忍者ブログ

馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

冷たそうで温かい=その三=

その三
2021/09/12





 昼頃、食事をしていれば電話がかかり、仲人を請け負った親戚から『例の見合い相手とはどうなっているのか』と、尋ねられた。

 俺はこいつらが嫌いだ。ケニーが施設から俺を引き取り、アルファであると判明するまで見向きもしなかった癖に、利用出来そうだと判ると揉み手をしながら近づいてくるような連中だからだ。アルファ性が大半を占めるアッカーマンの一族で、アルファでもオメガですらないからと勝手な劣等感と被害者意識を持ち、一族のアルファはか弱い人間である自分達を救うべきだと考えている厚顔無恥さ。反吐が出る。
 俺が、ジャンを食い物にするあの女を毛嫌いするのも、こいつらのやり方を散々見てきたからだ。
 本人の意思を尊重する。それだけを告げて通話を一方的に切り、再度かかってきた電話が鬱陶しかったため電源から落としておく。どうせ、都合のいいオメガを紹介してやったのだから謝礼なり寄越して自分達を敬えとでも言いたいのだろう。

 本人の意思を。それは本音だ。
 ただ、今朝に自覚した想いをどう処理するべきなのか俺自身の事を考えなければならない。

   ◆ ◇ ◆ ◇

「酷いよ!リヴァイはエルヴィンを殺す気なの!?」
 ハンジが咽せて酷く咳き込むエルヴィンを庇うように抱きしめながら俺を詰る。相談する立場ではあるが、少々はっ倒してやろうか。なんて暴力的な思考が湧く程度には苛ついた。
「おっ、……おれ、をっ、老人扱いするな!」
 散々咳き込んで、気管から水分を追い出せたエルヴィンがふざけるハンジを窘める。
「はーい、ごめんねぇ」
 けたけた笑いながら、ハンジは椅子に座り直し、俺が淹れてやった紅茶を啜る。
「しかしねぇ、茶化したくもなるよ、うわぁ……。って感じだもん」
「まぁ、気が狂ったかとしか……」
 仕事終わりに相談したい事がある。そう言って二人を呼び出し、十五歳も下の餓鬼に対して、本気で惚れてしまったようだ。なんて唐突に告げたら驚きもするだろうが、反応はなんとも酷い。
 俺だって倫理観的にどうなんだと思わなくは無い。

