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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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大事にします

2018/07/12
・現パロ
・リーマンパロ
・リヴァジャンと言うよりリヴァイ+ジャンな感じ






 最悪。
 この一言に尽きる。

 公務員試験に落ちて、滑り止めで受けておいた会社では内定が決まった。
 母子家庭の俺は、奨学金があったとは言え、大学に行かせて貰えただけでも御の字で、就職浪人などしている余裕はなかったので、滑り止めのはずの会社に行かせて貰う事になった。
 これは仕方がない。きっと俺の努力が足りなかったんだ。だから、この会社では頑張って認めて貰い、高給取りになる。そして心配をかけ続けた母親を楽させて、可愛い嫁さんを貰って、可愛い子供作って円満家庭。これが俺の人生設計。

 なのに、何故、こんな初っ端から躓いているのだろうか。
 朝から酒臭い変な爺に絡まれて電車に乗れず、攻防の挙句、スーツのジャケットの袖を破かれた。会社も連絡はしたが遅刻だ。入社直後にこれでは社内評価は地に落ちたに違いない。
「おはようございます……」
 社員証を入り口のカードリーダーに翳して、緊張しながら扉を開ければ、幾つかの視線が突き刺さる。
「おう、やっと来たか」
 地を這っていた俺の視線が声をかけられて浮上する。
「あ、おはようございます。リヴァイ係長……、あの……」
「言い訳は要らん。さっさと仕事に入れ。やる事は幾らでもある」
 怒鳴られるかと身を固くしていたが、思っていたよりも穏便に済んだ。否、寧ろ怖いのかも。しっかり怒られて、罰を受けたと周知して貰った方が、まだ幾らかやり易い。
 頭を下げてから、与えられたデスクに向かい、破れたジャケットは椅子に掛けて座る。朝から妙に疲れて、パソコンを起動させる時間すら気が重い。

「おい、なんだこれは」
 後ろから声をかけられ、今度は何を言われているのか咄嗟に理解出来ず、俺は間抜け面を晒した。ただでさえ威圧感のある顔を更に怖くして、リヴァイ係長が俺のジャケットを見咎めたようだった。
「通勤途中に変なおっさんに絡まれて、髪やらジャケットを引っ張られまして、その結果と言いますか……」
 髪も抜けて痛かった。
 スーツも母親が『就職おめでとう』と嬉しそうに笑って渡してくれたものだ。あの糞爺、殺してやりたい。
「絡まれたとは聞いたが、ここまで酷かったのか……」
「はは、帰ったら縫っときます」
 破かれた。とは言っても、糸が千切れてしまっただけで、縫い直せばどうにかなりそうな範囲ですんだのは不幸中の幸いだった。ほつれてしまった裏地はどうしようもないが、表面だけでも取り繕えれば良しとしなければ。
 力なく笑えば、リヴァイ係長の表情が曇った気がした。
「今から他の奴らにした指導をお前にもやる。そして昼休みも用事があるから開けておけ」
 え、食事もするなと?しかし、これが遅刻の罰とするなら当然なのだろうか。朝から事故に遭いっぱなしだ。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 午前の指導はひたすら怖かった。
 あの威圧感半端ない視線で睨まれながらの業務。胃に穴が開きそうだった。当然、食欲もない。昼食抜きだから、なくて寧ろ良かったんだろうけれど。
 今は、リヴァイ係長の車の中。きっちりとスーツを着て運転する上司の隣で、ジャケットも着ずにシャツのみのラフな格好の俺。破れたジャケットと、名刺は忘れずに持って来いとの厳命を受けていたため、このまま取引先に行くのだとしたら、公開処刑もいい所だ。湾曲に辞めさせようとしてるんだろうかと邪推したくなる。

