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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

甘い匂いに誘われる

・2014/10/30
・巨人中学5巻のネタばれあります
・しょーもねぇ小ネタです
・エレジャン
・捏造、無理矢理な改変
・短い
・R15~18?




【一】

 ミカサが呼び止める声を背に受けながらエレンは学校へ向かってひた走っていた。
 途中クリスタやサシャとぶつかってしまったが謝罪もそこそこに直ぐさま走り出す。が、少し先でジャンが倒れていたため思わず足を止めた。赤い液体に塗れ、ブロック塀に凭れ掛かり、ぐったりとしていからだ。

 一瞬、ぞ。と、背筋を冷たいものが走り、泡を食いながら声をかけると目が開いた。
「どうしたんだ一体」
 安堵の吐息を漏らしながらエレンがそう尋ねれば、急にスイカが飛んで来たのだと言う。
 二分の一カットスイカの威力は中々だったらしく、ぶつかった衝撃で一瞬意識が飛んだそうだった。砕けたスイカの汁は上半身をまんべんなく染め、ジャンはべたつく甘ったるい汁が顔に流れてくるのを嫌そうに手の甲で拭っている。
「はぁ……、服がべったべたする……」
 ジャンは酷く気持ち悪そうに呟きながら、半袖のカッターシャツを摘んで肌から浮かせていた。遅刻覚悟で着替えに戻るか、このまま学校へ行って水洗いするか迷い、シャツを上げたり下ろしたりを何度か繰り返している。
 軽薄そうな見た目に反して、ジャンはきちんと学生ズボンの中にシャツを入れているため、体育の着替えの時くらいしかお目にかかれない生の細腰がエレンの目の前でちらちらと視界に映って目が離せない。
「何見てんだよ」
 糖度の高いべたつく甘いスイカの汁に塗れて気持ち悪い上に、悪友がこんなみっとも無い姿をじろじろと眺めているのだ。良い気分はしない。かと言って、エレンに原因がある訳でもなく、喧嘩を売ればただの八つ当たり。ジャンはエレンを一睨みするだけに留めて服を離すと学校へ足を向け、鞄を持って歩き出す。だが、エレンがジャンの二の腕を掴み引き止めた。
「何だよ、用ならさっさと言えよ、俺はさっさと学校行ってシャツ洗いてーんだよ」
 この気候ならば洗っても直ぐに乾くとジャンは判断し、ならばさっさと行くに越した事はない。なのに引き留めてくるエレンをジャンが鬱陶しそうに眉間に皺を寄せ、目を細めて睨み付けるが一向に怯む様子はない。
「怪我ないか確認しねぇと!」
「はぁ?ねぇよ。別にどこも痛くねーし」
「いや、こんなに血が出てるんだ、医者の息子としては放っておけねぇ!」
「てめぇは何を聞いてたんだ。スイカの汁だっつってんだろうが」
 エレンの剣幕にもしかすれば鼻血でも出ているのかと少し気になったジャンは鼻の下を指先で擦って確認するが、相変わらずスイカの甘い匂いがするだけだ。試しに手についたものを舐めても、スイカの味しかしない。
「やっぱスイカだって、どこも怪我してねぇよ」
「いや、自分じゃ見えない位置にあるかも知れねぇだろ、確認すべきだ」
「だぁ、もうっ……!スイカだって、匂い嗅げば判るだろ、何なら舐めろ!」
 匂いならばわざわざ近寄る必要もないほどしている。
 それでも納得していない様子に苛立って、先程よりも更に爛々と目を光らせるエレンに引きつつも手を差し出す。
「お前を舐めていいのか?」
「え、あぁ……?」
 気持ち悪いが別に手についたもん舐めるくらいなら。
 そう単純に考えてジャンは手を差し出したが、何か早まった気がして冷や汗が首を伝った。後ずさってもエレンがにじり寄ってくるため恐怖しか湧かない。
 そんなジャンの様子にも気付かずにエレンがジャンのシャツを掴み、左右に割り開く。ジャンの喉奥から引き攣った声にならない悲鳴が上がり、流石に何か不味いと察したジャンが抵抗を試みるが時既に遅く、首に齧り付かれ生暖かい舌がぞろりとした感触を持って肌を這った。
「おお、往来で何してんだ!」
 エレンの体をジャンが必死で押すが、どこにこんな力があるのかと思うほどにびくともしない。
 その間にもエレンはあちらこちらを舐め回し、時にぴちゃりと水音が鳴る。
「往来じゃなきゃいいんだな?」
「いや、学校行かせろ!頼むから離せ!」
 やっと舐め回すのを止めたかと思えば可笑しな事を口走る。
 ジャンの抵抗虚しく抱えられて来た道をエレンが逆走し、途中でミカサと擦れ違った。止めてくれる事を一瞬期待したが何とも言えない目で見送られてしまっただけでジャンの視界は絶望に染まる。
「ただいま!」
 つい今し方出て行ったはずの息子の帰宅に、のんびりとした口調でカルラがお帰り。と、返した。
「お、お母さん、たすけっ……!」
 台所に居るらしいエレンの母親に助けを求めるも、エレン自身はあっと言う間に階段を駆け上がり、蹴り破るが如く自室の扉を開く。
 ジャンはベッドの上に放り投げられ、これから何が起こるのか理解しようにも理解もしたくないほど、怯え切って思考を放棄しかけていた。そんなジャンに、エレンがどこか照れた様子で話しかけてくるものだから余計に恐怖は増していく。