 なんと言っても俺の半分しか生きていないような子供。しかもだ、肉体的な暴力こそ無いが、虐げられ続け、自己肯定感も低く自己主張も碌に出来ず、判断力がないときた。
 俺が求めれば頷くだろう。本人もそう言い聞かされ、覚悟をして俺の元へ来たのだと感じられる要素は言葉の端々から感じられた。出来得る限り本人の意思を尊重したい。が、自覚してしまった今、俺の気持ちをどうしたらいいのか持て余してしまっているのが現状だ。
「しかし驚いたなぁ……」
 エルヴィンが紅茶が入り込んで苦しんだ胸をさすり、苦笑しながらも悩んでくれているようだ。
「貴方が嫌っていた親戚の手にまんまと乗っちゃうなんてねぇ」
 ハンジは最も言われたくなかった言葉を俺に投げてくる。
 エルヴィンとハンジもアルファ性を持っている。アルファの中では俺の一族はそこそこ有名らしく、一族の内情をなんとなくは噂で知っているようだった。初対面での会話が『あの』アッカーマン家。から始まるのはもう慣れたが、どことなく不快感がつきまとうのも事実だった。
「だから余計困っているんだ。俺は餓鬼に手を出す趣味はない……、ないんだ……」
「激しい懊悩だねぇ、そのお見合い相手の子と一緒に居る内に、いや、無意識に一目惚れでもしてたのかな?なのに、貴方の中の倫理観や理性が本能の邪魔をする。苦しそうだね」
 ハンジが俺の現状をしたり顔で語り、エルヴィンがふむ。と、呻ってみせる。
「本人がお前と一緒に居たいと言えば丸く収まるんじゃ無いか?それも本人の意思だろう?」
「そうは言ってもな……」
 俺はぼりぼりと頭を掻き、ジャンの今までの行動や、どんな仕打ちを受けてきたのかを俺の主観から掻い摘まんで語る。俺の中では、ジャンは『哀れな子供』で『保護対象』なんだ。それがどうして十五も年上のおっさんとつがって未来を奪うような真似が出来る。
「運命のつがい。なんてのもあるけど、貴方の中でそんなに葛藤があるんじゃ、それも成立しなさそうだねぇ」
 運命か。
 そんなもの正直信じてはいない。しかし、都合がいい事に、ジャンと俺がそうであればいいと考えてしまった。最低だ。
「部外者が色々口を出しても、結局、その子の意思はここにはない。俺達の勝手な推論と憶測、今までの経験から得た『こうあるべき』の価値観を押しつけているだけだ。相談をして貰ってなんだが、お前達が二人でしっかり話し合って決めるべきだと俺は考えるな」
「私も同意」
 エルヴィンが俺を諭し、ハンジが片手を上げて俺の背中を押す。
「そうだな……、時間をとらせて悪かった」
「んーん、相談を聞いて上げるのも友達の役目でしょ」
「お前が頼ってくれるなんて大分、レアだからね、これからはもっと頼ってくれると嬉しいと思う」
 友人二人のありがたい言葉を受け、ジャンの待つ家に帰る。
 今日の夕飯は何だろうか。そんな事を考えながら鍵を開けて部屋に入れば、予想外の反応が返ってきた。
「お、お帰り、なさい、ませ……」
 最近増えてきた笑顔は鳴りを潜め、俺と目を合わせないばかりか、ジャンは目を伏せてどこか怯えたようですらあった。
「どうした……?」
「あの……、大丈夫です」
 一体何が大丈夫なのか。
「先に寝室行ってます……」
「お、おぉ?」
 具合でも悪いのか。
 食事は用意してある。
 美味そうな生姜焼きだ。
 サラダに味噌汁に小鉢が数点、白飯は炊飯器の中か。
 室内に水気のある匂いが充満している。ジャンが早めに風呂に入ったのか?話をしたかったんだが、具合が悪いなら仕方が無い。

