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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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甘苦い日

・カカオからのチョコレート作りを頑張るジャン君
・強引なフロ君






 既に何度目か判らない溜息を吐き、防寒のためにもこもこと服を着こんだ状態で擂鉢に立ち向かって数時間。
「いつまでやんだよこれ……」
 金曜日に笑顔のフロックから渡された物に対して悪態を吐く。

 カカオ豆からチョコレートを作るキットらしい。
 へぇ、そんなのあるんだ?そんな感想を抱きつつ、何故、こんなものが渡されたのか判らない。面白半分で受け取るんじゃなかった。なんて後悔しても後の祭り。
 持って帰れば母親も面白がって最初こそカカオ豆を洗い、炒る作業は手伝ってくれたが、ダイニングで殻を割り続けていると次第に口数が少なくなり、
「母ちゃん、明日もあるから……、ごめん」
 母親は料理やお菓子作りが上手い。
 今までの経験から、これは途方もない作業になると察したのだろう。
 俺は手伝ってくれた礼だけを言って、地道な作業を続けていた。炒るだけで二十分、殻を剥くだけでも三十分以上、いや、一時間近くはかかっただろうか。流石に疲れを感じて紅茶を淹れて休んだ。
「後は……、擂鉢で頑張るだけか……」
 結構硬い豆だったような気はしたが、どうにかなるだろう精神で作業を再開した。
 そしたら地獄だった。豆は順調に小さくなっていったが、ある程度の粒になると押し潰しながら擂らなければならなくなってきた。それがまた、辛い。作成キットについていたフルカラーの解り易い説明書。ここまでなるように頑張れ!と、書いてある写真には、表面がつるつるして艶が出ていた。俺のは。と、言えば荒い土塊とでも言えばいいのか、細かく細かく擂り潰され、艶めいている物には程遠い。
 フロックは何を思ってこれを俺に渡したのか。嫌がらせか。このまま捨てたら駄目だろうか、駄目だよな。
「手がいってぇ……」
 全体的にじんわり感じる痛み、関節もなんだか鈍痛がする。
 それでもむきになって擂鉢を足に挟み込み、体重をかけながら擂って行けばどうにか写真の物に近づいた。時間は既に深夜。もう何時間擂っていたのか考えたくもない。
 これから、湯煎して溶かしていくようだが、水が入ると一気に今までの努力が無駄になるようだ。地獄か。俺は台所に移動し、擂鉢よりもやや小さめの鍋を選んでお湯を沸かす。指定された温度になったら焜炉をとろ火にして慎重に擂鉢を沈め、懸命に粉にしたカカオを捏ねていく。
「お、おぉ……」
 するとどうだ。
 本当に溶けるのかどうか不安になっていた杞憂を嘲笑うように粉は蕩けだし、艶が出てきた。感動に声が出る。
「これがチョコレートになるのか……」
 溶けだすと香りも強くなって良い香りが台所中に広がる。
「あんた、まだやってたの?」
 トイレか何かに起きたのだろう母親がダイニングに点いている電気が気になったのか見に来たようで、俺がにやにやしながら手招くと、最初は不振がったが擂鉢の中身を見て同じ反応を見せてくれた。
「あんた、あの硬いのをここまで、良く頑張ったねぇ」
 くすくすと笑いながら、母親が頭を撫でてくれた。
 面映ゆい心地にはなったが、本当に頑張ったから嬉しさが勝ってもじもじした。普段の俺ならうざがったはずだ。そのくらい頑張ったし疲れていた。
「ここまでなると一気に出来るらしい」
「そうなの、じゃあ母ちゃんもちょっと手伝おうかね」
「いいの?」
 母親は楽しそうに頷き、キットに入っていたシリコンの型を取り出した。カカオの形、スタンダードな板チョコにも出来る奴。
「砂糖はどのくらい入れたらいいのかね」
「百パーのと、ほろ苦、甘いのって作る?」
 母親が頷き、溶け易い方がいいだろう。と、粉砂糖を出してくれた。溶けた無糖チョコレートを二つほど型に流し込み、次に五十パーセント程度に粉砂糖を入れ、次は多めに入れて型に流し込む。
 間違えないようにメモを書き、冷蔵庫へ投入。朝が楽しみだ。
「お疲れ、固まるのが楽しみだね」
 俺が大欠伸をすると笑われ、労わられた。
「うん、取り敢えず風呂行く……」
「お風呂で寝たら危ないから、シャワーだけにしときな」
「んー……」
 痛みがある手を解し、言われた通りに温かいシャワーを浴びると物凄く気持ち良かった。
 明日を思い浮かべ、くく。と、喉が鳴る。楽しみだ。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 朝になり、甘いチョコレートは母親や父親へ提供し、自分も食べた。
 カカオから作っただけあって、とても香りが強く口に含むとじんわりと溶けて甘さが広がり美味しかった。努力の味がして感動し、両親からも絶賛され俺は大満足。

