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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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くゆらせる

・2014/12/20くらいに書いたの
・大学生ライジャン
・言い訳がましくはないが、小賢しい感じのライナー
・のほほん羊なジャン
・煙草の話






 ゆらり、ふわり、煙が広がって空気に溶けるように霞んで消えていく。

 外灯に照らされた黒い塊が火の点いた煙草を口に含んで吐き出し、肺まで飲み込んでまた細い煙を吐き出す。
 部屋を真っ暗にしながらベランダの硝子戸を開け、窓際の壁に背を預けて紫煙をくゆらす友人の姿は厭に様になっており、見ていれば黒い紙に包まれた部分が徐々に赤い火に侵略され、灰となって落ちた。
 酔ってぼんやりでもしていたんだろう。

 友人は俺が見ている事に気づくと根元まで吸い終えた煙草を空のペットボトルの中に捨て、中に少量残っていた水分のお陰で火が小さな音を立てて消えた。
「起きたか?」
「煙草吸うなら携帯灰皿くらい持てよ」
「はは、滅多に吸わんからなぁ。偶にくらい許せ」
 酔って寝てしまった自分を連れ帰ってくれた恩人に向かって悪態を吐いても、友人、ライナーはどこ吹く風だ。
「偶にぃ?俺んちには灰皿ねーぞって言ってんのに毎回吸いやがってんだろ」
 布団代わりにかけてくれていたチェスターコートをライナーに返しながらも生意気な口は止まらない。本当はそんなに気にしていないのに。
「そうだったか?ま、一本くらいいいじゃねぇか、固い事言うなよ」
 文句をつけられている本人も換気しながら吸う以上の遠慮はしない様子で告げる。
「ま、俺は心が広いからな、許してやるよ。ほら、さっさと閉めろよ。暖房入れっから」
 恩着せがましい口ぶりで硝子戸を閉めるよう指示を出し、ライナーの動作に合わせてガスファンヒーターのスイッチを入れる。

 壁にかけられた蓄光式の時計を見れば時間は十一時頃。
 友人達との飲み会は七時開始だったはずで、俺が酔い潰れたのは何時ごろだろう。部屋の中は煙草など吸わずとも吐き出す息が白く濁るほど空気は冷えている。
 俺が目を覚ますまでどれくらい待っていたのか。酒が入って体が火照っているとは言え寒かっただろうに、人にコートまで与えて良く我慢していたものだ。

 冷たい外気が遮断され、室温が上がって来れば、冬眠から覚めたばかりの熊のような動きでライナーが温もりの側へと移動する。
 近づけば香る煙草の匂い。それにわざとらしく背を向ける。

 ライナーが煙草を吸う姿は如何にも男らしく、格好良さに同じ男として少々嫉妬じみた感情が湧いてしまうからだ。
 更に言えば、そこらに売ってあるありふれた煙草ではなく、海外の珍しい煙草と言うのも気障ったらしいが似合っていた。が、残念ながら匂いは合っているとは言い難く、それが溜飲を下げてくれた。
「ったく、部屋がチョコレートくせーんだけど」
「いいじゃねぇか、甘ったるくて」
「どこの女の部屋だよ」
 良くある普通の煙草の臭いの中にチョコレートのような匂いが混じった煙草。曰く、売ってある自動販売機もこの町に一つしかないらしい。だから同じ物を吸っている人間には出会った試しがない。と言うか、煙草と言っても、ほとんど女が好むようなアロマなどを連想させる為、男で吸っているのはこいつくらいではないかと思われる。
「お前さぁ、前はそんなもん吸ってなかったよな?あれか?新しい彼女の趣味とか?その割に俺とばっかつるんでっけど上手くいってねーの?愚痴ぐれー聞くぞ?」
「ん、教えてくれたのは女だけど、別に俺の女じゃねぇよ。知人かな?珍しいもん集めるのが趣味なんだとさ」
 女性と一緒に居ても恋人ではない。ライナーの付き合いの広さであれば有り得そうな話だ。
「まぁ……、俺はこう言う甘ったるい匂いは嫌いじゃねぇし、匂い付けは基本だろ?」
「急に何の話してんだよ」
 意図の見えない言葉に反応しての質問には答えず、ライナーは俺に向かって、ただにんまりと目を細めて笑って見せた。何を考えているかは解らないが、とても機嫌が良く楽しそうだとは感じた。
 温かい風に当たりながら考えてみる。
「あ、解った。香りに癒されたいけど、アロマとか買うの恥ずかしい。だから煙草にしてみたけど自分の部屋にヤニが付くのが嫌だから俺の部屋」
「はっはっは、随分な名推理だなぁ。ま、そう思ってて構わねぇけどな」
 予想は違ったらしい。だが、やはりライナーは楽しそうに、くつくつ喉で笑う。特別、煙草が好きで吸っている訳でもなく、アロマの代わりでもない。幾ら考えても正解を導き出せず、答えを求めるがはぐらかす。こんな仕様もない言葉遊びをするような男だっただろうか。
「ま、ヒントは出してるから、思いついたら言って見ろ」
 ヒントなどいつ言った。揶揄るように目を細める表情は、兎を追いかけて不思議な世界に迷い込んだ少女が出会った、実に人を食った笑い方をする猫に良く似ていた。
 如何にもこの状況を楽しんでいます。と言う表情。短くも浅くもない付き合いではあるが、どうにも解らない行動が最近多い。

