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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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かわいいあの娘

・てっくとっくは正直やった事も見た事もない
・フロックがかなり強引
・ジャンが女装してたりする
・ジャンの両親捏造
・なんだかんだ幸せ
・フロックがジャンを女の子扱い(性的な意味で)してる
・R18
   ◆ ◇ ◆ ◇
・童貞を殺す服。の解釈は私個人の勝手なものです
・モブ→ジャンがありますが、ジャン君の貞操観念は強固なのでご安心ください
・らぶらぶおせっせ(R18
・ジャンの女装っぽいものが多分に含まれます






 大学受験も一段落。
 独り暮らしのための引っ越しも終わり、新しい生活が始まった春。

 フロックは段ボールだらけの部屋にてソファーベッドに寝転がりながらスマートフォンを弄り、休憩の暇潰しがてら動画サイトを適当に巡っていた。最近、流行っているらしい短い動画を投稿出来る交流系SNSである。
 踊りを見せる動画、メイク講座の動画、仕様もないネタ動画、あるいは何かしらの商品紹介動画。短いとあって、気になれば見て、どうでも良ければ流す。それを繰り返している最中、急にフロックは上体を起こし、スマートフォンを凝視しつつ同じ人間が投稿している動画を次から次に漁っていく。
「かわいい……」
 誰に言うでもなく、ぽつ。と、呟いた一言。
 何を言おうか、偶然見つけた動画に出ていた女の子がフロックの好みど真ん中だったのだ。動画自体は再生数も多くはない。投稿者である女の子が特に喋りもせず、フリルが沢山ついたワンピースを着て、少しばかりはにかんだ様子でカメラに向かって笑いかけている程度だからであろう。
 目元は切れ長の二重で三白眼気味ではあるが、伏せた目元は睫毛が長く色っぽい。鼻筋も通り、愛らしい桃色のリップを塗った唇は薄いながらも形が良く、細く綺麗な亜麻色の髪は実に柔らかそうに揺れ、撫でたい衝動に駆られた。
 顔を中心に映した動画から、今度はカメラを引き気味にして全体を見せるために柔らかそうなフレアスカートを細い指で摘み、横に回転をすれば、体躯は全体的に細そうで胸も慎ましいがスタイルが良く、タイツを穿いた脚は長い上に何かしらのスポーツでもしているのか引き締まっている様子が見て取れて美しい。
「やべぇ、超好み」
 プロフィール欄を覗いてみるが、名前欄にJKと書かれているのみで特段、目を引く情報は得られなかった。これでは実名登録型のSNSで探せもしない。若干肩を落としながら、ストーカー臭い思考になっている自分に苦笑し、日が落ちて肌寒くなりだしたため、毛布を被りながらスマートフォンの電池が無くなるまで動画を見続けていた。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 あれほど好みの子は中々居ない。
 きっと声も可愛いんだろう。
 恥ずかしがり屋なのかも知れない。
 お洒落ではあるが派手な印象はなく、寧ろ清楚感が漂う仕草や表情の作り方。時折背景として映る部屋はやや殺風景ではあるが、置かれている家具は質が良さそうで育ちが良さを表し、どことなくお嬢様な雰囲気があった。
 更新自体は一年以上前に止まっている。投稿してある数も十個ほどで多くはない。数多の投稿の前にあっという間に埋もれてしまうような動画ばかりで、見つけられたのは奇跡とも言える。
 親が厳しく、友好関係も制限されているのか。お洒落をした姿を誰かに見て欲しい発散出来ない気持ちを動画と言う形で解消し、投稿している女の子を想像してフロックは独り勝手に盛り上がっていた。

 大学も始まった頃。
 動画を見過ぎて通信制限がかかってしまい、大学構内に設置されていたWi-Fiを使って動画を視聴しながらベストショットをスクリーンショットで獲得し、帰宅してから眺める毎日。
 フロックの妄想は捗り、会った事もない彼女に見合う男になろうと勉強や交流も頑張り、青春を謳歌している中、知人にファッション系のサークルに誘われ赴いた。
「聞いてるよ。フォルスター君だっけ?俺も一年だし、よろしく」
 同じ一年生ながら、フロックよりも先にこのサークルに所属していたらしい男から握手を求められ、ぎこちなく握り返す。何故だか、この男を見ていると気持ちが落ち着かなくなるのだ。
 髭で縁取られたやや面長の顔立ちに、目つきが悪くも見える切れ長の目に、形の良い眉や唇、通った鼻筋など、整ったパーツが収まっている。如何にも今風で、私服のセンスもこざっぱりと纏まっており、多数の女性に求められそうな人間だった。この落ち着かなさは劣等感だろうか。
 聞けば、軽そうな見た目にそぐわず進学校の特進科に入れるほど頭が良く、家柄も悪くないようだった。中の下辺りの家庭に生まれ、必死で獲得した奨学金でやっと大学に通えるようになったフロックとは大違い。
 天は二物を与えず。とは何だったのか。捻た気分になりながら、男、ジャン・キルシュタインとの交流が始まった。

