忍者ブログ

馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

不可思議な同居

2018/07/03
・蜘蛛注意
・強引行為注意
・現パロ
・性的な描写はない





 大学生になった春。
 狭いアパートを借り、新生活を始めた。
 山の中に立つアパートは虫が多い。主に蜘蛛。飛び上がったり悲鳴を上げるほど嫌いではないが、好ましくは思わない。

 ベランダに張られた巣は洗濯物を干す際に非常に邪魔で、毎回払うのも面倒くさく、蜘蛛が懸命に張った巣を壊すのも少々良心が咎めた。しかし、払わねば洗濯物が干せないため、ごめんな。そう言いつつ払っていた。
 そうすると不思議なもので、巣を壊されるのが嫌になったのか大きい蜘蛛は他所に移動して少なくなって行き、黒い小さな蜘蛛は邪魔にならない位置に巣を作るようになった。蜘蛛も賢いようだ。
「よ、おはよ」
 朝になると空気を入れ替えるために窓を開け、ベランダの隅に住んでいる小さな蜘蛛に挨拶をする。こうなってくると、奇妙な同居人のようで、愛着が湧いてくるのだ。小さな同居人、同居虫?に挨拶をしたり、洗濯物を取り込む際には何とはなしに話しかけたりもする。
 飽くまで可愛がっているような感覚だ。決して友達が居ないから虫に話しかけている寂しい奴ではない。

「これかぁ、お前が言ってた同居……、虫……?」
 一つ年上の友人であるマルコが、部屋に遊びに来てからベランダの硝子戸を開け、まじまじと小さい蜘蛛を眺めている。
「ペット禁止だからって、何も蜘蛛を飼わなくてもいいだろ……」
「飼ってる訳じゃねぇよ……、餌とかはやってねぇし」
「ふーん?虫に話しかけてるなんて聞いた時は、寂しさのあまりどうにかなったのかと思ったよ」
 ふふ。と、笑いながら毒を吐くマルコ。冗談なのだろうが、かなり酷い。俺が言い返すと解っているから言ってくるのだろうが。
「それで心配してこうして泊まりに来てくれた訳だ?俺の親友様はよ?」
「そう言う事、感謝してもいいよ?」
 硝子戸を閉め、得意げにマルコは笑って見せる。
「感謝してるよー。してますよー。飯まで作って貰っちゃあなー」
 マルコお手製のインスタントラーメンを啜り、皮肉交じりの感謝を口にした。マルコの毒も、強ち的外れでもない。独り暮らしの解放感はあれど、今までが過干渉気味の親と住んでいたため、静か過ぎると落ち着かないのは事実で、親友、時には兄のように気にかけてくれるマルコの存在は本当にありがたかった。
 酎ハイを買って、細やかな酒宴を催し、下らない雑談に花を咲かせる。偶にはこんなものも悪くはない。

 楽しい夜はあっと言う間に終わり、再び日常が帰ってくる。
「おはよー、今日もいい朝だな」
 蜘蛛に声をかけると風もないのに巣が揺れ、返事をしたように思えた。まさかとは思いつつも、どことなく嬉しい。
 順調に日々を過ごし、洗濯物を干しながら話しかける回数も増えた。ご近所さんに見られる、あるいは聞かれたら本当に頭が可笑しい人間と思われるかも知れない。いいんだ。愛着湧いてきてるし。

 その翌日、晴れ渡った天気は一変した。
「はー、まじで?午後から休講はいいけど……、ちゃんと補講してくれんのか?」
 大型の嵐が直撃するため、大学は午後から休講になるようだ。と、マルコが教えてくれた。補講に関しても問題ないようで、ほっと胸を撫で下ろし、唐突な休みを満喫する事にした。朝からの雨、出かけるのが憂鬱だった俺にとっては幸運とも言える。
 ゲームをするか、本を読むか、さて何をしよう。考えている最中、ふとベランダが目に入り、窓に近付く。
「うわー、飛ばされそうだな」
 幸い、まだ風は耐えられないほどでもなさそうだったが、これから強まる事を考えれば放ってもおけず、風に揺らされながら、必死に巣にしがみついている蜘蛛を、そっと手で包んで家の中に避難させた。
 かさかさと手の中で動き回る感触に、鳥肌を立るのは申し訳ないが許して欲しい。

 小さなざるをベッド近くの棚に伏せ、そこへ蜘蛛を放り込む。
 食料はどうしようか。蜘蛛の餌は虫。残念ながら俺の部屋に虫はいない。要するに肉食と言う事でいいのか。考えに考え、悩みつつも冷凍しておいた挽肉を解凍し、ハンバーグを作りがてら蜘蛛用に分けた小粒の肉も焼いて、小皿に載せて伏せたざるの中に入れておいた。
 嵐は本格的に酷くなり、夕方にはもう暴風雨と呼んでも差支えがないほどに拡大していた。窓が割れないか心配だ。

 暇つぶしに掃除もして、テレビゲームをして、飽きて、今はベッドに転がって本を読んでいる。外はもう薄暗い。夕食はラーメンでいいか。
 昼に料理をしたのだから夜くらいは手を抜いてもいいだろう。独り暮らし故のだらけた食生活。読みかけの小説を投げ出してぼんやりと天井を眺める。食事と言えば、蜘蛛は肉を食べたのだろうか。
 棚の上に伏せたざるをそっと上げると、ざるの底に張り付いた蜘蛛が見え、小皿の上に乗せた肉の欠片は半分ほどになっていた。これなら明日まで大丈夫そうだ。
「明日、晴れたら外に出してやるからな、それまで狭いだろうが我慢しといてくれよ」
 再びざるをそっと伏せ、俺はラーメンを作って、適当なドラマを見ながら夜を過ごしていく。

