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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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フロックの誕生日

・あんまり祝ってませんがフロ誕
・ほんのりフロック→ジャン
・気遣いが変な方向に行くジャン君
・現パロ

・フロック『は』幸せです
・フロックの家庭環境が最悪な設定です
・マルコが友情出演
・ヤンデレ?






 ジャンは記念日を大切にしたい人間である。
 殊、その人がこの世に生まれた日。いわゆる誕生日を重要視する。

 産まれた事を、無事に時を過ごした事を、これから進む未来の幸せを願って祝う日。そう考えている。ジャンはそうやって祝われてきた。大事な人にもそうしてきた。故に、これが当たり前だと考えていた。

 だからだろう。
「誕生日?別にどうでも良くねぇ?」
 この一言に、途轍もない衝撃を受けたのは。
 同じ大学に通う友人の一人であるフロックへ、誕生日がいつか。を、訊いた際に、つまらなさそうに放言した科白がジャンには信じられないものだった。
 例えば、何事にも控えめなベルトルトでも『誕生日?十二月三十日だよ。クリスマスは過ぎてるし、年末の準備で忙しいしで結構忘れられたり、両方纏められたりで少し寂しかったな』そう苦笑していた。
 なのに、フロックはどうだ。端から興味がないと言う。表情も誕生日如き、何がそんなに大事なのか。と、言いたげであった。
「節目って言うか……、大事だろ?」
 話している場所は講義室の一角。
 次の授業まで二時間も間が空いており、同じ講義を受けていたフロックへ、『お前誕生日いつ?』と、何気なく振った話題でしかなかったはずの会話は、奇妙な方向へと流れていく。
「誕生日が来たからって、いつもと違う明日が来るか?別に変らねぇだろ。その程度のつまんねぇもんだ」
 その程度とは言うが『変わらない日々を祝う』事が大事なのであって、劇的な変化を望んで過ごす日ではない。穏やかな日々。安寧の生活。それらに感謝する日なのだ。
 ジャンはフロックへ誕生日の意味を説くが、鼻で嗤われただけで終わる。
「お前、案外ロマンチストなんだな。乙女思考っつーか」
「またそんな憎まれ口を……」
 どうにも、フロックは素直に人の好意を受け取らない時がある。
 ジャン自身も皮肉屋な性格は持っているが、ここまで他人を拒絶はしない。何故、フロックはここまで他人と距離をとりたがるのだろう。ジャンは不思議でならない。
 ジャンにとって、彼は大学に入ってからの友人であるため、こう考えるに至った事情は知らない。何を思い、自身にとって大事だと考える誕生の日を『つまらない』と、放言するのか。
「お前さ、その可哀想。みたいな目つき止めろよ。本気で鬱陶しいんだよ」
「そんなつもりじゃ……」
 可哀想。同情をしていたのではなく、物悲しかっただけなのだが、フロックにはジャンが己を憐れんでいるように見えたようだ。
「誕生日、祝わないのか?」
「別に、やって貰った事もないし……、あ、言っとくけどサプライズとかやんなよ。祝ってやろう。とかまじでうざいから」
 思考を先回りされ、むう。と、ジャンは小さく呻る。
 産まれてきてくれてありがとう。
 無事に成長してくれてありがとう。
 これから貴方にとって幸せな日々が送れますように。
 母に抱き締められ、頬に口付けられて始まる言葉の贈り物。
 流石に、大学生にもなって抱き締められたりはしないが、今でも『おめでとう』そう言って母は頬に口付けてくれる。愛する人が幸せであるように願う、祈りの籠った口付け。面映ゆくなりながらも、温かさで胸が一杯になる感覚。フロックは味わった事がないのだろうか。
「誕生日自体はいつなんだよ……」
「しつけぇな、あー……っと、十月、の……、八日」
 自身の誕生日を直ぐに思い出せないほど、興味が薄いのだと、否が応にも伝わってくる。
「今日じゃねぇか」
「あぁ、そういやそうか」
 訊かれたから渋々答えたが、だからと言ってどうして欲しい。との要望はなく、スマートフォンで時間を見て、まだ余裕があると判断したか暇潰しにゲームなどを始めてしまった。
「ケーキ、でも、食うか?」
「甘いもんは別に好きじゃねぇ……、あっ……」
 フロックが小さく声を上げ、ジャンを忌々しそうに睨む。
 話しかけたせいで集中力が途切れ、敵からの攻撃を受けてゲームオーバーになってしまったようだ。
「ごめんって……」
「ったく……、別に直ぐリトライできるからいいけど……」
 フロックはそう言いつつも不満顔で、シューティングゲームを再開した。
「欲しいもんとかねぇの?」
「んー、金」
「現実的だな」
「まぁな」
「金はやれねぇけど……」
 ゲームの中の機体が壊れて飽きたかスマートフォンの電源を落とした事を確認すると、ジャンはフロックへと手を伸ばし、頭を撫でるように触れても怒られなかったことを幸いに顔を寄せ、こめかみに一瞬だけ唇を触れさせた。
「はっ⁉なにすんだよ。きめぇな!」
 この講義室には二人以外居ないため、フロックの出した大声はとても響いた。
「誕生日にやるおまじないみたいなもん。これからいい事がありますように。とか、悪い事が起きませんように。とか……、悪かったって、怒んなよ」
 顔を真っ赤にしてジャンを睨みつけるフロックへ謝罪し、コーヒーを奢るから。そう言って講義室を出た。