 ファッションに関するサークルなだけあり、デザイナー志望の人間や、服飾に関する技術を持った人間、単純にお洒落が好きな人間と様々だった。ジャンはどちらかと言えば、お洒落を楽しむ方だったが、案外面倒見がいいのか、デザイナー志望や、服飾に携わる者達に頼まれてモデルになったりもしていた。
 彼は身長も高ければ手足が長く、筋肉のつき方も整っており、そのままプロのモデルにもなれそうだった。フロック自身は、自分を飾るための参考になればいい。と、考えて入っただけであり、小金持ちが多い人間の中には上手く馴染めないでいた。
 前述の通り、ジャンは案外、気が良く面倒見が良いためか、一歩離れた場所に居るフロックに良く声をかけてくれた。奇妙な焦燥感はあれど、悪い気はしなかったため特に避ける事はせず、気になる事もあったため受け入れていた。
「あのさ、ジャンって……、妹とか、姉ちゃん居る?」
「いや?一人っ子」
「そうか……」
 ジャンの面差しが、あまりにも彼女に似ていたため、大衆居酒屋での呑み会で、隣に座った折に訊いてみたが落胆するだけであった。奇跡的な確率ではあったが、比較的金持ちが多いこの大学で『もしや』があったのだが、ドラマや映画ならば兎も角、現実は厳しいようだ。
 しかし、似ている。それこそ、穴が開きそうなほど撮ったスクリーンショットを毎日眺めているのだ。通信制限が解除されれば動画も定期的に見ている。ジャンの仕草、癖、表情の作り方。あまりにも似過ぎているため、姉か妹の存在を問うてみたが、結果は偶然の一致。
 金持ちなど、皆、所作が似ているのかも知れない。
「でかい溜息だな。恋煩いか?」
「まーな」
 素直な返事が意外だったのか、ジャンは何度か目を瞬かせた後、目を細めて笑った。
「どんな子だ?」
「細っこいけどスタイル抜群で、はにかんだ顔が可愛いお嬢様っぽい子」
「このサークルに居るのか?」
 フロックは静かに首を振る。
 どこに居るとも知れない、インターネット上の相手だと知ったら楽し気なジャンの表情は強張ってしまうだろうか。それはあまり面白くはない。故に、詳細は語らず適当に話を合わせていた。

「もう終電も行ってんじゃねぇか……」
 呑み会が終了し、店の外に出てフロックがぼやいた。
 サークルに所属する一人が失恋したとかで泣き喚き、帰りたくない。と、ごねたせいである。
 場に居たたまれず帰ろうとすると見咎められ、非難される有様。トイレも中々帰って来なければ、サークル専用のグループチャットで呼び出されたりと面倒であった。失恋した者と仲が良い人間は兎も角として、交流の浅い者の大半はうんざりしており、サークル自体にも特別な感情がないフロックは更に鬱陶しさを感じて苛立ってすらいた。
「お店の人も嫌そうだったな……」
 碌に商品を頼みもしない癖に閉店時間を過ぎても大勢で居座り、食器類も大半は片付けられているとは言え店員も帰れず辟易していた事だろう。流石に注意を受けてから会計を済ませ、ばらばらに退店する中で、心なしか、おざなりな印象を受ける『ありがとうございました』。店員は客達に視線すら合わせず、さっさと部屋の片づけに向かっていた。
「そりゃそうだろ。俺も金も落とさない癖に全然帰らない客とか糞だと思ってるし」
 フロックが生活のためにアルバイトに勤しむ飲食店でも間々ある事だ。無駄に踏ん反りがえり、店員に威圧的な客。騒ぐ子供を放ってお喋りに勤しむ母親。明らかな迷惑行為を指摘すればこちらを悪者にする態度に心底うんざりしていた。
「手厳しいな」
 ジャンは苦笑し、どう帰るか悩むフロックを自宅に誘った。
「お前の家、こっからまぁまぁ遠いだろ?折角定期あるんだし、朝になってから帰ればいいんじゃないか?」
「いいのか?」
「ま、硬い床で我慢して貰えるならな」
 ジャンは薄笑いを浮かべて肩を竦めて見せる。
 それは実に様になっており、垢抜けているため野暮ったい印象は受けない。本人も維持のために努力はしているのだろうが、全てに恵まれた人間を羨む気持ちは強かった。だが、断りはしない。事実、今から歩いて帰るには疲れ過ぎていたからだ。
「横になれるだけでもありがたいしな」
「じゃあ、こっから歩いて十五分くらいだから、それまで頑張ってくれ」
 ジャンが先導する背中を追い、繁華街の外れにある古いアパートメントまで来て意外性にフロックは目を丸くした。
「どうした?」
「いや、てっきり、でっかいマンションに住んでるのかと……、思ってたから」
 ジャンはからからと笑い、片親だから心配や負担かけたくないんだよ。そう言った。
 父親が中学の頃に事故で亡くなり、相手から賠償金などの金は貰ったが、愛する伴侶を失った母親の憔悴ぶりは凄まじく、自分がしっかりして母を護らねば。との、意識が強くなったようだ。今でも放ってはおけず、定期的に実家に帰るために、受ける大学のランクを落とし、実家から離れ過ぎていない場所を選んで受験。目標は安定した市役所公務員だと言う。
「同じ公務員でも、警察とか、消防とか……」 
 派手を好む性格ではない。と、知ってはいたが、ここまで堅実志向だったとは驚きである。いわゆる、英雄になれる職に憧れたりはしないのか。そう問えば、
「それだと何があるか判らないだろ?安全安心が第一だよ」
 面白みはないものの、納得出来る答えが返ってくる。
 家庭教師のアルバイトを熟しつつ、学費や家賃で親に負担をかけないよう努力し、気遣う様子は一種のマザーコンプレックスにも思えた。母親が望むならば、何でも叶えてやりたいそうだ。
「はー、なるほど、他の奴らと違って糞真面目で意識高そうだな。とは思ってたけど」
「それ褒められてるのか貶されてるのか判んねぇな」
「悪い意味じゃねぇよ」
 お互いに軽口を飛ばし、部屋に上がらせて貰えば掃除はあまり得意ではないのか、少しばかり雑然としていた。
「じゃあ、俺、風呂入ってくるから、適当に寛いでてくれ」
「おー」
 床に胡坐を掻いて座り、玄関から部屋に伸びる廊下の途中にある浴室へジャンが入っていく。
 廊下へ通じる扉は閉められたが、周囲が静かなせいか服を脱ぐ衣擦れの音や、ベルトを外し、ファスナーを下ろす音などが嫌に響いた。ほどなくしてシャワーの音が聞こえ、十五分ほどでジャンが出てくる。
「お前も入っていいぞ。服貸すし、パンツどうする?」
「どうって?」
「流石に、下着の共有は嫌かと」
 数秒ほど考え、大して嫌ではなかったため下着まで借りる事にして、ジャンがクローゼットから服を用意している後姿を眺めていれば違和感に眉を顰め、後ろから覗き込めば慌てて振り返る様子にフロックまで驚いた。
「な、なんだよ……」
「いや……、お前こそ、足音立てずに後ろに立つなよ」
 背後に立たれる事を嫌うなど、一体どこの剣豪かスナイパーなのか。
「その、彼女の服か?それ」
 フロックが小さなクローゼットの隅。更に奥へ隠すようにハンガーにかけられていた服を指摘すれば、ジャンは解り易く動揺した。自分でも、良く気づいたなとフロックは思う。
「う、ん、昔の、忘れてったらしくて……?」
 らしい。との他人事感はなんなのか。
 フロックが不躾に手を伸ばし、服を引き摺り出せば見覚えがあるもの。それこそ毎日見ていたのだから見間違えるはずもない。ズボンのポケットからスマートフォンを出し、動画のスクリーンショットと服を何度も見比べていれば、ジャンも不審に思ったか覗き込んで息を呑んだ。
「え、それ……」
「おい、お前、この女と知り合いか?紹介してくれ!」
 同じデザインの服など幾らでもあるのだが、スマートフォンを見たジャンの動揺ぶりからして、知り合いなのは確実であると確信した。
「知らないっ!そんな奴知らねぇから⁉」
「嘘吐け!じゃあ、なんでこの服があるんだよ。なぁ、絶対幸せにするから、頼む。まじで好きなんだ。紹介してくれ」
 動画で見ただけの相手の何が好きなのか。
 訊かれれば答えに窮してしまうが、好きなものは好きなのだとしか言えない。ジャンの着ていたトレーナーを掴み、体を揺さぶりながら懇願する。

