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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

ジャンのテラリア日記21~30日目

ジャンのテラリア日記21~30日目






・二十一日目
 道具が集まってきたので確認も兼ねて、ついでに集めていた箱を使って整理整頓する事にした。
 適当に何でもかんでも突っ込みまくってるから、物凄くめんどくさい。一旦出して、これはあっち、あれはこっち、うろうろするだけでも時間を食う。中には、使用頻度が低過ぎて、こんなのあったっけ?なんてなる物もあった。そう言った物の中には、他の奴らが拾って入れておいた道具も入ってるんだろうけど。

 草原の大地の洞窟で見つけた、中でもやもやした物が詰まっている瓶。
 砂原の大地の建造物で見つけた、中で砂が渦巻いている瓶。
 雪原の大地の洞窟で見つけた、中で雪が降り続けている瓶。

 どうやって積めてんだ、これ。
 もし、開けたらどうなるんだろう?
 中身が消えてなくなっちまうのかな?

 これを持ってると、身体がふわっと浮いて高い所に届くようになるから便利だし、面白いんだけど、三個も持って歩くのは嵩張るから、雪の奴を主に使っている。ロケットブーツの機能とは別に飛べるから、落ちそうになった時に非常に助かっている。
 他にダンジョンで見つけた、刀身が長いのに凄く軽くて使い易い剣。何本か見つけたからライナーとコニーにもやった。ミカサは、鉤爪がついた手袋を使ってて、剣は今の所要らないらしい。
 途中からマルコが整理を手伝ってくれたから、かなり捗って助かった。

 整理がそろそろ終わるかな。って頃に、良く使う物と、使わない物に分けて、一旦、机に広げておいた瓶をミカサが興味深そうに眺めていた。暫く自分が持っていた本で何かを確認していたかと思ったら、この三種類の瓶の効果を纏められると言う。ただ、それにはもう一つ別の物が必要らしい。

 ミカサが指差している部分を見てみたが、見た事がない道具だ。
 滴型の球体に紐が括り付けられている。風船ってんなんだ?風の船?これはどこにあるんだろうか?コニーも、ライナーも見た事がないそうだし。すると、マルコが書庫に引っ込んだ。
 分厚い本を持って来て、俺の前に広げて説明をしてくれた。前に見た、真紅の大地とか、そう言った情報が書いてある本だ。
 その本によると、空に浮かんだ島のような大地があるらしい。大地。と、言うほど広くはないようだけど、かなり高い位置にある上に、雲と似たような見た目の石で出ているようで、肉眼で見た所で判別は難しいと書いてある。

 【浮遊島の見つけ方】
・重力を反転させるポーションを飲んで、空へと落ちる。
 これ、かなり上手くやらないと死ぬんじゃないだろうか。空に落ちるって語感からして怖いぞ。
・銃で反射弾を作って一回一回、空へ向かって撃ち、跳ね返ってくれば、そこに浮遊島がある。
 自分に弾が跳ね返ってきたら怖いんだけど。
・上記と同じく、反射効果のある魔法を空へ向かって撃ち、反射を確認する。
 これが良く解らない。魔法ってなんだ?何かの道具の名称か?一つ一つ聞きながら頭の中で却下していったが、解らないものはどうしたらいいのか。
 魔法ってなんだ?ってマルコに聞いても、良く解らないとの返事だ。コニーに、そう言う道具の流通はあるのか訊いても、知らん。としか言わねぇ。ミカサも不思議な効果を持つ装飾品は数多くあれど、魔法は知らないそうだ。解らないものは調べるしかない。って事で、今日は本の虫だった。

・二十二日目
 取り敢えず調べた結果、精神力?を消費して敵に攻撃する武器らしい。
 本にダンジョンで見つけた宝石の付いた杖と、同じ絵が描かれてた物があって、試しに外に出て適当に振ってみたら宝石の部分から水が凄い勢いで噴出して、近くにいた丸い奴とか、木を薙ぎ倒していって驚いた。高そうに見える杖だから、思いっ切り換金するつもりだった……。

 そして使った後は、疲労感がある。これは慣れるもんなんだろうか?精神力を消費って、使い過ぎたら発狂するとかねぇよな……?コニーが馬鹿みてぇに振り回して遊んでたから、それはねぇのかな?多分。精神が強ければ魔法とやらも強くなる、あるいは使える時間が長くなる。そう言う考え方でいいんだろうか?でも、精神とかどうやって鍛えればいいんだ?
 俺が悩んでいると、ミカサがダンジョンの本棚から見つけたらしい本を俺に渡してきた。見た事のない言語で書かれていて、もしかしたら、貴重な品なのでは?と、思って鞄に入れて置いたそうだ。読めるかどうかは置いといて、一応ながら開いてみる。すると、不思議なもんで俺にはすらすら読めた。他の奴は、全く書いてある文字が読めないらしい。

 俺だってその本の言語は見た事も、聞いた事もない。
 皆が何故、読めないのか、何故、俺だけ読めるのかさっぱりだ。まぁ、考えてもしょうがないから、読み上げてみる事にした。すると、水の矢のようなものが次々に本の周りに、浮かんでは発射されて、俺の向いている方に向かって飛んでいく。水の矢は、障害物にぶつかると、何度か反射して消えてしまう。

 木や障害物に突き刺さる事はなく、光の屈折のように、反射する特性があるようだ。試しに撃てるだけ撃っていると、幾つかの水の矢は俺に向かって戻ってきた。反射した水の矢は、思っていたより弾速が早い上に量が多く、後ろには見物してた皆が居るし、左右も逃げ場がなかった。
 動けなくなって避け切れず、当たる。そう思った瞬間、後ろに体を引かれて、ライナーが庇うように目の前に飛び出してきた。幸い、ライナーに当たる前に水の矢は蒸発したように消えたけれど。自分の身体を確認しながら、敵対関係じゃなきゃ当たらないのかもな。なんて言って笑っていた。馬鹿じゃねぇの。
 万が一、水の矢が消えなかったら、俺のせいで怪我してた。あいつの事だから、きっと大丈夫。って同じように笑うんだろうけどさ、他人ばっか大事にして、自分をないがしろにするのも、大概にしろっての。全く、俺の周りは馬鹿ばっかりだ。本当に馬鹿ばっかりで嫌になる。

