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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

ジャンのテラリア日記43~終章

ジャンのテラリア日記43~終章





・四十三日目
 マルコに、アニはお前の事、嫌いじゃないみたいだぞ。
 そう伝えたら、ぽかんとした間抜け面が返って来た。可笑しいな。もう少し喜ぶと思ったんだが……。嫌いじゃない。だけは喜ばせるにはちょっと弱かったか。うーん、安心して攻めて来い。と言いたかったんだが伝わらなかったみたいだ。ふと思ったけど、好きな人に、嫌いじゃない、でも好きじゃない。とか言われたら……。
 あぁ、きっつい、想像でも絶望で死ねる。余計な事はちょっと控えよう。

 今日はベルトルトとダンジョンに行ってきた。
 ミカサに弁当作って貰った。やった。

 小型の大砲みたいなやつ、えっと、グレネードランチャー。ダンジョンは地下だから、下手に撃って外壁が壊れたり、衝撃で地盤沈下が起こるといけないから。との理由で小回りの利く剣と、銃に持ち替えて、魔法は地形削ったりしないから、そのまま使ってた。
 ダンジョンに潜ると、以前よりも敵の数や種類がやたらと増えてる。だたの骸骨だけじゃなくて、重装鎧を着た大槌を振り回す奴や、銃や、ベルトルトみたいなグレネードランチャー使う奴。突然現れて直線の光線が飛んでくる魔法を使う奴。格闘技を使う奴もいて、倒すと変なもやもやした白いのが襲い掛かって来る。

 俺は魔法使いっぱなし、ベルトルトは銃を撃ちっぱなし、とてもじゃないけど、ゆっくり探索何て出来る感じじゃなかった。
収穫もちゃんとあったけどな。銃が二つに、俺用の魔法の本一つ!銃身の長い銃は、撃つまでの一発の間が長いが、特定の敵を狙って撃ち抜けば凄い威力だ。調べたらスナイパーライフルだって。スコープもちゃんとある。もう一つはショットガンだな。ライナーが持ってた奴より威力はこっち方が上みたいだ。また整備するとこ見せて貰おうっと。

 魔法は、青緑っぽい装丁の本を読むと、同じ色の球体がふわっと出て来て、敵が近付くと、雷みたいなのを落として、自動で敵を追尾してくれるものだ。結構強いし、実にいい物を拾った。ただ、一回出したら、次を打っても玉が入れ替わるだけで、連続で使っても意味がないのが難点か。連射力で考えると、今持ってる奴の方が連続で敵に攻撃出来るから、攻撃力はこっちのがある。青いのを雑魚用の盾や補助くらいに考えて、紫で本命を倒す。って使い分けがいいかな。とは言っても、紫の奴じゃあ、少しばかり火力不足が目立ってきたんだよなぁ。

 一旦、安全なダンジョンの外まで移動して座って休んでいたら、魔法の使い過ぎで消耗したのか、いつの間にか眠ってたみたいだ。気が付いたら家に帰っていて、暖炉部屋のソファーに寝かされていた。起きてからベルトルトと何か話したみたいだけど、何を話したのか覚えてねぇ。ずっと頭がふわふわしてて、どうにも力が入らなくて、また飯食わずに寝た。流石に着替えるくらいはしたけど。

 因みに熱出てた。
 ぼけーっとしてた時は熱が高かったんだろうな。
 ちゃんと食べないから、熱出すんですよ。とか言われて、サシャが食い物を口に突っ込んできて、喉に詰まって死ぬかと思った。一昨日のエレンの気持ちが何となく解かった。トイレ同行もきついが、これもきつい。

 魔法って結構、体に負担かかるなー。いや、逆に熱くらいで済んで良かったのかな。
 全身が得体の知れないものに蝕まれるとか、正体不明の痛みに襲われるとか。うん、熱もきついけど……、まぁマシ、マシ……。

・四十四日目
 ちょっとふらつくけど、皆の看病のお陰で回復出来た。
 もう、からだべったべたで気持ち悪くてしょうがなかったから早急に風呂に入りに行った。
 風呂って不思議だなー、凄い落ち着くと言うか、物凄く疲れてる時でも、気が休まるのか、入るとちょっと回復するからな。

 すっきりしてから、朝食作る事にして、保存庫みたら色々食材が入ってた。どん、と鎮座している熊の手らしいものは見なかった事にした。あっさりしたサラダと、玉子挟んだパンにして、サシャ用にハムも焼いといた。
 朝食の後に、「念のために回復薬を一口飲んで、安静にしてろ」と、マルコに部屋に押し込まれた。ベルトルトも部屋に来て、果物だの、暇つぶし用の本だの、あれこれ置いてった、心配し過ぎなんだよなあいつ等。俺が知らない所でも色々動き回ってるみたいだし。この間、倉庫を整理してたら見覚えの無い物が一杯あったからな。見た事もない綺麗な貝殻とか入ってたし。見慣れない木なのか石なのか良く解らない色とりどりのものもあった。どこから持ってきたんだろう。海?