 あまりにも夜中に騒いだため、隣住人から壁を殴られたが、フロックはそれどころではない。彼女に会うための糸をか細いながらも掴めたのだ。必死にもなろう。
「お、おち、落ち着けって、取り敢えず風呂に行ってこい」
「その間に連絡してくれるんだな!解った!」
 自分に都合の良い解釈をして用意してくれた服を掴んで浴室へと飛び込み、わくわくしながら酔いと体の汚れを流していく。
 彼女はどんな声なのか。きっと鈴を転がすような綺麗な声だろう。微笑みかけてくれる笑顔はどれほど可愛いのだろう。期待に胸を膨らませながらフロックは体を洗い終え、雑に体を拭き、髪から水を滴らせながら部屋に戻ると、ジャンがフリルがふんだんにあしらわれたワンピースの側で悲しげな表情をして待っていた。
「あれ?連絡つかなかったのか?」
 冷静に考えれば、昔の彼女との連絡はつけ辛いだろう。
 もしくは、完全に関係を切られ、電話番号も変えている可能性があった。
 どこに住んでいるのか、どんな女性なのか、その程度は訊いてもいいだろうか。
「駄目か……」
 ここまでやれば、本当にストーカーになってしまう。
 タオルで落胆を隠せない顔を隠し、床に座って項垂れていれば、ジャンが『あのさ……』と、言い辛そうに切り出した。
「これ、着てたの俺で……、なんか、ごめん……」
「んぁ?」
 ジャンの言う事が上手く理解出来ず、詳しく説明を求めれば頭に疑問符が浮かび続けた。
 高校の文化祭で戯れに女生徒の制服を着た際の高揚感が忘れられず、アルバイトをした金で買ったフリルのワンピースに安いコスメ道具。母親にばれないようメイクの練習をして、ほどほどに上手く出来るようになった頃にワンピースへ袖を通し、与えられていたスマートフォンで写真を撮ってみたのだと言う。
 つい、気分が盛り上がり、動画などを撮ってから友人の中で話題になっていたSNSに投稿したはいいのだが、後で恥ずかしくなったため、アカウントごと消そうとすれば焦りからかパスワードを何度か間違えてロックがかかってしまい、削除が出来なくなったそうだった。
 所詮、大して再生もされていない動画。恥ずかしい気持ちはあれど、放置したそれを、偶然フロックが見つけ恋をした。
「服は捨てなかったのか?」
「なんか捨てられなくて……」
 もじもじと指を遊ばせ、気恥ずかし気に目を伏せる様子は既視感があった。
 当然だ。何度も何度も動画で見たのだから。

