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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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しつこい片思い

#ベルジャン(AOT)
・ありがちな家庭教師ネタですみません
・べさんは字が汚そうだなって思ってる
・5W1Hの話は適当に考えた奴です
・先生が優秀に見えなかったら申し訳ない
・2022/03/06書いた






 初めまして。
 優しく微笑んで挨拶してきたその人は、とても綺麗で緊張した。

 ジャン・キルシュタイン先生はうちに新しく来た家庭教師。
 家庭教師派遣センターから参りました。と、挨拶をしてくれた時はモデルみたいに身長が高い上にスタイルが良く、顔立ちもきりっとした細面で整ってて、色素の薄い長めの髪もさらさら揺れていい匂いがしていたから手汗が凄くて握手なんてとても出来なかった。
「成績はいい方って聞いてのは聞いてましたけど、家庭教師要らないんじゃないですか?」
 一先ず学力確認のため。と、僕のテスト結果を見て、キルシュタイン先生が薄く髭の生えた細い顎を撫でた。全て九十点台だったからだろう。
「でも、満点じゃないと意味ないって……」
「そんなにスパルタな親御さんには見えなかったけど……、あ、すみません。勝手な事言って」
「お父さんが病気がちだから色々心配みたいで、何でも出来るようになっておきなさいって言われてます……」
 へへ。と、笑って正面からキルシュタイン先生を見る。
 優しい口調で丁寧に接してくれる先生は今までにも居たけれど、ただ課題をやらせるばかりの機械的なやり方で、質問をしようものならどこか面倒そうに眉間に皺を寄せる人も居た。それでは成績も母が納得するほど上がらず、キルシュタイン先生が来たのだけど、これはこれで集中できるか自分でも解らない。慣れたら大丈夫なのかな。
「あ、すみません。俺、目つき悪くて威圧感凄いでしょ。出来るだけ邪魔にならないように床の方に座ってるんで、ゆっくり勉強しましょうね」
 僕があまりにも目を合わせようとしないから、怖がってるのかと気を遣わせてしまった。
「い、いえ、人見知りで……!緊張してるだけなのでお気になさらず。僕も身長のせいで圧が凄いって良く言われてて、いつも頑張って気配消してるんですけど……」
 何を言っているんだろう僕は。
 先生に気を遣って欲しくなくて無駄な話がべらべら出て来てしまう。
 身長がもうすぐ一九〇を越えそうだの、父の病気の具合だの、親友のライナーの事、幼なじみのアニの事。学校は進学校だから運動よりも勉強が大事にされてる事、受験だから皆ぴりぴりしていて空気が重いとか脈絡もなく一方的に話した。
「ベルトルト君は、バスケ部なんだっけ?十五歳でそれだけ身長高かったらバレーとかも勧誘されるんじゃないですか?」
「は、はい……、でも、来てって言われたらなんでも……」
「凄いな。本当に何でも出来るんですね」
 先生は僕のどもりまくっている話を聞き流さずに聞いてくれている。
 これが生徒を懐柔するための彼の手段だとしても、なんだか嬉しくて顔が熱くなる。なんで男性の先生なのに、こんな風になるんだろう。

「うん、基礎学力は解ったし、今後、やってて欲しい課題も作って持ってきますね」
「は、はい……!宜しくお願いします」
 その日は顔合わせと確認だけで先生は帰っていった。
 母に先生の印象を訊かれたため、思いつく限り褒めたら母も気に入ったのか『大丈夫そうなら任せられるわね。頑張るのよ』との激励を貰った。僕の成績が上がらないと先生が首になってしまう。頑張らないと。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 それから、週末にはキルシュタイン先生が直接来てくれるようになり、平日分として十分ほどで出来る課題を渡してくれた。作ってきてくれた課題は先生の性格が反映されてるかのように丁寧できっちり整ってて綺麗で、それを僕の汚い字で埋めていく罪悪感。
 もっと字の練習するんだった。人見知りに加えて、これも僕が家庭教師の人から嫌われる原因なんだろうな。って今更思いついた。キルシュタイン先生には嫌われたくない。

