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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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わんわん物語

・2021年02月19日
・ポメガバース
・犬になるフロ君
・めっちゃはしゃぐフロ君
・ワンコ可愛いジャン君






 やっちまったなぁ。
 俺は後ろ足で後頭部を掻きながら途方に暮れる。
 視界に入るもさもさの毛。詳しくは知らんが、俺は心労や疲労が限界になると、何故か小さなもさもさの犬になる。特異体質って奴か?
 まぁ、巨人になる人間が居るんだから、犬になる人間が居てもいいだろ。

 俺は大欠伸をしてベッドから飛び降り、自室に設置してある椅子から机へ登ると窓の外を覗き見る。もうほぼ兵士は宿舎には居ないようだ。折良く非番で良かった。
 
 さりとて、困った。
 これは待ってれば治るものではないのが全く以て面倒な点だ。
 以前、待てども待てども人の体に戻る事はなく、親しい人間に思いっきり構って貰うと治った。理屈は解らんが、それを鑑みるに、俺が人に戻るためには他人の助けが必要と言う事だ。サンドラやゴードンが居た頃は良かったが、もう居らず、現時点で仲のいい人間も居ない。寧ろ嫌われてるだろうしな。
 あーあ、詰んだんじゃねぇかこれ。これからは人生じゃなくて犬生を生きなければならないのか。

 言っても、変な意地で兵士を続けてただけで、他の連中のように高尚な意識を持ってる訳でもなく、無駄に生きてるだけ。いっそ犬のままが幸せかも知れないな。前向きに考えよう。俺が居なくなったって脱走兵扱いになるだけだ。少々、捜索くらいはされるだろうが、皆、俺の事なんて直ぐに忘れるだろう。

 そうと決まれば、少しでも金持ちそうな奴の所に行って飼って貰おう。
 動物好きの金持ちだったら可愛がって貰いつついい暮らしが出来るはずだ。自分ではきちんと見てないが、俺は中々可愛いいらしいから多分いける。肉とか食わせてくれる家がいいな。

 ささやかな目標を胸に進んだはいいが、先ず、最初の難関は扉だ。
 この遙か頭上にある取っ手をどう捕まえて捻ればいいだろう?
 椅子を頭で押して扉まで持って行けはするが、内開きだから引っ張らないといけないし。誰かが開けてくれるのを待つしかないだろうか。しかし、大して仲良くもない人間の自室に一体誰が訪ねてくると言うのか。
 悩んでいれば、くぅーん。と、か細い声が出て、爪でかりかり扉を引っ掻いてみるが都合良く開いたりはしない。

 どうすっかなー。
 このままこの部屋で干涸らびる運命だったか。
 便所とかどうしよう。糞尿が垂れ流された部屋で死んでる犬が一匹。俺に関するあらぬ噂が流れそうな内容だ。嫌われてるから絶対、犬を虐待してたとか悪口言われるんだろうな。俺ってなんでこんなについてないんだろう。
 苛々してきた。とりあえず二度寝でもするか。

 硬いベッドに戻り、布団に潜り込んで丸くなって眠る。
 やってらんねぇ。
 目が覚めたら勝手に治ってないかな。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 人に触られる感触がして重い瞼をこじ開ければ、面長の髭面が視界いっぱいに広がった。
「お、悪い起こしたか?なんか魘されてるみたいだったからさ……」
 ふきゅん。と、明らかに不機嫌な声を上げれば、髭面、ジャンが困ったように眉を下げた。
 何の用があって人の部屋に勝手に入ってるんだこいつは。
「お前のご主人様がどこに行ったか知らねぇよなぁ……」
 無遠慮に人の頭を撫でながら、ジャンが訪ねてくるが犬に訊いて何が解るってんだ。大体、ご主人様じゃねぇし。
「ふふ、お前可愛いなぁ、フロックも犬飼ってんなら言えばいいのに」
 俺の頭をわしわし撫でながら、ジャンが顔を緩ませる。
 お前のそんな顔、初めて見た。
「宿舎に居てくれればいいけどなぁ」
 そもそも何故、ジャンは俺を探してるんだろう。書類不備かなにかあったか?
「絶対ぶち切れんだろうなー、はぁ……」
 言えば俺が怒るようなもの。皆目、見当がつかない。
 ジャンはうだうだ悩みながら俺を撫で回して一向に動く気配はない。そんなに俺を探すのが嫌か。
 ふきゅ。と、鳴けばジャンはベッドに顔を乗せ、俺と目線を合わせつつ、情けない表情を作る。一体何があったんだ。
「はぁーぁ、探してくるか」
 疲れたような溜息を吐き、ジャンが億劫な様子で立ち上がった。
 これは外に出る好機。