 フロックは生唾を呑み込み、床に放置されていたワンピースを握るとジャンを真っ直ぐに見詰める。
「髭剃って、これ着てくんねぇ?」
「え?」
「見たい。頼む」
 着た姿を見て幻滅するか、更に好きになるのかはフロック自身も想像がつかなかった。
「え、でも、高校の時より大分ごついし……、かつらとかもないし……」
「髪は長い方だし、いけるいける」
 無責任に煽り、ジャンに服を持たせて背中を押し、徐々に頬や耳が色づいて行く姿に、フロックの呼吸が心なしか荒いで行く。
「ちょ、ちょっと、だけ、なら……」
「おう、メイク道具とかはあるのか?」
 ジャンが小さく頷き、ベッド脇にあるサイドチェストから掌大のポーチを取り出す。中を開けば、女達が良く使っているコスメ道具が入っていたが、中身は如何にも安物だった。買った時期が高校生だったのなら致し方ないが。
「ちょっと、後ろ向いて貰ってていいか」
「おう」
 そう言いつつも、横目でチラ見をしていれば、ジャンがトレーナを脱ぎ捨てる様に異様な興奮を覚えた。すら。と、伸びた足に、引き締まった足首。全体的に薄っぺらく、小ぶりの尻に、細い腰、その割にある胸囲。
「うーん、破れそう……」
 髭をシェーバーで剃る音がして、ジャンがワンピースに袖を通せば、以前よりも身長が伸びているせいか、膝下の丈だったスカートは膝上の短いものになっていた。腰回りは一応入ったようだが、肩のせいで背中のファスナーが締まらないようだ。
「ごめん、ちょっと無理かな……?」
 濃くない髭を頑張って育てていたのか、剃ってしまえばほとんど目立たなかった。ジャンが申し訳なさそうにフロックと視線を合わせるためにしゃがみ込めば、背中のファスナーが締まらないせいか首元に隙間が出来て胸の谷間が良く見えてしまう。
「り、リップとか……」
 ポーチを探り、動画内で唇を彩っていた色付きのリップクリームを取り出し、フロックがジャンへと迫る。
「しても、似合わないと思う、し……」
 ジャンは顔を背けるが、フロックがリップクリームのキャップを外し、使いかけの芯を出して唇へと宛がう。
「んーってしろ」
 ジャンは唇を引き結び、リップクリームを塗ろうとするフロックの行動を許す。目つきは怯えているようにも見え、興奮は高まるばかり。
「かわいい……」
 唇へと色を付け終え、まじまじとフロックはジャンの顔を眺めていれば、素直な言葉が口から零れた。
「んな訳……」
 ジャンは否定するが、フロックは指通りのいい髪を撫でながら『可愛い』と、繰り返す。
「ちゅーしていいか?」
「え、いや、女装が好きなだけで、別に、俺は……」
 可愛いものが好きなだけで、決して同性愛者ではないとジャンは主張するが、その点についてはフロックはどうでも良かった。自身が可愛いと、欲しいと思ったから。
「駄目か?」
「でも……」
 ジャンは口では拒むが、目は潤んでじ。と、フロックを見詰めている。
「なんで……」
「だって、可愛いし、まじで好きだし……」
 ジャンの肌が一気に全身赤くなっていく。
 酒を呑んでも一切変わらなかった肌の色が変わっていく様は、例えようもないほどの高揚感があった。
「ジャン、俺と付き合ってくれ。大事にすっから」
 眉を下げ、明らかにジャンは困っているが、フロックが顔を寄せても避けなかった。
 触れれば唇から桃の香りがして、柔らかさに感動する。触れれば更に欲求が湧き起り、フロックの股間が痛いほど勃起してしまい、開いた背中から手を突っ込んで撫で、スカートをたくし上げながら足を撫でれば興奮は際限なく昂ぶっていった。
「ふろ、フロック……」
 手を突っぱね、なんとか距離をとろうとジャンが弱々しい抵抗を見せるが、フロックは意に介さず床へ押し倒し、勃ち上がった性器を押し付けながら両手で張った胸を触る。
「結構、柔いな……」
「だ、だから、俺は、ゲイじゃないし……、こんなの……」
「こんなに可愛いのに?」
 可愛い。を、連呼すれば、ジャンの体温が上がり、潤んだ目を向けてくる。
「まじで可愛い」
 フロックが呼吸を荒げながら、合わないせいで肩だしタイプのワンピースになってしまっている服をずらし、弾力のある胸を露出させ、優しくしつこく揉んでいればジャンの息も上がってくる。
 スカートの中に手を突っ込み、ジャンが穿いていたボクサーパンツを脱がせれば、抵抗はなかった。
「うつ伏せになって腰上げてくれ」
 返事はないが、ジャンは無言でフロックに言われた通りに床に俯せ、腰を高く上げて見せた。
「可愛いな、お前」
「そ、ん……」
 ジャンは顔を真っ赤にして膝を擦り合わせている。
 フロックが小振りの尻を撫で、ひくついている孔へと舌を這わせれば腰が跳ね、ジャンは微かに呻いたが、やはり抵抗はない。
「このままじゃ無理そうだな」
 唾液だけで濡らしても、指程度なら兎も角、自身のものは入りそうにない。そう判断してフロックは視線を巡らせ、化粧ポーチに入っていた下地に使うのであろうクリームを手に取り、孔へと塗り込んで指を沈めた。
「お前、可愛くないとこないんじゃねぇの?」
 尻の孔を弄りながら、フロックはジャンの太腿や尻を撫で、唇で愛撫するが、先走りの雫を垂らしている性器には敢えて触れてやらない。たっぷりと中までクリームを塗り込み、フロックが自らの性器を宛がえば、ジャンが一瞬震えたが、構わず挿入していく。
「はぁ……、いい」
 たっぷりと濡らして解した孔は心地好く包み込んでくれた。細い腰を掴み、性器を以て孔を嬲り続けていく。
「前、触ったら駄目だぞ」
「なっ、なん……」
「今のお前は可愛い女の子なんだから、ちんこなんてねぇの」
 ジャンも相応に興奮し、自ら快楽を得ようとした手を握り締めて耳元で囁き、フロックは達しそうになれば動きを止めてジャンの体を可愛がり、徹底して『お前は抱かれているのだ』と、教え込んでいく。
「可愛いなお前」
 一度、耐え切れずに中に出しはしたものの、一切性器は抜かずにジャンの腹を撫でる。赤ちゃん出来たらどうしようか?などと嘯きながら。
 体制をお互いが向き合う正常位に戻し、半勃ちの性器を挿入し直してフロックがジャンの頬を撫でればうっとりと目を細め、長い脚を腰に回してきた。
「もっと可愛がって欲しい?」
 肌を染め、今にも零れ落ちそうなほど涙を浮かべてジャンは頷く。フロックの言った通り、性器には一切触れていないが、雰囲気や、中からの刺激で達したのか、とろとろと力なく精液がジャンの性器から溢れて肌を伝い、孔を濡らしていたため、本当に女の子のようだった。
 互いを隔てる布が邪魔な気はしたが、フロックは求められるままにジャンをしかと抱き締め、腰を揺らして唇を合わせ、甘い香りと味を味わっていた。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 翌朝、フロックが目を覚ませば美味しそうな匂いがした。
 自分の周りを確認すればベッドに寝かされており、部屋が少しばかり片付いて窓が解放され、爽やかな初夏の風が吹き込んで来ている。
「おは、よ……」
 どことなく、微かな生臭さはあるが、服はしっかりと着せられており、床なども綺麗に拭かれているようで汚れは見受けられず、小さな台所では若干疲れた表情のジャンが朝食の用意をしていた。座卓に置かれているのは食パンと、目玉焼き、卵スープ。極有り触れた朝食のメニューだ。
「コーヒーと、紅茶と、どっちがいい?」
「お茶……」
 甲斐甲斐しく世話を焼くジャンの脚元をよくよく見れば少々覚束ないようだが、必死で隠しているようだった。何を考えているのかは解らない。
 腹が鳴った事を契機にベッドから降り、下半身のすっきり具合に違和感を持つ。散々、抱き合った後、倒れ込むように眠ったはずだったが、フロックが寝こけている間に拭かれたものか。
「ポットから勝手に自分で注いでくれ」
 紅茶のパックが入ったガラスポットが床に置かれ、ジャンはフロックから目を逸らしながら話す。瞬間、理解した。昨夜の出来事をなかった事にしようとしているのだ。と。
「美味いな」
 目の前にある食物を片付け、フロックは独り言ちる。
「おそまつさま」
 ジャンは柔らかく微笑みながら、食べ終わった食器を片付けようとしたが、フロックがその手を掴み、じ。と、見詰めた。
「なに?」
「お前は俺の彼女だからな?」
 フロックの念押しに、ジャンは肩を揺らして瞼を伏せた。
「あ、いや、昨日はちょっと流されたけど、そもそも、俺はゲイじゃないし……」
 何度も聞いたが、だから何だと言うのか。フロックは片眉を上げ、掴んだ手を離さない。
 フロックがにじり寄り、顔を寄せていくが、ジャンは困ったように呻るだけ。完全な拒絶ではなく、迷っているのだと察すれば、引き寄せて口付けた。視界の端にはごみ袋に突っ込まれたフリルのワンピースがある。
「今度、お前に似合うの買ってくる。絶対可愛いし」
「お前、馬鹿……、俺……」
 ジャンは首を振って見せるが耳が赤く、寄せた唇も避けはしなかった。
 可愛い。を連呼しながら、体に触れれば表情が蕩けていく。
「ほんっと、可愛いなぁお前」
 柔らかく細い髪を指で梳き、そのまま首へ、胸へ、腰へ、尻、太腿と撫でていった。
 ジャンが着ていたトレーナーのズボンに手を突っ込み、昨夜、大層可愛がった孔に指を這わせれば、そこは柔らかく、未だ濡れている。体を拭きはしても風呂に入る余裕はなかったようだ。
「フロック、昨日のは二人共呑み過ぎてただけで……」
「なかった事にしようとしたって無駄だぞ。覚えてるし」
「どっちも不幸になるだろ、こんなの、俺、大体女じゃないし……」
 ぐす。と、ジャンは鼻を鳴らし、悲壮感に暮れているようだった。しかし、一夜の過ちなど冗談ではない。とばかりにフロックはジャンのズボンを脱がし迫っていく。
「ジャン、お前は俺の理想なんだよ。不幸になんてなる訳がねぇ」
 マザーコンプレックスの気があるのは構わない。
 優しくて気立てが良く、可愛くて美人で、努力家で情が深い。こんないい女。一体、他を探してどこに居る。マーガリンの香りがする唇に口付けながら深くしていき、体をまさぐればジャンが熱い吐息を吐き出し、フロックの服を掴むと見詰め合った。