 海か。エレンが見たと言っていた海も見てみたいな。
 川じゃ見た事ないような大きな魚も沢山居たらしいし、日が落ちる寸前の海の綺麗さは言葉だけじゃ言い表せないなんて言っていた。羽根があったらあっという間にいけないかなー。
 横になってると寝そうだから窓開けて、ぼんやり外を見ていた。家の周りも景色は綺麗だし、夕日も綺麗だ。夜も硝子越しだが星が真っ新な空に輝いてる。風に揺れる葉擦れの音も心地良い、だが、それは前の世界でも在ったものだ。風景は、さして変わらない。ただ唯一見た事がないのは海だけだ。湖より綺麗なのかな。今日は天気が良かったから、大きな湖を日が照らしてきらきら光っていた。これより綺麗なのか?

 ぼーっと外を眺めて、偶にベルトルトが持ってきてくれた本を読んで、こう言っちゃなんだが、暇過ぎて死にそうだった……。何かしてたらマルコが来て部屋に連れ戻される。一々、ぺたぺた触って熱測って来るし。
 本当に過保護過ぎだよな。もしかして、魔法を使う弊害を知ってて俺に黙っているとか?そんな訳ないか、それならマルコは魔法の使用自体を止めろって言うはずだ。んー、解かってて俺が使うのを阻止するために、使う状況にならないようにしてる?明日まで様子見て、行動が変わらないようなら訊こうかなー。

 ひーまー、暇、ひま。
 ちょっと変な歌作って遊んでた。

・四十五日目
 すっきり回復、眩暈もない。
 今日も元気に活動だー。と思ってたんだが、マルコの過保護が変わらなかった。
 変わらないと言うより、もっと酷くなった。包丁すら持たせて貰えないってどう言う事だ。
 普通に本読んだり、家の中うろついたり、外の畑くらいなら気にしないみたいなんだが、常に傍に居る。エレンについてるミカサ張りに。食事も自分じゃ食べてない。ナイフもフォークも、スプーンも取り上げられて、マルコが全部、手ずから与えて来た。鳥の雛になった気分だった……。はずかしかった……。

 食事の間中、気不味くて仕方なかったが、あのユミルですら、からかってこなかった。
 昨日、マルコは何をやったんだ、怖すぎるんだが。

 食事の後も、ずっと一緒だったし。本を読んでて、紙で指を切っただけで青褪めてた。結局、行動が可笑しい理由は訊いてもはぐらかさた。
 
 何なんだよお……。

・四十六日目(四十七日目)
 真面目にマルコに訊いてみた。
 これじゃなんにも出来ない。と直談判をしたんだ。
 最初は、昨日と同じように、はぐらかそうとしたが、俺がきちんと理由を聞くまでは動かない様子を見たら観念したようだ。そしたら、無茶ばかりするから心配なんだ。との事だった。
 化け物にはちゃんと気を付けてる。そりゃ、危なくなった時もあったけど。と、反論したけど、そうじゃないって返された。
 神殿も止めなければ独りで行っていただろうと怒られて、ろくに休みもしないで魔法使い続けて、挙句に熱出して倒れた。俺が気が付いていないだけで、倒れてから丸一日、意識が戻らなかったそうだった。丸一日って事は、一日、体感してる時間がずれてるって事かな……?
 じゃあ、今日は四十七日目って事になる。

 「熱も中々下がらない、意識は戻らない、薬飲ませようにも呑み込めずに吐く、このまま衰弱して死ぬかも知れない。って、どれだけ肝が冷えたと思ってる!」と、涙ぐみながら叱られてしまった。
 熱が下がって、見た目は回復したように見えても、後からどんな不調や後遺症が出るか判らない。弱みを見せたがらない俺の事だから、具合が悪くても隠すかも知れない。マルコはそう思って常に傍について居たっぽい。

 理由は解かったけど……、今後、探索は一切禁止は横暴だと思うんだ。
 ずっと家に閉じ籠ってるとか正気の沙汰じゃない。絶対無理。寧ろ心労で死ぬ。周辺くらいならいいって言うけど、その周辺の範囲も狭すぎる。畑とか、果物取りに行く森とかくらい。
 心配してくれるれるのは在り難い。ってのを前置きにして、けれど、家に閉じ籠るのは嫌だって反抗した。滅茶苦茶、怖かった。最終的に言い包められそうになったりもしたが、お飾りの人形のように、何もせずに、ただ居るだけなんて、真っ平御免な訳で、そこだけは跳ね付けた。でも、まぁ、マルコとの約束事がまた増えたけど……。

・単独行動はしない
・無理や危険な事はしない
・交戦して一瞬でも不利と思えば、直ぐに逃げる
・探索中は、いつでも逃げられる準備をしておく
・怪我や不調があれば、隠す事無く言う
・直ぐに治るからと軽く考えない
・独りで考え込まない
・些細な事でも相談する
・(出来るだけ)エレンと喧嘩をしない
・お風呂上りに上半身裸でうろつかない
・お風呂上りでなくても、無闇に肌を晒してはいけない
・夜中に独りで人の部屋を訪ねない。(マルコは例外)
・安易に二人切りにならない。(同上)
・寝る時は、絶対に施錠して寝る