 一人残されたフロックは長机の上に真っ赤になった顔を突っ伏し、『ふざけんな』と、怒りからではない文句を呟いていた。

   ◆ ◇ ◆ ◇

「フロックに無視される」
 彼の人の誕生日から一週間。
 学食で購入したパスタをフォークに絡ませ、いつまでも回し続けながらジャンがぼやけば、一つ年上の親友であるマルコが片眉を上げてから苦笑する。
「また鬱陶しいって怒らせた訳?あの子も子供じゃないんだから、少しは放っておいてやったら?」
「だってさ、つんけんしてる割になんか寂しそうにしてるし、口悪い癖に言ったら言ったで自分が泣きそうな面してるし、それで人怒らせて危なっかしいから……」
 ジャンがフロックを構わずにはおれない理由を羅列すれば、マルコは苦笑を深めていく。
「いつかのジャンみたいだねぇ」
「俺はあそこまでじゃねぇよ」
 マルコへ反抗しつつも、確かにジャンは中学校では悪友と言っても遜色ない相手と殴り合いの喧嘩をしていた。若い頃にありがちな皮肉を口にしたり、何でもはっきり口にする事が格好いい。それが誠実さだと考えていた。
 歳を重ねるごとに、周囲から学び、気づいた物事を吸収して『大人の対応』を、学んでいった。
「お前はなんだかんだ言って真面目だったから、あまり心配はしてなかったけど、あの子が気懸りなのは少し解るよ」
 他人を嫌いつつも救いを求めているような態度。目を離せば悪人の口車に騙され、流れてはいけない方向へと流されてしまいそうな危うさがあった。フロックからすれば、小煩いジャンへ、『何も知らない癖に煩い』。と、反発したくなる気持ちも理解出来たが、ならば話をしよう。そう促しても貝のように口を閉じてしまう。
「やっぱ嫌われてんのかなー、でも、あいつからくっついてくる時もあるんだぜ?」
「あの子も、なんだかんだ寂しいんだろうとは思うよ。お前なら許容してくれるかも。って甘えがあるのかもね。意外と面倒見良いしさ」
 意外は余計だ。
 マルコへ文句を言い、巻き続けていたパスタをやっと口に入れたジャンは、後悔をしていた。せめて頭を撫でるに止めれば良かったか。自身が嬉しい事が、必ずしも他人が喜ぶ事ではない。解っていたはずなのにやってしまった後悔を。
「ちゃんと話して、自分が悪かったなら、ごめんなさいすればいいのさ」
「簡単に言うなぁ」
「お前なら大丈夫だよ」
 ジャンよりも先に昼食を食べ終わったマルコが席を立ち、微笑みながら激励を送る。
「なんせ、僕の親友だからね」
 自らを称賛しているのか、信頼しての発言か、あるいは両方か。ジャンはトマトソースで汚れた唇を舐め、マルコを見上げると肩を竦めて見せた。
「ま、やるだけやってみる」
 結果は判らないまでも、努力の意思を見せればマルコは満足したようで、手を振って食堂を後にする。何故かマルコは昔から自分への信頼が厚い。と、ジャンは首を傾げたくなるが、マルコに背中を押されて悪い結果になった記憶は今の所なかった。
 一先ず、目の前にある食事を片付け、午後の空いた時間にフロックを探す決意をした。