 用意してくれている食事を食べ、風呂に入って着替えて髪を乾かし、寝室に入る。
 部屋はジャンが居るというのに真っ暗。だが、寝てはおらずにパンの椅子の上で膝を抱いて縮こまっていた。
「どうした?」
「あの……、ぁ……」
 明かりを点け、どうしたのか尋ねればジャンが俺を上目遣いに見やり、直ぐに目を伏せる。
 如何にも、なにかありました。と、告白していると同義だ。
「何があった、話せ」
 ジャンの前に座り、聞く体制になるが無言が続く。
 焦れて体を揺すれば、びく。と、ジャンの肩が跳ねた。一体何に怯えている。
「リヴァイさん……、俺……」
「うん?」
 ジャンは自分の指を噛み、顔を赤らめて涙目になっていた。
 何か遭った事は判るがどうしたらいいのかは判らない。何て不甲斐ないんだ俺は。
「だい、て、ください……」
 ぐすぐす鼻を鳴らし、最早、泣いてしまっている。
 だいて。抱いて?昨日まで普通にしていたじゃないか。嫌な予感が脳裏を過る。
「一つ訊きたいんだが、例の養母から何か言われたか?」
 俺が尋ねれば、大粒の涙がジャンの目から零れ、膝に顔を埋めたまま、体を震わせて嗚咽を上げ出す。
「ちゃ、ちゃんと、しろって……、リヴァ……さんに、きにいられるように……」
 泣くジャンの背中を撫でて慰めながら、昼間の電話を思い返す。俺の親戚と、ジャンの養母は繋がっているはず。引き取りはしたが婚姻の話は進んだ様子が無い。せっついては見たものの『本人の意思』と俺が返した。だから、ジャンに肉体を提供させて相手に媚びを売らせる。あの下衆共の考えそうな事だ。
「ここの住所は教えてないから……、学校にでも乗り込んできたか?」
 ジャンが首を縦に振り、声を出そうとしても嗚咽に邪魔される。胸糞が悪い。どこまで人を踏み躙れば気が済むんだあいつらは。
「落ち着かないだろうがもう寝ろ」
「はい、ごめ……、な……」
「謝らなくていい。お前は何も悪くない」
 ベッドを出し、ジャンを横にならせ、大丈夫だ。任せろ。そう言いながら眠るまで見守る。
 ジャンが寝た事を確認し、玄関側に行ってハンジに電話をかけた。
「やっほ、なんか良い事あった?」
「いや、寧ろ悲報だ。お前の連れ……、モブリットは確か弁護士だったな?悪いが電話を替わってくれないか」
 電話の向こう側で驚く声が上がり、電話をハンジの伴侶であり、弁護士として働いているモブリットに変わって貰う。
 詳細を話し、養母の権利を剥奪出来ないかを尋ねる。モブリットも呻り、許せないと呟いた。弁護士の職業上、同じような案件は見てきてるのだろうが肉体的な暴力よりも目に見えない分厄介だろう。
「最大限どうにか出来ないか調べてみます。あと、本人にも話を聞いてみたいんですが、可能ですか?」
「今日はもう寝ちまったからな……、明日話してみる」
 明日は土曜日だから学校の心配は無いが、とりあえずジャンの職場に電話を入れ、申し訳ないが酷い精神的なショックを受けて寝込んでいるため、休みを与えて欲しい。と、願えば、夕方に出勤してきた際に、様子が可笑しかったため心配だったそうで、多くは訊かずに直ぐに納得してくれた。こんな人がジャンの養父母であったならどれほど良かったか。
 たらればを考えてしまうが、そうなると俺とジャンは出会えていない。いや、それでジャンが幸せならそれでいい。何故、こんな善良な人間を苦しめるような真似をするのか、運命の神とやらが存在するのなら、拳の一発くらいはくれてやりたい気分だ。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 ジャンが起きても仕事に行かないよう、ダイニングにゆっくり休むようメモを書いておく。
 それが功を奏したか、ジャンは律儀に朝食を作り、俺が起きるまで待っていたようだ。とは言っても、俺も怒りで興奮しすぎて上手く眠れてないんだが。今日が休みで良かった。急な出動命令が入らない事を願うばかりだ。
「おはようございます……」
 大分打ち解けてきたはずだったが、今は俯いての無表情。すっかり初対面の頃に戻ってしまった。あの糞女とくそったれの親戚が憎たらしい。
「おはよう、あのな……、今日、弁護士の人が来る。その人にお前の話を聞かせてやって欲しい。俺が居て話し辛いなら席を外す、側に居て欲しいなら居る。お前はもっと幸せになって良い人間で、お前の養父母は子供を幸せにするどころか苦しめるような人間だ。後見人となるべき人間じゃない」
 俺が言い終わるとジャンは眼を瞬かせ、昨日と同じように泣き出した。
 長い時間をかけて虐げられ、心が麻痺をしていてもいつか気付く日が来るはずだ。『何故』自分はこんな理不尽な目に遭っているのか。と。
 虐げられている人の多くは善良な人間だ。それを護るために警察組織があり、法があるのだが、悪人は法の隙間を突いて獲物を懐柔し、他人に助けを求められないよう、逃げられないように追い込んでいく。だから、最終的に悪人に食い尽くされてしまう。赦されない事だ。
 ジャンはまだ俺が助けてやれる。
 まだ間に合うはずだ。
「大丈夫だ。大丈夫、俺に任せろ」
「はい……」
 落ち着かせるように、大丈夫と繰り返せば涙で潤んだ瞳が俺を見詰める。
 そんな場合では無いのに『可愛い』なんて思ってしまった。
 俺の頭は一体どうした。
「飯、食うか。いつもすまないな」
「いえ、こんな事くらいしか出来ないので」
 将来的に、こんな悲しい言葉を言わないようになって欲しいが、時間はかかりそうだ。