 取り敢えず、並べてみたけど、下の三つは何だろう?危ない事するな。は、解かるし、肌を晒すな。ってのは体冷やしたり、湯冷めして風邪引いたらどうするんだ。くらいだろうけど。女の部屋は余程の理由がないと行かないからいいとしても、他は、うーん……?
 あ、そうか、話し込んだり、作業見せて貰ったりで夜更かしすんなって事か。マルコ相手なら、マルコから休むように促してくるしな。でも、一々、施錠してたらトイレとか面倒だなぁ。無防備とか不用心とかも言ってたから、ちゃんとする癖着けろ。かな……。うぅ、めんどくさい……。どうせ仲間しかいないんだからいいだろうに。
 ノックなしで入って来る奴は、コニーやエレンがしないな。したとしても、間を置かずに開けるからな、ノックの意味ねぇよな、あれ。まぁいいか。

 それにしても、マルコが本気で父さんに見えてきた……。

 【日記追記】
 夜になって、ライナーと夕ご飯作ってる時に、骸骨野郎が出た。
 他の奴と同様に、体が機械になっていて、腕にマシンガンや、光線を出す道具を着けていた。しかし、うねうね動き回るのはあまり変わっていない。そして、眼玉に比べたら、攻撃してくる速度もそこまではない。腕を叩き潰したら、前と同じ頭だけで
俺を追っ駆け回してきた。でも、攻撃が一直線で単調で、前より機動力が上がったお陰で、避けるのは然程、難しくはなかった。以前の苦戦はなんだったんだって思うくらい拍子抜けだ。

 装備さえ整っていれば、そこまで苦しい相手でもなさそうだ。
 ただ、単独で立ち向かおうとしたら、少々厳しいとは思う。

 骸骨野郎は腕が四本あって、幾ら飛び回った所で、こちらはそれ以上で攻撃してる訳だから負ける方が可笑しいか。それに、蟲や目玉に比べて、弱点が剥き出しだったのも幸いした。例えば可動部分、機械でも人間でもそうだが、そこが壊れてしまえば、そこから先は役立たずだ。ライナーに教えて貰ったが、どう頑張っても眼玉や、関節だけは鍛える事が出来ないから、屈強な相手、鎧のような硬い装甲を持った相手ならそういった隙間を狙え。だそうだ。狙って魔法を撃てば面白いように腕が飛んだ。化け物共から言わせたら、一対多数で俺達の方が卑怯だなんて言うかも知れない。
 ま、仕方がないよな、「復讐に来ました」からの「判りました、殺されてあげます」なんて命をあっさり差し出すほど、生に無頓着な訳じゃない。

 正直、逆の立場でもそれは嫌だ。
 復讐に駆られるほどの強い感情を持つなら、あっさりと命を差し出されたら追い詰めた甲斐がない。
 顔をぐしゃぐしゃにしながら、死にたくないと足掻いて、無様に命乞いをして、もがき苦しみながら死んで貰わねば、奪われた側の感情は収まらないんじゃないだろうか。エレンを見てるとそう思うし、解かり易い例だろうな。
 巨人と見たら、通常種、奇行種、関係なく駆逐。しか頭にない。訓練ですら、猪みたいに周りが見えずに突っ走るからな、あいつ。まぁ、知性がないって言われてる巨人が命乞いするのかは知らないけど。あぁ、でも、超大型巨人や、鎧の巨人は的確に扉を狙って壊したから、何らかの目的や、知性があるんじゃないかって言われてるんだっけ。
 一定数、巨人にも知性がある奴が居るんだとしたら、やっぱり目的は人類の滅亡だろうか?どんな理由があるかは知らないけれど、目的を持って行動しているなら、巨人としては、超大型や、鎧の巨人達の行動は間違ってないんだろう。

 対立ってのは、子供に聞かせる物語のように、善と悪できっぱり分かれているものではなくて、どちらも信念や、正義を持って行動しているから対立する。自分が正しいと思っているから、相手を排除しようとどちらも考える。

 正義の敵は、また別の正義なんだ。と。

 「どちらも、自分が正しいから、目的や信念を曲げないから戦いになる。そうなると、どちらかが死ぬまで、滅びるまで延々と殺し合いを続けるしかない。小さいものなら子供の喧嘩程度でも、大きなものなら人間同士の殺し合いの戦争だ」
 実際どういうものかは知らないが、手伝いをしてる時に教官がこっそり教えてくれたんだ。昔、巨人が現れる前は、人間同士も殺し合いしてたんだって。それが戦争だって。
 「それが、今は巨人と人間に置き換わっているけど、巨人が居なくなったら、また権利や、自分の欲のために人間は殺し合うのかもな。これ、禁書の内容だから、他の人には絶対に内緒だ」そう言いつつも、手伝い駄賃代わりに古い話を色々と教えてくれた。まぁ、俺とエレンの喧嘩も程々に、憎み合うようになったら人間として終わりだ。って忠告も交じってたんだろうけど。喧嘩のせいの罰当番だったし。
 とは言え、戦いとか、俺は死に急ぎ野郎とは違って、そんなもんよりも、残された命を護るだけで精一杯だ。だから内地へ行きたかったんだ。でも、ここに居て、ちょっと気持ちも変わって来た。