 所詮は他人だ。
 お前の事は全て解っている。などと言うのはおこがましいだろう。
 だから、お手上げと降参して訊いているのに、行動の理由を教えてくれない。単に意味などないだけかも知れないが。
「あー、もういいや、眠いから風呂入って寝る!」
「はいはい、行ってらっしゃい。俺はもうちっとのんびりしてる」
「家の主より寛ぎやがって……、寝たかったら勝手に寝ていいからな」
 俺の投げ捨てるような言葉にライナーも適当に返事を返す。

 シャワーを浴びて戻ってみれば言われた通り、勝手に人の布団を奪ってライナーは寝ていた。酔った頭も幾らかすっきりしたが、結局、急に煙草を吸いだした理由も、わざわざ俺の部屋で吸う理由もさっぱり解らなかった。が、それよりも、この寒い中で布団を占領される方が重大な問題だった。
 暖房を消し、べちべちとライナーの頭を叩いて叩き起こし、ベッドへと促す。
「狭い……」
 ライナーが眠そうな声で不満を言うが、シングルのベッドに男二人だ。狭いと解り切って文句を言わないで欲しい。
「お前がでか過ぎンだよ、ちょっと縮め」
「無茶言うな、もっと近く寄れよ……、落ちる」
 ライナーがチョコレートと酒の匂いを振り撒きながら体を寄せてくる。
 ベッドの狭さは大きな湯たんぽと寝ていると諦めれば悪くないと諦められた。

