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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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 死が二人を分かっても

・2018年10月21日くらいに書いた物に追記
・チェンパズフランケンジャンに滾った結果
・突発で書いたので薄眼で見て欲しい
・ファンタジー
・メリーばっとエンド系
※欠損、縫合、死体などのややグロイ表現があるので注意





 手術が始まって何時間が経っただろう。
 手術室にかけられている振り子がついたアンティーク時計を眺め、振り子が揺れた数をジャンは数えていたが、それにも飽きてしまい、真剣な眼差しで自分の左肩を手術しているベルトルトを見やる。
 かち、かち、かち。深夜も過ぎた静かな夜に、時計の振り子が揺れて秒針が進む音と、ベルトルトの息遣い、そして、一度は失ったはずの自身の鼓動だけがやたらと響く。

 何の神の悪戯で、俺はここに居るんだろう。
 考えても考えても解らない。

 血管、筋肉組織、そして皮膚。最後の一針を通し、縫合を終えると、ベルトルトは近くにあった椅子へと崩れ落ちるように座り、服の袖で浮き出た汗を拭っている。
「繋いだばかりだから、あまり動かさないようにね」
 体を起こそうと身じろいだジャンを見咎めるようにベルトルトが慌てて言った。
「あぁ、あー、うん……」
 これは、誰の腕だろう。
 左肩から新しく繋がれた白く滑らかで華奢な腕。細く、しなやかな指はどう見ても男の手ではない。
「どうしたの?痛い?全部綺麗につないだつもりだけど、違和感があったりする?」 
「まぁな、主に見た目が」
 ジャンがそう言えば、言いたい事を察したのかベルトルトが謝罪を口にした。
「その、最近死んだばかりの人が女性で、ジャンに腐った腕なんかつけられないし……、嫌だった?」
「嫌っつーか……、また墓荒らしをしてきたのか?まじで町の人に嬲り殺しにされるぞ」
 ジャンは溜息を吐き、ベルトルトの身を案じる。
 亡くなったばかりの人の墓を暴くなど、死者への冒涜もさる事ながら、愛する者の安らかな眠りを妨げた存在への遺族の怒りは計り知れないだろう。
「そんなものより、また、君を失う方が僕は怖い」
 手術台に横たわるジャンの頬を撫でながら、ベルトルトは苦しげに表情を歪める。
 ジャン自身、己が死んだ原因は思い出せないが、疾うに失った命をどうにかしてベルトルトが蘇らせた事は理解出来た。深い闇の底から戻り、瞼を開けた瞬間に飛び込んできたのは、髪はぼさぼさ、無精髭も生やしっぱなしで、憔悴し切っていたベルトルトの姿。
 ジャンがその姿を問い正す間もなく名前を呼びながら体が軋むほどに強く抱き締め、溺れてしまいそうなほどの涙をジャンの顔に落としながら喜び、もう決して君を死なせはしない。と、宣言した。
 元々、医師だったベルトルトの腕の良さは知っているが、死者を蘇らせるとは、死神とどんな取引をしたのやら。頬を伝う涙の暖かさを感じながら、何となしにジャンは思った。
「こんなつぎはぎで醜いもんを良くそんなに大事に出来るな」
 ベルトルトの言を信じるとすれば、死んだ原因は滑落事故らしい。
 落ちる際にあちこち叩きつけられ、皮膚が、肉が抉れ、骨が砕けた上に体の一部を失った死体はさぞ凄惨な有様だったろう事は、顔や、体中にある消えない縫合痕が物語っていた。
「どんな姿になってもジャンはジャンだよ」
 自身を否定するようなジャンの発言にベルトルトが苦笑を浮かべ、椅子から立ち上がるとゆっくりと負担をかけないようジャンの体を起こし、繋げたばかりの左腕を胸部に添えて固定するように包帯を巻いて行った。
「今度はきちんとくっつくといいんだけど」
 そうっと、ベルトルトがジャンの肩に触れ、不安な様子で零す。