「まだ挨拶もしてないのにお義母さん何て気が早いな、お前」
「俺、お前が何を言ってるのかわかんねぇよ……。学校行こうぜ?ほら、急いでたんだろ?何か用事あったんだろ?」
「それは、まぁ、明日でもいいかなって?」
「一回決めた事を放棄するのはお前らしくないぞ、学校行こうぜ!」
「目の前に、もっといいものがあったらそっち行くだろ?」
 カルラが整えたのであろうベッドの掛け布団をぐしゃぐしゃに乱しながらジャンがベッドの上で逃げ惑い、エレンの異様な雰囲気に最早、涙が浮いている。
「意味わかんねぇよ!」
「直ぐ解るって」
 エレンがジャンに圧し掛かりながらにやりと笑い、ほぼうつ伏せになっているジャンのうなじを舐め上げ、短く悲鳴を上げたジャンの体が跳ね、手で隠すようにうなじを覆う。
「馬鹿じゃねぇの!馬鹿じゃねぇの!?何してんだよ、マジで!」
 有らん限りのひっくり返った声でジャンは叫ぶがエレンに引く気配は無い。
 寧ろ抵抗すればするほど、面白いとばかりに笑っている。
「うなじ弱いなんて巨人みたいだな、ジャン」
「人類でも弱点だ阿呆!」
 最早、何を言っても通じないエレンを蹴ったり殴ったり押し退けているが、どんどん距離は縮まっていく。
「甘いなー、食っちまいてぇ」
「おま、お前こそ巨人みてぇな事言ってんじゃねぇよ!」
 怖過ぎて嗚咽を漏らし始めたジャンを、エレンは弄ぶように舐め、時に噛み付く。
 べたつくスイカの汁のせいか、それともジャンの肌の滑らかさか吸い付くような感触を掌で楽しみつつ、ひくりと弱々しく震え、我慢出来ず声を漏らす場所を探る。
「サシャ様々ってか……?」
「やめ……や、ぁ……んっ」
 胸の突起を弄りながら軽く耳を噛めば甘えたような声を出す。
 無遠慮に這い回る手はとうとうズボンのベルトへと到達し、いとも容易くバックルを外すと、ボタンもファスナーも無き物が如く下着の中に手が滑り込む。
「ひっ、なに、何考えてんだ、ばかぁ……!」
 下着の中で自らの性器をやわやわと揉みしだく手を引っ張り出そうとジャンがエレンの手を掴んで引くが、逆にその手を引かれ、引き摺り下ろされて、空気に晒された性器に沿わされる。
「なぁ、いつも自分でどんな風にしてんの?見せろよ」
 ぎゅ、とエレンの両手に包まれた自らの性器と手。
 ジャンがふざけるなと怒鳴る間もなく、扱かれ甘い疼きが襲ってくる。
「んぅ、ん、んんっ……!」
 せめて声を漏らすまいと唇を噛み締めるも、呻くような声が否が応にも漏れ出てくる。
 ぎゅ、と目を瞑り、ぼろぼろと流れて出てくる生暖かい水が頬を伝うのを止めようとしても止まらない。自分の身体なのに何もかもが自分の思い通りにならない。
「や、ぁん、エレ、ン、やめ、ろ……」
 やっとの事で吐き出した言葉も、止めるどころか甘えてねだるような声で情けなくて余計に涙が溢れる。スイカの甘い匂いと、どこか生臭い青臭い精液の匂い。ぐちぐちと性器を嬲る水音、ジャンの快楽に呻く声とがエレンの部屋に充満した。
 泣きながらの懇願など相手を煽るばかりで何の抑止力にもなりはしないと未だジャンは解らず、時にしゃくり上げながら途切れ途切れに止めろと言う。
「あ、も、出……っ」
 我慢も限界に来たのだろう、ぶるりと一つ大きく震えるとジャンは自らの手とエレンの手を同時に汚してしまい、乱れた布団に顔を押し付け、屈辱と羞恥にジャンは震える。
「まだ、もうちょっとだけ、な?」
 まだ続くのかとジャンは目を瞠り、直ぐにエレンを睨みつける。
 しかし、ぐすぐすと鼻を鳴らし、涙を讃えた目に迫力は無い。
「俺、出してねーし?」
 獣のようにエレンが舌なめずりをする。
 ジャンを仰向けに転がすと、両足を一纏めにして肩に抱えあげ、ベルトの外れる金属音がして濡れたジャンの太腿の間に硬いものが卑猥な音を立てながら入り込んでくる。エレンが腰を動かせばベッドは激しく軋み、水音はもっと酷く部屋の中に木霊する。
「やだ、やぁ、えれ……、ぅ、あ、あぁっ……」
「俺のがお前のに擦れて気持ちいい感じ?」
「ふざ……、しね、くそがっ……ばか、あほ!」
 回らない頭で思いつく限りの罵倒をジャンは繰り返す。
 その内、どろりとしたものがジャンの閉じた太腿の中に吐き出され、嫌悪と怒りにジャンは満足そうに息を吐くエレンを力の限り蹴り飛ばす。
 蹴り落とされたエレンは床で頭を打ち、頭を抱えて性器を露出したままの見っとも無い格好で痛みにもだえていた。
「なん、なんだ、よぉ……」
 二人分の体液でどろどろになった自らの下半身を眺めて、ジャンは目を擦る。
 足を開き、手近にあったティッシュで拭うが幾ら拭っても滑る肌のべたつきや擦り付けられたエレンの性器の感触などの気持ち悪さが一向に取れず、何度も拭い、擦る内に肌は赤く腫れてくる。
「ジャン!風呂、風呂行こう!」
 中途半端に脱がされた服ごと再び抱えられ、けたたましい音を立てて階段を降り浴室に駆け込む。落ち着きと言うものが全く無い。
 まだお湯にもなっていない水をシャワーでかけられ、幾ら暑い最中とは言え、その刺激からジャンは思わず身を竦ませてしまう。

