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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

冷たそうで暖かい=その二=

その二
2019/02/21






 暫くジャンと生活を共にして解った事。
 それは、若干、十五歳の子供にしては出来過ぎだと言う事だ。

 料理は言わずもがな、掃除も行き届いている。洗濯物もきちんと畳まれ、綺麗に収納されていた。
 確かに予想以上の結果に嬉しくはあり、助かりもするのだが、なんとなしに尋ねれば、やはり、本人の性格ではなく、ほんの少しでもやり残しや、気に食わない点があれば叱責を受け、最後はお前のために教えてやっているのだ。と、締め括られるからだそうだ。
 やってもやっても細かい粗捜しをされ、終わらない労働は地獄ではないのか。無感情になる訳だ。本人は、『実際こうやって役に立ってますから』と、笑っているが、噂に聞く姑の嫁いびりのようでもあり、遥か昔に読み聞かせをして貰った絵本の女。確か灰被りがどうのと言う話だったか。そのようでもある。

 今の所、やる事が半端であったり、件の出来ない言い訳は聞いていない。過剰な謙遜を美徳とする人間は居なくはないものの、これはどう判断するべきか。
 あまり、『らしさ』を押し付けるのも何だが、本当にジャンは子供らしくない。俺が十五歳の頃は、悪い意味で好き勝手していたため、ジャンの大人しさは逆に恐怖だ。
 ケニーに鍛えられたお陰で腕っぷしは強く、頼まれたり、人相の悪さから絡まれての喧嘩で補導された日には、ケニーから半殺しの目に遭う事も間々あった。大人になり、職に就いて様々な経験をしてきたが、あまりにも俺とジャンは違い過ぎて、どこまで理解出来ているのか、踏み込んでいいのかが判らない。
 先日の、『しでかし』も、やや尾を引き摺っている。

 そして、ジャンと過ごすに当たって連絡手段が乏しい点が困りものだった。
 家に帰らない俺は電話回線を引いていないため、帰宅の連絡一つ困難だ。ジャンが来てから出来得る限り帰るようにはしているものの、事が起これば現場から離れられず、どう足掻いても泊まり込みになる。
 連絡もつかず、帰って来ない人間を待ちながら過ごす時間は酷く恐ろしいだろう。まだ携帯電話がない時代、全く帰って来なくなったケニーが脚や腕にギプスをつけて、松葉杖をつきながら酷い姿で帰って来た際に味わった、自身の経験と照らし合わせての考えではあるが。


「スマホは持とうと思わないのか?」
 夕食後、お茶を飲みながらの雑談を試みれば、ジャンは困ったように笑いながら肯定して見せた。
「別に子供は必要ないだろうって」
 ジャンの行動には、どこまでもあの女の影がちらつく。
「あったら便利かな。とは思うんですが、高いですしね。安い奴でも維持費が俺のバイト代一日か二日分かかるみたいで……、どっちにしろ未成年では契約は出来ないんでしょう?」
「それもそうか。じゃあ、今度の休みに買いに行くぞ」
「あ、はい……、はい?」
 断言する俺に対して咄嗟に返事はしたが、話の転換に今一ついていけてなかったのか、ジャンが訊き返してくる。
「買ってやる。連絡がつかないのは不便だ」
「え、でも……」
「子供が遠慮するな」
 真っ直ぐに見て諭せば逡巡はしていたようだが、頷いて今度の休日に買いに行く事になった。