 だが、ついた場所はオーダーメイドスーツを取り扱うアンティーク調の店。
 店構えに圧倒され、ぽかんと口を開けて見上げていれば、さっさと来いとばかりに腕を掴まれて店内に引き摺り込まれた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
 朗らかな笑みを浮かべた初老の紳士がリヴァイ係長に声をかけ、二、三会話を交わした後に、俺を顧みて名刺を出せと命令された。
 俺は腕に抱えたジャケットを持ち直し、慌ててシャツの胸ポケットから名刺入れを出して一枚抜けば、リヴァイ係長にすっと奪われ、自分の物と合わせて二枚の名刺を紳士に差し出した。
「確かに拝見いたしました。ではお好みの生地をお選び下さい」
 硬い厚紙に貼られた端切れをカウンターに並べ、選ぶように促してくる紳士はスーツのディーラーらしい。
 細身で背筋を伸ばし、髪を後ろに撫でつけ、白い糊の利いたシャツに黒のベスト、斜めにストライプが入ったネクタイをぴしっと着こなしており格好いい。
「俺はこれにする。お前も選べ」
 手慣れた様子でカウンターに並べられた見本の生地を選び、デザインカタログを眺めて気に入った物があったのか指を差してから満足そうに頷き、俺にも選ぶように指示をする。
 何が起こっているのか。
「えっと……」
「オーダースーツは初めてでございますか?」
「は、はひっ……」
 緊張し過ぎて声が裏返った俺を笑わず、ディーラーの紳士は笑みを深くして、生地の説明を開始する。
 これはどこぞの生地で、これはどこ、生地の折り方の違いや、質感がどうの、吸湿性、保温性云々。俺はその説明に、はい、はい。と、相槌を打つばかりで半分も理解出来たか自信がない。
「じゃあ……、これで……」
 俺が選んだのは、柔らかいながらも皺になりにくいと説明された、ダークグレーに薄く縦ストライプが入った生地。次いでデザインを選ばされるが、まごついていればやはり微笑ましいものを見るような眼差しで説明を受け、その中でもお勧めだと言われたものを選んだ。
「おい、その手に持っている物も渡して置け。修理してくれるよう頼んである」
 一仕事終えた後のように、ほっと息を吐いていると、ずっと腕に抱えたままだったジャケットを奪われ、リヴァイ係長が先程のディーラーに良く似た中年男性へと渡す。
「え、修理……、いや、別に自分で……」
「お前の裁縫の腕は知らないが、プロに任せておけ。それが一番いい」
「直ぐに取り掛かりますので、アッカーマン様はお茶を飲まれながらお待ち下さい。キルシュタイン様は採寸がございますので裏の方へどうぞ」
 まだ年若い女性の店員がリヴァイ係長を奥のテーブル席へと案内し、そのまま俺をカーテンで仕切られた裏に連れて行く。首にメジャーをかけているため、この人が採寸をするのだろう。親子でやっている店なのだろうか。
「少々くすぐったいとは思いますが、動かないようにお願いいたします」
「はい……」
 首回り、肩、胸回り、項から尾てい骨までの背中、腰、腕、手首、掌回り、骨盤から、足の長さ、内腿からくるぶしまでを測られるのは少しばかり恥ずかしかったが、ボード挟んだ専用の紙に記入していく真剣な横顔はプロらしく、格好いいと感じた。
「これで以上です。お疲れさまでした。新しく淹れて参りますので、お連れ様とお茶でも飲まれていって下さい」
 にこりと快活に笑い、女性は更に奥の部屋へと小走りに入って行った。
 俺が裏から出て行くと、リヴァイ係長は優雅に紅茶を飲みながら足を組み、スーツ専門の雑誌を捲っていた。出来る男感が溢れんばかりに出ており、実に様になっている。
「係長は、採寸しなくていいんですか……?」
「俺の型紙はもう作ってあるから大丈夫だ」
 そんな気はしていたが、常連ようだ。常連の連れだから、店員の人は皆、愛想が良かったのか、あからさまにスーツに着られている新人にも分け隔てなく優しく接してくれる店だったら凄いと思う。
 出された香りの良い紅茶を口に含み、緊張し通しだった体から力を抜く。昼休みはとっくに終わっているが、大丈夫なのだろうか。本格的にお腹も空いてきた。就業時間までこの空腹感に耐えるのは辛いものがある。
 胃に入ったお茶に刺激を受けたか、ぐう。と、情けない音が鳴り、リヴァイ係長の眼が俺を見据えた。
「大分いい時間だな。飯にするか。俺の好みで決めるがいいか?」
「た、高い所でなければ……」
 ここの支払いも幾らになるのやら。
 空腹と金銭的な不安で胃が痛い。
「キルシュタイン様、ジャケットの修理が終わりました。どうぞ袖を通されて下さい」
「あ、ありがとうございます」
 袖が破けていたジャケットは痕跡も残さず綺麗に修理されていた。
 裏地を見てもほつれなどは見当たらない。つけ直してくれたのだろうか。迅速、丁寧な仕事で元通りになったジャケットを着て、肩を撫でると目に薄く涙が滲む。
「親から貰ったスーツか?」
「は、はい……」
「そうか。大事にしろ」
 それだけを言うと椅子から立ち上がり、入口へ向かって行く。
「ありがとうございました。商品は仕上がり次第ご連絡をさせて戴きます」
「あぁ、頼む」
 え、お金は?俺の戸惑いを他所に店員に見送られ、そのまま駐車場には向かわず近くにあったハンバーガーショップで食事をする。
「あ、あの、支払いは……」
「安心しろ、あの店は若者にもオーダーメイドスーツの良さを知って貰いたいって事でな、キャンペーンをやってるんだ。上司が一着買えば部下はただになる。値段もリーズナブルだ。俺もそろそろ新しいのが欲しかったしな、丁度良かっただけだ。気にするな」
「修理は別では……」
「気にするなと言っている。あんな風に破れたスーツを見たら悲しむだろう」
 見た目で怖い怖いとばかり思っていたが、実は不器用なだけで優しい人なんだろうか。このハンバーガーもリヴァイ係長の奢りだ。母親からの贈り物であるスーツを台無しにされて、落ち込んでいた俺を慰めてくれているのかも知れない。
「俺、係長の下で頑張ります……」
「あぁ、期待してる」
 この人だったら、きっとついて行っても間違いない。
 母親にはいい上司に恵まれたと報告しておこうと思う。

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