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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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キャンプを楽しんだその後は

・フロックがやや偏屈
・ジャンとキャンプで仲良くなるフロック
・ワンドロ
2021年08月07日





 だるい。
 面倒臭い。
 頭にあるのはそればっかりだ。

 中学三年の夏休み。
 最近珍しい教育熱心な熱血教師が企画した高原キャンプ。
 曰く、受験で忙しくなる前の最後の思い出作りだとかほざいてたが、半分以上は内申のために出ていると俺は考えている。誰がわざわざ虫に刺され、冷房もない所で汗に濡れながら寝て、風呂も碌に入れない環境に居たがるのか。
 クラス全員に好かれて仲良しなんて奴も居ないだろ。居たとしたら、相手にとって『都合のいい利用しやすい馬鹿』だから好かれてるんだ。

 偏見まみれの思考に耽りながら、運悪く虫除けスプレーを振る前に刺されたため右腕に出来た赤い発疹を爪でぼりぼり掻いた。
「火とか全然点かねぇんだけど……」
 大量にある竈の一つの前に座り込み、ぶつくさとぼやく。
 食事を作るための薪を集め、火起こし係にされたまではいいが、幾らマッチを擦って薪に寄せてもちっとも火が点かない。他の班はもう火を点け終わって飯ごうやカレー鍋の具材を竈の上に置いている。
「なー、フロックまだ点かねぇの?」
「今やってるって……」
 同じ班の奴に急かされて舌打ちが出そうになる。
 どうやったら点くんだよこれ。先生はお気に入りのいい子ちゃんべったりでこっちに来やしないし、どうにか舌打ちは我慢したが、表情には思い切り出てたから俺の班は空気が最悪だ。
「点かねぇの?」
「あぁ……?」
 今度は声にも不機嫌が露わになり、振り返ると別の班で作業をしていたはずのジャンが後ろから覗き込んでいた。
「お前ってこういうの苦手なのか、得意そうなのにな」
「はぁ?やった事もねぇよ」
「明るいし、友達多いし、キャンプとか誰かと一緒になんかするのが好きなのかと」
 ジャンが俺をそんな風に思っていたなんて驚きだった。
 言われてみれば、適当に人に合わせて適当に笑って人の輪の中に居る事は多い。が、友達かと訊かれると首を傾げてしまう。一緒に話してれば友達?遊んだら友達?友達の定義は人それぞれだろう。一度会話しただけ、偶々同じクラスになっただけで『友達』なんて奴も居るんだし。
 『俺』は、お互いに気兼ねなく何でも言えて、気持ちが落ち着く相手が『友達』だと考えているが、やっぱり顔色を窺ったり、合わせて思ってもない事を言ったりする。相手も同じだろう。さっきまで楽しく話していた奴が、俺の姿が見えなくなった途端、悪口を言ってるのだって見た事ある。
 口と腹の中が完全に一緒の奴なんて居ない。友達って何なんだろうな。結局、利用されて利用する相手の事だろうか。
「そんな不貞腐れんなよ。手伝うから」
「他の班だろお前」
 友達の定義など、不毛な思考に嵌まりながら無言で居れば、ジャンは俺に手を貸してくれるつもりらしい。
「困ってるみたいだったし」
「そらどーも」
 ジャンはきつい目つきで少々威圧感があり、気も強いし、口が悪いから、他人からの評価が結構はっきり分かれる種の人間だ。俺は嫌いじゃないけど、不良っぽい見た目でありながら、なんだかんだ運動も学業もそつなくこなすジャンが目障りなのか、だらしない奴が良く悪口を言っている。幾らこそこそ悪口を言った所でジャンには届かないし、努力も何もしないで文句を言うだけのお前が上に立てる訳もないけどな。と、腹の中では考えてるが、角が立つと面倒なので適当に合わせておく事が多い。