 もしも、ずっとここに居るなら、もっと皆が見たと言う世界を見て回りたいな。
 エレンも、両親を殺される前はこんな風に外の世界へ思いを馳せていたんだろうに、憎しみってのは人を変えるな。憎んだり、愛したり、悲しんだり、人間の感情って何でこんなにやっかいなんだろう。

 【まとめ】
 取り敢えず、巨大な三体の化け物は倒したから、敢えて襲い掛かって来るような奴等はもういないだろう。多分。
 これから何をしようかな。機械技師が集まっている町に行くのも楽しそうだな。エレンみたいに、一か所に留まらず、あちこち旅するのも楽しいかも。ライナーが居たって所は、ちょっと怖いなぁ。
 一先ずの目的は、海かな?どんな所なんだろう。エレンに聞くだけじゃ想像し辛いな。説明が抽象的と言うか、ばーんと水が広がってて、水が塩っ辛くて、匂いも不思議な匂いがして、ここと全然違う。水が常に動いてて音が煩い。で、見た事ないもんを想像出来るか馬鹿。綺麗さと、やたら広くて、塩水が溜まってるってのは伝わったけどさ。

 色んな想像をしてみるけど、やっぱり実際に見てみたいな。実際に目にしたら、どう感じるんだろう。
 エレンの部屋に行って、エレンが旅した町やの話を聞いてみた。擬音が多くて、抽象的でやっぱり判りづらかったけど、楽しそうではあったな。途中からミカサやアルミンも参加して、眠くなるまでずっと話を聞いていた。

・四十七日目(四十八日目)
 面倒な書き出しだけど、変にずらすと判らなくなりそうだからこのままでいく。

 今日は朝から久しぶりに酷い土砂降りだった。
 多少の雨くらいならあったが、視界が塞がれるほどの雨はここに来た最初の頃以来だ。
 雨の音が煩くて、湿気が酷いせいか、空気が淀んでて、頭が重い。何となくしゃっきりしない。

 雷も酷かったな。
 空が一瞬だけ明るくなって、少し間が開いて轟音が響いた。
 窓から森が燃えているのが見えたから、雷で発火したんだろう。この土砂降りの中で、いつまでも燃えていられるとは思えなかったが、火が消えるまでずっと一人で外を見てた。
 それからも、燃えるまでは無くても、ずっと雷が鳴り響いてて、心臓がずっとどきどきして、不安で堪らなかった。空が煙で真っ黒で、世界の終わりみたいな酷い音が鳴り響いて、誰もが絶望に染まった表情で壁を見つめていて、嫌な事ばっかり思い出す。

 夜遅くまで雨は止まなかったけど、中々部屋から出てこない俺を心配して、マルコが呼びに来てくれて、暖炉部屋まで行ったら皆がわいわいやってて、話したりしてたら、かなり気が紛れた。
 夜は夜でマルコと一緒に寝たから安心出来たし。いい奴等だよな。

・四十八日目(四十九日目)
 前言撤回。ふざけんな馬鹿野郎。

 胸痛い。

 コニーの馬鹿!
 ユミルも調子乗りやがって!
 薬の材料が切れたから戻せないって、ふざけんなふざけんなふざけんな。俺みたいなのが女になってどうすんだよ!トイレとか風呂とかどうしたらいいんだよ。
 さっさと薬草集めて元に戻す薬作れって叩き出したけど、重いもん全然持てないし、身長も縮んでるみたいで手が届かない所が増えた。ライナーやベルトルトと比べたら弱いってだけで、やっぱ男の体って力あるんだな。
 ライナーもベルトルトも何で怒らないんだよ。俺より前に騙されて、薬飲まされて女にされたのに全然怒ってないし。直ぐに戻して貰ったから?でも、俺が一人で怒ってたら馬鹿みたいじゃねぇか。冗談も受け入れてやれない心の狭い奴みたいな。

 二人に比べて胸小さいとか、からかって来やがって。
 ユミルは揉んだら大きくなるとか言ってしつこく揉んでくるし。まだじんじんする。
 性別変える薬とか頭可笑しいもん作ってんじゃねぇよ!トイレとか風呂とかどうすんだよ。って怒ってたらマルコが他の女達から聞いたのか教えてくれた、けど恥ずかし過ぎる。

