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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

大人で子供な君


・ジャン独り言を聞いて気に掛けるリヴァイの話
・短め
・毎度ながら序章のみ
2018/12/14






 巨人へ恐怖、大事に想う人間、仲間の死などによる精神的な負担から心を壊してしまう人間は良く居る。
 酒、薬、煙草、人などの何かに強く依存する。無意味な独り言が多くなる。性格がまるで別人のように変わる。荒唐無稽な幻覚を見るようになる。壊れ方は多種多様ではある。あいつも、その手合いかと思った。

 机仕事に疲れ、痛む目をしょぼつかせながら休憩のために、兵舎から離れた森へと足を伸ばした。そこで見てしまった。自分の部下が、独りでぶつぶつと喋っている姿を。

 木の根元に座り、何もない空に向かって話す姿は異様だ。見えない範囲に人が居るのかと疲労した目を擦り、周辺を探るが、その部下、ジャン以外の気配は皆無だ。
 目の前を流れる小川をぼんやりと見ながら、ぶつぶつぼそぼそ。まるで誰かに話しかけるが如く喋っていた。

 一番まともだった子供が壊れてしまった。
 そう思った。だが、一気に降りかかった惨劇の数々を思い起こせば、仕方のない事かとも感じた。
 ごく普通に愛されて育った子供が兵士になるために努力し、仲間との絆を育んで健やかに成長していくはずが、壁が壊されたために強制的に戦場に引き摺り出され、死の恐怖を味わい、多くの死を見た。
 死体になった者の中には、己の半身とも言うべき人間も居たと聞く。

 仲間の裏切りを知り、逃亡生活の末に人を殺め、シガンシナ区の決戦でも心身共に大きな傷を負っただろう。決して、ジャン一人だけが味わったものではないが、子供の心を壊すに十分な傷だ。
「マルコ、お前ならあの時どうした?俺はどうすれば良かった?皆死んでく……」
 死んだ親友の名前だろうか。
 声は沈み、泣いているようにも聞こえたが、見える横顔は静かで、落ち着いている。独りでも泣かないのかあいつは。
「お前が居たら、少しは違ったのかな?」
 ジャンが右手で小さな袋を弄りながら、ぼそぼそと問いを繰り返している。
 何だあれは。
「皆、一杯一杯でも自分で頑張ってんのに……、俺は、お前が居たら、どうするんだろう。ってばっかり考えちまうよ。お前ならもっと上手くやれたんじゃないかとかさ。俺は……、やっぱり人を纏めるとか向いてねぇって。誰も聞かねぇもん……」
 言葉は崩れて、どこか幼い。
 俺には上官故に当然とは言えるが、同期と話している時にすら聞いた事がない甘えを覗かせた口調。負傷した肩を庇いながらではあるが、膝を抱えて小さく座るような仕草もついぞ見た記憶はなかった。
 地下街でも散々見て来たものだ。過酷な環境は子供を子供のままでいる事を許さず、子供達も無理矢理、大人に成らねばとする。ジャンにとって、件の親友が子供に戻れる唯一の安らぎの場だったとしたら、口調も、仕草も決して可笑しなものではない。
「未だにお前がどうして死んだのかすら解んないし、何でアニがお前の立体機動装置持ってたのかとか、さ……。解らない事が多過ぎて、解らないまま突き進んで、人を殺して、死んでいくばっかりだ。何が正解か判んねぇ。これでいいのかな?ちゃんと進めてんのかな、俺達」
 得心がいった。
 あの小袋の中に遺品か何かが入っているのか。そして、それに語り掛けている風に見えて、ほぼ自問自答に近い。解らないなりに結論を出そうと、苦心しているだけだ。壊れている訳ではない。まだあいつは『大丈夫』だろう。

 余計な気を回して立ち聞きなど無粋な真似をしてしまった。帰るか。
「兵長何してんですか?」
 ジャンにばかり注視して、人の気配に気が付けなかった。
 敵ではないにしろ、今は不味い。