 身を竦ませたまま、ジャンは浴室のタイルの上に座り込み、水の刺激で内腿の赤剥けになった部分がひりひりと痛んだ。
 徐々にぬるま湯に変わっていくシャワーを浴びながら、スイカの汁やら体液で汚れ、水で肌に張り付いた服をのろのろと脱いだ。
「お前、出て行け……!」
 相変わらずじろじろと遠慮なく見ているエレンの腹を殴り、浴室から追い出すとジャンは身体を洗い流し、浴室から出ればエレンの学生服を剥ぎ取り、箪笥からTシャツを強奪してさっさと逃げ出した。服がなくてエレンが困った所でジャンはどうでも良い。

 やや寸足らずの学生服にカッターシャツの下には見慣れぬ服を着て、昼近くにもなって登校してきたジャンを、一つ上の先輩で親友でもあるマルコが酷く心配したが、何かあったのかと聞こうとするとジャンが涙を浮かべて泣きそうになるため、何も聞けずにただただ慰めた。
 以降、ジャンはよりエレンを毛嫌いし、逆にエレンはジャンに異様に馴れ馴れしくなっていった。

   ◆ ◇ ◆ ◇
【二】

 白いカッターシャツを捲り上げた時に、見える細く締まった腰から見ても、体つきは細くはあるが、決して華奢ではない。
 程よく筋肉が付いた肢体はしなやかで、猫科の動物を思い起こさせる。

 服の隙間からちらりと見える肌。
 果物の汁でカッターシャツが素肌に張り付き、どことなくグラビアアイドルがわざと服を濡らして男を煽る淫靡さと、色香を漂わせるに似た様相を呈していた。
 怪我がないか確かめる。そう言った時に、やはり猫を彷彿とさせるように顔を擦り、手の甲をちろりと舐める。その時に見えた舌の赤さ、唇を舐める動きに下腹部がぎゅう、と締まるような感覚に襲われて、どうしようもなく誘因され、手を伸ばしてしまったのだ。
「アウト」
「何だよ」
「どんなに言い繕った所で、合意がなければ強制猥褻だよ」
「あいつだって気持ち良さそうにしてたぞ」
「でも、ずっと泣いてたんだろ?多感な若い男の子だったら否応無しに反応するんじゃないかな?ただの生理反応」
 幼稚な官能小説のようにジャンとの行為を熱く語るエレンを遮り、アルミンが冷ややかな瞳でエレンではなく、ジャンを擁護する。