 フロックは嬉しそうに目を細め、ジャンの期待に応えるべく覆い被さり、朝から心地好い行為に耽溺するのだった。

   ◆ ◇ ◆ ◇


   ◆ ◇ ◆ ◇
【肯定の喜び】

 フロックに押し切られる形でジャンは付き合いを了承し、入学当初からせっせと育てていた髭が無くなった事を揶揄られたりもしつつ二人は大学生活を謳歌していた。

「お前、最近、髪伸ばしてんの?」
「あーっと、切りに行くタイミング逃しててさ……」
 サークルの部室でデザイン画のモデルになっていたジャンが質問を投げかけられ、誤魔化し気味に言えば、ふぅん?と、訝しむような返事が返ってきた。
 耳にかかるほど長めの髪を七三に分けていたジャンだったが、フロックと付き合いだしてからと言うもの、伸びても切る事無く、そのまま髪を伸ばしており、今はハーフアップの髪型で纏めている。
「色気づいちゃってー、気になる子でも出来たのか?」
「そんなんじゃないって……」
 ジャン自身が否定しても、恋愛脳な先輩はしつこく髪を伸ばす理由を聞き出そうとするが、頑なに答えない様子に眉根が寄っていく。
「おい、ジャン、ちょっと手伝って貰いたい事あるんだけど」
「モデルして貰ってんだけど、後じゃ駄目な訳?」
「すみません、急ぎです」
 フロックが声をかけ、部室の外から呼び出せば、ジャンは安堵した様子で先輩に謝りながら部屋を後にした。
「用事ってなんだ?」
「俺と一緒に飯食う事かな」
 肩を揉み解しながらフロックが言えば、ジャンは自らの顔を撫でて俯かせた。少しばかり照れているのだ。
「髪伸ばしてるのも、俺のために可愛くなりたいからだろ?ほんと、可愛いよなお前」
 根が正直過ぎるジャンは咄嗟に否定しようと口を開くが、真っ直ぐに見詰めてくるフロックの瞳に晒されると一気に顔を紅潮させ、口の中でなにやら呟いただけである。
「あ、今日遅くまでバイトとか、やらなきゃいけない事とかあるか?」
「特にはないけど、なんだ?」
 フロックがジャンの予定を聞き、満足げに頷く。
「いいもん買ったから、俺のとこ来いよ」
「何買ったんだ?」
「いいもん」
 訊いてもはぐらかすフロックにジャンは困ってしまったようで、熱の引いた表情を緩ませ、苦笑するだけだった。