 時計を見て、そろそろ寝るか。と、独りごちた。
 風呂も済ませ、テレビも特に興味があるようなものは放送されていない。明日からまた忙しくなるのだから、早めに寝るのが吉。そう思ってさっさとベッドに入った。

 寝付きはいい方だ。
 修学旅行でも、寝付きが良過ぎるのと、眠りが深いために、ありがちな就寝前のイベントに参加出来なかったりもした。なのにどうだ、今日は目を閉じているのに一向に眠りに落ちない。外ががたがたと煩過ぎるせいか。
 暗い中で何度も寝返りを打っては溜息を吐いた。いっそ眠くなるまで起きておくか。今の時間が無為に感じられ、気怠さを感じながら起き上がると人影が見えて、ぎくりと体を強張らせた。玄関の鍵は閉めている。来訪者もない。誰だ。体躯はがっしりしているが、然程、背は高くなさそうだった。
 少しでも距離を取ろうと目を見開いたまま、壁際に逃げようとすれば肩を掴まれ声にならない悲鳴を上げる。
「ジャン……」
 低く響く声。よくよく見れば、男性で、そして全裸のようだった。
 見知らぬ全裸の男に肩を掴まれ、名前を呼ばれながら顔をまじまじと観察される俺の恐怖は尋常ではなく、刺し貫かれそうな鋭い目つきに俺は震え上がる。
「ど、どちらさま……」
「つれない奴だな。お前がここに来た時からずっと一緒に居たじゃないか」
 もしや、幽霊だろうか。事故物件なのか。入居時に何も聞いてないぞ糞不動産屋め。
 今にもちびりそうになりながら、俺はどうにか逃げる方法ばかりを考えていた。しかし、肩を掴まれ、寝転がった状態でどう逃げる。万事休す。

 俺はこのまま憑り殺されるのか。
 儚い人生だった。

 そこまで考えて、いやいやふざけるな。と、自分に反論する。まだ人生を楽しむ若い身空で死んで堪るか。馬鹿野郎。
 幽霊を睨み付け、自由になる足で布団を跳ね上げてやればぶつかったようだ。物理的干渉が利く。自らの機転に拳を握り玄関へ向かってまっしぐら。目指すはマルコの家だ。然程離れてはいない。何時かは判らないが、説明すれば叩き起こしても恐らく許してくれる。怒られはするだろうが。

 だが、甘かった。
 幽霊の動きは俺が玄関に辿り着くよりも早かった。布団を床に叩き落とした幽霊に飛びつかれ、俺は敢え無く床に押し付けられ、うぎゅ。と変な声を上げた。
「何故逃げる」
「あ、当たり前だろ……!」
 訳の分からない存在に易々と殺されて堪るか。
 捕まっても往生際悪く、匍匐前進で玄関に向かって行く。やれやれ。とばかりに背後で幽霊が溜息を吐き、ちくりとうなじに痛みが走ったかと思えば体が痺れ出し、動けなくなった。金縛り?否、経験はないが何かが違う。兎に角痺れている。
「噛むつもりはなかったんだが……、仕方ないな」
 何が仕方ないのか。噛まれたのか。痺れの原因はそれか。体は動かないが頭はどうにか動く。噛まれて動けなくなるとしたら毒だろうか。麻痺をするような。
 俺の体を麻痺させて、何をするつもりだこいつは。もしや、幽霊ではなく、人の肉をばりばり食べてしまうような化け物に狙われたのか。最悪だ。
「ジャン、お前が気に入ったんだ。俺の仔を産んでくれ」
 うっとりと熱を持っているように聞こえた声。一瞬、麻痺のせいで耳が可笑しくなったのかと思ったが、幽霊、化け物?兎に角、男の動きから察するに、そのままの意味らしい。ごそごそと下腹部を探る手付き。
 別の意味で俺は戦慄した。だが、抵抗しようにも体は痺れて動かず、言葉も紡げないため俺は男だとも伝えられない。服を剥かれ、はぁはぁと煩い吐息が耳元で聞こえる。悪夢過ぎる。
 体の痺れのせいか、体に触れる感覚は鈍く、痛みはないが何をされているかはしっかり理解出来た。考えたくない。何も理解したくない。ただただ俺は涙を流し、終わりを待った。

 眩しい光に瞼を上げれば窓から燦々と差し込む朝日。
 周囲を見渡せばベッドの上で、どっと汗が噴き出した。悪夢にもほどがある。何だあの夢は、男に強姦される願望なんてないぞ俺は。体をわなわなと震わせ、襲い掛かってくる恐怖や怖気と戦っていた。
 ふと棚の上を見上げれば、ざるの中から蜘蛛が脱走しており、閉じ込めた俺に向かっての威嚇なのか手をふりふり、体をふりふりと動かし、踊っているようにも見えた。愛らしくも見える動作に幾許か癒され、ベッドから体を起こす。
「悪かったな。今、外に出してやっから……」
 起き上がり、ベッドに座ると尻に鈍痛を感じ、怖気と共にまたべたつく汗が浮いた。あれ、夢だよな。夢であってくれ。考える人のポーズを取りながら、昨夜の悪夢を俺は否定する。

 この時の俺は知らなかった。
 蜘蛛の踊るような動きが求愛だと言う事を。
 毎夜毎夜。人の形をとって俺に『仔を産め』と迫ってくる事を。

拍手

PR