 簡潔に状況を説明するならば、つい三日ほど前にジャンの左腕が落ちてしまったのだ。
 目を覚ましてから半月ほど経つと、ジャンは左腕が動かし辛くなっていった。可笑しいと言う自覚はあったのだ。だが、痛みもなく、動かし辛いだけで、使えない訳でもない。この違和感をどう表現していいのか判断が上手く出来ず、放置している間に腕は異臭を放ち始め、とうとう落ちてしまった。
 当然、ジャンはベルトルトに早く言えと叱られてしまった。曰く、腐食した腕がジャンの体まで蝕んだりしてしまったらどうするんだ。と、どこまでも案じる様子で。

 そして、知ってしまった。
 自身についていた左腕は、ベルトルトが最近、死んだばかりの人間の墓を暴いて盗んできた腕であると言う事を。
 縫合痕だらけの右腕と比べ、左腕はやたらと綺麗だと感じていたが、道理でそのせいだったのか。ジャンは納得せざるを得ず、同時に全く、俺のためとは言え碌でもない事をするものだ。と、呆れた。
 利き腕は右腕で、ないならどうにかするから、左腕などなくともいい。そうジャンは言ったが、今日になってベルトルトがどこからか腕を調達して来てしまったため、手術の提案に頷くしかなかった。
「また俺が死んだら、今度はちゃんと諦めろよ」
「無茶言わないでくれ。君が居ないのなら生きていても意味がない……」
「あのなぁ、そもそもが死んだ時点で諦めろって話なんだよ。お前って奴は……」
 ジャンの体を壊さないように、柔らかく触れてくるベルトルトの情を果てしなく重く感じた。

 本当に愚かだ。
 こんな生活が、いつまでも続くはずがない。

 一度は生を取り戻した。だが、付けたはずの他人の腕は崩れ落ちた。
 傷を負っても痛みを感じず、暑さや寒さ、何を食べても味を感じないばかりか、触覚、嗅覚等の感覚も鈍く、体温も著しく低い。まともな生命活動を行えているのか疑問に思うほど。
 恐らくは、そう遠くない『いつか』。ゼンマイ仕掛けの人形のように、鼓動も緩やかに止まっていくだろう事は想像に難くない。その間に、どうやってベルトルトに己を諦めさせるのかが大事な課題だ。
「頭のいい馬鹿ってお前みたいな奴の事言うんだろうな」
「馬鹿でいいよ。君が側に居てくれるなら」
 動く右腕で、ジャンはベルトルトの髪を撫でながら目を閉じる。

 ジャンとて、一度、死んだ身といえど感情がある以上、死を思うのは怖かった。
 ベルトルトだけではなく自身も納得する生の終わりを考えなければならない。どうするべきか、考えて考えて、考えた所で、果たして答えは出せるのだろうか。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 ゆるゆると、怠惰な時間は過ぎていく。
 今度の腕は具合がいいようだ。
「ジャン、お茶が入ったよ」
 ベルトルトが庭に設置された瀟洒なテーブルに茶器を並べ、朗らかに笑っていた。
 穏やかな日差しが大木の葉の隙間からこぼれ落ち、光と影がちらちらと動く。
 いつまで。ジャンは頭の中で呟きかけ、一つ息を吐いてベルトルトが手招く庭へと歩みを進めた。一度生を失った体の動きはゆったりとしている。昔のように早く歩けたら。走れたら。そうは思えど無い物ねだりをしても仕方が無い。そろそろと歩いていればベルトルトが近づき、ジャンを横抱きにする。
「体動かすのきつい?」
「サクサク動けねぇってだけだよ」
 ぎこちないとは違う感覚。
「生活は普通に出来てるから、まぁいい方だろ」
 ジャンは両手を前に伸ばし、自身の手をじ。と、見比べる。
 太くはないが筋張った男の右手と細く華奢な女の左腕。生命活動が緩やかなせいか爪も然程伸びず、怪我をしても修復は著しく遅く、一度血が滲んだら中々止まらない。お陰でベルトルトの過保護は加速してしまった。