 出来る限り丁寧に書いた課題を先生に渡し、他の課題をしている間に先生が採点してくれる。他の先生は当日に課題を渡し、僕が解いている間はスマートフォンか何かを見ていたと記憶している。キルシュタイン先生は実に効率的に進めてくれるから楽だ。
「んーと、文章作りとかが苦手ですか?」
 採点が終わった先生が僕に苦手項目を訊いてきた。
 僕の一番苦手な項目だ。
 本当に良く見てくれている。
「はい、書かれてるのを読み取るのはいいんですけど、自分で考えて作れって言われるとどうしてもペンが止まります」
 でも、それじゃ駄目なんだよね。
 解ってるんだけど、自分で自由に考えるって言うのがどうしても苦手だ。
「大学生になると教授とメールでのやりとりや論文作成とか、働き出すと報告書の提出とかもありますからね。基本は定文がありますけれど、そうじゃない場合もあるんで難しいですね……」
 それだけで評価が左右される訳ではないと先生は慰めてくれたけれど、やはり言葉と同じで上図に文章を綴れる人の方が評価や好感は持たれそうだ。
 本当に僕は昔から人にやれと言われた事なら大体出来たけれど、自分から自由にやりなさい。そう言われた途端、固まってしまって何も出来なくなる。通信簿に『もっと自主性や積極性を持ちましょう』との言葉は常連だ。
「どうやったら先生みたいになれるんですか?」
「へ?」
 先生がきょとん。と、目を瞬かせた。
 いつもの優しい綺麗な表情も好きだけど、驚いた顔は可愛い。
「俺……?」
「はい、初対面から気さくに話しかけてきて下さって、テストも文章が解り易くて凄いなと……」
「そう、ですか?どうって……、本は好きで良く読んでますけど……?」
 先生が自分の唇を触りながら首を傾げると、髪が流れて白い首筋が見えた。
 手足だけじゃなく、どこもかしこもすらっとしてて長いんだな。なんて目で見てたら先生が困ったように僕を見詰めてきた。
「そうだなぁ、ベルトルト君の場合、先ずは自分に自信つけないとだよね」
 僕の事を真剣に悩んでくれている。
 こんなに優しくて、人に付け込まれたりしないんだろうか。なんて勝手な心配をしてしまうのは余計なお世話だろう。
「自分が苦手意識がある物以外はそつなくこなせてるんでしょう?」
 頷いてみせれば先生はにっこりと微笑む。
 それなら、苦手意識が強すぎて本領発揮できていないだけだろうと。
「苦手は克服できるし、頑張ろうね」
 先生に言われたら、本当に克服できる気がするから不思議だ。
 論文などはまだ先なので、一先ずはテスト用の文章関係は定文型の作り方から勉強する。5W1Hを意識しろと何度も言われた。いつ、どこで、誰が、何を、何故、どのように。
 難しいようだが昔話、例えば有名な鬼退治の話を思い浮かべて見ろと言われ、ペンを紙に滑らせながら先生が解説してくれる。

 昔々『いつ』
 ある所。曖昧だが『どこで』
 おじいさんとおばあさん『誰が』
 山と川へそれぞれの仕事をしに『何を』
 そして大きな桃を発見した『どのように』

 これを意識するだけで話し方や文章は格段に理解し易くなり、まとまりが出てくる 。そう先生は教えてくれた。
 本当にキルシュタイン先生は教え方が上手だ。今までの先生は、『なんでこんな事も解らないんだ』なんて呆れていたのに。解らないから解る人に訊いてるんじゃないか。そう言いたくなる気持ちもあったけれど、解らない自分がいけないんだ。なんて俯いてしまっていた。
 キルシュタイン先生は、生徒にそんな真似をさせない。どんな事でも真摯に同じ目線でゆっくり噛み砕いて伝えてくれて、本当に解り易かった。