 ■ □ ■

「なぁジャン、お前さ、最近香水か何かつけてるか?」
 大学の空いた講義室で親友のマルコと隣り合って座って食事をしていれば唐突に問われた疑問に目を丸くして、次に不安に視線を彷徨わせる。
「そんなもん一切付けてねーぞ?……何か臭うか?」
 風呂にもきちんと入っているし、服も洗濯したものを着ているはずだ。しかし、親友の言に思わず気になってしまい袖口を引き上げて、鼻を寄せてみる。
「いやいや、臭い訳じゃないんだよ。何て言うかココアみたいな……」
「はぁ?別にココアなんて飲んでねーけど?……あ、あれだわ」
 否定してみてから、ぴんときた。
 溜め息交じりに声を漏らし、首を撫でてから口を開く。
「ライナーだよ、ライナー。あいつ最近、煙草を俺の部屋で吸うんだよ」
「え、ライナーって煙草吸ってたっけ?見た事ないよ」
「そりゃな、俺の部屋でしか吸わねーみたいだし、知らなくて当然だろ。その煙草がチョコみたいな匂いがすんだよ。服か髪に匂いがついたんかな」
 脳裏に窓辺で煙草を吸うライナーを思い浮かべながら、あの独特の匂いも思い出す。
 服用の消臭液でも買ってくるべきか。少しばかり悩んでいると親友が怪訝な表情を浮かべ、訊いてきた。
「わざわざお前の部屋だけで?」
 と。
「あぁ、俺が他で吸ってんの見た事ないってだけだけど。他の奴からも聞いた事ないし、飲み会で勧められても断ってるだろ?」
 ライナーの不思議な行動も含めて話してやると、マルコが呻って考え込んでいる。
「……ライナーは、良くお前の所に来るのかな?」
「うん、ほらあいつも料理出来るし、家近いし、お互いに飯作って、持ち寄って一緒に食ったりしてるぜ。一人で何品も作るより楽だし、人も食うって思ったらバランスも考えるしな」
 頭いいだろ!と言いたげに鼻を鳴らして、にまっと笑ってやる。
「しょっちゅう同じ部屋で一緒に居る訳だ……」
「うん……、どうせ行き来するから合鍵も渡してっけど?」
 何か問題でも?と、首を傾げてマルコを見ていたら酷く苦々しい表情を浮かべ、俺を見詰めている。
「何だよ、変な顔して。どうかしたのか?」
 コンビニのサンドイッチを頬張り、マルコを何となく眺めていると、苦々しい表情は更に渋くなってゆき、最終的には呻りながら目頭を押さえて悩み出した。
「あー、うん。お前が幸せなら、別にいいけど、嫌ならちゃんと拒否しないと駄目だよ?」
「別にライナーと居て嫌なこたねーよ?煙草もヘビースモーカーって程でもないし、今の時期は窓開けられると寒いけど、言えば換気扇の所とか……」
「はいはい、そんなに必死になって庇わなくても大丈夫だよ。お前が嫌じゃないんならいいってば。ごちそうさま」
「もうか?まだ弁当半分以上残ってんじゃねーか」
 マルコの手元にある弁当を見ながら言えば違うと返され、呆れ返った表情と共に頭に手を置かれ、髪をぐしゃぐしゃにされた。
「何すんだよ。折角セットしたのに……」
 残りのサンドイッチを口に放り込み、文句を言いながら簡単に手櫛で整えてみるが鏡が無い為、今、頭がどうなっているかすら判らない。
 スマートフォンの黒い画面に自分を映して確認しようと取り出せば、メールか不在着信か、通知ランプがちかちか光っていた。
 液晶を点灯させ、ロックを解除してみればライナーから『今日行く』それだけの短いメールが放り込まれていた。
 今日、俺の部屋に来るのは既に決定事項のようだ。確かに今日はバイトもなく、夜は予定も入っていないが、あまりにも突然で、俺が受け入れるのが当然と疑ってかからない態度に画面を見ながら思わず笑みが零れた。
「どうした?」
「いや、噂をすれば影って本当だな」
 液晶画面をマルコに見せながら笑っていると、どこか困ったような、照れたような笑みを返された。
「はいはい、幸せそうで宜しいですこと。じゃ、僕次があるから行くよ」
 中途半端だった弁当を食べ終わり、蓋を締めてますが席を立つ。
「まだいいだろ?ゆっくりしとけば?」
「へーきへーき、これ以上中てられたくないし」
「何だよ、中てられるって」
 意味不明な科白を残して去って行く背中を見送っていれば、マルコは講義室を出ていく間際に、にこやかな微笑みを浮かべながら手を振って出て行った。何となく、釣られて笑い返して手を振った後で妙に気恥ずかしくなり、一人で赤面なぞをしていたのは、あまり人に見られたくない姿だ。

 ■ □ ■

 自分の部屋に帰り着けば、玄関を開けた瞬間から鼻孔をくすぐる匂い。
 中に居る時は全く気が付かなかったが、外から帰った今なら解る。いつの間にか、部屋に染みついていた匂い。それは自分も例外ではなく。