 学業を終え、一時帰宅の後、ジャンはフロックの自宅へと赴き、広げられた服に目を丸くする。一見して、袖のないニットのセーターにも見えるが、夏のこの時期にはあまりにも不似合いで、何故こんなものを。と、疑問に思わざるを得なかった。
「ただのセーターをプレゼントする訳ないだろ?」
 フロックが掲げた服を一回転させれば、着る意味があるのか首を傾げるほど背中が開いている、変な服と言えば服であった。
「童貞を殺す服だってさ」
「なんだそれ……」
 一時期、SNSで話題になった色っぽい女性物のニットワンピースである。
 正面から見るだけであればハイネックの袖なしニットセーターなのだが、着用した姿があまりにも色っぽい姿になるため、女性に不慣れな童貞が一目見れば卒倒してしまうほどの色っぽ過ぎる服。などと揶揄い交じりに広まったのだ。
 服を支える部分はハイネックになっている首の部分のみであり、体の正面のみを覆い、申し訳程度に下腹部を隠す短いスカート部分があるだけのもの。
「それ……」
「着てくれ!」
 フロックは楽しげな様子を隠しもせずに言ってのけ、ジャンに服を渡す。
「あ、下には何にも着てない状態で宜しく」
「なにも……?」
 鷹揚にフロックが頷き、早く早く。と、ジャンを急かす。
「風呂、とか、入ってもいいか?」
「お前が気になるなら」
 心の準備をする時間を稼ぐつもりもあって、ジャンはフロックの住む部屋の一角にあるシャワールームを借り、どきどきと高鳴って止まらない心臓を宥めるように胸に手を置いた。女装をしなくとも、フロックはジャンを何度も求め『可愛い』そう言って可愛がってくれた。
 どう贔屓目に見ても中性的とは言えない大男で、目つきも悪く、体躯も華奢とは言えない自分を。だ。
 ジャンは子供の頃から可愛いものが好きであり、ぬいぐるみを持っていても違和感がなく、リボンやフリルで可愛く着飾れる女の子が羨ましくて堪らなかった。男でも中性的で華奢な人間を嫉む程度にはちっとも可愛いと思えない自分を嫌いながら生き、こんな嗜好は隠さねばならない。子供心にもそれを理解し、好きな物を必死で隠していた。
 なのに、こんな形で自分を認めてくれた上に、可愛がってくれる人間に出会えるとは、人生とは判らないものである。初めて求められた時でも、こんな自分を見て愛おしむが如く可愛いを連呼され、心臓が高鳴って仕方がなかった。
 時折、フロックの目の具合が心配になった事もあったが、伊達食う虫もそれぞれ。痘痕も靨。などの格言もあるのだ。好んでくれている間は素直でいようとも思えた。
 