 午前十時頃にモブリットから電話がかかってきて、うちに来て貰うよう持ちかける。
 モブリットはハンジの連れ合いとあって知人ではあるが、職場も違うため自ら連絡を取る事は無かった。ハンジの夫、ではなく、弁護士としてのモブリットと関わるなど、想像だにもしていなかった。
「わざわざ、すまないな」
「いえ、リヴァイさんが助けを求めるなんてよっぽどの事ですからね。心してかからせていただきます!」
 真面目で優秀な男だ。
 頼って間違いは無いだろう。
 モブリットをジャンに紹介し、養母から未成年後見人としての権利を剥奪する方法を教えて欲しいと伝えた。ジャンは『そんな事が出来るのか』と、不安そうであったが、何事もやらなければ結果は出ない。何があっても俺が庇ってやる。約束をすれば幾分かの安堵は得られたのか頷いて協力してくれる気になったようだった。
「じゃあ、俺は席を外すか?」
 ジャンとモブリットが対面して座り、俺が訊けばジャンは服を掴んでくる。
 どぅ。と、心臓が高鳴り、眼を挙動不審に彷徨かせてしまったが、咳払いをして頷いた。
「では、お話をお願いします。思い出すのは辛いかも知れませんが、引き取られた時からで」
 俺が折り畳みの簡易椅子を用意している間にモブリットがノートパソコンを開き、ジャンはぽつぽつと思い出しながら両親の事故から語っていく。聞いていると相変わらずはらわたが煮えくり返ってくるが、ジャンが俺の服を掴みながら話している姿は俺の心臓を可笑しくさせた。こんな餓鬼に、俺は何をやってるんだ。
「思った以上に酷いですね……、人格否定を続ける精神的な虐待もそうですが、アルバイト先に嘘を吐いてまで働かせ、働いたお金を生活費に使わせて、学校の備品を買わせたり、挙げ句にそれを奪うなんて……、悪いんだけど、それを証明する物はあるかな?」
 モブリットは弁護士だ。
 一方の証言だけで証拠が無いと確実性が薄く、動きようが無い。
「例えば、そうだな……」
「あの、家計簿ならずっとつけてます。バイト先でお金の管理するならつけた方が良いって言われて……、明細と買った物のレシートとか……」
 モブリットが思わず目を見開いて『それです!』と、快哉を叫ぶ。
 アルバイト先の誰かは知らないが、俺も良くやった。そう感謝したいくらいだ。
「持ってきてますか?」
「は、はい……」
 ジャンが俺の服から手を放して立ち上がり、焦ったように寝室に入ってレシートが挟まれて膨らんだ五冊くらいのノートを持ってくる。これも自分で買っていたんだろうな。
「はい、はい……。ざっと見た感じですが、いけますよこれ。出入金もはっきり書いてあるし、レシートに日付もあって、渡したお金の額まで書いてありますね。それに、養母に言われた事も注意点……、として書いてありますし、これ以上無い証拠です」
 ジャンのきっちりした性格がここで役に立つとは、やはり、真面目にやっていると幸運が舞い込んでくるのか。運命の神は、救いを与えるのだろうか。だた、正直な所、人の紆余曲折で遊んでいるような気もするし、最初から苦しめるな。との思いは間違いだろうか。
「あ、あの……、社長はどうかなってしまうんでしょうか……?」
「うーん、未成年を働かせてた。ってのはありますが……、それも相手に騙されていた訳ですからね、注意くらいはあるでしょうが、そちらも上手くいくようにしますよ!」
 ジャンは不安になっていた胸をなで下ろし、モブリットに深々と頭を下げて礼を言った。自分の時よりも嬉しそうな辺り、本当に優しすぎる馬鹿なんだと思う。俺だったらあんな家、養父母をぶん殴って出て行っていただろう。
「任せて下さい!この家計簿はお預かりしても大丈夫ですか?」
「あ、はい、どうぞ……」
 モブリットの興奮した様子に面を食らっているのか、ほっとしたのも束の間、がくがくと頷いて少しばかり引いている。