 電車に乗って携帯電話会社の店舗に赴き、並べられた様々な機種を眺めるが、見た目はどれも同じで何が違うのかも判らない。ジャンも同様のようで店内を見渡してばかり。
 サイバー課の奴でも連れてくれば良かったか。
「いらっしゃいませ、ご用件をお伺いします」
 店員であろう制服を着た女性に声をかけられ、ジャンに連絡手段を作ってやりたい旨を伝えると、若い世代に人気であると言う最新のスマートフォンを見せられた。
 あれこれとプランを説明されるが、ジャンは、はい。と、小さく返事するばかりで表情は芳しくない。
「お前が持つんだからお前が必要な物を選べ」
「でも、俺そもそもこう言うの使った事ないですし、それに高過ぎると言うか……、一番安いのでいいですよ。連絡が取れればいいんでしょう?」
 数万の機種代を見てジャンの元々低かった購入意欲は地を這っているようだ。
「こんなもんじゃないのか?」
「いえ、もっと安いのありました」
「お安い物ですと機能が制限されたり容量が少なかったりしますが……、こちらの製品は性能も良く、若い人に人気のゲームもさくさく動きますし、初めてでも使い易い物ですから」
「ゲームは興味ないので要りません」
 店員はノルマでもあるのか、最新機種を売ろうと食い下がってくる。が、連絡が取れればよしとしているジャンは固辞していた。遠慮なのか、本当にそう思ってなのか。
「適当なもので慣れてから、欲しくなったら買い直せばいい。好きにしろ」
 俺も連絡さえ取れれば問題ないため、ジャンの意思を重要視しておく。
 保護者が子供の援護を始めたため店員も諦めたのか、最新機種を勧める事を止めて勧めた物よりも半額以下の機種を持ってくると、一番小さなプランで契約書を作り、俺は説明通りに記入を済ませて行った。
 その横ではジャンが別の店員から初期設定や、使い方の説明を受けている。

「カバーもついでに買うぞ、選べ」
「え、えぇ……、と、じゃあ、これで……」
 落として画面が割れたりしないよう、目つきの悪い黒猫が描かれた手帳型のカバーもついでに購入し、店を出るとジャンはずっと車内でスマートフォンを弄っていた。
「面白いか?」
「興味深くはあります。ありがとうございました」
 ジャンは初めての玩具を興味津々で弄り回す子供のようで、無意識に俺の口元も綻んでいた。
「確かに維持費はかかるが、何でも調べれられるから持ってると便利だ。あまり頼り過ぎると物覚えが悪くなる気もするが」
「そうなんですか?」
「直ぐに調べられると思うとな、覚えたつもりになっても、いざとなると出てこなかったりする」
「へぇ……」
「別に俺がおっさんだから物覚えが悪くなってる訳じゃねぇぞ」
「何も言ってないじゃないですか……」
 ジャンが突然、言い訳をし出した俺に戸惑ったのか、眉を下げて背中を丸めてしまった。
「若い連中に良く言われるんだ……」
 腕を組み、言い訳の遠因を話せばジャンは口元をひくつかせた。笑いそうになって我慢したんだろう。笑っていて欲しくはあるが、こんな事で出た笑顔はあまり見たくないため、我慢してくれてよかったと思う。
「とりあえず、番号を教えろ」
 店舗の駐車場にだらだら居座るのも悪い。早速とばかりにジャンの番号確認して俺のスマートフォンに登録。ジャンの方にも俺の番号を登録させ、些細な事でもいいから連絡はしろと伝えて置いた。
 これで少しは安心出来るだろうか。
「遠慮はしなくていいからな?」
「は、はい……、まだ使い慣れてないので、先ずそこから頑張ります」
 文字入力の仕方から操作まで、説明書を開いて確認しながらやる所は本当に真面目だ。俺は面倒で全て機械に詳しい部下に訊き過ぎて、終いに『講義料とりますよ』とまで言われたが。
「そうだな……、緊急でない用事はメールしろ。どうしても連絡したい時は電話しまくってもいい。任務中で気付けなかったら申し訳ないが……」
「大丈夫です。きちんとお留守番してます!」
 スマートフォンが余程嬉しかったのか、ジャンは珍しく笑顔を見せた。
 俺も気分が良くなり、そのまま適当に近場のファミリーレストランへ外食をしにいく。

