いかけて口を噤んだ。更に問い詰めても再び躱されるだけだ。
 お茶を飲み、言葉も呑み込む。

 俺が頼りにならないのは、端から解っている事だ。

 言えば巻き込む。ジャンはフロックよりも大人に揉まれてきているのだから、それを理解している。時折、親しくしているようでありながら一定の距離を保つ、または突き放そうとする行動が薄ら見える辺りも、近くなり過ぎる事を懸念しているのだろう。
 より大人であれば。知恵があれば。打開出来る力があれば、ジャンは頼ってくれただろうか。詮なき思考に陥り、異様なほどに悔しく、哀しく、フロックの無意識に背中が丸まって来る。
「お菓子やるから、そのしょんぼり顔どうにかしろよ。あーんってしてやろうか?」
 勢い良く顔を左右に振るフロックを見て、くすりと笑ってジャンは冷蔵庫へ行き、小さなカップに入ったティラミスを手に持ったまま、中味を銀の匙で掬うとフロックの口元へと寄越す。拒否をしたにも関わらず、それを無視した行動をするジャンの唇は笑みを形作り、緩く伏せた目は弧を描いている。
「ほら、あーん」
 一瞬だけ、むっと唇を尖らせたフロックだったが、ティラミスが乗った匙を遠慮なく唇へ押し付けられ、仕方なく開放すれば、甘いクリームと、苦みのあるココアパウダーが美味しくはあった。ジャンが作ったものが不味かった試しはないが。
 また一匙、ジャンは行儀悪く机座りながらティラミスを掬い取り、フロックの口の中へ放り込む。
「ひよこの餌付けみたいで面白いな」
「はぁ?」
 不機嫌な声と共に、ジャンの手からティラミスを奪い取ると、そのまま食べ続け、カップを空にして返す。甘さと同時に、コーヒーの風味とほろ苦さのある滑らかなティラミスはジャンに良く似合う菓子だな。なんて、訳の分からない感想が浮かんだ。
「所でさ、今日はバイトいいのか?」
 ジャンの言葉にはっとなり、慌てて時計を見る。
「やっべぇ⁉」
 時刻は既に五時を過ぎている。まだ余裕があると思い込んでのんびりし過ぎた事実に気が付き、気が焦る。いつも使う電車はもう出発済み。店に着く頃には完全に遅刻だ。どう言い訳するか。予約は入っていなかったはずであるが、慌てて店長へ電話をかけるが繋がらない。
「い、い、行ってくる!」
 慌てて玄関に走り、スニーカーを履こうとするが上手く嵌ってくれず、踵を潰して履いた。体当たり気味に玄関の扉を押し開け、走り出そうとするとジャンがフロックの肩を掴む。
「落ち着けって、鍵や、財布は?」
「あっ……」
 焦り過ぎて失念していた。
 鍵も持たず、財布も持たず、電車に乗るための定期もなく、どこに行こうとしていたのか。
「焦って走るとスマホも落とすぞ?他に必要なものは?」
「と、取って来る」
「おう、こう言う時こそ落ち着けよ。行ってらっしゃい」
 胸元で小さくジャンが手を振り、玄関が締まる。
 気は変わらず逸っているが、窘めてくれたお蔭で少しばかり落ち着いて、必要なものを確認する程度の余裕は出来た。

 店に着けば、メールで連絡はしていたため、少し注意される程度で済み、ほっと胸を撫で下す。普段は相応に真面目にしている事が功を奏したようだ。
 転寝でもしていたのか?と、先輩には笑われたが、隣人が心配で。とは言えず頷いた。
「ちょっと寝るつもりで横になってたら……、はは……」
「あるある、具合悪い時に風邪薬飲んでさ、ちょっと横になったら爆睡しちまって、店長一人とバイト一人で店やらせた事あるわ」
 その時の着信は十数件にも及んでいたそうだ。先輩はげらげら笑っているが、店長にとっては笑い話ではないだろう。ちらりと同じくバックヤードに居る店長の様子を窺えば、薄笑いを浮かべて遠くを眺めていた。それでアルバイトの一人が辞めてしまい、入れ替わりにフロックが入って来たと言う経緯になる。
「大丈夫だったんですか?」
「めっちゃお客さん断ったんだよー。って文句言われたし、バイトの奴には切れられるしさー、でも俺もきつかったんだぜ?やばいくらい熱出て、病院行ったらインフルって言われたしさぁ」
 それは倒れても仕方がない。インフルエンザのウイルスを店に持ち込む真似も良くはない。結果的には来れなくて良かったのだろうが、どちらも大変だっただろうな。とは察する事が出来た。
「前日くらいにげほげほしてる客が居たから、そいつからだろうなー。ウイルス巻き散らかしやがってよー。病気なら大人しく家で寝とけってんだ」
 どう考えても、誰も悪くはない案件である。
 諸悪の根源と言えば、そのウイルスを持ち込んだ客であろうが、接客業では避けられない事象でもある。
「ちょっと良くなってくると、直ぐ出歩く人って居ますからねー」
 幸い、今日は暇なようで、ぱらぱらと客が入っては帰り、適度に雑談する余裕もあった。ふと、ジャンは独りでどうしているのか気になる。出歩く事は許可されているようだが、気紛れに訪問し、家に居なければ不機嫌になるのでは、うかうかと留守にも出来まい。
 何が楽しくて生きてるんだろう。なんて、酷い言葉まで浮かぶ。
 料理や、菓子作りがせめての慰めか。
「おい、フロック、何ぼさっとしてんだ!俺も店長も手ぇ離せないからっ」
 いつの間にか、二人は注文が入っての料理中。何度も個室からの呼び出し音が鳴り響き、客が苛立っている様子が伝わってくる。子供じゃないんだから何回も押すな。とは思うが、外の音が聞こえないほど思考に耽っていたらしい。慌てて呼ばれた部屋に走り、飲み物の注文を受け取る。

「急に心ここに非ずって言うの?ぼーっとし出したからどうしたのかと思ったよ」
「すみません……」
 一段落した後、俯いて頭を掻きながら店長に謝罪を告げる。
「お前、熱か何かあんの?珍しく遅刻したりするしさ」
 仲間は気安く額に手を当て、自らの体温と比べ、呻って離れる。
「熱はないみたいだけどなぁ……。あ、解った。恋煩い?なぁ、恋煩い?そうだろ?」
「は、何言ってんすか?」
 恋煩いなど、そんな馬鹿な。
「だってさ、ぼけーっとしてた時の面、何か悲しそうって言うか、好きな人の事でも考えたんじゃねぇの?」
「別に……、そんなんじゃ……」
「フロック君、叶わぬ恋でもしてるの?」
 二人して興味津々でフロックに迫ってくるのだから堪らない。
「ちーがいますって!そんなんじゃないですから⁉」
「向きになる所が怪しい!」
「怪しい!」
 遅刻したり、仕事中にぼんやりしていた罰なのか、血の繋がりを感じる息の合いようで仲間の後に店長まで続いてフロックを茶化し始める。必死で否定すればするほど興に乗り、いつもなら煩わしい客の呼び出し音が、天の助けに思えたほどである。

 心配なだけなんだ。
 だって、俺は警察官になるんだ。
 困っている人を放ってはおけない。そうだろ?

 恋かどうかは断じれずとも、そうやって自分に言い訳をしなければならないほどに気にしている時点で、フロックの中に、ジャンが住み着いている現実は否定出来ない事に、当の本人は気付いていない。

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