 コニーは散々怒ったけど、まだ腹の虫が治まらない。皆、酷い。
 知ってたんなら止めてくれたっていいだろ。腹立つ事に飲んだ薬の味は美味かった。

 んで、戻るための薬を調べてたら、真紅の大地に生えてる薬草が、薬になる花が咲く日が満月だけだと。知るかふざけんな。さっさと生えろ。幾ら探しても見つからないから可笑しいと思った。拭える所は拭ったけど、汗でべたべたするから風呂入りたい。マルコに一緒に入ってくれって言ったら拒否されたし。何でこんな目に。

・五十日目(五十一日目)
 昨日はサシャと風呂入る羽目になった。最悪。
 あいつ意外と胸あ。ちがう。見てない。「やっぱり細いですねー」って言われた、また揉まれたし。

 昨日、月見たら丸くなりかけてたから満月は明後日か明々後日辺りかな?俺、夜出た事ないんだよな。出ようとしたらマルコに止められるし。取り敢えず、今の俺でも持てる装備と、まぁ、魔法は変わりなく使えたからいいとして、どうやって真紅まで行くかなー?機械の翼で行けばいいかな。夜に飛んでみたいとは思ってたけど、まさかこんな事になるとは。ここの周辺は化け物が少なくなったから行けると思うけど、真紅はどうだろ。そんな事を考えながら荷物を整理していたら、ベルトルトが来て薬を手渡してくれた。
 無かったんじゃ?戸惑っていたら、どうも倉庫に乾燥させていた薬草が残っていたらしい。無いって言われて、探しもしなかったのは駄目だったな。倉庫は皆で共有してるから、何が入っているのか、全部把握してる奴は居ないだろうし。盲点だった。
 何にせよ、スカートだの女物の下着だのを着けさせられる前に無事に男に戻れて良かった。クリスタに用意してたのに。とか言われた時は本気で反応に困ったけど。

 そう言えば、満月の日って赤い月が出易いんだよな。
 化け物も強化されてるし、ちょっと気を付けておいた方がいいかもな。

・五十一日目(五十二日目)
 俺が戻った姿を見たらエレンが豪い落胆していて、コニーも、戻っちまったのかぁ、残念。だとか言っていた。
 ベルトルトと目が合うと、へら、と笑ってきたから俺も釣られて笑い返した。そしたらライナーが、ベルトルトをどこかに連れて行ってしまった。二人で倉庫整理でもすんのかな?

 マルコにもベルトルトのお陰で戻ったと報告して置いた。
 何故か複雑そうな表情で返された。アルミンが慰めてたし。妙な疎外感に硝子部屋に閉じ籠ってぼんやり空を眺めていたら、朝は晴れていた外の天気も、俺の気持ちと同じでもやもや曇って行った。
 あれかな、怒り過ぎたのかな。別に、薬があれば体は直ぐ戻ったんだし、あんなに怒らなくて良かったかも。悪かったかな。ベルトルトは、何も言わなかったけど、俺が煩いから渋々探してくれたとか、ライナーもいい奴だから口にしなかったけど、俺生意気だし、ざまぁみろとか思ってたのかな。

 エレンやコニーは何であんなに落胆していたんだろうか。
 俺が嫌いだから、焦ってるのを見るのが面白かったとか?やり込めたかったとか?マルコも元に戻って喜ぶどころか、どこか困っている風にも見えた。アルミンはどうなんだろう、体が可笑しい所は無いか。と心配してくれていた。ベッドで横になって服を脱いで。そう言われたからその通りにして、触診してくれたのはいいが、終わった後、やけに神妙な顔つきだった。怖いんだけど。何か可笑しいのか?

 性別を変える薬なんて、可笑しな物を飲んだから異常が出たのか?
 体調は特に悪いとは感じないが、触診してたくらいだし、もしかしたら、アルミンにだけ解かる異変か?

 怖くなってきた。

・五十二日目(五十三日目)

 一晩経っても特に体に異常は感じないけど、怖かったんでアルミンの所に行って話を聞いた。
 そしたら、単純に男から女の体になり、また同じ薬を飲めば、きちんと男に戻っているから、どういう原理何だと悩んでいただけらしい。びくびくして損した。

 自分で飲んで確認するのも。とかぶつぶつ言いだして、周りが見えなくなっていたようだからそっと部屋を出て、ご飯作ったり、掃除や洗濯したりして時間を潰していた。
 ジャンちゃんおっぱい無くなっちまったのかー。とか言いながらユミルが胸を揉んできて、もう面倒になって洗った皿拭きながら黙って突っ立っておいたら、つまんなかったのか直ぐ止めた。あれだな、やっぱり反応すると面白がって、増長してやる事が酷くなるんだな。エレンやコニーも触りに来てがっかりして帰って行った。阿保かあいつらは。