 因みに、マルコが後で言っていたが、俺が読み上げた言葉も全く解らなかったらしい。勉強に関してはマルコの方が上だから、頭の出来とかは関係ないようだ。

・二十二日目
 今日は西側の砂の大地の更に向こう側に行くべく、真紅の大地を特急で抜けるための装備と、同じ轍を踏まないよう、日光を遮るために、全身を覆える大きさの厚手の布もきちんと準備した。

 浮遊島、は、後回しだ。
 探索も目的だったが、あの本や、杖の性能を先に知りたかったんだ。そのためには、化け物が居る所に行かないとな。あぁ、杖の先から水が出る杖は、硝子部屋にある、香草を栽培している箱の水撒きに使えるか?ってちょっと思ったが、威力が高過ぎて、十中八九、箱ごとぼろぼろにしてしまいそうだから止める。

 結果を書くと、砂の大地の先は蔦や、わさわさした感じの草で生い茂った森……、と言うか、湿地帯って言うのかな?あちこち泥でぬかるんで、足首まで沈んだ所もあって焦った。

 いつだったか、兵站歩行の訓練で、泥沼に入り込んでしまった際の説明をされた事を思い出した。
 粘り気のある泥が膝まで達すれば、抜け出す事は容易ではない。それでも足が付けば何とかなるが、自分の身長より深く、腰まで沈んでしまえば終わりだと。
 小さい穴なら、縁を掴んでまだ助かるかも知れないが、大抵は大きな泥の池で、もがいても、泥を掻き分けても思うように進めず、体はどんどん沈んで、沈んでしまえば泥を飲み込んで窒息して死ぬ。足首まで沈むような所は、その時点で立体機動装置を活用して脱出しろ。そう教えられたけど、実際、そうなると自分では焦って、頭では解っていてもアンカーを上手く射出出来ない恐慌状態に陥り、冷静な判断が出来なくなり、無様に悲鳴を上げてもがき、もがくせいで更に沈む悪循環を作り出す。いつだったか隊列から外れた奴がそんな状態になっていた。
 あの時は、教官が近くに居たから助けて貰えてたけど……。一人でそんな状況に陥れば死ぬだけだ。

 あの湿地帯へ行く際は、ミカサに貰った立体機動装置に似た道具。フックショット。と、言うらしい。それ直ぐに使える状態にしておく必要があるから腕につけておいた。立体機動装置の扱いなら、ミカサにだって負けない自信はある。俺なら大丈夫だ。きっと大丈夫。
 あそこにゃ、他の奴は連れて行けねぇな。俺がどうにかなるのは兎も角、巻き込んだりしたら最悪だ。それに、沈んだ奴を助けられる自信がない。

 沼地の事は置いといて、魔法に関しては、敵や地形で使い分けると良いようだ。
 水撒き機みたいな奴は、やや放物線を描いて、杖を突きだした方向に水を飛ばす。固まった沢山の敵や、でかい奴に有効だ。しかし、狭い場所や障害物が多い場所では水が遮られて、上手く当てられない。広く、開けた地上で使うのが望ましい。
 逆に、水の矢は開けた場所では、その真価を発揮出来ない。矢の一つ一つは威力が弱いようで、多少当たった所で大抵の敵はびくともしない。だが、狭い洞窟内や、障害物のある場所であれば、水の矢は壁や障害物に当たると反射して縦横無尽に飛び回り、周囲に居る敵にぶつかっていく。水の矢は、かなり遠くまで届くため、飛んでいようが、地面に這いつくばっていようが乱反射する水の矢を避ける事は難しいようだ。
 故に、こちらは狭い場所か、上下に遮蔽物がある場所こそ有用だ。地下探索向きだな。

 あー、疲れた。何にもする気力が湧かない。
 戻ってからぼんやり座っていると、今日はライナーやマルコが飯作るから休んでろって言ってくれた。折角の申し出だし甘えさせて貰おう。

 少し寝て

・二十三日目
 少し寝て……、から何書こうとしてたんだろうか、俺は。
 全然、思い出せない。日記を開いたまま寝てた辺り、結局、起こしても起きなかったとみえる。

 早く寝過ぎたせいで、目が覚めたのは外がまだ暗い時間。暖炉部屋に行くと、俺の分の食事が埃避けに布がかけられて残っていた。夕飯が朝飯になっちまったな。トマトソースのかかった冷えたオムレツや、野菜と燻製肉が挟まったパン。美味しかったけど、作りたてだったら、もっと美味かったんだろうな。
 朝飯作るにも早すぎるし、昨日の荷物の整理でもしてよう。

 【日記追記】
 飯食って作業してたら思い出した。
 湿地帯の洞窟で、面白い物を見つけたんだ。
 皆まだ寝てるから、マルコが使っている資料室に音を立てないように入って、竈だとか、作業台、機械各種の事が書かれた本で調べてみた。昨日、拾ってきた機械は抽出器と言うらしい。
 砂と雪、砂と泥が混じってたようなどろどろのものを入れると、そこから、鉱石、宝石各種を泥と分けてくれるみたいだ。普通の泥や砂や土は入れたら駄目みたいだ。試したら詰まって大変な事になったし。

 早速、設置して、使ってみる事にした。
 音が煩いといけないから、家から少し離れて森の中でやった。明け方だから、動く腐った死体共も居ないしな。

 べとべとの泥や雪を入れると、がしゃがしゃ音をさせながら、どんどん鉱石や宝石、泥水と分かれていく。見てるだけで楽しい。出てきた泥水は元がかなり細かい砂が混じった泥のようだから、さらさらしてて水捌けがいいみたいだ。香草栽培してる箱の土の下に敷けば根腐れ防止に良いかもな。ちょっと作り直そう。あ、畑も良いかも。コニーに作物の苗頼んどこう。