 ジャンは外食をし慣れていないのか、メニューを何度も見て一番安い物を指差すが、俺が勝手にステーキとハンバーグセットを注文するとおろおろしていた。
 俺は俺で焼き魚定食を頼み、待っていればジャンが眉根を寄せて俺を見る。
「何だ、言いたい事があるなら言え」
「リヴァイさんは無駄遣いし過ぎだと思います!」
 何を言われるのかと思えば、大人に向かってこの程度の食事を無駄遣いとは。
「俺はきちんと働いてるし、金を使う趣味はないからこの程度で困窮したりはしない」
 アルバイトかつ、扶養者に搾取されているとあれば金を自由に使う事への抵抗があるのだろう。あの女は、一体どれだけ子供の無垢な精神を踏み躙ってきたのだろうか。
 ジャンは金を使う、使わせる事に罪悪感でもあるのか、料理が運ばれてきてもちらちら俺を見て、促すとやっと食べ出す。
「美味いか?」
「うーん、まぁ……」
 表情が芳しくない。
 あまり美味しくないのか。
「不味いのか?」
「あ、いえ、ハンバーグは柔らかいんですけど、肉は硬いから、これおばさんが怒る奴だなー。みたいな……」
 どうも、例の扶養者は硬い肉は好まないようで、硬いままの物を出すと工夫をしろと怒ってくるらしい。食べつつもジャンは考え込んでいる。硬い肉を如何に柔らかくするかを悩んでいるのか。ジャンの精神に溜まった毒を抜くには時間がかかりそうだ。
「俺はやらんが……、料理の小技などもスマホで調べたり出来るようだ……」
「そうなんですね!後でやってみます」
 ジャンは極当たり前の事に感嘆し、急いで食事を終わらせようとしてかゆっくりだった食べ方は急ぎ気味になる。そのせいかぽろぽろ落とし、やや行儀が悪い。ただ、食事中に食事以外の事をしないとは良く躾けられている。
 食べ終えれば直ぐに会計を終え、車に乗るとそわそわ落ち着きがない。
 新しく得た玩具を扱いたくて仕方がないのだろう。可愛いもんだ。
「帰るか」
「はい、色々お世話になりました」
「それだと今日で終わりみたいだろうが」
 ジャンは、小さくあ。と、声を上げ気不味そうに笑って誤魔化した。
 車のエンジンをかけ、手元を遊ばせているジャンを横目で見て口元を綻ばせる。
「じゃあ、家に帰るか」
「はい……」
 柔らかな微笑みを浮かべ、ジャンが返事を返してくる。
 どことなく面映ゆい心地だが、悪い気分ではない。

 『俺達』の家に帰ればジャンはスマートフォンを弄りだし、様々な情報を取捨選択しつつメモを取っていた。やはり若い故に適応力があり、真面目な性格が垣間見え、好感度は上がる。
「夕飯はどうする?」
「ハンバーグに牛脂を混ぜるとジューシーになるらしいので試してみたいです」
「お前はまたハンバーグになるがいいのか?」
 料理が被るよりも覚えた事を試したくて仕方ないのかジャンは気にしないと言う。ただ、俺の方は胃もたれしないようにこっそり胃薬でも飲んでおこうと思った。

 時間的にはまだ早いため、夕方にスーパーへ行く約束をしてから、部下から旅行土産に貰った菓子を出して紅茶を淹れる。いつもは掃除に終始して終わる休日が、ジャンのお陰で慌ただしく、しかし嫌な気分ではない。
「入ったぞ」
「ありがとうございます」
 午後過ぎの穏やかな空気。
 紅茶の香りに包まれ、他愛ない雑談を交わしながら時間が過ぎていく。

 こんな日も良いものだ。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 翌日、ジャンは朝早くからアルバイトへ行っているため誰も居ない部屋で目が覚る。
 今まで人が居ない方が当たり前だったと言うのに、それに違和感を感じる日が来ようとは想像すらしなかった。

 食卓に置いてある『食べて下さい』との書置きと共に置かれた汁物、焼き魚。炊飯ジャーの中には白飯もきちんと用意され、きちんとした朝ご飯に、そこはかとない感動を覚えて何日目だろう。
 以前は紅茶とサプリメントだけを飲んで出勤していたが、時間を見てゆっくり朝食を食べる。昔は他人と共に暮らす生活など、想像もした事がなかったが意外と悪くないものだ。目の前にジャンが居ればもっと良い気もする。

 朝食を食べ終え、時間を確認すれば、今頃はジャンもアルバイト先で朝食を食べさせて貰っている頃合いだろうか。なんて想像を巡らせる。今日も一日、碌でもない事件が起きない事を祈るばかりだ。