 顔は微かに微笑んでいるが目が全く笑っておらず、空の色よりも深みがある水の色。それが凍り付いてエレンを見詰めていた。やや足元を引き摺り、腰回りのボタンが閉まらない学生ズボンをベルトで止めて、洗濯したばかりなのか濡れたままで昼過ぎに登校してきたエレンを不思議に思い、アルミンが問うてみればこの調子。
 昨日は『どうしても今日やりた事がある!』そう息巻いていたはずが来ないので可笑しいと思っていたのだ。何をしたかったのかは知らないが、ジャンの方が突然の土砂降りにでも遭ったかのように髪が滴が流れ落ちるほど濡らしたままふらふら歩いて来た。
 どうしたの?アルミンがそう訊けば『言いたくない』エレンの事を知らないかと訊けば、瞬時に瞳に怒りと、嫌悪の光を灯らせて『あいつの名前を出すな、吐き気がする!』今にも噛みつかれそうな剣幕で言われてしまえば黙らざるを得まい。

 常ならば皮肉的であり、不敵な笑みを形作る口元はぎゅっ。と、引き締まり、怒った直ぐ後に泣きそうな表情で目を伏せた。あぁ、これはエレンがやらかした。そうアルミンは直ぐに察した。
 もしもエレンが登校してこなければ、家に行ってでも問い詰めるつもりだったので登校してきた事は手間が省けたと少しだけ喜ばしい。

 時間は放課後。場所は誰も居ない教室。

 いつも何かとエレンに突っかかるジャンがエレンが登校してきても無視を貫き、授業が終わると直ぐに教室を出て行方を晦ました。
 それを追いかけようとしたエレンを捕まえて尋問開始だ。また何かの喧嘩か。お互いすっきりせず拗れてしまったのだろうか?

 以前、エレンにアルミンは二人の関係について言及した事がある。
 喧嘩ばかりをするから仲が悪いかと言えばそうでもない。
 本当に仲が悪いのなら喧嘩すらせずに、居ないが如く振る舞い、その存在すら否定するだろう。対等に喧嘩が出来る相手は親友を得る事と同じくらい難しい。
 お互いに自分より上でも下でも言いたい事を言える関係は出来ない。同じ位置に立ち、お互いを認め合っているからこそ喧嘩も出来るのだと。対等でなければ、どちらかが一方的に言いたい事を言って終了だ。
 思い切り喧嘩が出来る二人が少し羨ましい。

 そんな印象を持っていた。
 いつも元気な二人だ。何かと中心に居り、周りを引っ張っていく二人の姿がアルミンは結構好きだったのだ。
 だからこのままで居て欲しくない。拗れた原因さえ解決出来れば、また直ぐに悪友同士に戻れるだろう。最大限、楽観的に考えてエレンに訊いて後悔した。これはとても、すんなりと解決出来そうな事柄ではない。
 仕出かしたも仕出かした。永久に嫌われても擁護のしようがない。挿入まではしていないとは言え、やった事はほぼ強姦。
 アルミンはジャンの落ち込みぶりと、エレンの名を出した途端、怒りと嫌悪を露わにした姿を思い返す。屈辱と哀しみとが混じった感情。きっと裏切られたような気分になっているのだろうと思われる。
 当然の反応だ。男に、恋敵に、それでも認めていた相手に凌辱されたのだ。そして、その凌辱した本人は反省もしていないと来ている。寧ろ興奮気味に、またあいつに触りたいなどとの宣っているのだ。