 暇を持て余している友人に訊けば、直ぐにフロックの居所は知れた。
 ママは大変だな。なんて揶揄られつつもジャンが教えられた場所まで行けば、日当たりのいい中庭のベンチに凭れ、秋にしては暖かい日差しを受けながら、腕を組んだまま転寝をしている姿を発見する。ただ、心地好く眠っているかと言えばそうではなく、眉間には深い皺が刻まれ、浅い呼吸を苦しそうに繰り返していた。
「フロック?」
 声をかけ、肩を揺すれば大仰に体を跳ねさせフロックは覚醒した。
 状況の把握が追いついていないのか、驚いたように目を見開いてはいても頭は未だ半分夢の中のようで、口をだらしなく開いたまま声は出さずに周囲を見回した後、暫しジャンを凝視していた。
「起こして悪い、きつそうだったから」
「お、あ、あぁ……」
 折角寝てたのに起こすなよ!
 てっきり、こう怒ってくるかと考えていたが、今回は歯切れの悪い返事が返ってくるに留まった。
「眠いなら、せめて横になれる場所に行った方が良くないか?」
「寝ようと思って居眠りしないだろ……」
 フロックも想定外の転寝だったのか辛そうに目を閉じ、目頭を揉み解している。のんびり立っているだけでも程良い暖かさが降り注ぎ、眠くなってくるような気がした。休んでいれば余計に眠気がふわふわと纏わりついてくる。
 なるほど。そうジャンは呟くと、一つ欠伸をした。どう話しを切り出すか迷っている内に、フロックがベンチから立ち上がり、どこかへ行こうとする。
「あ、おい……!フロック、なんで無視するんだよ」
「煩い……!」
 ジャンが掴んだ手首を振り払い、言葉通り煩わしそうに睨んでくる。
「なんか怒らせたなら、きちんと謝りたくて……」
「お前が……」
 フロックは何かを言いかけたが、直ぐに口を噤んでジャンから逃げてしまった。理由すら言ってくれないほど怒っているのか。あまりしつこくしても神経を逆なでしてしまう気がして追いかけられず、中庭から学舎へと入っていく後姿を目で追うに止めた。