 一応、取っておいたんだけど、どろどろしてるし、何に使いようもなくて放っていたんだが、こんな使い道もあるんだな。抽出された鉱石と宝石を鞄に詰めて、機嫌良く帰ると、マルコが起きてた。そしたら、朝っぱらから何でそんなに汚れてるんだ。と家から放り出された。酷い。とは言え確かに、良く見たら服に泥が飛んでて結構な有様だったんだけどさ。

 水浴びして戻ったらライナーとクリスタが仲良く飯作ってた。ちょっと驚いたんだが、クリスタは、裁縫は出来るのに、何故、料理はあんなに手際が悪いんだろうか。小麦粉を零したり、水差しをひっくり返したり、卵落として潰したり、無事だった奴も拾おうとして、何故か爪先で蹴って結局割った。何と言うか、初めてババアの手伝いをした時を思い出す。マルコとの時もあんな感じだったんだろうか。

 台所から良い匂いがしてきて、朝食が食卓に並ぶ頃にはライナーは少し疲れた顔をしてて、クリスタは恥ずかしそうに俯いていた。ちらっと台所を覗いたが、綺麗に片付いてたから、ライナーが頑張ったんだろう。時間がかかった訳だ。でも、ライナーも美味いって笑ってるし、いいのかな。
 やる気があるのはいい事だと思うぞ。……変に言って拗れるのは嫌だったから黙ってたけどな。俺だって空気くらい読むんだ。

 因みに、出て来たのは鍋で簡単に作れる柔らかいパンケーキだ。
 ちょっと焦げたりもしてたが、甘くて美味しかった。

 今日は家の改築、増築、硝子部屋の改造。
 時間があったら畑を作る。南瓜植える。南瓜パイ食いたい。って、思ってたんだが、昼過ぎにエレンが来た。ミカサが凄い勢いで飛び付いて、エレンが頭を打って気絶した。エレンを心配して、しくしく泣いてるミカサが放っておけなくて看病手伝っちまった。俺って損な役回りって言うか、あんな奴ほっときゃいい、って頭では解ってるけど。

 あーあ……、別に悔しくねぇ。
 ずっとミカサがエレンの手を握ってたのなんか羨ましくない。嘘、羨ましい。

 夕方くらいにはエレンも回復してた。
 ミカサと会えて嬉しそうだったし、相変わらず言い方ひでぇけど。見たくねぇし、折角の再開に喧嘩して水差すのも嫌だったから硝子部屋を弄ってた。マルコが来てくれたから、結構気が紛れたけど。西日が落ち着くと、夜空が広がって、月や星がきらきらしてて綺麗だった。やっぱり、硝子の屋上作って良かったと思う。

 空をぼーっと眺めてたら、マルコが紫の玉を渡してきた。
 何か解んなくて触って、表面を撫でてみたら、ふわっと紫の光が浮かんだ。驚いてると少し探索に行った時に真紅の大地と対になっている不浄の大地を見つけて、そこにあった玉を壊した時に出てきたんだと。怖かったよー。とか暢気に笑ってる。思わず声を荒げてしまった。
 俺自身、どんな風になるか体験したばかりだ。ちょっとしか居なかったから大丈夫。なんて言ってたけど、マルコは夢中になると時間を忘れて没頭する癖があるから信用出来ない。
 ぱっと見は可笑しい様子や、変化はなかったけれど、不安だったから、顔を触ったり、服捲って体を触ったりして確かめた。
何か色々言ってたけど、無視してた。揉み合ってる内に、夕飯だと呼びに来たライナーが、そう言う事は皆が寝静まった後にやれとか言われた。マルコが無事か確認してるんだよ。って返したら変な顔して溜息吐いて引っ込みやがった。
 マルコには慎みを覚えろとか説教されるし、何だよ、心配しただけだろ。それより、何で探索で走り回ってる俺より、まだマルコの方ががっちりしてんだよ。納得いかねぇ。

 夕飯はミカサ特製で、本当に美味くて食いまくった。
 あれか、エレンへの愛情たっぷりって奴?
 悔しくない。

・二十四日目
 ライナーが朝飯の時に、そう言えば。と、話題を切り出してきた。
 数日前に森の奥で物凄い音がして見に行ったら地面が抉れて焼けていたそうだ。焼けた石がじゅうじゅう音を立てて、近づけそうに無かったから、取り敢えず放置したそうで、そのまま他の事をしていたら忘れていたみたいだ。家の中でやりたい作業を終わらせてから確認に行く事にした。果物を採りに森の奥へ行くついでに様子見だ。
 ライナーに案内して貰いながら、しっかり荷物持ちもして貰った。調子に乗って、採り捲ってたら、どんだけ採るつもりだって少し怒った。種類が多いから鞄にも入り切らなくなってライナーが両手で抱える羽目になってしまったからだ。
 ジャムにする以外にも、焼いたり、乾燥させた果物も結構美味いんだよ。出来たら真っ先に食わせてやるからって言ったら、それなら。って機嫌直った。俺が言うのもなんだけど、単純なやっちゃな。

 昼過ぎに出て、果物採りばっかりしてたせいで、少し暗くなってきた頃に件の場所に着いた。
 昼間はそこまで恩恵はないが、マルコがくれた紫の玉。そっから出てくる紫のふわふわ浮く奴は、ぼんやりとしてるが光源になる。動いても、勝手に着いて来るから中々便利だ。

 ライナーの言う通り、地面が焼けて抉れていた。まだ熱を持っているようで、近づくと熱く、鉱石自体が光っているようで、周囲は明るかった。つるはしで叩いてみたら取れたけど、何に使えるんだろう?使えるものは使いたいから持って帰った。何日も前に落ちても、まだ熱が冷めてないって事は特殊な鉱石なんだろうか?
 もし、ずっと発熱をしているのなら、鉱石の状態でも熱源として何かに使えるよな。念願の風呂が出来るかも?一々焚いたり、燃料が要らないのは便利だ。窯でじっくり温めたい料理とか、保温とか、考えると結構出てくるな。