 ある程度心臓が落ち着くと、体を綺麗に流し終えて丁寧に体を拭き上げ、タオルを腰に巻いた状態でフロックの前に座る。
「髪乾かしてもいいか?」
「俺が乾かしてやるよ」
 今の季節、薄着でも風邪は引かないだろうが、髪が濡れたままは服を濡らしてしまう結果にもなり、ジャンが申し出ればフロックは楽し気にドライヤーを出して髪を指で梳きながら乾かしていた。
「献身的で物好きだな、お前」
「お前が可愛いからな」
 一度は落ち着いたはずの顔の熱が再び灯り、髪が乾くまでの間、ジャンは手持ち無沙汰に指を遊ばせる。
「ほら、これ着てみ」
 『童貞を殺す』などと物々しい二つ名を付けられたニットセーターを受け取り、ジャンが身につければフロックは感慨深そうな声を上げた。
「ちょっと短いな……」
 下着を身につけていない状態で着用すれば、スカート部分が短すぎるために尻は半分しか隠れておらず、前も危ういほどである。隠すべき場所が上手く隠し切れず、ジャンは前かがみ気味に立っており、服を引いて困っていた。が、フロックは嬉しそうに近づいて太腿を撫で、興奮を隠さずに『思った通り可愛いな』と、放言した。
 ジャンは決して自分を可愛いとは考えていないが、こうやって手放しで褒められれば胸が疼いて歓喜が込み上げ、単純と言われるかも知れないが『フロックが好きだ』。そんな感情が込み上げてくる。ゲイになったと言うよりは、性別の枠を超えて好きになったと言うべきか。
 母親とはまた違った形で、フロックが望むのなら受け入れ、叶えてやりたい気持ちが強い。
「胸が触り易いな」
 フロックがジャンへ座るよう促し、背中に張り付くように抱き締めながら胸を触ってくる。女性の柔らかさや大きさはないだろうに、下から持ち上げるようにしてむにむに優しく揉まれると、体温が上がり、腹の奥底が疼いて浅ましい欲が湧いてくる。
 以前はこんな事なかったはずが。
「背中やうなじも綺麗だな」
 フロックと付き合うようになってから、ジャンはスキンケアにも多少なりとは気を遣うようになり、それに気づいてか無意識か、何度も撫でて口付け、褒めてくれる。
「していいか?」
「最初からそのつもりだろ」
「ばれたか」
 けけ。と、フロックが笑い、ジャンの尻を撫でながらチューブ式のジェルをポケットから取り出し、指にたっぷり出して孔の内外にじっくりと塗り込んでいく。相変わらず、性器には決して触ってくれないが、今や尻を弄られる方が気持ち良くて堪らず、体を作り替えられている恐怖と同時に、フロックの手によるものなら良い。そう考えてしまう自分も居て、自らの性と感情の板挟みになったりもしている。わざわざ伝えはしないが。
「んっ、く、ふぅっ……」
 ジャンはフロックの指が中で蠢くごとに切ない声を上げ、床に短い爪を立てて引っ掻いた。
 丁寧に、傷つけないよう解していくれているのはありがたいし、嬉しいのだが、もどかしさもあって、早く。と、急かしそうになる言葉を吐かないよう、唇や指を噛み、代わりに隙間から荒くなった息を吐いた。
 指が引き抜かれ、硬くなった質量が宛がわれるとジャンは身震いし、知らず腰を揺らして自ら迎えに行ってしまう。その様子に、フロックが目を細めている事には気づいていない。
「可愛いなぁ、お前」
「まじ、どこ見て言ってんだ……」
 くつくつとフロックは喉を鳴らし、ジャンの悪態には答えない。
 背中に伸し掛かり、粘着質な水音を鳴らしながらジャンの体内を掻き混ぜ、細い腰や、太腿のむっちりした感触を手で愉しんでいた。
「まぁ、俺には可愛いんだって」
 胸を撫でながら、耳元で囁き、淵に軽く口付け、フロックはだらしなくにやけた表情を隠しもせずにジャンの体を愛で続ける。『可愛い』と、言えば言うほど体内に収めた性器を締め付け、求めるように腰を揺らしてフロックを悦ばせようとする愚直さも愛おしく感じているのだ。
「恥ずかしいだろ……」
 上擦った声で吐く悪態に迫力は一切ないが、可愛げはあった。
「キスさせてー」
 フロックが性器を抜き、ジャンを仰向けに転がすと甘えながら口付けてくる。正面から抱き合いながらジャンはフロックの硬い癖毛を撫で、恍惚に浸る。
 再度、挿入され、ジャンはフロックの背中に縋り、腰を浮かす。じわ。と、腹の中が熱くなり、体内でびくびく痙攣するものの存在を知覚すれば、どこまでフロックが可愛く思えて情愛が高まっていくばかり。
 肩で息をしながら少しばかり呆けているフロックへ、ジャンの方から口付け、腰に足を絡みつかせて緩く腰を揺らす。恋人の可愛い姿を見たいのは、何もフロックだけではないと言う事だ。

 ジャンは体を反転させ、フロックを押し倒して顔中に口付けの雨を降らせ、中に出された精液で、ぐずぐずに濡れた孔で、性器を愛撫する。それを何度も繰り返せば硬度を取り戻し、中から押し出される形でジャンの性器から精液が溢れて服を汚していく。
「お前もかわいーよ」
 茶化し気味にジャンが言えば、む。と、フロックは唇を尖らせ、勢い良く上半身を起こすと、そのまま押し倒し、先程までののんびりした性交とは打って変わってがつがつと突き上げるようなものに変わり、ジャンの脊髄から脳までを痺れさせて目の前が明滅する。
「あ、ふろっ、く、あっ、いって、んん……!」
 ジャンが襲い来る快楽の波に呑まれて身悶え、背を反らして婀娜っぽい声を上げる。壁が薄い木造アパートでは、近隣住人に丸聞こえであろう声量で。
 フロックも二度目の精を吐き出し、今度こそ疲れ果てたようでジャンの胸に倒れ込んだ。