 夜になると、丸い月が出た。完全に丸くないから、やっぱり満月は明日だな。
 化け物共も居ないし、もう機械の奴に襲われる心配もないし、思いっ切り飛んでみようかと思って準備してたらライナーが話しかけて来た。一緒に行ってくれるって。昨日は災難だったなー。って慰めてくれた。
 思い切って訊いてみたら、気持ち悪かった訳じゃなくて、単純に体調も、精神的にも不安定になっていたようだったから、気にしてたけど、どうしたらいいか判らなくて、話し掛けられなかったんだって。そう言えば、良く目が合っていた気はする。
 ベルトルトは、と言いかけて、何故か間が空いて、善意だとは思うぞ。とか歯切れの悪い言葉をぼそぼそ言っていた。思うって、豪い曖昧な。助けて貰ったのは事実だから別にいいけど。
 コニーやエレンは、面白いネタが無くなって落胆していたんだろうとか、マルコは自分がどうにかしてやりたかったのに、いつの間にか戻ってたから戸惑っていただけだとか、ライナーと話していると、次第に気持ちが落ち着いていった。
 嫌な方向に考え過ぎだったかも。体が可笑しくなって気持ちが不安定になってたのかな。全然、思ったように行動出来ない、やりたい事が出来ない。の、ないない尽くしで、やたら苛々しちまってたし。ちゃんと相談しろとか、頼れって言われたばっかりだったのに。
 ユミルに関しちゃ面白がってただけだし、クリスタはそんなユミルを叱って俺を庇ってくれたし、サシャも何だかんだで色々手伝ってくれたり、アニも探索で補助してくれたし、ミカサは、面白がるエレンを窘めて、押さえてくれてたっけか。
 何にあんなに苛々してたんだろ。俺、馬鹿だな……。

 ライナーは体の変化に精神がついていけてなかったんだろうだって。皆も気にしてないし、コニーも反省してたから、また普通に接してやれって言われた。
 俺、酷いくらい皆に八つ当たりしまくったのに、うん、ごめん、いい奴等だな。やっぱり。ただ、コニーが持って来たものは、今後、安易に飲み食いしないようにしようと思う。

 思いっ切り体も動かせてすっきりしたし、気分も楽になった。
 ライナーと一緒で良かったな。話ししてなかったら、まだもやもやしてたかも。

 しかし、改めてライナーの体力と能力は凄いな。俺が飛んでるのに、あの特殊な靴とフックショットだけで軽々追いつきがやる。化け物が出ても、雑魚ならフックショットぶつけたり、銃抜いて一瞬で倒すし。格好いいな。何か、親しい奴が凄いと気分が上がるな。
 かっこいい、かっこいい、って言ってたら、すげー照れてた。面白い。帰ったら、皆が暖炉部屋に集まってて謝ったら、エレンにしおらしい俺が気持ち悪いとか言われて喧嘩になった。まぁ、すっきりしたけど。

・五十二日目(五十三日目)
 朝起きたら、もう日が上がっててもいい時間なのに、空がやたらと暗かった。
 時計見ても壊れて居る訳じゃない。どうなってんだ?と思って硝子部屋まで登って外を見たら家の周りは化け物だらけだ。丸い何かがすごい勢いで近づいてきて、硝子を突き破って襲い掛かって来た。丸い玉に棘が付いたような奴だった。
 ぎりぎり避け切れなくて、腕を裂かれた。血が沢山出て、腕を押さえて逃げようとしたら、蝙蝠が目の前で突然、人の形になり、床に叩きつけられて服を破かれた。硝子部屋に置いてる照明は暗くなると自動で点く奴だったから、化け物が良く見えた。唾液に濡れて光る牙が迫って来るのがはっきり見えてるのに、体が固まったように動かず、首筋に噛みつかれたかと思えば、体が急速に冷えて目の前が真っ赤になった。
 化け物が俺の血を呑んでいる。化け物の視線が外れると体が動くようになっていて、近くにあった鉢植えに手を伸ばし、思い切り化け物の頭をぶん殴って怯んだ隙に逃げた。階段を降りたと言うよりは落ちたんだけど。血が抜けて、寒くて、頭がぐらぐらした。上手く立っていられず、壁伝いに逃げてたら、転びそうになり、誰かに抱き留められて、追いかけて来た化け物を倒してくれた気がする。
 気が付いたらマルコが傍に居て、回復の薬を手渡してくれたから飲んだら血も止まった。ただ、傷は塞がっても、失った血液は戻らないようで、動くとふらついたけど、周りが戦ってるのに一人倒れて居る訳にもいかないと思い、止めるマルコを振り切って自分の部屋に行って、魔法の本を手に取ると襲い掛かってくる奴にぶつけ捲った。
 化け物は壁を通り抜けてくるような半透明の大鎌を持った変な奴もいるし、硝子部屋で襲いかかってきた棘の付いた変則な動きで襲い掛かって来る玉が窓をぶち破って入って来る。そこから、また蝙蝠が入って来て、俺達を見つけると人の形になって、牙を剥く。外にも化け物が群がっているようで、ライナーやベルトルトか、銃や、砲弾を撃つ音が物凄い勢いで響いていた。
 エレンが化け物を剣で叩き切っている姿が見えて、後れを取って堪るか。って気合いが入ってたと言うか、エレンには負けたくない。って意地だけで立ってた気もする。俺を追いかけてきたマルコにも大分助けられた。

