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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

優しげな手

・うっすら山奥→ジャン
・短い
・ジャンがベルトルトの爪を整えて上げるだけの話
・2019年02月11日くらいに書いた話






「いたっ!」
 小さく上がった悲鳴に、ジャンが目を向ければ、隣に座って立体機動装置の講義を受けていたベルトルトの手に赤いものが滲んでいるのが見えた。
 機械のどこかに引っ掛け、爪を割ってしまったようで、指に血をつけながら小さな欠片を無理矢理千切ってからハンカチを手に当てていた。見てるだけで痛くて視線を逸らす。

 全ての訓練が終了し、後は自由時間になった。
 人によっては資料室に向かって勉強し、体を動かしたい者は外に出て走り込みや筋肉トレーニングをしている。
「おい、ベルトルト、手見せろ」
「え、なんで……」
 おどおどとしながら唐突に不可解な事を言い出したジャンへ、ベルトルトが戸惑いの視線を送り、申し出とは逆に読んでいた本をベッドに伏せ、背中に手を隠した。
「爪、伸びてるのが見えたから。そんなんだから割れるんだよ」
「手当はもうして貰ったから大丈夫だよ。ありがとう」
 ベルトルトは話しかけて来た要件が思い至り、右手の人差し指に巻かれた包帯を見せながら、心配してくれたのであろうジャンを納得させようとしたが、眉間に皺の寄った表情は変わらない。
 ベルトルトからは不機嫌になっているようにしか見えず、困り果てていく。
「そうじゃなくて、爪を削ってやるから手を貸せつってんの」
「なんで?」
 予想外過ぎて先程と同じ返答をベルトルトがすると、ジャンは無言で隣に座り、強引に手を掴んで指先を確認していた。
「何事だ?」
「あ、ライナー……」
「爪削るだけだよ。お前、下手過ぎだろ。あと、ここ暗いから机のとこ来い」
 宿舎の自室で行われていたやりとりを訝し気にライナーが覗きに来きてベルトルトが安堵したのも束の間、ジャンが強引に手を引いてベルトルトをベッドから引き摺り下ろし、長椅子の上に座らせると机上にノートから千切ったのであろう紙を敷き、丁寧な手つきで爪を整え出す。
「お前の分厚いな」
「あ、うん……」
 拒否もし辛い可笑しな空気になり、ベルトルトは曖昧に返事をし、ジャンは見たままの情報を口にする。周囲に居た人間も何が起こっているのか判断がし辛いようで誰も茶化さない。
 ジャンが真剣な眼差しで爪を削る小さな音が室内に響き、指先が整えられていく様をベルトルトは何も言えずに固まって眺めていた。
「左」
 怪我をした右手の人差し指以外を整え終え、もう一方の手をジャンは要求する。
「あ、はい……」
 言われた通りに左手を差し出せば、ジャンがベルトルトの手に優しく自身の手を添えて、実に丁寧な動作でしょり、しょり。と、音を立てながら細かく爪を削っていく。
「お前さぁ……、なんでこんなに爪がたがたなんだよ、服とか引っ掛からねぇの?どう削ったらこうなるんだよ……」
 全ての爪を削り終え、滑らかになった指先を感慨深そうにベルトルトが眺めていれば、ジャンが呆れたように説教する。
「あ、えっと、爪切り用のナイフで適当に……」
「はぁ?爪はやすりで削るもんだろ?」
「えぇ?」
 どうやら、爪切りへの常識に相違があるようで話が噛み合わない。
 ベルトルトが助けを求めるように、成り行きを見守っていたライナーを顧みればライナーは自分の爪をじっくり眺めてから、俺も爪切り用のナイフだが。と、言った。
「そうなんだ」
 ジャンがベルトルトの前を遮るように身を乗り出し、不躾にライナーの手を掴んでじ。と、見る。
「お前、深爪過ぎじゃねぇ?痛くないのか?」
「俺はこのくらいが具合がいいんだ」
 ジャンが見たライナーの爪は、伸びた白い部分が一切なく、肉が際どく見えそうなほど短く切られていた。ベルトルトのように、乱雑に切ったりはしないようで、綺麗に丸くはなっているが、見ようによっては痛そうにも見えた。
「ジャン、ごめんきつい」
 体を大きく逸らしてジャンを避けていたベルトルトが限界を訴え、素直に退いてくれた事に感謝を述べながら体制を直す。
「ジャンはいつもやすりで整えてるんだね」
「まぁ、切れ味が悪い爪切りナイフに当たったら、それこそ割れて痛いだろ?」
「そこまでか?」
 ライナーが席を移動し、椅子には座らず中腰になってジャンの手を掴んで観察してみれば、ジャンの爪は薄く、確かに無理矢理、切ろうとすれば容易く割れてしまいそうだった。
「爪一つにしても個性があるもんだな」
 ライナーの武骨な手が細くしなやかなジャンの手を弄り回し、ベルトルトもそれを眺めていた。
「ジャンの手は綺麗だね」
「普通じゃねぇの?」
「いや、指も長くて細いし、手自体も薄いな、俺のと比べて見ろ」
 ライナーがジャンの手に掌を合わせ、大きさや太さ、厚みの違いを見せる。
「そりゃお前のと比べりゃなぁ……、ベルトルトはでかくて細いけどごつごつしてんな」
「うん、指自体はそうでもないんだけど、節が太いんだよね僕」
 何気ないやり取りを繰り返し、互い互いに手の違いを観察して遊んでいれば、自室の扉が開き、マルコが入って来てジャンを見ると微笑んだ。
「ジャン、お風呂空いたよ」
「はいよー」
 マルコの声で立ち上がったジャンが二人を置きざりに着替えを持って部屋を出て行く。何とも言い難い奇妙な空気は消え、置きっぱなしになっていた爪の屑が乗った紙をベルトルトが零さないように丸めてくず入れに捨て、残されたやすりはライナーが訳を話してマルコに渡しておいた。

 ジャン自身は、割れた際に見えたベルトルトの爪の惨状が放っておけず、自分が幼い頃から母親にされていた当たり前の行動をしたに過ぎないのだが、普段は生意気で傲岸不遜とも言える少年が見せた繊細な動作や、真剣な眼差し、添えた手の優しさを受けたベルトルトとライナーの二人は、胸に奇妙な焦燥感を感じ、言いようのない違和感を残しながら、ジャンと話す前にしていた行動へと戻って行った。

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