 ジャンは俺が竈に詰め込みまくった薪を出して、三角形の櫓を組みだした。
「何やってんだ?」
「空気が入り易いようにしてんだよ。んで細い枝とか置いてさ……」
 喋りながら、ジャンは手に脇に挟んでいたチラシを適度な大きさに破いて丸めて竈に放り込み、余ったチラシを細く捻って火を点けると、その先を竈の中にある紙に近づけて火を移していた。
 するとどうだろう、徐々に木が燃えだして竈の中に炎が生まれていく。
「おー……」
「んじゃお前の班の奴呼んでくるから火の番頼むな」
「サンキュー」
「どういたしまして」
 ジャンは得意げに片方だけ唇を持ち上げて笑う。
 あいつの方がよっぽどキャンプが得意じゃないか。
「おー、フロックお疲れ!」
 何も手伝わずに遊び呆けていた俺の班員は、飯ごうやカレーの具材を突っ込んだ鍋を置いたら再びどこかへと走って行った。俺一人で作れってか?カレーのルウも押しつけられたしそうなんだろう。あぁ、やっぱり怠い。
 幸い、水は入ってるので移動はしなくていいようだ。しかし、暑い。ただでさえ日差しが強く、高温多湿の猛暑なのに加えて火の側ときたら汗がどばどば湧いてくる。俺死ぬんじゃないだろうか。
 割食ってるよな。他の奴は遊んでたり、仲良く作業してるのに俺だけ一人だし。ジャンの目も大概、節穴だ。これをどう見たら友達が多いなんて言えるんだか。都合良く利用されてるだけだろ。

 愚痴の矛先はジャンにも向いて、沸騰してきたら鍋をお玉でぐりぐりとかき混ぜる。
「どうだー?」
「お前、暇なの?」
 再びジャンが様子を見に来てくれたが、俺の口から出るのは悪態だ。
「暇っちゃ暇だな、あんまり混ぜると具が砕けるぞ」
「あー?いいんだよ別に、食えれば。俺一人にやらせる時点で失敗しても文句言うなって感じだし」
 俺の発言が面白かったのかジャンがクスクス笑って中の様子を見ながらルウを入れてくれた。
「ま、具なしもいいんじゃねぇ?」
 そう言うと、ジャンは腰にぶら下げていたプラスチックのボトルを俺に渡してきた。飲む動作をして促してきたため、口に含むと冷たいスポーツドリンクがじんわりと体に沁みてとても美味しい。
「お前、汗凄いぞ」
「直射日光と火の側だしな、全部飲んじまったけど……」
 自分でも思ったより乾いていたのか、中身を一気に飲み尽くしてしまった。しかし、ジャンは『また作るからいいよ』と、気にしていない様子だ。
 その後、昼食の時間になり各自自由時間になる。
 広いキャンプ場でドッジボールやかけっこに興じる者、直ぐ側にある沢に涼みに行く者とあまり離れるなとは言われているが先生はお気に入りのいい子ちゃんな女子に夢中で全く監督する気がないようだ。女子も愛想笑いが引きつって来ている。哀れだ。
 俺はと言えば、あまりにも暑かったため、服を着たまま水に浸かっている。泳いではない。程よく日陰になっている浅い所で岩を枕にして水の中に寝そべっているだけだ。中々良い。
「温泉街の爺か?」
「体力温存してんだよ」
 ああ言えばこう言う。そんな言葉の応酬が楽しいのか、ジャンも水の中に座り込む。それから他愛ない事ばかりを喋り、中々いい時間を過ごした。

 夜になると皆は花火に興じていたが、俺とジャンは昼間に来ていた沢で、水に足をつけながら空を眺めていた。
「花火いいのかー?」
「お前とこうしてる方が楽かなー」
 あまり話した事はなかったが、意外にジャンはいい奴かも知れない。一緒に居て気が楽だ。単純に暇潰しに使われてるだけかも知れないが。
 話は学生らしく高校受験の話題になり、訊けばジャンはかなり偏差値の高い所に行くらしい。
「ふーん、お前が行くなら俺も行こうかな」
「なんだその不純な動機」
「俺もお前と居ると楽だから」
 そう?と、ジャンが笑い、キャンプから帰ったら夏休みの課題や、勉強会を一緒にやろうと盛り上がった。

 そして、俺の可もなく不可もなくなレベルで、良くも一緒の学校に行くなんてほざいたな!などと詰られつつ、夏休み中、ずっとジャンにしごかれたお陰で、俺の成績は飛躍的に向上する事になった。
 あいつは……、先生より教え方が上手かった。

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