 俺の部屋から出て行くジャンの足下を擦り抜け、廊下に出ればジャンが慌てて俺を追っかける。飼い犬扱いしてたから部屋から逃げ出したと思ったのか。
「おい!?待てって……!」
 犬の俊敏さに振り回されるジャンの姿は滑稽で面白い。
 玄関まで行くと、俺もジャンも少々息が上がっていた。
「ほら、おいで、抱っこしてやっから」
 どの道、ジャンが開けてくれなければ外に出られない。
 俺がじっとしてるとジャンがそっと抱き上げてくれて視界が高くなる。
「散歩したいのか?でもフロック居ねぇしなぁ」
 俺を胸に抱きながらジャンが困っている。
 動物相手になら随分と素直に吐露したり表情を動かすんだな。
「はー、お前ふかふかだなー」
 俺の後頭部を顎でぐりぐりするジャン、さぞかし緩んだ顔をしてるんだろう。お前を尊敬してる部下に見せてやりたい。
 ジャンは俺を抱っこしたまま便所を確認したり、俺と同じく非番で休暇を怠惰に過ごしていた兵士を捕まえて俺の所在を確かめていたが、俺はここに居るんだから見つかるはずもない。しかし、さっきの奴も俺の事撫で回しやがって、何なんだよ。この兵団は小動物にでも飢えてんのか。
「お前のご主人、どこ行ったんだろうな」
 顎の下をくすぐるように撫でられると、最高に気持ちがいい。
 腕の中も程良く暖かく眠気を誘ってくる。
 これは不味い。
 そうも思いながらもうとうとしてしまい、次に起きたら執務室で仕事をしているジャンの膝の上だった。
「ん、起きたかー。なんか食うか?つってもパンくらいしかねぇけど」
 そっと抱き上げられ、下ろされた先には、俺のために用意してくれていたのか床の上には二枚の皿が置かれ、中には牛乳とパンが入っていた。体が小さいせいか直ぐに腹が空くんだよなこの体。遠慮なくパンと牛乳を貰って小腹を満たし、ジャンの膝の上に戻った。
「ちょっと足が痺れてるから他の所で寝てくれると嬉しいんだが……」
 俺が起きるまで、随分じっとしていたらしい。腿を小さな四つ足でぐにぐに踏むとジャンが悶える。楽しい。
「止めろって……」
 痺れた足に刺激を与えられる事は余程耐えかねたらしく、ジャンは机の上に俺を追いやり、ひどい顰めっ面で腿を摩っていた。
 あー、楽しい。
「お前なぁ、無邪気な面して悪戯すんなよなぁ」
 書類にインクを零したりしたらどんな顔するんだろう。怒ったとしても、くーん。とでも鳴いてやればきっと黙って許してくれるに違いない。
 悪戯に味を占めた俺が机の上を見渡し、インクを探していると俺が昨日出した訓練報告書があった。一度水濡れでもしたのか、インクが滲み、紙ががびがびになっている。これで俺を探していたのか。納得。書き直して貰おうとしたのか、俺から聞いて自分で直そうとしたのか。
 どうせ汚損されている書類だ。これでいいか。
「ほら、わんころ、机から降り……あー!?」
 痺れが和らいだらしいジャンが俺を注意し、床に下ろそうとした手を避け、駄目になった自分の報告書を片手で踏み、口で咥えて思いっきり引き破る。ジャンの悲鳴が心地いい。
「おまっ、なにしてんだ!」
 こんな報告書くらい書き直してやるよ。
 なんて考えていた所でジャンに伝わるはずもない。破れた書類を咥え、部屋の中をちょろちょろ逃げ回る。ずっと机に座りっぱなしも良くないらしいから、いい運動になる。俺って優しいな。
「それは玩具じゃねぇんだよ!放せー!」
 俺の体が小さいから、無駄にでかくなったジャンには中々捕まえられない。
 床の放置したままの綺麗に舐められた皿をでかい足で蹴っ飛ばし、割ってしまったジャンはまた別の意味で慌てる。
 きゃんきゃん鳴いて煽れば、俺をじろ。と、睨んで両手を広げながらじわじわ追い詰めてくる。調子に乗りすぎたかな。

 いや、きっと捕まっても抱っこされるくらいだろ。叱られこそすれ殴ったりはすまい。
 そう観念してじっとしていた俺をジャンがしっかりと捕まえながら抱き上げ、駄目だろ。と、額を突く。甘すぎて砂糖で出来てるんじゃないかって思う。
 はしゃぎすぎて少しばかり疲れた俺がじっとしていると体がむずむずしだし、ジャンの目をかっぴらいて驚いた顔が間近に迫る。
「は……」
「キルシュタインさん、どうかさっ……、し、失礼しました!」
 ジャンが絶句していると、激しい物音をさせたせいか、慌てた様子で部下の兵士が入ってきて、直ぐに出て行った。
 そうだろうな。全裸の男に上司が抱きついてるんだし。
「フロ……」
「よぉ……、服貸して貰っていいか?」
 ジャンが楽しく構ってくれたからか、犬からすっかり人間に戻った俺は気まずさに声が上擦った。

 服を借りた俺が、如何にも荒唐無稽な話をすれば、ジャンは頭を抱えながら聞いている。
 明日には、訳の分からん噂が広まってるのか。見た奴の口が堅い事を祈るばかりだ。
「はぁー、意味解らん……」
「目の前で見といて何言ってんだよ」
 煩い。と、小さく呟いてジャンが執務机の上に乗せた腕に顔を埋める。
「可愛い犬を愛でれてお前も楽しくて、俺も面白かったし、もういいだろ」
 巨人になるよりも可愛げがあっていいじゃないか。
 あっけらかんと俺が言えば、ジャンが投げやりに返事をした。疲れ果てているようだ。
「じゃあ、また犬になったら宜しくな」
「はぁ?」
 これを知っているのは現兵団内ではジャンしか居ない事を告げれば、分かり易く困ったような嫌そうな感情が半々と言った表情を作る。
「頼れるのはお前だけなんだよ」
 如何にも哀れぶって言えば、ジャンは小さく了承してくれた。なんて簡単な奴だ。
「迷惑かけた詫びに、お前が駄目にした俺の書類はちゃんと書き直してきてやるよ。お忙しい団長補佐様のためにな」
 嫌みっぽく俺自身が破いた書類を手に取り、鼻歌でも歌い出したい気分で退室した。

 犬になる特異体質も悪くないな。なんて思いながら。

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