 更に数日経った週末。
 友人同士で企画された呑み会にフロックの姿があった。
 席自体は離れているが、気にして視線をくれれば、やたらと目が合った。フロックもジャンを気にしているのだ。
「トイレ行ってくる」
 フロックがトイレに立った機会に、次いで後を追うようにジャンもトイレに行く。
 用を済ませるまで入り口前で待っていれば、ジャンが待っていると思わなかったのか驚いた様子で肩を跳ねさせ、数秒見詰め合った後、部屋へと逃げようとした。
「フロック……」
「なんだよ、しつけぇな……!お前は俺なんか居なくてもいいだろ」
「何の話だよ……」
 フロックが何を言いたいのか察せず、ジャンが眉を下げて見詰めれば居心地が悪そうに目を逸らす。
「お前、誰にでもあぁ言う事してるだろ……、俺見たんだからな」
「はぁ……」
 言い争いをしていれば、他の客がトイレに入れずうろうろ立ち尽くしていたため、ここでする話ではないと判断して悪酔いを理由に、早々に呑み会から退散させて貰った。
「ちゃんと話そう」
「話すって何をだよ。お前がビッチな理由でも教えてくれんのか」
 帰宅の道すがら、ジャンから話しかければ、フロックから絶句するしかない言葉が飛び出してきたため、何度も唇を開いては閉じる。
「人に期待させて貢がせたり、手の上で転がして遊んでんだろ。この糞ビッチが……」
 フロックが舌を打ち、ジャンには一切の身に覚えがない事柄で責めてくる。意味が解らなかった。
「は、はぁ⁉何の話だよ。ビッチとか……、貢がせるとか……」
「大学の構内でやってただろ、恥知らずがっ!」
 やった覚えのない罪で責められ、無視をされていたなど想像すらしていなかった。
「俺が何やったって言うんだよ!」
「直ぐ人にキスしたり、抱き着いたり……、さっきも人におっぱい押し付けて誘惑したりしてただろ!」
 ジャンは困惑するばかり。
 フロックが何を言っているのか全く分からない。
 打ち解けた人間に対し、距離が近い。とはマルコに指摘された過去はあるが、誘惑などした記憶は一切なく、流石に唇を許すような真似はしていない。
「してねぇし、大体、おっぱいって……」
 ちら。と、ジャンが自身の胸を見ても、女性のようにふっくらしている訳ではなく、極普通の男の胸筋でしかない。フロックには一体これがどう見えているのか、少々頭の具合が心配になる。
「他の野郎に抱き着いて、これ押し付けてただろ!」
「いでっ⁉」
 突然、突き飛ばされた。と、思ったのだが、そうではなく、フロックはジャンの胸に触れた瞬間、焦ったように手を引っ込め、一人で勝手に照れていた。どう言う状況だろうか。
「フロック、男の胸触って照れるなよ……、今からそんなんで彼女出来た時どうすんだよ」
 ジャンがこめかみを指先で掻きながら、耳まで赤らめているフロックへ話しかけるが、一人ずかずか歩き出してしまった。
「フロックってば……」
「うっさいビッチ野郎」
 妙な因縁を吹っ掛けられ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつもジャンはフロックの後ろをついて行く。
「お前さぁ、なんか勘違いしてるんだって」
 可笑しな勘違いをしたまま、彼が友人へ変な話をして被害を受けては堪らない。きちんと話し、誤解を解かなければ。ただそれだけのためにジャンはフロックを追いかける。
「誤解なもんか。俺にキスした癖に、別に奴にもしてた」
「はぁ……」
 フロックへしたのは祈りの口付けであり、疚しいものでは決してない。
 その後、誰かにしただろうか。フロックへしてからとすれば、ここ二週間の間になるが、思い当たる節はない。
「俺が誰と何してたんだよ」
「こないだはライナーにくっついてキスしてた」
 かなり語弊がありそうな口ぶりに、頭が痛くなる。
 直近の記憶を思い返せば、今回の呑み会の幹事と言う面倒ごとを引き受けてくれたライナーへ、茶化し半分でじゃれつき、後頭部に口付ける真似事をした記憶は確かにあったが、それで何故フロックが怒るのかが分らない。それ以外にも、マルコだったり、自分よりも背が低いアルミンを猫可愛がりしつつ揶揄ったりはしていたが、どれもこれも友人の範囲は越えていない。
 淫奔に振る舞う女性を侮辱するような言葉を投げつけられる謂われは全くなかった。
「それがなんだよ……、別に友達と遊んでただけだろ」
「お前、そういう所だよ……!」
 フロックが低い声でジャンを責め、自宅アパートに辿り着き、鍵を開けた。てっきり、そのまま締め出されるかと思ったが、フロックはジャンを顧みて、ちらちら縋るように見てくる。
「上げてくれるのか?」
「ん……」
 フロックは、先に入れ。とばかりに扉を開け、ジャンも素直に極稀にしか行かない彼の部屋へと招かれた。これでしっかり話が出来ると思ったからだ。
 真っ暗な部屋が苦手なのか、うっすらと部屋を照らす常夜灯のお陰で難なく灯りを点けられ、幾分散らかった男の部屋が現れる。
「やる……」
 安物のペットボトルワインをマグカップに入れて渡される。
 いつか、フロックの部屋を借り、複数人で飲んだ際のあまりだろう。文句を言う事もなく受け取り、小さな座卓の前に座って口をつけた。
 呑みやすいよう甘みを足してあるのか、ワイン独特の渋みや酸味は全くない。
「入れてくれたって事は、きちんと話す気があるって判断でいいのか?」
「さぁな」
 フロック自身はビールのプルタブを開け、ぐ。と、煽り、深い溜息を吐いた。
「ほんとにさー、何を勘違いしたら俺がビッチになる訳?」
「気に入った奴とは直ぐホテルに行ったりするんだろ?それがビッチじゃなくて何なんだ」
「事実無根だ。誰が言ってんだよそんなの」
 マグカップに入っているワインを揺らし、ジャンははっきりと否定するが、フロックの疑いの眼差しは消えない。誰が下劣な噂を悪意を以て撒き散らしているものか、あるいは、伝言ゲーム式に些細な事実が拡大解釈され、可笑しな内容になったものか。どっと疲れに襲われる。
「じゃあさ、訊くけど、お前は俺が誰かと仲良くホテルに入ったりしたとこ見た訳?」
「ない。それは聞いただけ。でも、大学で色んな奴といちゃいちゃしてるのは何度も見た」
 いちゃいちゃ。
 どうも認識に大いなる齟齬があるようだ。
「俺が誰かと宜しくやってたってのか?」
「抱き合ったりしてた」
 子供が拗ねたように唇を尖らせながらビール缶のプルタブを起こしては倒しているフロック。かき。と、小さな音を立てて千切れれば、指で弾いて座卓の上に捨てていた。
「抱き合ってたって、セックス?」
「いや……」
 だろうな。
 マグカップの中身を空にしたジャンが、ぼやくように言い、酒精が籠った息を吐く。飲み会で飲んだものと、今のワイン。程良く酒が体内を巡り、眠りを促してくる。
「あのさ、他人の口じゃなくて、本人が違うって否定してんだからそれを信じろよ。俺は潔白だし、別に変な意味は無かったけど、キスしたのがそんに嫌だったんなら、本当に悪かった。だから変に勘ぐるのは止めてくれ。俺だって変な勘違いされるの嫌だしさ」
「じゃあ、俺だけにしろ」
 座卓にマグカップを置き、言いたい事を言った後に大きく背伸びをしていれば不可解な言葉が聞こえ、体を伸ばす際に閉じた目を開ければ、目の前までフロックが迫っていた。
「抱き着くのも、キスするのも、他の奴にすんな」
「え、え……?」
 ぐいぐいとジャンを部屋の隅に追い詰めるが如く、フロックはにじり寄り続け、最終的には床に押し倒し、うっとりした様子で唇を合わせてきた。
「俺に嫉妬させたくて挑発してるなら、やり方最悪だし、お前まじで糞だな」
 罵倒を口にしながら謎の発言をフロックは繰り返し、服の中に手を突っ込んで胸を触り始め、あまつさえ揉みだした。
「ふろ、え、あの……」
 ジャンは顔を赤らめつつも、フロックを押し返すが止めてくれるつもりは一切ないようだ。
「俺は、裏切るような真似しないし、お前もやるな。またやったら殺すぞ」
 瞳孔の開き切った目でフロックはジャンを睥睨し、抱き着いてきた。
 なんの地雷を踏み抜いてしまったのか。フロックの考えは一切ジャンには理解不能であったが、本気であるらしいとは知れた。