 突然現れたように見えたコニーは何かしらが入った箱を持っている。
 恐らくは森の機材置き場辺りに持って行く物だろう。返事もせずに肩を掴んで焦りを滲ませながらコニーを連れ、その場を立ち去ろうとしたが、時すでに遅し。
「ジャンまで何してんだ?兵長に相談事か?」
「いや……」
 コニーの声で俺の存在に気付いたジャンが立ち上がり、眉根を寄せながら怪訝そうに俺を見る。
「俺は気晴らしの散歩に来ただけだ」
「そうなんですか?じーっと立ってらしたんで、誰かと一緒なのかと」
 馬鹿め。
 余計な事を。
 ジャンをちら。と、見れば顔ごと俺から視線を逸らして小さく震えている。
「し、つれい、します……」
「あぁ……」
 ジャンが足早に去っていき、その場には戸惑うコニーと、気不味さに包まれた俺だけが残された。一先ずコニーに仕事を継続するよう指示し、ジャンの後を追う。
「おい、ジャン、待て」
「ぅ……、はい」
「その立ち聞きをして悪かった……、精神的に参っているのかと思ってだな」
「あんな所でぶつくさ言っていた俺が悪いので……、気にかけて戴いてありがとうございます」
 言葉とは裏腹に、俺を見ているようで僅かに視線を逸らし、微かに頬を赤らめて唇と尖らせていた。まるで拗ねた子供。短い付き合いではあるが、初めて見る表情だった。
「ジャン、あまり一人で塞ぎ込むな。話なら俺が聞いてやる。相槌くらいは打てるからな。独りで考え込むよりも少しはましかも知れん」
 子供の慰め方など知らない。まして、暖かな環境で、与えられる愛情を当たり前のように享受してきた人間に対してかける言葉など、どうしたらいいのか。
 暴力ならば簡単だ。相手を叩き伏せる術を教えればいい。だが、遺品に対して零していた言葉からも鑑みるに、ジャンはそれを望んでいない。俺に教えられる事はなく、本来ならば放置しておく案件だ。
 強いて言うなら、独りでも泣けない馬鹿な餓鬼を放っておけなかったと言う所か。
「そんな、悪いです」
「俺が許可している。それ以上に何かあるか?」
「いえ……」
 上司に対してぼやきを漏らせ。などとはいき過ぎだったか。
 やたら真面目なジャンに出来るのか。
「まぁ、美味い紅茶と、茶菓子くらい用意しといてやる」
 言葉はないが、一瞬表情が華やいだ。
 茶菓子の言葉に釣られたか。
 やはり、子供は子共か。
「何なら、最近貰った焼き菓子が執務室に置いてある。俺の書類整理を手伝ってくれたらだしてやろう」
「三時、までなら時間がありますっ……」
 大きな負傷をしたとは言え、いつまでも寝て居られるほど人手は多くない。
 訓練は控えているが、ジャンは机仕事が早く、新しく団長になったハンジからも重宝がられていた。荒事は得意でも、書類が天敵と言える俺は、手伝って貰えるのならば、それに越した事はない。
「じゃあ、俺の部屋に来い。書類ばかり眺めて目が痛くて仕方がないんだ」
「あ、それなら、お湯で濡らした温かいタオルを持ってきましょうか?目に置くと痛みも和らぎますし、気持ちいいですよ」
 調理場に行けば、お湯は直ぐ用意出来るだろう。
 兎に角、目が霞んで痛み、頭痛までしていた俺には良い助け舟だ。
「頼む」
「では少々お待ち下さい」
 ジャンは小走りに調理室へと走って行き、俺は先に執務室に戻る。

 程なくして熱めの湯が入った小さめの薬缶と洗面器を手にしたジャンが俺の執務室に来ると、ソファーに寝るように促し、温かいタオルを目の上に置いてくれた。これはいい。
「じゃあ、先ず溜まっている書類の整理をしておきます。解らなかったら訊きますので、耳だけ貸して下さい」
「ん……」
 痛む原因だった目が沈静化したお陰か、頭痛も和らいできた。
 こんな方法があったとは。

 かさかさと書類を分けていく音を聞き、時にかけられる声に答え、タオルが温くなると再びお湯につけて取り換えてくれた。この気の利きよう、ハンジが補佐に置きたがる訳だ。
「少しはましになりましたか?」
 薬缶に入っていた湯もすっかり温くなり、効果が薄れた所で終了だ。
「あぁ、目も頭痛も大分良くなった」
 肩を回して解し、丁寧に整理された書類を見てほう。と、息を吐いた。
 乱雑に積み重ねられていた書類が、名前を書くだけで済むものと、必読しなければならないものと分けられ、急を要するものの順に重ねられている。
「ふむ、仕事の戻る前に褒美をやっておこうか。もう一度湯を頼む」
「はい!」
 使用済みのタオル、洗面器と薬缶を持ってジャンが執務室を出て行くジャンは、菓子が食えるのが嬉しいのか、部屋を出て行く脚は弾むように早い。
 ソファーの側にある来客用の低い机に茶葉と甘い焼き菓子を出し、お湯を待つ。
 食べれば今度はどんな表情を見せてくれるのかが楽しみだ。

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