 キルシュタイン先生に一ヶ月ほど世話になった頃、模擬テストを受けると苦手だった部分がある程度は出来るようになっていた。喋るのは相変わらず苦手だけれど、文章ならどうにかなりそうな希望が出てきてとても嬉しくなったから、親よりも真っ先に報告したし、週末になってテストを見せると先生がもの凄く褒めてくれた。
 頭を撫でられた時、異様にどきどきしてしまったのは褒められ慣れていないせいなのか。

 この時間が永遠に続けば良いのに。
 どんなに願っても、時間は無情に過ぎていくし、受験の日は迫ってくる。

「いつも通り頑張れば大丈夫だから」
 キルシュタイン先生は僕に落ち着くように促してくれる。
 いつでも優しい先生。
「あ、あの……、お願いがあって……」
「うん、先生で良ければ聞くよ」
 多少砕けた口調になった先生は優しく僕を見詰めてくれる。
 それだけで僕の心臓は高鳴って、手には汗をかいてしまう。
「先生って、今、好きな人とか、恋人とかいらっしゃるんですか?」
「え?居ないけど」
 実に素直に答えてくれる先生をもっと好きになる。
「あの、合格できたら僕とお付き合いして貰えませんか?」
 先生の細くて長い綺麗な手を両手で握り締め、真っ直ぐに顔を見る。いつも人から目をそらしていた僕にしては、随分な進歩だ。先生が居たから。
「ベルトルト君、年上に憧れる気持ちは分かるけれどね、働いてる所の規約でそういうのは禁止されてるし、法律的にも宜しくない。そもそもね、誠実な人は未成年に告白されたからって『解た付き合おう』なんて言わない。子供は守る対象であって、自分の欲望をぶつける対象じゃないからだ。寧ろ、そう言う人が居たら逃げなさい。その人は目先の事しか考えない不誠実な人だから」
 一見、子供を適当に交わす説教にも思える。
 けれど、先生の持論から言えば先生は誠実な人で、他人を心底思いやって大事に出来る人なんだ。と、理解できた。
「解りました。でも、諦めないのは構いませんよね」
「あぁ、うん……、いいですけど応えられませんよ?」
「構いません」
 本当なら、振られたと落ち込む所なのかも知れない。
 けれど、僕はもっと先生が好きになってしまった。
「積極的に、とは言いましたけど……、俺なんかに積極的にならなくても……」
「僕は先生が好きです。今はそれだけで構いません」
 ずっと手を握ったまま告げる。
 『今』は、それでいい。
「受験前に、大丈夫ですか?」
「はい、寧ろやる気が出てきました」
「そ、そう……?」
 僕より先生の方が落ち込んで戸惑っている。
 困った生徒だと思っているんだろうな。
「頑張って追いつきます」
「うん?」
 僕の宣言の意味を、先生はきっと理解していない。何度も言うけど『今』はそれでいいんだ。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 無事に目的の高校に進学を果たし、先生は就職するまで僕の面倒を見てくれた。
「高校卒業まで見てやれなくてごめんな」
 最後の家庭教師の日、初期よりも大分砕けた口調になった先生が寂しそうに言い、市役所公務員の狭き門には落ちたが、中々良い会社に就職できたと先生が嬉しそうに語る言葉を、僕は一言一句漏らさないよう、脳に刻み込んでいった。
「寂しくなりますけど、今まで教えて貰った事を活用しながら頑張ります」
 僕がそう言うと、薄らと涙ぐんで先生は『お前ならやれる』と、応援してくれた。

 それからも、偶に報告をして先生の近況も教えて貰う。
 仕事にやりがいはあるけれど大変なようで、よく疲れているようだった。
 そして僕が先生と同じ大学に入ると喜んでくれたし、なんならわざわざ家に贈り物を持ってきてくれた。本当は僕から会いに行きたかったけれど、久々の直接の会話は嬉しくて、僕は目を細めて見詰めながら言う。

「先生、僕もう未成年じゃありませんよ」
 と。

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