 あ、そうだ、石集めはそこまで問題なかったんだが、あの障害物も貫通してくる、でかい目玉みたいに、土の中や、木を素通りしながら、燃えている石の塊みたいなのが襲い掛かってきた。動きはそう早くはないんだが、何せ数が多い。四方八方からわらわら湧きやがる。
 ライナーが愛用のショットガンをぶっ放して壁になってくれていたから鉱石採取も出来たけど、一人だったら、ちっと難儀だったなこれは。

 礼に、他の奴には内緒な?つって、肉包みのパイと、果物を摩り下ろして半分凍らせたのを夜食に持って行ってやった。

・二十五日目
 昨日はあんまり話が出来なかったが、エレンが面白い物を持ってきていた。
 特に役に立ちそうだったのは、弾薬庫だな。ライナーに渡しといた。小さい見た目に反して相当な弾薬を入れられるようで、数千発は余裕で入れられる。ちょっとやそっとじゃ弾薬不足にはならないだろう。なんつーもんだよ。久しぶりに感じたが、本当にこの世界は感覚が狂っちまう。後は、なんか水鉄砲をコニーにやってたな。

 それと釣竿をおまけ、ってくれた。適当に木の枝で作った奴で偶に釣りしてたけど、あんまり釣果が無くて、そう言うのはマルコとかコニーに任せっ切りだったんだよな。折角だし、丈夫そうだし貰っといた。
 でも、何もしないでぼーっと水眺めてるのって、俺、苦手なんだよな。のんびり考え事が出来るから、ってマルコは結構好きみたいだし、やっとこう。

 朝飯食ったら、エレンはまたなー、って行っちまった。ミカサ置いてったし。どう説得されたのか、寂しそうにしながらも送り出してた。
 湿地帯で綺麗な青い花が咲いてたから、花瓶に入れてミカサの部屋に飾っておいた。女の慰め方とか判んねぇわ。

 ライナーと一緒に拾ってきた鉱石は、宝石と合成すると面白い剣が出来るらしい。
 お前は緑が好きだろ?ってマルコに緑の宝石を渡されて作ってみた。すると刀身が緑に発光する凄く綺麗な剣が出来た。
 振ってみるとヴぉんヴぉん変な音がする。確かにこれは面白い。それをコニーが見てて俺も俺も!なんて言うから、箱から好きな色の宝石を持ってこさせて作ってやった。コニーは黄色い宝石を持って来たから、刀身は黄色に発光している。

 暫くコニーとそれを使って喧嘩ごっこみたいな事をしてたらライナーやマルコが面白そうに見てて、恥ずかしくなって止めた。はしゃぎ過ぎた。
 コニーはまだやりたそうだったけど、俺が嫌だったから強制終了だ。ライナーにも作るか訊いてみたんだが、少し貸して使った後に、俺には合わないみたいだ。ってさ。この辺は好みもあるよな。

 マルコはダンジョンで拾った剣も、光る剣も要らないみたいだ。プラチナと言う鉱石で作った短剣を持っている。マルコは探索はあまりしないから、これで十分だそうだ。ミカサも今の所必要ないみたいだから、前の武器は箱に入れておこう。何かに使えるかも。って思うんだけど、結構こう言うのって仕舞い込んだまま忘れて使わないんだよな……。解ってはいるんだが。

 その後は、あの熱い鉱石で色々実験だな。
 多分、他にも色々作れるんだろうけど、先に試したい事が多い。水に投げ込んだら、目論見通り、水が温かくなってきた。
 理想はお湯と、水の水源から風呂に流れるように出来たらいいんだろうけど。泉の水は、滝になってる所から流れてくる水と、潜った時に地下から水が湧き出してるのは確認してるから、無限ではないにしろ、水量は心配してない。問題はどうやって水を引くかと、排水をどうするか。なんだよな。ずっと同じ水を溜めとくとか正気の沙汰じゃねぇし。

 一先ず、少しだけ泉の水辺の地形を弄って、水浴び用の小屋の中に流れる水源の中に埋め込むように一個置いといた、水が仄かに温くなって悪くはない。他の奴も結構喜んでたみたいだ。
 入れっ放しにしといたら湖全部がお湯になって煮えたりしないよな……?それに、やっぱり家の中に欲しいよな。夜出歩きたくないし。

・二十六日目
 ユミルが大荷物を抱えて帰ってきた。
 クリスタが泣いて喜んで、無事で元気な姿に満面の笑みを零していた。腹減ってたみたいだから、飯作ったら、作った端から食っていきやがる。どんだけ餓えてたんだこいつは。あの細っこい体に良く入るよ。んで、落ち着いたら当然、大荷物の中身が気になってくる。食器を片づけた机の上に広げられたのは工具の数々。
 歯車や、ネジ等の見慣れた物、用途が解らない、大小の部品なんかもごろごろしていた。

 訊けば、機械技師で溢れる工業の町で手に入れたらしい。ミカサにあれこれ訊いてたのは、その事だったようだ。
 回路を組んで機械を動かす装置や、全く関係ないような物でも、何でもないように見えて、回路で機動させれば思いがけない恩恵を得られる装置もあるようだ。時計を使って一定の間隔で、起動したり、電源を落としたりを繰り返す装置なども結構使えそうだ。

 ユミルが仕入れてきた知識と大量の本。
 機械の難しさもさる事ながら、一朝一夕ではとても理解出来そうにない。ユミルが、お前無駄に器用だから、参考になるもんさえあれば色々作れるんじゃねぇ?と、来たもんだ。手先は確かに不器用ではないにしろ、慣れない物をぽんぽん作れて堪るか。面白そうだからやってはみるけどよ。

 目を引いたのが液体の吸い上げ、排出が出来るポンプ。
 家の中に水が引けるんじゃねぇかこれ?一々汲みに行かなくて済む。ってのもあるが……、よし、やるか。どんどん浮遊島が後回し後回しになるなー。