 すると、やたらとデカい、きっとベルトルトよりも大きい、頭の長い継ぎ接ぎだらけの化け物が壁をぶち壊しやがったお陰で、壁に阻まれて、中に入れず襲ってこれなかった化け物まで雪崩れ込んで来た。
 人間の体なのに、四つん這いで走り回って、口から涎を垂らして唸り上げる化け物が素早くて厄介だった。ミカサがそいつを思い切り殴り飛ばして、アニが上段蹴りで吹っ飛ばしたら動けなくなってたけど。すげー格好良かった。
 次々に襲い掛かって来る化け物共をゆっくり観察する余裕はなかったけど、へどろを纏って悪臭をまき散らす化け物や、仮面を被って武器を振り回す化け物も居たかな?どれくらい戦い続けてたもんか、もうみんなボロボロで、薬や、補助してくれる道具も尽きて来て、それでも死にたくなくて必死だった。
 化け物に吹き飛ばされて、空の真上に雲で霞がかった太陽が見えた。多分、太陽だったと思う。金色の輪っかのようなものが見えて、ふ、と一瞬で世界が真っ暗になった。何も見えない。
 手を動かしても地面を引っ掻く感触もしない、家の明かりすら見えないんだ。これは、死んだか、あるいは目が駄目になったのかって、やたら頭は冷えていた。

 痛みもない、静かで何も聞こえない。
 死ぬ。ってこういう感じがするのかなと考えていたと思う。

 それから、どう表現したらいいのか、今度は眼が潰れそうなくらい眩しくて、とても眼を開けるなんて出来なかった。腕で眼を庇い、やっと光が落ち着いてきて、眩しい。誰かが喋る声が聞こえた。
 眼を開けてみれば、見慣れた光景が広がっていて、何度も眼を瞬かせた。

 地面に倒れていたはずの俺は、普通に立っていて、目の前には背の高い樹木が鬱蒼と生えており、樹木には自然についたものでない傷が沢山ついている。腰にある、懐かしいとも思える重み。触れば金属の冷たく硬い感触がした。
 周囲をぐるりと見渡せば、強い日差しに、抜けるような青空、それに照らされて、口々に何をかを喋る大勢の同期達。

 隣に居たマルコが、大丈夫かと訊いてきた。
 あまりにも俺が呆然としていたから。

 夢だったのかな。
 あの変な世界は。

 あの空に穴が開いたような瞬間は何だったんだろう。
 その日の立体機動装置の訓練はあまり上手くいかなかった。と、言っても悪くもなかったんだけど。どうにも上手く調整が出来なくて困った。物凄い勢いで地上を駆けたり、高く跳んだり、空へ向かって飛んで勢い良く滑空したり。あの感覚がまだ残っているような気がして、体重移動や、グリップを上手く操れなかった。
 ライナーが調子悪かったな。そう言って背中を叩いてきたから見上げていたら、一緒に駆けて楽しかった夜の事が頭に浮かんで寂しくなった。俺だけなのかな、覚えてるの。
 顔に出てたのかライナーが不思議そうな表情で心配して来た。何でもないとだけ言って宿舎へと戻り、井戸水で汗を流してから食堂へ行けば、同期からお前、今日当番だろうがと怒られてしまった。

 慌ててエプロンを着けて、調理場に行く。
 少ない食材と、調味料。手早く、出来るだけ工夫しながら作ると、何とか間に合って、それ以上は怒られずに済んだ。
 どうにも今日は駄目だ、食事もそこそこにさっさと寝て、感覚を取り戻さなければ。疲れ交じりの息を吐き、自分が作ったスープを食べて、味が薄いなぁ。と感じてしまう。それでも、こんなものかな。と思う程度には出来ていた。
 どうも、俺が作ったスープがいの一番に空になったらしく、サシャが、空になった鍋を引っ掻き回して最後の一滴まで飲もうとしていた。

 いつも通りの光景だ。
 ライナーは何かにつけて頼られて、ベルトルト主張せずライナーの後ろにばかり居るし、ミカサはエレンの世話を焼いて、エレンがそれを鬱陶しがる。
 それをアルミンが宥めたり、あるいは俺が苛ついてそれに突っかかる。今日はしないけど。

 アニはミーナの話を良く見ないと判らない程度に笑って聞いている。
 コニーはサシャに絡まれて、食事を横取りされそうになって一々喚いて、クリスタが自分の分をやろうとして、ユミルがそれを止めて叱る。
 マルコは、いつも通り俺の横に居て、それでも他の奴から話し掛けられて穏やかな表情で挨拶をしたり、軽口に返事をしたりしている。

 いつも通りだ。

 食事を終えて、マルコに先に戻ると伝えて宿舎に戻った。
 中庭から空を眺めれば星が瞬いていて、月が壁の向こう側から登ってきている。
 絶対に逃げられない籠の中。あぁ、そうだ、何で忘れてたんだろうか、未来になんの希望もないこの世界が、俺の世界だったじゃないかと思い出した。