「や、リヴァイ、引き取った子との生活はどう?怖がらせてない?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
 職場に行けば、実に揶揄い甲斐のあるネタを仕入れたとばかりに茶化してくるハンジが鬱陶しい。大体、ロッカールームを出たら待ち構えているのはどうなんだ。仕事をしろ。と、言いたいが、研究者気質なこいつは没頭するといつまでもやっているから、仕事はしているんだろう。
「おい、匂うぞ。シャワー室にでも行ってこい。幾ら仮眠室があるからってここ住むんじゃねぇ」
「やーだー、体臭の事を言及するなんてデリカシーがないにも程があるよ-」
 ハンジが自分の体を抱きしめながらくねくねと動かす。ミミズかお前は、鬱陶しい。
「言われたくないなら毎日入れ!どうせ三日くらい入ってないんだろうが」
「警察関係者には良くある事だろ?全く、潔癖はこれだから、大体、事件が起こったら風呂に入れないなんて良くあるじゃないか」
「平時くらいは気を遣えと言っているんだ」
 大体、俺が情緒に欠けると言うが、ハンジも大概だろう。だからこそ、言葉が上手くない俺でもずけずけと物が言える利点はあるが、いや、多少は気がけたほうがいいのだろうか。ジャンは糞真面目すぎて、人の言った事を真に受けがちだ。
 俺が何気なく零した言葉でも傷ついたり、深く思い悩んでしまう可能性もある。
「なに?急に真面目くさった顔して?」
「うるせぇ、お前には関わりない事だ」
 ハンジが後ろでごちゃごちゃ煩いが、無視して待機場所に向かえば整然と隊列を組んで俺達を待ち構えている部下達が居て、やはり整った物は美しいなと感じる。

 今日はバイクを用いた特殊訓練が主。
 ぬかるみ、大小の石が転がる悪路でも手足の如く操る訓練、走らせたまま脇にぶら下がりながらバイクを盾に用い射撃する曲乗り訓練など、何人か転んだ者が居るが、転んでもそのまま防御、ないし攻撃に転じられるよう動きはしっかりと出来上がっている。
 今日は概ね調子が上がっていると見ていいな。
「ねー、本当に貴方はどうやってあんな動きをしてる訳?凄すぎて逆に気持ち悪いなぁ」
「褒めてるのか貶してるのかどっちだ」
 見本がてら、部下達の前で訓練の工程を一通りやって見せた俺に苦言とも聞こえる言葉を寄越してくる。
「貴方に憧れて無茶する子とかも居るから心配なんだよ」
「緊急時は何が起こるか判らないんだ。訓練で学んだ以外の事をするな。とは言えない。それに、俺が勝手にそいつの上限を決めて押さえ込むのも可笑しな話だ」
「ふぅん、貴方なりに考えてはいるんだね。そういえばさー」
 泥だらけになったためシャワー室に向かっていれば、ハンジがついてきて話しかけてくるが、訓練の話以外は言う事がばらばら、あちこちに飛びすぎて結局、何を言いたいのかさっぱり判らない。
「おい、回りくどいぞ。言いたい事があるならさっさと言え」
「じゃあ訊くけどさ、なんかしでかしてない?」
「訓練は順調だった。何問題はない」
 お前も見てだろうが。
 訓練は滞りなく進み、部下達の仕上がりも上々。何を問題視する事がある。
「いや、訓練じゃなくって、最近、顔が怖いって評判だよ?主に私とエルヴィンの間で」
「あぁ?」
 意図を図りかね、睨め上げれば、へら。と、ハンジが笑う。
「いやー、お見合いして子供預かってから難しい顔してる事が増えたからさ、こりゃなんかしでかしたんじゃないか?って。部下達も怖がって遠巻きにしてるよー」
「しっ……、しでかしてはない……」
 一瞬動揺して言葉を噛んでしまった。
 それを見抜けないハンジじゃない。
 益々笑みが深くなり、俺の苛立ちが増していく。
「ほらー、唯一の友人である私に言ってごらん?なにかいいアドバイス出来るかもよぉ?」
 絶対面白がっているだけだ。としか感じず、無言を貫いてシャワー室に入った。
 汚れを落として食堂に行ってもハンジは正面に座り、笑顔で俺の言葉を待っているようだったが、お前に相談するようなしでかしはない。とっくに自己解決済みだ。恐らく。
 エルヴィンが上層部会議に出ており、二人して絡んでこなかったのは幸いか。

