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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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可愛い弟は

【ワンドロ運動会】
・記憶持ちフロック
・記憶なしジャン
・義理の兄弟フロジャン
・あんまり運動会してません。すみません。
・しょたおに
・2019/09/26






 学校も休みで、外はお出かけ日和の快晴。
 昼頃に父に連れられ、馴染みないイタリアンのレストランに来たジャンは非常に緊張していた。

 ほんの一週間前の話である。
「紹介したい人が居るんだが、会ってくれるか?」
 母が事故で亡くなってから五年余り。
 今年で十二歳になるジャンは、最近機嫌のいい父を見て、なんとなく察しはしていた。心を通じ合わせた誰かが居るのだろう。とは。生みの母を脳裏に思い浮かべつつジャンは頷き、話を聞く。

 内容を纏めると、相手の女性は父が働く会社の取引先に勤めるキャリアウーマンで、凛と背筋の伸びた素晴らしい女性だそうだ。彼女も連れ合いに先立たれ、四歳の子供を一人で育てているそうだった。
「お前も弟が欲しいだろ?何回か会ったんだが、素直でいい子だったぞ」
 他人の弟が欲しいと考えた事はなかったが、これほど嬉しそうな父を見るのは久しぶりだったため、ジャンは薄く笑いながら頷いた。
 脳裏に幼い頃に死別した母の顔が浮かばないではなかったが、いつまでも伴侶の死に捕らわれ、俯いているよりは余程いいだろう。ジャンは割り切る事にして、会う事に承諾した。
「彼女も忙しい人だから、家事は今まで通りお前任せになってしまうとは思うが……、決してお前達に不自由はさせないつもりだ」
 母が居なくなってからと言うもの、食事は買い置きの弁当ばかりになり、家にはごみが溜まり放題になっていた。仕事ばかりをしていた父は家事がからっきしで、いつも家を清潔に保ってくれていた母の苦労を偲びながらジャンが懸命にやっていれば、いつしかやるべき仕事になっていた。
 そこに小さな子供が加わるとなると、負担は倍増するだろう。不安がないでもなかったが、父の頭の中では既に家族として暮らすビジョンが作り上げられているに違いない。と、言い回しから理解出来た。今更抗っても困らせて引っ掻き回すだけ。大人しく頷く以外にジャンに選択肢はなかった。

 そして訪れたこの日。
 案内された個室には既に女性が座っており、ジャン達を見ると慌てて立ち上がって子供に声をかけていた。
「あ、初めまして……」
「初めまして。ほら、ご挨拶は?」
 ジャンがぎこちなく挨拶をすると、女性も頭を下げ、長い髪がさらりと肩から落ちた。綺麗なブロンドの髪だった。生みの母も綺麗な長い髪をした快活な女性であった事をふと思い出し、子供へと視線をやれば、母親とは似ても似つかない渦を巻いたような癖毛と、くすんだアッシュブロンドが特徴的な子共だった。
「えっと、宜しく……?」
「あ、この子はフロックです。ほら、お兄さんにご挨拶なさい」
 母親の脚にしがみつき、こちらをやたらと睨んでいた子供。促されて余計に意固地になっているのか貝のように口を閉じている。
「すみません、普段はこんなに不愛想な子じゃないんですけど……」
 女性が慌てて子供を擁護するが、子供こと、フロックがジャンを睨む視線に変化はない。
「俺はこの子にとって知らない人間ですし、仕方ないですよ」
 女性はひたすら謝り、フロックはジャンを無視する。
 食事も楽しくないのか、店の好意で出してくれたお子様ランチもフォークで突っつき回すだけ突っつき回して禄に食べもせずに不機嫌なまま。母親もこんな事は初めてらしく、困惑しているようだ。

 お互いの紹介と食事を済ませ、父が入り口で会計をしている隣でジャンは『折角の美味しい食事もあまり味が解らなかった』と、残念がりつつ壁にかけられた絵画をぼんやり眺めていた。
「あいたっ⁉」
 突然、脛に走った痛みに驚き、ジャンは声を上げて下を見れば、フロックが足を蹴ったのだと判る。
「じゃん!おれぇ⁉」
「はぁ⁉なんだよ、このっ……!」
 糞餓鬼。
 出て来そうになった言葉をぐ。と、呑み込み、蹴られて痛む脛を撫でていた。
「すみませんっ、何やってんのあんた!」
 フロックは子供特有の甲高い声で奇声を上げて止める母親の腕の中で暴れて癇癪を起している。レストランのスタッフも何事かと集まりフロックを除く全員で謝る羽目になった。

 あまりにも前途多難な始まりであったが、挙式までは上げないものの、ほどなくしてジャンの父と女性は入籍し、住んでいた部屋を引き払い、ジャンの住む一軒家へと越してきた。それは覚悟済みだったのだから構わない。
 義理の母となった彼女は、決して前妻である母を蔑ろにする女性でもなかったから許容も出来た。
 唯一の問題は。

「待てこら⁉」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
 家の中でばたばたと走り回るジャンとフロック。
 フロックがもの欲しげに、構って欲しそうに眺めているからジャンが近づけば、フロックは大概、手に持っていた玩具、あるいは手足でジャンの脚を攻撃しては走って逃げる。お陰で青痣だらけである。
 腹は立つが、父も義理の母親も早くとも夕方にならなければ帰って来ない。実に鬱陶しいのだが、万が一、無視した挙句に家から脱走して迷子、あるいは誘拐でもされれば監督していなかったジャンの責任になってしまう。

 そうならないよう痛む足を我慢し、すばしっこく、ちょろちょろと逃げ回るフロックを追いかけ走り回る。
 毎日の運動会はジャンを疲弊させた。何せ、フロックが癇癪を起す理由が解らないから余計にだ。息を切らせて捕まえれば、やっと大人しくなり柔らかい頬を抓りながら足を殴るな。と、毎度同じ説教をした。どれほど伝わっているかは解らないが。
 一度捕まえれば先程の癇癪が嘘のように治まり、甘えるようにフロックはジャンに抱き着いてきた。夜も一緒に寝たがる癖に、何故、お迎え後の自宅ではこうなるのか。寂しさ故の甘えや、どこまで自分を受け入れてくれるかの試し行為なのか。
「なんでいっつも俺が殴られなきゃいけねぇんだよ。ばーか」
「おまえがばーか。おぼえてないくせに」
 舌足らずに吐かれる悪態は小憎らしい上に意味不明。
 初対面で何を覚えておけと言うのか。子供特有の、妙な空想が発展したものだろうか。

 ジャンがあらぬ方向を見上げ、疲れから溜息を吐けば顎を小さな手で叩かれた。痛くはない。
 服を引きながら不貞腐れた様子で唇を突き出す辺り、常に自分を見て貰っていなければ気が済まないのだろう。全く餓鬼の考える事は解らない。
「ほら、気が済んだら買い物行くから、お出かけ準備しろ」
 ジャンは内心ぼやきつつ、走り回って抱き着いたら気が済んだらしいフロックに指示を出し、フロックは素直に日除けの帽子を被り、靴を履いて手を繋いで外に出る。
 店の中で再びフロックが走り出し、それを追いかける羽目にならなければいいな。だなんて考えながら、小さな歩調に合わせて歩いてジャンは近所の店までの道程を憂いていた。

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