 アルミンの瞳が氷の如く冷ややかになってしまうのも仕方がないだろう。
「謝ったらいいか?」
「もう、謝った所でどうにかなる感じじゃないね」
 きっと近づく事すら許しては貰えないのではないだろうか。
「んじゃ、ジャンを探してくる」
「えぇ……?」
 何がじゃあ、なのか。
 今までの会話は何の意味があったのか。
 さっぱり理解していないようだ。
 自由人にも程がある。
「待って待って、エレンが嫌でジャンは直ぐ教室から出て行ったんだよ?今、行ってさ、どうするの?ジャンの様子から見て謝っても無理だよ?少なくともジャンが落ち着くまで放っておいて上げたら?」
「俺はジャンに触りたい……」
 これは話にならない。
 アルミンは考える。僕だけではエレンを押し止めるのは力不足。
 第一候補はミカサ。能力的には申し分ないが、世話焼きな彼女に対してエレンは反抗的態度が目につくため、余計に意固地になってしまう可能性はないだろうか。
 そして、ジャンはミカサに好意を持っている。そんな人にこの事態を漏らせるか。答えは否。ジャンの名誉にも関わり、下手を打てば間違いなく僕まで嫌われてしまうだろう。

 エレンが頭が上がらない人物かつジャンが懐いている人物。あるいは従う人物。そう言った人間に協力を仰ぐ必要がある。

 ジャンの親友であるマルコが適任かとも思ったが、少々過保護と言うかジャンの事となると感情的になりがちな面もある。相談は出来ない。
 親友を護る為、犯罪者にしない為だ。既に手遅れ感はあるのだけど僕がジャンを護ろう。僕は貧弱だけど知識だけはある。さて、誰が適任だろうか。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 次の日もジャンのエレンに対する態度は変わるどころか益々、素っ気ない。
 ほとんど毎日のようにじゃれ合っていたのが嘘のようだ。

 ジャンは教師の中でもエルヴィン先生には懐いている。
 本性を垣間見て青褪めてはいたが、巨人の事さえなければ基本は優しい先生である。

 その、○○さえ。と言うのが曲者と言えばそうだが。悪い例を挙げると酒さえ飲まなければ、ギャンブルさえしなければ。等々、良く耳にするが、それがあるから駄目人間なんじゃないか。そう突っ込みたくなる事もしばしば。

 底まで考えて、エルヴィン先生を却下し、アルミンは次々と相応しい人物を頭に思い浮かべていく。
 ではライナーはどうだろう?人の事を言い触らす人間ではないし、体力的にも強い。エレンと取っ組み合いになってもいい勝負をするだろう。いや、待て。ライナーはエレンとも仲が良い。ライナーは面倒見が良いためエレンも兄的に慕ってはいるが、頭が上がらないとは少々違う。
 目的の為に邪魔と判断すれば問答無用で噛みついていくだろう。余計な騒ぎを起こせば詳細を問われる。それは避けたい。同じ理由でベルトルトも却下だ。強いんだけど。

 強いと言えばアニもだ。生徒会の執行権もある。
 だがエレンの事でミカサとの確執がある。ミカサに気を取られてジャンを疎かにしかねない。コニーは説明しても多分解ってくれない。解らないだけならまだ良い。○○って何だ?と人に訊いたら終わりだ。
 サシャは間違いなく食べ物で釣れる。が、同じく食べ物に釣られて離反する可能性がある。クリスタは、こう言う荒事には巻き込めない。相方のユミルがこんな事にクリスタを巻き込むな。と、エレンにジャンを差し出す危険性がある。

 どうしよう、八方塞がりじゃないか。
 こんなにもエレンを抑止できる人間が少ないだなんて。

 アルミンは絶望した面持ちで調査兵団の部室の中に居る人物を順々に眺める。
 思い思いに部室の中で寛ぎ、会話を交わしている。
 エレンはミカサに構われて鬱陶しがっている。
 ジャンは時にエレンを気にしながら部室の隅で一言も喋らず、静かにスマートフォンを弄っていた。いつもならば他の人と話していたり、遊んだりしているのに。

 人前で襲うような事はすまいが、同じ空間に居るだけでも落ち着かないのだろう。
 しかし、警戒するなら暑いからと開けているシャツのボタンを閉じ、長い脚を見せつけるように組むのを止めるべきだ。ミカサが話しかけていないとエレンがじっくり眺めている視線に気づいて欲しい。

 がら。と、横開きの扉を開け、上級生の面々が入ってきて少し空気に緊張が走る。
 リヴァイ、ハンジ、ミケの三人だ。リヴァイが皆を一瞥すると、それだけで皆、背筋を伸ばす。エレンも例外ではない。
 『これは』アルミンは、はっとなる。