 椅子に座らされ、心地好い木漏れ日を浴びる。
 本来ならば、もう二度と得るはずのなかったもの。
 本当になんで死んだんだろう。そうジャンはお茶を口に含みながら夢想する。
 ベルトルトの恋人兼助手として働いていた事は思い出せる。しかし、記憶にある家屋はこんな山奥ではなく、もっと開けた町中だったはず。死んだ後にベルトルトがここに移ったとしたら合点もいくが、良く解らない事ばかりでしかない。
「なぁ、俺が死んだ時ってどんな状況だったんだ?」
「言わなかったっけ?」
「崖から落ちたってしか聞いてない」
「そうだったっけ?」
 ベルトルトが小首を傾げ記憶を辿っているようだが、彼は今ジャンが生きている事の方が重要で、失った時の出来事はあまり思い出したくないのか積極的には口にしない。
「往診の帰りにね、森の中を通った時に強盗に遭ったんだ。行き倒れた人間の振りした奴が居て、ジャンは目端が利くし優しいから放っておけなかったんだ。馬車を止めて君がそいつを介抱しようとしたら……」
 話ながら、ベルトルトが眉根を寄せ、悔しそうに唇を噛んだ。
 介抱しようとして傍に膝をつき、手を差し伸べる。その手を取り、強盗であれば人質に取るか、隠し持っていたナイフで胸を一突きか。
「お金なら渡すし、何でもするから止めてくれ言ったよ。でも……」
 ベルトルトの口は重い。
 想像しながら聞いていた通り、不用意に近づいたジャンが人質に取られ、ベルトルトは命乞いをして解放して貰おうとしたが、願いは叶わず金を受け取った強盗はジャンを崖から落とし、ベルトルトをも殺そうとしたそうだった。しかし、最愛の存在を殺されて激高したベルトルトが逆に強盗を殺してしまったと。
「そんなに強かったっけお前……?」
「僕もどうやって殺したか覚えてない、必死で……、それよりも落とされた君の事の方が気になってたから……」
 結果的にジャンは崖下で絶命していた。と、ベルトルトはそこで口を止め、温くなったお茶に口をつけた。

 自身の財産、身を投げ出して守りたかった存在の死を目の当たりにして悪魔か、死神と最悪の契約をしてしまったのか。
「そこから俺を生き返らせるなんざ、お前には恐れ入るよ」
「成功して良かったよ……。そうじゃなかったら……」
 ベルトルトが微笑を浮かべ、悲しそうな瞳でジャンを見詰める。
 ジャン自身が目を覚ました際に見たベルトルトを思い出し、成功しなかったら絶望の沼にはまりこんだまま、衰弱死でもしていたのではないかと考える。
 束の間でも幸せであればいいのか。
 愛おしそうに見詰めてくる視線を受け止めながら、ジャンは薄く笑う。
「死が二人を分かったとしても、僕は諦めない」
「流石にそこは諦めてくれよ」
 ジャンは苦笑し両手で握り締めてくる手を傷だらけの手で包む。
「俺が居なくなったら死ぬなんて言うんなら、俺が死にそうになった時にお前を殺してやるよ」
 そうしたら、人を殺した罪で自分も地獄へと行くだろう。
「死が二人を分かったとしても、逝く場所も一緒ならいいだろ?」
「そうだね」
 ジャンの言葉にベルトルトは肯定し、幸せそうに微笑んだ。午後の爽やかな風が吹く中で行うには不適切な会話と言えるが、誰も聞いている者は居ない。

 所詮朽ちるしかない運命なら、ここまでしてくれた相手なのだ。
 どこまでも共に付き添ってやるのもいいだろう。
 この冷めてしまったお茶をたしなむように。

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