 昼休み以降はハンジも忙したかったのか茶化してこなかったが、今日は訓練以外の事で疲れ、異様にむしゃくしゃしていたので、ジャンの好きそうな食事類を買ってから帰宅した。
「どうしたんですかこれ……、ご飯作ってますよ?」
 帰宅途中にある洒落た店で出しているオムライスとチキンカレー。渡せば喜ぶかと思ったがあまり歓迎をしている様子はない。好みを外したか。
「俺のご飯美味しくなかったですか……?」
「いや、美味いが?」
 ジャンが眉を下げ、俺に怯えたように目を合わさず、ぼそぼそと問うてくる。ジャンは決して料理が下手ではない。味も良く、小器用に作るな。と、感心するくらいだ。急にどうしたのか。何か不安になるような事をしたか。
 暫しジャンを見詰めながら、無言で考え込んでいれば持ち帰りが原因か。と、思い至る。
「勘違いをするな。お前の作ってくれた食事は俺が食う。これはお前用だ。喜ぶかと思ったんだ」
 間接的に、お前の作る物は不味い。これを夕食として並べろ。とでも言われたように感じたのかも知れない。ジャンが常に否定的な言葉で育ったのなら、些細な行動も否定されたのだと感じかねない事を失念していた。
「あー、その、お前の作る物は美味い。大丈夫だ」
 精一杯、言葉を補いつつ、自分でも何が大丈夫なのか良く解っていない。不安にさせるつもりはなかったんだ。どうすればいいのか、何が正しいのか、これは難しい。
「あ……、じゃあ半分こにしましょう」
 逆に子供に気を遣わせてしまった。
 自分の不甲斐なさに打ちひしがれながらの食事は中々辛い物があり、俺は作ってくれた物も全部食べたが、ジャンは半分にしたオムライスとカレーは明日の弁当にすると言って冷蔵庫にしまっていた。
「その……」
「はい?」
「いや、なんでもない」
 わざわざ言わなくても、これからは伝えればいいか。
 そのための携帯電話だ。自己完結をして先に風呂に行き、ジャンと入れ替わりに出る。
 適当に髪を乾かしてから寝室に行き、ベッドに転がって悶々と悩んでいれば、程なくして髪を乾かす音が隣から聞こえてくる。家に帰っても家事と、直ぐ寝るだけの生活。ジャンはこんな男と暮らしていてつまらなくないんだろうか。

 今度、ゲーム機でも買ってやるか?
 この家はテレビすら置いてないから気晴らしや遊びが何もないしな。
「あ、まだ起きてたんですね」
 ベッドに入って直ぐ眠れる俺が起きてぼけっとしていたのが珍しく感じたのか、ジャンが入ってきながら話しかけてきた。
「ん、今度ゲームでも買いに行くか?」
「欲しいものがあるんですか?」
「得には……」
 唐突な提案に加え、俺が欲しくもないのに買いに行くのが不思議なのか、ジャンがきょとんとしていた。
「いや、お前にな……、つまらんだろうと……」
 確かゲームはしないと言っていたが、する機会がなかっただけなんじゃないだろうか。とは思うが、これは俺の押しつけか。
「暇な時はいつもどうやって時間を潰してるんだ?」
「時間が空いた時は勉強してるか、図書館で借りてきた本とか読んでますね。あ、ネットだと無料で読める奴あるんで最近はそれも良く読んでます」
「部下でソーシャルゲームか?嵌まってる奴が多いんだが、それはやらないのか?」
 訊いてもジャンはピンとこないらしい。
 スマートフォンに様々なゲームがお勧めとして出ては来るらしいのだが、良く解らないからと遊ばないらしい。課金要素などもいい話を聞かないため怖いと言う。堅実ではあるが、発想が少々、老人臭い。
「あ、調べ物は活用してますよ。本当に便利ですね」
 レシピに困ったら、食べたい傾向を曖昧にでも検索すれば何かしらは出てくるため、大変役に立っているようだ。無駄になってはいないようで安心する。
「ん、欲しい物があったら遠慮なく言え」
 そう締めくくって布団の中に入れば、ジャンも習って食パン型のソファーベッドを広げ、布団に潜り込んでいた。毎度、もう少し、子供らしく我が儘を言えばいいのに。とは思うが、『らしく』の定義も俺の主観でしかないし、名目上は婚約者だが、飽くまで保護しただけの相手だ。気を遣うだろう。
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
 眠りの挨拶をして目を閉じれば直ぐに脳は入眠姿勢に入る。
 何かしてやりたい。との気持ちばかりが先走っていたせいか、熟睡する前に夢を見た。
 花やら玩具やら食い物など、やたら物を上げている夢だ。夢の中では嬉しそうに笑ってくれていたが、現実では果たして喜んでくれるのか。

 そして目が覚めた際に夢を反芻し、『俺はジャンに笑顔で居て欲しいのだな』と、腑に落ちる言葉を思いつき、自分の心を知った。

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