・二十七日目
 給水・排水ポンプ、取り敢えず必要な物は一揃い作った。
 夜遅くまで解説書を見ながら、細かい作業していて疲れたのか、起きた頃には太陽がすっかり昇ってしまっていた。焦って部屋を飛び出したら、朝ご飯はマルコや他の連中が作ってくれたらしく、ゆっくりする事が出来た。人が増えて大変だとは思ったが、人数居ればこう言う利点もあるか。

 朝食を食べていたら、またふらっとエレンが色々な道具を持って帰って来て皆が騒いでいた。今回は案外早い帰還だ。誰かに頼まれて品物の買い付けにでも行っていたんだろうか。
 気になって覗きに行こうとしたら、マルコから食事中に席を立つなと窘められた。結局、皆が何見てたのか分んなかった。

 皆はどこかに行ってしまったし、食事を済ませて片づけると暇になった。
 ぽつんと独りで居ても暇だし、ポンプの動作確認のために湖まで行って、回路を組み合わせ、スイッチを点けたら上手く、水源から水を汲み上げられた。ずっと見ていたら日差しも暖かくて気持ち良くて眠くなってきた。
 靴を脱いで湖に足を浸けていると、肌に触れる水の流れも気持ちいい。ポンプに凭れて水を触ったりしていたら、いつの間にか寝ていたらしく、気付けば昼過ぎ。

 戻って来たマルコから起こされて、疲れてるのかと心配された。毎日ちゃんと休んでるし、そう疲れてる気はしなかったけど、マルコが言うんだし、思ったより疲れてるのかも?
 誰だって居眠りする時くらいあると思うけど、まぁ、心配させたくないから今日は家事任せてゆっくりしていた。ユミルが持ってきた本を借りて、ベッドに寝ころびながら読んでいたら、外が騒がしい。どうも皆で何か作業しているらしいから見に行ったらマルコから追い返された。

 外から何かを作ってる音と、楽しそうな声が聞こえる。

 ……寝よ。

 【日記追記】
 日が完全に落ちた頃に叩き起こされて、寝ぼけ眼でマルコに手を引かれながら付いていくと、家が建て増しされて風呂が完成してた。台所も給水ポンプが設置されていた。皆でやってたのはこれだったらしい。通りで音が煩かった。
 お風呂はお湯と水が出っぱなしで、浴槽から偶に溢れて床を濡らしていた。水がもったいないんじゃないか?と、指摘するとマルコがいいから。って言った。水を止めるスイッチの場所を教えて貰ったりしながら、感心して風呂を見ていると、コニーが見せたいものがある。と、としきりに言うので、面倒だったが、屋上の硝子部屋まで連れられるままについて行く。

 屋上についても早く早くと急かされて、手を引かれて硝子部屋から外に行けば、暖炉の煙突の隣に見慣れない物が二つほど増築されていた。煉瓦造りの小さめの塔のような感じだ。一つは煙のようなものが常時噴き出ていて、何となく周辺が湿っていて温かかった。
 新しい建造物は地上から続いていて、高さは十三~五メートルくらいか?幅は俺が手を広げた大きさのより小さめだから一・五メートルくらい?良く作ったなこんなもん。俺はただただ感心していた。

 やや小ぶりの煉瓦の塔に見えたそれは、お湯と水の貯水槽で、煉瓦で作られた水槽の中に、例の発熱する鉱石、メテオストーンと言うらしい。それを中に敷き詰めて、水をお湯に変え、風呂に供給をしているそうだ。これなら湖の水が煮えるかも。なんて心配はいらないな。考えたもんだ。

 貯水槽が出来たのは解かった。しかし、大きさ的に、かけ流しにするほどの水量があるとは思えず、回路を繋いで滝の上流から水を取ってるのか?そう訊くと、コニーが得意げに胸を反らして、「もっといいもんがあんだよ」と、言う。
 ライナーや、マルコに目配せをして、二人が頷けば、コニーに背中を押されて煙が出ていない方の煉瓦の貯水槽に上り、重い石の蓋をずらすと、何やらモコモコしたものが入っていた。
 コニーが鞄の中から同じ物を出して触らせてくれたんだが、もこもことした塊から水がどんどん流れてくる。慌てて鞄の中に突っ込むと水は止まった。びっくりした。

 これから水が無限に供給されて補充の必要はないそうだ。
 お湯の貯水槽も同様で、水の槽と全く同じ原理で補充出来るらしい。

 何だこの便利な物。どこで見つけて来たんだこんなの。と、訊いたら、『浮遊島』と、あっけらかんと言いやがった。
 いつの間に。因みに、水が出てくる塊は雨雲と言うそうだ。雨雲って回収出来たんだ。なんて変な事考えた。いや、普通無理だよな。

 やっぱこの世界、変だ。
 当たり前に鞄の中に突っ込んだけど、良く考えたら濡れたものを鞄に入れるって思考が先ず可笑しいよな。ま、いっか。こっちではそうなんだし。そう頭を切り替えて、暖炉部屋に戻った後に詳しく訊いてみれば、ライナーやマルコが中心になって探索を進めてたとかで、雲にかかるほどの巨大樹を中心にして足場を組み立てて向かったそうだ。
 フックショットも、俺が集めた素材とエレンが持ってきた物を組み合わせて、自分に合いそうな奴を自分達で作ったんだとか。

 一言でもいいから言えよって話だが、
「言ったら心配するだろ?止めて独りで何とかしようとするだろ?」
 マルコからこんな事を言われた。否定したかったが言葉が詰まって出てこなかった。
「みんな無事だし、お風呂も出来たんだからいいじゃないか。しょっちゅう風呂欲しい。温かいお湯に浸かりたい。ってぶつぶつ言ってたから、何とかしてやりたくてさ」
 との事だ。必要な浴槽や貯水槽だけは少し前から作ってあったんだとか。鏡で帰ってきたら、即、部屋の中だから増設に気付かなかった……。ユミルが戻ってきてから直ぐに、俺がポンプを作ってたから水を送る水路を作る手間が省けて、部屋を浴室に改造や若干の建て増しするくらいで、意外に簡単に出来たらしい。風呂風呂って、そんなにぶつぶつ言ってたかな。と思ったが、日記見返したら結構書いてるな。

 まぁ、仕事が減ったと喜んでいいのか?
 高く飛べるようになる道具も、ちゃんと手に入れたそうで、改造済みの物を渡された。そして解せないのが馬蹄も渡されたって事だ。エレンの馬鹿が、「馬に馬蹄は必要だろ?」だとかニヤつきながら抜かすもんだから、久々に殴り合いの喧嘩になってしまった。結局二人して怒られて終了だったが。
 詳しく訊くと、高所から落ちても、これを靴に着けていれば無傷で居られるんだって。最初からそう言えよ。一応着けておくつもりだが、わざわざ高い場所から飛ぶ勇気は今の所ない。その内、役に立つかな?