 リヴァイ先輩はこう言うと失礼かも知れないが、意外と優しく面倒見が良い。
 無口で人にあれこれ言い触らす人間でもない。
「あ、あの、ジャン、リヴァイ先輩!ちょっとお話があるんですが!」
 突然、名前を呼ばれてジャンはきょとんとした表情で顔を上げている。
 リヴァイは少し眉を顰めた程度でアルミンの真剣な眼差しを受け、小さく、だが確かに頷いて了承してくれたようだ。
「ここでは不都合な話か?」
「えぇ、少し別の場所で」
 ジャンに近づいて手を引いてアルミンはリヴァイを促す。
「何だよ、ジャンが行くなら俺も行くぞ!」
 ミカサを押し退けるようにしてエレンが踏み出す。
「下がれエレン、アルミンは俺とジャンに話があると言っている。必要ならお前も呼ぶだろう、今は黙って引いておけ」
 リヴァイに睨み据えられてエレンが後退る。
 それを見てアルミンの期待は確信に変わった。

 外に出るとジャンは訳が解らない。
 顔にそう書いて黙って手を引かれている。
 何でそんなに無防備なの。僕だから?こりないよな。

「どこまで行くんだ?」
 リヴァイがアルミンに問う。
「ちょっと個人的な名誉に関わるお話なので……」
 流石に廊下であんな話が出来る訳がない。
 ジャンは察したのか握った手がじわりと汗ばみ、少し抵抗を見せるが強く握ると大人しくなる。
 カーテンが閉め切られ、鍵の壊れた埃っぽい空き教室に着くと廊下に人が居ないかしっかり確認し、本題をアルミンは切り出した。
「リヴァイ先輩、突然で恐縮なのですが、ジャンを護ってやって下さい!」
 アルミンがジャンの背中を押し、リヴァイに差し出すように押し出す。
「どういうこった?理由も聞かずに、はいそうですか。とは言えねぇぞ」
「理由……、それは、その……、僕の口からは……」
「アルミン、エレンから聞いたのか?」
「うん……、ごめんね。何とかエレンからジャンを護らないと。って……」
「ふん、エレン絡みで事情あり、か……」
「はい、ちょっとエレンが、ジャンに酷い事を……」
「ただの喧嘩じゃねぇみたいだな、分かった、深くは聞かん。部の後輩の進路相談でも受けていると言う体にでもしておこう」
「ありがとうございます!」
「俺の意思は……?」
「ジャン、君は一人で居て、エレンにまた同じ事をされたいのかい?それなら止めないけど」
「い、嫌だ!」
 沈痛な面持ちで脅しかけるように言えば顔色を青褪めさせてジャンが激しく首を振る。
「エレンの野郎をジャンに近づけさせなければいいんだな?」
「そうですね、人が居る時なら、ミカサや僕も居ますし、エレンも無体は働かないと思います。でも登校、下校が一人なので……」
「先輩を扱き使うからには、相応の何かはあるんだろうな?」
「あ……、えっと、それは……」
 ジャンの事で頭が一杯で、そこまでは考えが至らなかった。
 アルミンはお金や物だとかを必死で思い浮かべるが、学生故にお金はなく、リヴァイが好みそうな物などただの後輩であるアルミンには知る由もない。
「あの、エレンの頭が冷えるまで、一緒に居てくれるんですよね……?それなら、俺が何かするのが筋でしょうし、つっても、飯とか菓子作るくらいしか出来ませんが……」
 料理が得意であるリヴァイに申し出る事自体おこがましいと思っているのか、俯き加減にうなじを撫でながらジャンが言った。
「弁当とかで良ければ、作ってきます……。あ、先輩潔癖でしたっけ?」
「きちんと加熱した物なら大丈夫だ。ミケのように母親の物以外受け付けない訳じゃない」
 それを聞いて安堵したのか顔を緩ませたジャンが笑う。
「それじゃ、出来るだけ美味い弁当作ってきます」
「お、おぉ……、食費が浮いて助かる」
「好き嫌いとか、アレルギーはありますか?」
「いや、炭でなければ何でも食える。アレルギーもない」
「あはは、それじゃ安心ですね。先輩のお口に合うといいですが」
 エレンの恐怖から解放されるという安堵からか、いつもの十割増しでジャンがふわふわ笑っている。かなり珍しい光景だ。生意気な後輩の意外な一面に動揺したのか、リヴァイも少しばかり言葉が乱れたが、直ぐに持ち直した辺りは流石だ。
 これで、ほぼジャンの貞操は護られるだろう。
 不本意で、理不尽な強要で奪われるなど赦されない。
 好いた相手とは言え、親友が強姦魔などと言う事実も正直受け入れたくはない。
 瀬戸際でも止められたのは不幸中の幸い。これからしっかりエレンの頭を冷やさねば。アルミンは、決意も新たに、二人を眺めながら頷いた。


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