 馬鹿な夢を見た。
 都合のいい夢だ。

 行こうと思えば、どんな場所にも行けて、誰かを蹴落とすような競争をしなくても良くて、危険がない訳じゃないけど、対抗出来る手段は幾らでもあって、なんでも作ったりしなきゃいけないから大変だけど、それでも皆で笑って居られて、ずっと続けば。もしもこのまま居られるなら。と何度も考えたけど、夢は夢か。
 ぼーっと中庭で空ばかり眺めてたらエレンが通りかかって、泣きそうな顔をしてると教えられた。気持ち悪いは余計だ馬鹿野郎。と思ったが。喧嘩になる前にアルミンがエレンを引っ張って行ってしまったから特に何もなかったけど。
 ライナーやマルコ達は、相変わらず他の奴に捕まってるんだろう。

 宿舎に戻って、これを書いているけど、皆が寝静まったらこっそり食堂の竈で燃やすつもりだ。このノートの一頁を誰かに見られたら、頭可笑しいとしか思われないだろうしな。
 出来たら、あの夢の中で書いていた日記も燃やしてしまいたいものだが……。あるのかな?

   〇◇△▽◇〇


 火種を紙に近づければ、ゆっくりと紙が灰に変わっていく。
 これで、あの世界の記憶は俺の頭の中だけ。
 少しずつ忘れて行くんだろうな。

 まぁ、一緒に居た奴が何も覚えていないのなら、あの日食だっけ、真っ黒な太陽が見せた少し長い夢だったんだろう。あの丸い金環の中から、神だか何かが覗いていて、ちょいと悪戯でもしたのかも知れない。
 だとしたら嫌な奴。大っ嫌いだ。
 俺は現実主義者なんだ。
 壊れるような夢なら見せるな。

 目頭がじわりと熱くなって、ちりちり紙が燃え尽きる音を聞きながら膝を顔を埋めていた。
「ジャン?どうしたんだ、こんな夜中に……」
 顔を上げればマルコが居て、夜中にこっそり紙なんか燃やしてる俺を見て訝しんでいた。
「何でもない。直ぐ帰るから戻ってもいいぞ」
 マルコに見られないように顔を背けながら指で目元を拭いて、教官に見つからない内に宿舎に帰るように促すが、動こうとしない。それどころか、俺の傍に片膝をついて肩を抱いてきた。
「お前が辛そうにしてると僕も辛いよ。何があったんだ?」
 慰めるように背中を撫でる手が少しくすぐったいが、マルコの気持ちは嬉しくない訳じゃない。でも、言った所でな。
「んー、変な夢見て落ち込んでるだけ。夢が結構楽しかったからさ、どうもこっちと比較しちまってな」
「夢?へぇ……」
 俺の言葉を聞いた後に、マルコが考える素振りを見せて、たっぷり間が空いた後、一つ頷いて、あのさ。と切り出した。
「僕も、不思議な夢を見たんだよね。ここじゃないどこかの世界。って言ったらいいのかな?途切れ途切れにしか覚えてないんだけどね、良かったら聞いてくれないか?それで、ジャン、お前が見た夢も教えてくれよ、そんなに落ち込むくらい楽しかったんだろう?良ければ……、だけど」
 マルコの言葉を聞いて、弾かれたように俯かせていた顔を上げた。
「でも、たかが夢だぜ?荒唐無稽で、しょうもねぇ自己満足の世界だ、優等生様が聞いても楽しいと思えるもんかね?」
 口から吐いて出る厭味ったらしい自己防衛の塊の科白。変に思われたら怖い、先に牽制する事で自分を護る卑怯な手。大抵は開き直って気にしないようにしているが、自分でも時々、嫌になる。
「夢なんて大抵、可笑しなもんさ、自分の周りに居る人達を使って、自分にとって都合のいい世界を作る。簡単に夢が叶ったり、楽に欲しい物が手に入ったりさ、それが面白いんじゃないか」
 マルコには珍しく、意地悪そうににや、と笑って見せて肩を竦めておどけて見せる。
 それに毒気を抜かれてしまって、思わず笑いが漏れた。マルコも慣れない事をして気恥ずかしかったのか照れ臭そうに笑っていた。声を落としてくすくす笑い合って、それなら。と約束をした。
 俺と同じものかも知れないし、全く別のものかも知れない。
 それでも、気が紛れて少し楽しみが出来た。
 全くこの優等生様には敵わない。

 火の始末をしてから自室に戻り、マルコと明日の約束をしてから横になった。
 カーテンすらない窓は開いていて、さらさらと風が入り込んで心地良い。幾ら考えた所で嫌でも明日は来るし、無い物ねだりをしても手に入る訳でもない。
 どうも、ぬるま湯に浸かり過ぎて頭が呆けてたのかね。やる事やって、訓練で点数稼いで、憲兵目指して、どうにかこうにかやってくしかないよな。

 明日、何から話してやろう。
 眼を閉じて、あの世界を思い返しながら眠りに着く事にした。
 こちらが夢だったら良かったのに。とは少し思ってしまったけれど。

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