 皆が作ってくれた夕食を食べて、ゆっくり風呂に浸かった。最高に気持ち良かった。
 長湯してたら、エレンが風呂に乱入して来やがったのが、また腹が立つ。あんまり長いから溺れてないか心配してやったとか要らん世話だ。体拭いてたらやたらじろじろ見てくるし。どうせ俺はお前らと違ってひょろっちいよ。くそが。
 でも、前よりは肉付いたと思うんだけどな。部屋に戻って鏡見ながら確認してたらマルコが来たから、どう思う?って訊いた。ら、何でか湯冷めするだろ。そんな肌を晒してみっともない。
 何故かそんな滅茶苦茶な怒られ方をした。別に下は履いてたし、部屋は寒くないし。そして、なんの用で来たのか言う前にどっか行った。なんだったんだ。

 忙しくないのに妙にぐったりする日だ。
 もー、やだ。寝よ。

・二十八日目
 昨日、ゆっくり休んだからか、すっきり起きれた。

 朝食を食べている時に、エレンがとある森の中でサシャらしい人物を見つけたと言い、何で連れて来なかったんだ?と周りから訊かれていた。俺も同意見だったから頷くだけに留めておいた。
 エレンが言うには、ドリアードと言う古くから森に住む種族とたまたま出会い、彼女はドライアドと名乗ったと。ドライアドは種族の名を冠する神官的立場の女性で、ドリアードとは森と大地に根付く種族であり、独自の宗教観、連綿と続く文化、風習を守りながら暮らしていて、外部からの侵入者を極端に嫌い、森を害すれば死を以て制裁する種族だそうだ。

 かなりの長寿で、五十歳くらいであれば、まだ子供。エレンが会話をした女性は見た目は二十歳程度に見えたが、実際は四百年も生きており、他の種族との様々な交渉をする外交役で、まだ幾らか話が出来る人物であったそうだ。たまたま森に入り込んだだけの子供を死なせるのは忍びないとエレンを外へ送り出し、その道すがらの会話で、最近、人間が村へ潜り込んで困っている旨を零したそうだ。
 特徴を聞けばサシャそのもので、村の食料が……。とも零してたらしい。俗世と関わりが深いせいか意外に人間臭い愚痴っぽい人らしい。

 話の内容を要約すると、彼女から見ればただの人間でしかないそうだが、どうやら突然現れて、化け物を退治してくれたサシャを仲間が神の使いと勘違いしたらしく、もし、無理矢理に連れ出そうとすれば、種族丸ごと敵に回る可能性があるのだとか。

 かなり厄介そうだ。
 危害を加えられる可能性は低いが、元々人間嫌いな上に、閉じた世界の住人。こちらが常識だと思っている事が一切通じない可能性も高い。サシャが彼女達にとって、非常識な行動を取った場合の制裁は……。
 話を聞く限り、長寿が故に、古い体質や考え方に変化が無い環境なのだろう。ただ、前に襲ってきたゴブリンとは違い、他種族を襲って糧を得るのではなく、知性を持って、文化を築いているのなら話は通じるかも知れない。無理に連れ出そうとせず、仲間かも知れない。だた話がしたいに留め、本人の意思で出て行かせるのはどうだろう?サシャだったら、こっちに来たら美味い肉がたらふく食えるぞ。って言えばいいんじゃね?と、言ったら、満場一致で可決した。まぁ、嘘は吐いてない。

 一度、顔を合わせているエレンと、護衛にミカサ、交渉役にマルコ。
 三人で行く事になった。俺含め、他の奴らは待機組だ。サシャでなければ直ぐ戻ってくればいいしな。

 今日はちょっと暑かったから、朝食の後に湖で皆と泳いで遊んだ。
 端から端まで競泳をしたり、潜れる時間を競ったり、結構楽しかった。底まで潜ると、水面が太陽できらきら光ってうっとりするくらい綺麗だった。潜ったり、泳ぐのもいいが、何もせずに浮いてるだけでも気持ちいい。サシャの事とか、まだ見つかってない連中の事とか考えながら、湖に浮かせた丸太に捕まって、ぼけっとしてたらコニーに下着を盗られた。何も隠すものが無くなって、焦ってたらエレンが水の中から足引っ張ってきて沈められた。下らない悪戯に苛ついて顔とか体を蹴りまくっといた。鼻血出てたから効いてたと思う。ざまぁみろ。

 今日は遊び過ぎて遅めの昼食になった。
 コニーには、昼食に唐辛子とか言う調味料を肉の中に仕込んどいたが、辛ウマとか言いながら完食した。どうなってんだあいつの舌。俺なら絶対無理なのに。

 道具の確認もかねて昼食を食べたら出かける事にした。道具や、装備も揃えて目指すは湿地帯。前、洞窟を見つけて気になってたんだよな。マルコが付いていこうか?とか言ってたが断った。マルコは明日エレンと同行しなきゃならないからな。休んでおいて欲しかった。

 走ってみると、軽快も軽快。
 高い段差でも一気に登る事が出来る。
 ちょっと足りなければフックショットで引っ掛ければいい。
 一々、縄をつけて登ったりしなくていいからか、以前の半分以下の時間で目的地に着いた。

 暗い所では紫の玉がぼんやりと照らしてくれて助かる。松明も無限にある訳じゃないし、怪物とは言え、明かりに引かれて寄ってくるだけで、襲いかかる訳でもない奴を無駄に殺すのもどうかと思うしな。しかし、地上と違って、地下は好戦的な奴が多いっぽかった。