 性交の後、男性の大体は素っ気なくなるそうだが、フロックはくっついて甘えたがり、ジャンはそれを享受して抱き締めながら可愛がる。よくよく考えてみれば、かなり相性が良いのでは。とも思え、お互いにこの関係を維持すべく、尽力する日々である。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 大学の構内で、デッサン画のモデルを頼まれ、小遣い稼ぎに了承したジャンは、相手の嫌な視線に辟易していた。描くために真剣に見詰めて観察している。と、言うよりは、舐めるように上から下まで眺めるばかりで手などほとんど動いていない。
「あのさ、描かないなら帰っていいか?」
「あ、いや、描くって、大丈夫」
 何が大丈夫なのか。
 相手に知られないよう小さく溜息を吐き、ジャンは椅子に座ったまま教室の角をぼんやり眺めていた。
「あのさ、君って、体使って単位貰ってるって本当?」
「何の話だよ」
 視線を教室の隅に張った蜘蛛の巣から目の前の人間へと動かし、ジャンは不快に表情を歪めた。
「最近、凄く綺麗になったよね。髪も前よりさらさらだし、良い匂いするし……」
 絵を描くだけあって人間観察が得意なのか、以前との違いを見抜き、スケッチブックの向こう側から窺うような視線を寄越し、どことなく嫌な気分が湧く。
「そりゃどうも、最近、入浴剤収集に凝ってるもんでね」
 嘘ではない。
 いつだったか、風邪を引いて寝込んだ後に、肌が荒れている事をフロックが心配し、ミルク系の入浴剤をくれた事を切っ掛けに、買える範囲の良さげな入浴剤を使用するようになった。香水などをつけるよりも自然な香りで心地好く、入眠も穏やかとあって嵌ってしまったのだ。
 自分のためと、フロックが喜ぶから。それ以外の意図はない。まして、体を使って単位を得ようなどと言う下劣な発想など、欠片も浮かんだ事はなかった。
「誰だよそんな噂流してんの、阿保くさ。単位は自力で取ってるよ」
 他の連中が遊んでいる間に課題は早々に済ませ、講義にもきちんとさぼらずに出席している。何故、そんな噂が立つのか、一体誰が言っているのか、全く以て不愉快であった。
「そう……、でも、ほんと綺麗になったよね。いや、前から美人だとは思ってたけど……、最近は特に生き生きしてるって言うか、なんかあった?」
「ありはしたけど、別に人に言い触らす事じゃない」
 自らの押し殺していた嗜好を好んで受け入れ、褒めてくれる上に、存分に愛してくれる相手と出会って、毎日が楽しくない訳がない。変化と言うならそれが該当するが、言葉にした通り、別段言い触らす気はなかった。自分だけで噛み締めて居たかったのだ。
「フロック?あいつと一緒だと楽しそうだよね?」
「楽しいよ。仲良しだし」
 関係の名こそ出さないものの、嘘のない範囲で肯定する。
 他人に引っ掻き回され、水を差されるような真似はされたくない。ジャンはそう考えていた。
「今はお喋りの時間か?俺はモデル頼まれたんだと思ってたんだけど、接待しなきゃ駄目だったかな?」
 痛くもない腹を探られる不快感を厭味交じり言えば、相手は焦ったように手を動かしている。人の事など放っておけ。そうは思えど、他人のゴシップを好む人間は数多くおり、彼もその一人なのだろう。
 今度はわざとらしく溜息を吐き、目の前の人間を無視するが如く、ジャンは窓の外に視線をやった。フロックに会いたいな。と、考えながら。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 また別の日に、ジャンは明らかに嫌悪と威嚇に彩られた眼差しを目の前の男に向けていた。
「皆言ってるぞ?お前、尻使って教授と遊んでるんだろ?」
「遊んでねぇ。その言ってる皆って誰だよ。ぶっ飛ばすから教えろ」
「さぁ、噂だよ噂」
 ほぼ身長の変わらない男に壁際に追い詰められ、厭らしく笑う顔と、運動部特有の汗臭さに鼻を摘みたくなった。目の前の男性は、アメリカンフットボールをやっているだけあって肉体はかなりの筋骨隆々。純粋な力比べでジャンは敵わないだろう。
「で、なんで俺はお前に壁ドンだっけ?されなきゃなんねぇんだ?」
「俺、男も女もどっちでもいけるし、なんなら一発お願いしようと思ってな」
 ジャンは聞こえよがしに舌を打ち、『やなこった』と、男性の腕の中から抜け出そうとする。が、背中から羽交い絞めにされ腕力だけでは抜け出せなくなる。
「まぁまぁ、俺、結構いいもん持ってるぜ?楽しませてやるからそんなに邪険にするなよ」
 足の一つでも踏んでやろうか。獣であれば喉から唸り声を上げんばかりの表情でジャンは男性を睨み、拳を握った。
「何やってんだ?」
「あ、フロック」
 ジャンと、それに絡みつく男性を眉を顰めながら見るフロック。
 嫌な汗が背中を伝い、咄嗟に『違う』と、言い訳をしそうになったが、フロックが手を差しだしてきたため言葉は引っ込んだ。
「これやるよ。お前、こう言うの好きだろ」
 手に握らされたのは、ふわふわした小さな愛らしいひよこのストラップである。ジャンや、男性がきょとん。と、していれば、親戚の子供のためにクレーンゲームで獲得したが、山と積まれていたぬいぐるみが思いの外一気に取れてしまい、処分に困っていたのだと語る。
「はぁ、お前何言ってんだよ。そんなキャラもんジャンが好きな訳ねぇだろ」
 馴れ馴れしくジャンの肩を抱きながら断定する男性へ、フロックが曖昧な笑みを返す。
「ジャンはもっとスマートって言うか、クールな方だろ。大体、こいつに可愛いもんなんて似合わねぇし、お前解ってないなぁ」
 解っていないのはどちらなのか。
 上っ面ばかりを見て他人の好みを決めつけ、噂に惑わされた挙句に本人の意思を無視した下品な要求をつきつける人間が何を知り、理解していると言うのか。
「ありがと、可愛いなこれ。鞄にでも付けとく」
「だろ?ぜってぇ好きだと思った」
 肩を抱く腕を問答無用で叩き落とし、ジャンはフロックと並んで歩く。
 背後から声をかけられても居ないものとして無視し、今晩の夕食の事や、明日の話をしていれば、話は変わるけど。と、フロックが切り替えた。
「随分、おもてになってますねぇ?」
 フロックの嫉妬交じりの視線を受けながらジャンは苦々しく笑う。
「しょーもねぇ噂広めてる奴が居るらしくてな」
「教授に尻貸して単位貰ってるって奴?」
「なんだ、知ってんじゃねぇか」
 まぁな。フロックは言いながら、嘔吐く真似をしてみせた。自分の大事な人間が下劣な噂の的になっているのだ。心地好い気分にはならないだろう。
「誰が言い出したか知らねぇけど、人の噂も七十五日。って言うしさ」
「七十五日って簡単に言うけど、二か月半だろ、結構長いぞ」
「無視してればいいさ、ま、レイプでもされたらその時は優しく慰めてくれよ」
 努力するよ。
 フロックは軽い調子で肩を竦めて見せたジャンへ、暢気すぎると呆れたものか、面倒そうに言い、口には出さない心配の表れか、人気のない廊下で指を絡ませるように手を繋いだのだった。

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