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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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おじさんは心配性


・ほんのり過ぎるリヴァジャン
・ジャンが怪我をしている描写あり
・モブさんが少し多め
2019/01/22






 殴られたせいで出た鼻血が口に入り、不愉快に眉を顰めながら手の甲で拭う。
「糞餓鬼が覚えてろよ!」
 兵士に顔を覚えられている方が面倒だと思うけど覚えてていいのか。
 仕様もない捨て台詞を吐いて逃げていく男達を睨みながらジャンは思い、革命が成功して一見、平和になったように見える町にも、未だか弱い者を恐喝し、金銭を巻き上げようとするような輩が居た。と、報告書を作る必要性を考えていた。
 休日に仕事を増やしてくれた悪漢達には後日、しっかりと相応しい罰を与えてやらねばならない。ジャンが段取りを考えていると、背後から動く気配がして目を向ける。
「あの、ありがとうございました……」
 男達に絡まれていた少女が恐る恐る物陰から出て来てジャンに声をかけ、礼を言うとハンカチを差し出した。
「ハンカチが汚れますから、大丈夫ですよ」
「でも……」
 ジャンの服は掴まれて振り回されたせいで釦が幾つも弾け、顔も体も殴る蹴るの暴行を受けて擦過傷や打撲痕が出来ている。ジャンも一端の兵士であるからには、相手にも相応の手傷は負わせていたが、多勢に無勢とあって捕縛までは至らず、取り逃がした事は悔しいが、幼気な花売りの少女を護れた事実は誇らしく感じた。
「じゃあ、せめてこれをどうぞ」
「それ、売り物でしょう?」
「いいんです。沢山育ててますから。お礼です」
 色鮮やかな花を売っていた少女は、自分が懸命に護っていた籠の中から、花弁が散ったり、茎が折れていない綺麗なものを選んで花束を作り、ジャンへ渡しながら微笑んでくる。
「うーん、それじゃあ……」
 ジャンは眉を下げつつも花束を受け取ってはにかむ。
「じゃあ、もうあんなのに絡まれないようにな」
「はい!本当にありがとうございました」
 ぱたぱたと足音を立てながら小走りに去っていく少女の背中を見守り、休息日に気晴らしに来たはずが結局、休めていない自分に自嘲する。
「兄ちゃん勇敢だねぇ」
「若いのにやるもんだな」
 遠巻きに見ていた市場の人々がジャンに寄って来て、各々が気遣いの言葉をかけてくる。
 多くは老人ばかり。悪漢に難癖をつけられて絡まれている少女を助けてはやりたいが、相手は複数で体格も良い。勇気を出して止めさせようと声をかけた者は恫喝され、突き飛ばされて怪我をした。自分等だけではどうにもならず、憲兵なり駐屯兵へ助けを求めようとした所に、折良くジャンが現れ、悪漢達を蹴散らしたのだ。その姿は実に頼もしいものだっただろう。
「これを食べて早く怪我を治しなさいね」
 老婆が手に持った林檎を二つジャンに渡した事を皮切りに、我も我もと食料や日用品を渡され、あっと言う間に両手が一杯になる。聞くに、この地区で産まれたあの少女は、巨人によって子孫を亡くした老人達にとって、孫の生まれ変わりも同然であり、皆で可愛がり、成長していく様を見守っていたようだった。
 少女を護ってくれたジャンは、老人達からすれば小さな英雄と言っていい。
「兵士として当然の事をしたまでですから……、そんな……」
 褒められ過ぎて面映ゆくなったジャンがしどろもどろに言えば、所属を訊かれ、『調査兵団』と、口にすれば老人達は更に盛り上がって褒め囃し出した。
「あんたみたいな子供が、あんな化け物と……、怖かったろうに」
「まだ俺の半分も生きてねぇってのに、あんな大それた事を成し遂げるなんざ大したもんだ」
 皺だらけの顔を更に皺くちゃにして、ある者はジャンの頭を撫で、ある者は涙を浮かべて味わったであろう艱難辛苦をねぎらってくれた。
 もう一生分、労わられ、褒められたのではないかと言うほどで、三十分近く放して貰えず、褒められ疲れと言えばいいのか、貰い物の重量もさる事ながら、足をふらつかせながらジャンは調査兵団の宿舎に帰り、自室で荷物を広げて休んでいれば、肝心の目的を失念していた事に気が付いた。
「お茶屋さんに寄るつもりなの忘れてた」
 ここ最近、忙しさからあまりにも顔色の優れないリヴァイへ、出かけるついでに気が休まる良い香りの茶葉でも買って贈ろうと考えていたのだ。しかし、不測の事態のお陰で完全に頭から飛んでいた。
 時刻はもう昼を大分過ぎている。再び、町へ繰り出して茶葉を選び、帰る頃には門限は過ぎているだろう。夜間外出許可の申請も今更面倒。だが、リヴァイの様子も気になるとあってジャンは右往左往する。
「あ、そうだ」
 はた。と、貰い物の中に、果物があった事を思い出し、手当てを済ませてから滋養のつくものでも作って渡そうと考え、ジャンは早速とばかりに外へと傷を洗いに向かった。