「俺、そういう奴が一番嫌いだ」
 フロックの口から語られたのは、悲惨な家庭環境だった。
 両親には小さな頃から見向きもされず、食事だけを与えられる生活。小学生になった頃に母親の不倫で離婚。『子供など要らない』と、母親に捨てられ、父方に引き取られはしたが、父親は仕事で忙しいと帰って来ず、躾に厳しい祖母に世話にはなっていたが、甘やかされるような事は一切なかったそうだった。
 当然、誕生日を祝って貰うような経験もなく、産まれた事を喜ばれるどころか、疎まれて育ったと。中学、高校と遊ぶ時間も惜しんでアルバイトで働き、必死で勉強し、奨学金をとって大学に進学しての独り暮らし。
「あぁ……」
 ぼそぼそと、他人を裏切る人間を嫌う理由を語るフロックの言葉から、大学で見た行動を鑑みれば、心境がある程度は想像がついた。
 やっと家から解放されはした。だからと言って、疎まれていた人間が直ぐ様、他人とは打ち解けられない。だが、独りは寂しい。上手く交流が出来ない中で、やたら構ってくる人間が居れば、手を伸ばそうとするのは道理。それが、偶々ジャンだったのだ。
 いつから、ここまで依存されていたのだろう。
「フロック、あの……」
「俺が嫌いか……?」
 ジャンが説得を試みようとすれば、フロックは抱き着いていた状態から顔を上げ、今にも泣きそうな表情で縋ってきた。

 ジャンは開いた口を閉じ、慈しむようにフロックの髪を撫でれば、薄らと涙で潤んだ目を細め、ジャンをきつく抱き締める。
 慈悲や慈愛なのか、ただの同情なのか。縋るフロックを抱き締めてやりたくなった自身の感情に気付けば撥ね付けるなど出来はしなかった。

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