 灰色の丸いの。スライムだっけか。
 切ったら小さい奴がわんさか増えて厄介だった。
 蜘蛛の巣だらけの所もあって、石の隙間から少し覗いたら巣の隙間から子犬くらいの大きさの蜘蛛がわんさか蠢いて居やがった。ぞぞっと背筋に気味の悪い悪寒が走って、全身に鳥肌が立って、蜘蛛共に見つかる前に、さっさと逃げる事にした。湿地帯って虫が多い気がするなぁ。
 小さいものが大量に蠢いている光景と言うものは、何故、ああも神経を逆撫でるんだろうか。

 それは置いといて、適当に鉱石や、宝石を採掘してると、ちょっとした住居が作れそうなほど広い空洞に入り込んだ。
 底には草や木も生えていて、足場はしっかりとしていて問題なく降りる事が出来、空洞の一角には球体の大きな物体があった。それに穴を空けるとドロッとした粘り気のある液体が流れてきて、頭から全身被ってしまった。

 口に入ってきて、思わず吐き出そうとしたら、甘い味、匂いといい、蜂蜜だった。向こうでは貴重品で、数回しか口にした事がないが間違いない。
 気を付けながら穴を広げて、中に入ると、池みたいに蜂蜜が溜まっていた。蜂蜜ってこんな風に溜まってんのか?と思ったが、そんな細かい事はどうでもいい。鞄の中に作ったばかりのバケツが五個くらいあったから、汲んで持って帰る事にした。
 いいものを見つけた。大量大量。とか少しばかり浮かれてたのは否定しない。

 穴から出て、鏡使って帰ろうとしたら、頭の上で物凄い羽音が聞こえて、見上げたら俺の倍はあろうかって大きな蜂が居た。恐らく、あの巣の主だ。勝手に穴を空けて巣を荒らしたから怒ったんだろうか。
 羽音も凄いが、残像が見えるほど早く動く羽からの風も凄くて、目が上手く開けていられない。周りに居た小さい虫が吹っ飛ばされたり転がっていくのが目の端に見え、蜂の体が少し浮上したかと思えば一気に急降下して体当たりをしてきた。その衝撃で鏡を落として、逃げる手段を封じられた。体は蜂の体当たりで負傷したらしく、痛くて動かない。本気でこれは死ぬ。そう思った瞬間、母親の顔や、馬鹿な同期共の顔が浮かんで視界が滲んだ。

 眼をぎゅっと閉じて、体を固くしていたら、耳をつんざく様な銃の発砲音が連続して響いて、巨大なものが落ちる振動と音が聞こえた。
 次いで全く、巨体に似合わない、如何にも恐る恐ると言った足音と、不安げに呼ぶ声が聞こえたもんだから、こんな状況と、負傷にも関わらず、つい笑ってしまった。体が痛すぎて声は出なかったから、何とか手だけ挙げて、ひらひらと動かしてやったら安心したみたいで、大きな溜息が聞こえた気がする。

 痛む体を少々強引に起こして、姿を確認すると案の定ライナーだった。
 どうも、本で湿地帯に住み着く大型蜂の情報を知っていたそうで、マルコから湿地帯に向かったと聞いて心配して追って来てくれたみたいだ。もう一人で行動すんの止めろ。とか、次から俺も付いてくからな。とかぶつぶつ言いつつ、自前の回復薬を飲ませてくれて、体は直ぐに動くようになった。便利だよ、ほんと。向こうの世界なら一ヶ月はベッドの上に居るような怪我だったろうに。

 近くに落ちてた鏡も見つけてくれて、そのまま帰る事になった。
 俺はライナーに借りを作り過ぎな気がする。背負われて帰り、風呂も蜂蜜でべたべたし過ぎて、服が脱げなくて手伝って貰ったし。せめて背中の一つでも流してやろう。そう思って一緒に入る提案をしたら拒否された。湖で流すとかなんとか。前は共同浴場に入ってたんだから気にする必要ないのにな。
 二人きりなのが問題だとか言ってたが、あぁ、ここの浴室じゃ男二人は流石に狭いか。

 しかし、俺は借りっぱなしが嫌いなのだ。

 風呂から上がって、ライナーの部屋に行くと丁度、新しい銃の手入れをしていた。
 なぁ、何かして欲しい事あるか?何でもするぞ。そう言って手伝いを申し出たんだが、手に持ってた部品を落とすわ、何故か立ち上がろうとして机で膝を強打して床に蹲ってた。ライナーの動揺に連れられて俺まで動揺してしまい、どうしていいか判らなくなって、おろおろしてたら、急に勢い良く強く肩を掴まれて、完全に座った眼で睨まれた。
「今後、何でもする。とか簡単に言ったら駄目だぞ」
 と、絞り出すような声で言ったかと思ったら、背中を押されて部屋から追い出された。俺は何か、怒られるような事を言ったんだろうか。完全なる善意だったぞ俺は。

 マルコに相談してみたら、マルコからも同じ事を言われた。
 何でも。などと言うと、それに付け込まれてとんでもない要求をしてくる奴がいる。だから安易に使ってはいけない。それは理解したが、怒った理由が解からない。そう言うと、ライナーの理性の強さに感謝しろとか言う。
 ライナーがとんでもない要求するとは思えないんだが。と言うか、出来ない事は出来ない。って言うくらい出来るけどなぁ。結局、釈然としないまま一日が終わってしまった。つまらん。

・二十九日目
 マルコ達を送り出してから、朝から天気が良かったので外で洗濯してたら、異様。としか言いようがない出で立ちの奴がいつの間にか後ろに立っていた。
 どれだけ異様かと言うと、頭蓋骨に角を生やしたような妙な仮面に、派手な色の羽飾り。一枚布に穴を空けて、そのまま被ったような服に、特徴的な模様が刺繍された前垂れ。