 気が付かない内に匂いに侵食されていた部屋と自分。
 住み慣れた部屋のどこに行っても同じような匂いがする。窓を開け、換気扇を回して換気をしても、鼻が慣れてしまえばまた知らない間に匂いは籠り、自分の体にも染みついてしまうのだろう。
 眉根を寄せて頭を掻く。こうやって人の体臭と言うものは作られるのだろうか。いや、今は作られていると言うより、作り変えられていると言った方が正しい。
 特に自分の匂いが好きな訳ではないが、どんどん香りが塗り替えられていく部屋と自分に戸惑う。今も、『あぁ、ライナーの匂いか』と思っただけで不愉快に思う事はなかった。
 煙草の臭いなど良い匂いではないのだが。微かに混ざる甘ったるい、チョコレートの匂いのせいだろうか。

 考えてみれば、ここ最近、他の友人や知人から香水や煙草の使用、誰かから服を借りたのか。そんな質問がとみに増えた。
 移り香だと言うと、表情をにやつかせる者、妙にあれこれ質問し出す者。ライナーと共通の友人であれば同じ臭いに気付く者。
 煙草の事を言ってもライナーの親友である男からは一切しない匂いだと指摘されて返答に困る。
 何かを察したように含みのある笑いや、言葉をくれる者すら。
 幾ら洗濯をしても、掃除をしても、直ぐに同じ匂いが纏わりつく。纏う香りに焦燥めいた感情が沸々と沸き起こるのを、俺は否定出来ずにいる。

 ■ □ ■

 今日も、ライナーは出窓を開けて煙を吐き出している。
 香るチョコレートの匂いと、その中にある煙草の臭い。
 すっかり馴染んだ匂いになってしまった。
「飯食うぞ、寒いからさっさと閉めろよ」
 寒い、暑いの文句だけはしっかり言うが、
 肝心の言葉だけが出てこない。

 口から細く長い煙を吐き出して、いつもと同じようにライナーは目を細めて笑う。
 何度言っても、いつまで経っても携帯灰皿を買わない為、渋々と買い足された陶器の灰皿に煙草を擦りつけて火を消すと窓を閉めた。

 互いに持ち寄った料理を食べながらする何でもない会話。大学での事や、バイト先の事、他の友人の事。話が途切れ途切れになり始めた頃にライナーが問いかけてくる。
「答えは解ったか?」
 目を細めて緩やかに弧を描く口元。話の前後から質問の意図が判らず降りる沈黙。
「解らないなら、今度は行動で示す事になるがいいよな」
 ライナーは問うているのではない、既に決定事項を告げている。
 机を挟んだ対面から、隣へと移動し、ひたりと顔に触れた。つい先ほどまで煙草を持っていたせいか、より強く甘ったるい匂いと刺激のある匂いが香ってくる。
「匂いをつけたら、今度は印だな」
 何の。とは訊き返せない。近づいてくる顔から逃げる事も、背ける事も。

 触れた唇からは食べてもいないチョコレートの甘い味と、味わった事の無い苦みが口の中に広がり顔を顰める。
「煙草の、味?苦い……」
「苦いのは嫌いか?」
「うん……」
「じゃあ止める」
 事も無げに言ってから、煙草の代わりのようにライナーは俺の唇を吸う。
 何度も角度を変えながら、触れては離れ、静かな部屋にじゅ、ちゅ、と水音と触れ合う音が響く。唇を覆われて、隙間から唾液が伝い、床に落ちるが気にする余裕はない。
 たった数十秒か、数分か、時間の感覚が判らない。伝い落ちた唾液を拭うのも忘れて、ぼんやりと目の前の男を見詰めていた。

 ライナーが肩口に顔を埋めると、ちくりと痛みが走り、身を引こうとすると、きつく抱き締められて幾つか赤い痣がつけられた。隠すなよ。と厳命付きで。
「マーキングなんだから、他の奴にも、解んなかったら意味ねぇだろ?」
 ライナーの笑みが深くなる。
 どうにも、既に逃げられそうにない。上手く逃げていると思い込んでいたら、それも計算の内で、徐々に追い詰められて、気が付けば狩人の巣穴の中。何て間抜けな獲物の話だろう。

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