 上手くいきそうで良かった。
 早速、書類を用意してくると言うモブリットを見送り、手を伸ばして呆けているジャンの頭を撫でて置いた。家計簿に所々濡れた痕があったのは、ただ家事を終えた濡れた手で書いたのか、それとも泣きながら書いていたのか。
 養母の権利を剥奪した後の新たな未成年後見人をどうするか。との問題もあるが、とりあえずは風が良い方に向いてくれる事を願うばかりだ。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 意図してでは無いにしろ、ジャンが決定的な証拠を作っていた事と、モブリットの尽力で快調に未成年後見人の解任は進んでいった。
 日常的な人格否定などの精神的虐待、働かせた上での搾取、未成年者の身上監護義務違反が問題視され、更に調査を進めるとジャンの養育のためにあり、将来受け取る権利がある両親の保険金や賠償金などを私用で使い込んだ事実まで発覚したため、財産管理義務違反となり家庭裁判所を通して未成年後見人の資格を剥奪された。

 例の養父母からの接見禁止礼も出され、使い込まれた金はともかくとして円満に収まりそうだ。あの屑共がきちんと金を返済するとは思えないが。
「じゃあ、ジャンを宜しくお願いします……」
「いえいえ、こちらこそ」
 家に通され、初めて対面した新聞屋の社長は如何にも人が良さそうに見え、その連れ合いである女性も、そんなに辛い思いをしてたなんて気付いて上げられなくてごめんね。と、しきりに謝り、涙ぐみながらジャンを抱きしめていた。

 ジャンは今日から正式にここの息子になる。
 子供に恵まれず、ジャンを本当の息子のように思っている。と、語るこの夫妻は、未成年後見人どころか養子縁組を提案してくれた。ジャン自身も嬉しそうだった。ジャンが望み、この夫妻も受け入れてくれたとあって、これならこの先もきっと大丈夫だろう。
「リヴァイさん、本当にありがとうございました……」
「うん、まぁなんだ。これからはもっと健やかに過ごせ」
 ジャンはこれからこの夫妻の元で過ごす。当たり前に健全な生活をして、俺達の婚約は有耶無耶になり、俺は一人に逆戻りだが、子供の未来を考えるならこれが一番良い結果だ。
「将来の旦那さんがこんなに頼れる人なら、ジャン君も安心ね」
「あ、その事ですが……」
「これからは結婚式の資金を貯めないとな」
 もう婚約は。と、否定しようとしたが、夫妻で盛り上がってしまって聞いてない。
「ジャン君ね、あんたの事が凄く優しくていい人だっていつも言ってるんですよ」
「え……?」
 社長がにこにこしながら楽しそうに語るが、初耳だ。
「しゃちょ……!」
「社長じゃ無くて、もうお父さんだぞー。ははは、いつも朝食の時に惚気てるじゃないか、今更何恥ずかしがってんだ」
 ジャンが顔を真っ赤にして金魚のように口を動かしていたが、頭が真っ白にでもなっているのか言葉が出てこないようだ。俺は、どう反応したら良い。
「十五も年上って聞いて、どうなのかな?とは考えてたんですよ。でも、こんなにジャン君のために一生懸命になって、大事にしてくれるなら大丈夫だろうって夫と話してたんですよ。こんな親気取り、早すぎるかも知れませんけど……」
「あ、いや……、それは……」
 確かに、二人で盛り上がりすぎだろう。
 俺やジャンの意思はどうなるんだ。
「ジャンが貴方と結婚出来るように私たちが責任持ってお預かりしますから、ご安心下さいね」
 男児は十八歳から、だがジャンはオメガ性を持っているので十六歳で親の承諾さえ在れば婚姻関係が結べる。そうなれば一人前の大人だ。大人。あと一年足らずで。
 俺も頭が沸騰したようになり、熱くなった顔を片手で覆って、意味の解らない呻り声しか出せない。

 指の隙間からチラ見をすれば、ジャンは耐えきれなくなったのか耳まで赤くして机に突っ伏し、夫妻は俺を非常に温かい眼で見詰めてくれていた。

拍手

PR