 驚くなと言う方が無理だ。
 思わず腰のベルトに刺していたリボルバーを突き付けたのは勘弁して欲しい。
 聞き覚えのある声で制止され、そいつが仮面を外せば見覚えのある金髪に、全体的に丸い目鼻に、中性的な顔立ち。アルミンだった。なんて間の悪い奴だ。エレン達は揃って居ない。
 銃を突きつけた事を謝り、エレン達の事を伝えると残念そうな表情になったが、でもずっと居ない訳じゃないんだろ?と、前向きな意見が出た。まぁ、確かにそうだ。遅くても四日もすれば帰ってくる筈だ。

 全く、とんちきな格好しやがって。
 それについてはアルミン自ら率先して説明してくれた。

 アルミンは、あの空が真っ暗になった後、同じく暗い湿地帯の地下にいた。
 当初は戸惑ったが、ずっと同じ場所に居る訳にもいかないと、毎日泥塗れになりながら仄かに光る草や、誰が設置したのか判らないものの、偶に見つかる松明を持って外を目指していたそうだ。

 暗くて周囲を見渡す事すら困難で、得体の知れない虫がそこかしこに居る。しかも、たった独りだ。ひ弱な見た目に反して本当に根性がある奴なんだと感心した。
 その内に、偶然、リザードと言う地下に住む種族の存在を知り、半日ほど集落を観察をして、その中でも全身が隠れる衣装を選んで盗み出し、リザードや、地下に住み着く数多の化け物共などから姿を隠すために着ていたそうだ。アルミン曰く、被っていた仮面は、医者の役割も担う呪術師の証で、化け物の傍を通っても、多少訝しむ様子はあっても、今まで被った泥や、衣装に染み付いた薬草の匂いで人間の匂いは掻き消されたのか、襲われる事はなく、自由に行動できていたらしい。とは言え、得体の知れない生き物の群れに潜り込むとか勇気があり過ぎるだろう。

 一通り話し終えると、そこからは、アルミンの知識欲求の凄まじさを見せつけられた。
 別に知りたくもないリザードの生態や、儀式、特殊な薬草の配合、奇妙な道具の数々、秘伝書のような物を書き写しては研究していたそうだ。そして、今の今まで衣装をほとんど脱げなかったと言う事。道理で臭かったので、話が一区切りした辺りで風呂に叩き込んで、俺の服を貸してやった。

 食事中でもアルミンの口は止まらず、地上に出る事が出来たのは俺やライナーのお陰だと言っていた。
 薬草の採集で地下を歩いていたら、巨大蜂と戦っている姿を見かけ、倒した後、話し掛けようとしたら、消えてしまった時は途方に暮れたそうだが、上り下り用の縄や、入口へ戻るための目印に松明が置いてあったのでそれを辿って来たって。
 褒められるのは気持ちいいし、嬉しいが、諸手を挙げて感謝されるのは、次第に照れ臭くなってしまい、強制的に話を逸らして、リザードの持つ、特殊な道具の事を訊いたら、その質問を待ってましたとばかりに、更に熱を上げて話すようになってしまった。

 何か、今日は一日中、アルミンに相槌打っていた気がする。

・三十日目
 一日中どころか一晩中だった。
 話を切り上げて部屋でのんびりしていたらアルミンが奇妙な道具を持って来て、それを貰った気がする。どこに仕舞い込んだのだか、記憶がない。

 アルミンの話も最後の辺りは、ほぼ記憶がない。
 特殊な仲間を召喚するだの、空を飛ぶ道具がどうたら?鳥が鳴く声が聞こえて、朝食を作るから。そう言って逃げた気がする。起きて来たライナーがふらふらしながら作ってるの見かねて変わってくれた。暖炉部屋に誰かが作って置いていたソファーに寝転がって熟睡してしまった。恐らく、この時に記憶を夢の中に置いてきてしまったに違いない。

 ぼんやり目が覚めた頃に、ユミルが、
「そんなとこで寝てたら、悪い奴に美味しく戴かれちまうぞ」
 とか言ってるのが聞こえて、サシャに食事を奪われる夢を一瞬見て、飛び起きて思わず、サシャてめぇ!だとか叫んで惚け上に、サシャの姿を探してしまった。
 ユミルは、それ見てげらげら笑ってるし、クリスタは、「会いたいのは解かるけど、まだ戻ってきてないわ」なんて至極、真面目に答えてくれるし、気不味いどころの気分じゃなかった。そして、起きたのは、もう夕日が差している時刻だ。理由がない限り寝坊に厳しいマルコには黙ってて欲しい。

 いや、仕方ないよな。
 何せ一晩中起きてアルミンの相手してたんだ。
 俺悪くない。うん、俺は悪くない。

 因みに、アルミンは俺が朝食作りに行くと、そのまま寝るどころか、道具倉庫に向かって、俺達が集めた物を興味津々で調べていたそうだ。何なんだ、下手したら俺よりも体力がないはずなのに、どこにそんな力が……。と、思ったら案の定、昼頃には道具倉庫で寝てしまっていたそうだ。そりゃそうだ。

 取り敢えず、全く何もしないのは気が引けたので、流石に夕食は作った。
 ふわふわの柔らかいパンに、林檎を煮詰めて蜂蜜を入れたジャム。カモ肉のステーキに、畑で取ってきた野菜のサラダ。牛乳たっぷりのじゃが芋のスープ。

 食後のケーキも砂糖ではなく蜂蜜を少し入れてみた。
 ほんのり落ち着く甘さで、生地もしっとりしてて美味しかった。皆にも好評で、コニーなんか丸々半分くらい食べたんじゃないか?マルコやミカサ達が帰って来たら、また作ってやろう。

 美味いもの一杯。怖い事はあるが、何故か安心感がある、本格的に向こうに戻りたくなくなってきた。
 でも、母さんはどうしてるだろうか。美味いもん食えてるのかな。寒さに凍えてたりはしないだろうか。母さんも、こっちに来てないだろうか……。それは都合良過ぎるか。
 確信の無い事をぐだぐだ考えても仕様がない。先ずは、目の前の現状をどうにかしていかないとな。もう一回、アルミンに、あの変な道具の使い方を訊いておこう。

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