 夕食の少し前。
 執務室を叩く者があり、苦手な書類仕事が中々終わらないリヴァイは不機嫌に入室の許可を出した。
「失礼します」
「どうした?お前は今日は休みだろう?きちんと休むのも仕事だぞ」
 やや矛盾した言葉を吐きながら、私服のジャンへ視線を向けてリヴァイは目を瞠る。
 昼頃、食堂で顔を合わせた際は何事もなかったはずのジャンの顔に大きなガーゼが貼られ、袖を捲った腕にも痣や細かな擦過傷が見えたせいだ。
「あ、これの経緯はこれを……」
 ジャンは何故かずっと左手を後ろに回しているため、敬礼を簡略化し、用紙を片手で渡してきた。
 口煩い上官であれば叱責が飛ぶ所だが、リヴァイは何も言わずに受け取り、渡された報告書に目を通しながら、新たに湧いた頭痛に呻いた。
「商業区はリーブス商会が新たな自警団を組織して周辺の治安維持に努めていると聞いたが……、いや、それの下っ端か。調子に乗って悪さする奴も居るから、その手合いか……」
 悪漢達の特徴を記した項目を目で追いながら、リヴァイはぶつぶつ頭を整理するために呟く。
「この報告は駐屯兵団の方にも回しておこう。ったく、きたねぇ虫みてぇに次から次に湧いて出てきやがる」
 認可を伝える言葉とぼやきが同時ももたらされ、ジャンは苦笑を浮かべて隠していた左手を前に出し、小さな瓶を二つリヴァイの前に置く。
「林檎ジャムです。最近お疲れみたいなので、良かったら紅茶にでも入れて下さい」
 一つはパンにつけても食べ応えがあるように果実を大きめに切った物。
 一つは紅茶に入れて飲み易いよう果実が細かく磨り潰された物。
 ジャンは報告書をしたためながら、夕食作りに忙しそうな厨房は避け、暖炉のある部屋を借りて保存がきく林檎のジャムを作っていた。急いで食べなくてもいいように。との心遣いである。
「ほう、いい匂いだな」
 蓋を開けて鼻を当てれば甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐり、ささくれていた気分を和らげていった。
「蜂蜜も入れてあるので、甘くて美味しいですよ」
「つまみ食いでもしたか?」
 ぽろ。と、漏れた味の感想にリヴァイは口元を緩めて上目遣いにジャンを見やる。
「味見です……」
「どうだかな。お前もまだまだ餓鬼だ。うっかり半分くらいは食ったんじゃないか?」
「ほんのちょっとですってば!」
 くつくつとリヴァイは喉を鳴らし、ジャンを揶揄る。
 胸の前で拳を握り締め、顔を赤らめながら反論するジャンにリヴァイは機嫌を良くし、椅子から立ち上がる。
「少し待って居ろ。ジャムの礼に茶でも淹れてやる」
「お仕事の邪魔じゃないんですか」
 気遣った挙句に揶揄られて機嫌を損ねたジャンが解り易く拗ねている。
「そう言うな。書類仕事も飽きてきた所だ」
 ごきごきと体を鳴らしながらリヴァイはジャンを残して執務室を出て行き、然程時間も置かずにお湯の入ったポットを片手に戻ってくる。
「勝手に座って待ってろ。怪我もしてるんだろうが」
「幾らなんでも上官の部屋で許可なくそんな事出来ません」
「相変わらず融通の利かねぇ餓鬼だな」
 リヴァイが眉間に皺を寄せながらソファー前にある応接机を見れば、既に茶器一式が用意されており、素直でない子共へ座る許可を出した。

 リヴァイの淹れた温かい紅茶を一口飲み、切った口の中が沁みてジャンは表情を歪める。
「今度、個人の外出申請を出す時は俺に言え」
「直接ですか?」
「そうだ」
「あー、ついて来なくていいですよ」
 言葉足らずなリヴァイの思惑を読み取り、ジャンは呆れた面持ちで無下に断る。
「貴方は一兵士如きに時間が割けるほど暇じゃないでしょう?」
「暇じゃないが、町に行くくらいの時間は作れる。お前は俺の後ろに居ればいい」
 リヴァイは、カップの淵を鷲掴みにする奇妙な持ち方で煽るように飲んでいるため、表情は窺い辛いが、どうやら心配をしているらしいとは察せられた。
 出会って直ぐのジャンであれば真意が測れず、無駄な問答を繰り返しただろうが、直接対話する機会が増え、かなりの不器用な性質だと知れた今、足りない、否、足りなさ過ぎる言葉を補完しながら話すようになった。時折、深読みし過ぎて互いに食い違いが発生するのはご愛敬だ。
「後ろにって、戦い方を知らない子共じゃないんですから……。対等は無理にしても、せめて隣に居ろ。くらい言って下さいよ。寂しいです」
「言うようになったな」
「報告書は読まれたでしょう?」
「あぁ、二人を相手取りながら良く観察して特徴を捉えているな。捕まるのも時間の問題だろう」
 リヴァイの言葉にジャンは笑みを作り、『一緒に戦えますよ』と、言ってから、空になったカップに林檎ジャムを一匙入れ、自らの手で紅茶を注ぐ。
 林檎のジャムのように、甘酸っぱい雰囲気になった所に扉を叩く者があった。
「兵長、お食事をお持ちしました」
「じゃあ、俺はこれで」
 ジャンは紅茶を一気に飲み干すと、カップを片付けもせず、トレイを持って廊下に立っていた新兵を招き入れてから出て行った。

 出て行く寸前のリヴァイは判り辛くも苦々しい表情をしながらジャンを見送っていた。
 逆に、ジャン自身は労わるつもりが余計な心配をさせてしまった後悔をしつつも、不器用な優しさを貰えた事で心が満たされ、知らず唇が弧を描いていたのだった。

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