 残るは。

「よ、はよー」
「おう、おはよ。用事って何だ?」
 日曜日の朝っぱらからフロックを呼びだし、近所の公園で待ち合わせた。
「まぁまぁ、いいからここ座れよ」
 ベンチに座っていた俺は隣を叩いてフロックを促し、座らせると口を開けたまま目を閉じるよう指示を出す。
「な、なんで……」
「いいから言うとおりにしろって」
 フロックは何故か緊張して頬を染めているが、これが直ぐに青褪めると思うとにやついてしまう。
「へ、変な事すんなよ……」
「しねぇよ、プレゼントだ。プレゼント」
 眼を閉じて口を開けるって、結構な間抜け面だな。と、仕様もない感想を抱きつつ、無糖のチョコレートを口の中へと放り込む。
「吐き出すなよ」
 フロックは驚いて吐き出そうとしたようだが、瞬時に顎を掴んで口を閉じさせた俺の反射速度を褒めたい。
「お前がくれたんだろ?しっかり味わえ」
 無糖のチョコレートは苦かった。
 チョコレートの風味が鼻を抜け、同時に蕩ける感覚と共に苦みが口の中に広がる。全く食べられなくはないが、好んで食すようなものではないと思った。半分に割って俺と母親で分けたが、香りはいいけど。そう母親も渋い表情で呟いていたくらいだ。大人でもしんどい苦さだったんだろう。
「どうだ、俺のお手製チョコの味は?」
「美味い」
「まじか……」
 てっきり、顔を青褪めさせて悶えるかと思ったが、フロックは苦みに対する耐性が高かったのか、腹立つな。
「これってあのキットの奴か?」
「おう、嫌がらせかって思うくらい大変だったんだからな?寝たの朝の五時くらいだぞ。ったく……。あ、それ以外は作った報酬として食ったからな。文句言うなよ?」
 フロックは頷くと、いやにきらきらした眼で俺を見詰めてきた。
「じゃ、俺眠いから……」
 なんとなく嫌な予感がして、さっさと帰ろうと立ち上がれば、手首を掴まれて引き留められた。恐る恐る顧みれば、先程よりも顔を赤らめているフロックが居る。なんだこれ、嫌がらせであれやったんじゃないのか。
「嫌がらせじゃなくて、作って貰いたかったんだ。あんま期待してなかったんだけど、作ってくれたって事は俺の事好きだと思っていいんだよな?」
「は?」
 ほぼほぼ好奇心でやった事。
 恨んだ対象はフロックだったが特別、思いながら作った訳ではない。
「両思いだな!」
「いやいや、ねぇよ!」
「そう照れんなよ」
 もじもじしながら自分の髪を掻き回すフロック。全く人の話なんか聞いてない。

 その日から、学校への登校は勿論、下校も常に一緒。
 しかもお手手を繋いで。

 昼飯も付き纏われて、一緒に食べた。周りからは、いつもべったりの双子と揶揄られ、俺は苛ついたりもしたがフロックは嬉しそうだった。
「同じ大学行って、寮があればいいけど、そうじゃなかったら一緒に住もうな?」
 謎の将来設計を語られ、虚無の心地になりながら聞き流す。
 フロックへ、俺が友達としてなら好きだけど。そうはっきり言っても右から左に突き抜けて行って脳には残らないようだ。

 にこにこ笑いながら未来を語る横顔を眺め、早く俺に飽きてくれないかを願うばかりだった。

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