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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

自分オークション

・毒親?に疲れてるショタジャン
・ちょっとホラー?
・深く考えてはいけない奴
2020年01月17日 




 俺は疲れていた。
 勉強ばかりの日常に刺激が欲しかった。
 それだけだったのに。

 幼稚園から小学校まで、果ては目指す中学も受験受験。
 世間から名だたる名門と呼ばれる所に受からなければゴミとまで言われてきた。殊、父親がそうだった。母親はそこまで過剰ではないにしろ、『貴方の将来のためになるから』そう俺に言い聞かせ続けてきた。名門に相応しい礼儀作法、言葉遣い、所作の一つ一つまで厳しく躾けられ、毎日が勉強勉強勉強。
 公園で遊ぶ同年代の子供達が羨ましかった。ラジコンカーを父親の膝の上で楽しそうに操作する男の子。砂場で一生懸命お城を作っていた女の子。追いかけっこをする兄弟らしき二人。ブランコを漕ぎながら靴を飛ばし、飛距離を競い合っていた男の子と女の子。どれもこれも楽しそうで、母親に手を引かれ、歩道を歩きながら横目で眺めては心の中で溜息を吐いていた。

 疲れた。なんて言うと『子供の癖に』。そう詰られるのだろうけれど、年齢がたった一桁だろうが、毎日、重圧に耐えていれば疲労もする。なんだか最近、無意味に泣きたくなる時もある。
「あー、どっかに逃げたい……、もうやだ……」
 俺以外、誰も居ない自室でぼやきながら握っていた鉛筆を放り投げ、勝手に出てきた涙を手の甲で拭う。
 両親に抱き締められた記憶はついぞない。親戚の誰かが俺を『そんなに厳しくしては可哀想じゃないか』そう言っていたが、父曰く『子供扱いして甘やかすと駄目になる』だそうだ。常に規則正しく、親の希望通りに動かなければならない。
 俺は子供だけど無条件で愛される子供じゃなくて、二人の期待に応えるために作られた存在で、失望させればとたんに不要になる程度のモノでしかないのだと、いつも思う。

 机に座ったまま、勉強もせずにぼんやり天井を眺めていれば、ベッドに置いたスマートフォンから音が鳴った。就寝時間が近い事を知らせるアラームだ。
 父親が設定したこの音に従わなければ、『何故こんな事も出来ないのか』と、正解のない中で、父親が納得する答えを出すまで延々と詰られ、威圧され続ける羽目になる。早く寝なければ。
 勉強道具を片付け、明日、必要な教科書やノートを間違えないよう、忘れ物がないようチェックリストを見ながら用意する。制限時間は次に音が鳴る十分後。

 無性に出て来る涙を拭いながら用意を済ませ、電気を消してベッドに潜り込むと、丁度、寝るための音楽が流れた。聞き飽きたオルゴール調のきらきら星。この曲が、とても嫌い。
「ちゃんと寝てるか?」
「はい、大丈夫です」
 眼を閉じていれば、扉が薄く開いて瞼越しに廊下の明かりが目に差し込んでくる。眩しいけれど、目を開けちゃいけない。確認を済ませて父親は満足したのか、扉を閉めて離れて行く足音がした。
 大人になれば、この生活から解放されるんだろうか。出来得るならば、今直ぐにでも解放されたい。疲れたんだ。本当に。誰でもいいからこの生活から連れ出してくれないかな。

 眠りに落ちる間際にした下らない妄想。
 それを打ち消すように鳴った乾いた大きな音に驚いて思わず飛び起きてしまった。
 心臓が口から飛び出すかと思った。両親が来ないかびくびくしながら布団の中に戻り、ちかちか通知ランプを光らせるスマートフォンに手を伸ばした。
 学校ではスマートフォンは禁止されて朝礼前に回収されるし、同級生だろうが『蹴落とすべき敵』だなんて皆、刷り込まれているから仲良くなんてしない。そもそも先生と親以外の連絡先は入っていないのだから、通知音が鳴る事自体が珍しい。
 あるとすれば、学校からの緊急連絡だろうか。時折、不審者情報などを共有するために突然メールが送られて来たりはしていた。
「学校が爆発して休みになってないかな……」
 儚い希望を口にして、布団の中に潜り込んでスマートフォンを弄れば、奇妙なメールに知らず眉根が寄った。

 タイトルは、【自分をオークションに出品して見ませんか】。
 授業以外でインターネットに触れさせて貰えない俺には意味不明過ぎて良く解らなかったが、好奇心が勝って本文に添えられていたアドレスをタップしてしまった。
 表示された先は、使用状態、名前、年齢、自分のアピールポイント、幾らから始めたいか(最低額一円)、出品しておく期間を書くための記入欄が幾つもあり、両親が来ないか、部屋の外の音に注意を払いながら一つ一つ記入していく。

 状態:未使用品
 名前:ジャン・キルシュタイン
 年齢:十歳
 性格:驚くほど強欲
 金額:一円
 時間:三十分

 状態は選択肢があったため、中古や新品はなんとなく嫌で、未使用を選んでおいた。アピールポイントは、常に強欲であれ。との父の教え。正直俺は疲れるから嫌なんだけど、そうでなければ競争には勝てないらしい。後は適当。
 最後に、商品の写真を撮りましょう。なんて書いてあって、俺は初めて写真アプリを起動した。どうやって撮ったらいいのか判らず、弄り回していたらライトが光ってぱしゃ。と、音が鳴った。画面を見れば、眩しさに目を閉じる自分が映っており、間抜けな写真だった。撮り直すのも面倒で、そのまま写真を使い、出品。と、書かれたボタンをタップする。

 少しだけ、わくわくした。こんなのは初めてで、何が起こるのか見たかったから。
 ほどなくして出品頁とやらに移動し、無事に出品出来たらしい。こんな変なの、見てる人が居るんだろうか。誰かの悪戯か。良く考えるな。そんな事を考えながら眺めていれば、数字がくるくる動き出して、どんどん金額や、入札数が上がっていった。
 金額自体は数円単位ずつの微々たる上昇だが、入札者が十人、三十人、百人と、どんどん増えて行く。十分経った頃には二百人。ちょっと怖くなってきた。これ、終わったらどうなるんだ。

 無意識にスマートフォンを持つ手が震え、変な汗が出てきた。
 外へ意識を配る余裕はなくなり、画面をひたすら見続ける時間は長く感じられた。後十分、後五分。金額は七八〇三円。入札者数は四〇二人。どうなってんだこれ。
 後二分に差し掛かった所で、急激に金額が膨れ上がった。今まで数円から百円未満だったのに、どうしたのか。入札の勢いにスマートフォンがついていけなくなったのか、動作が鈍く感じられた。
「え、これ、どうしたら……」
 今更ながら胸の中に後悔が過る。
 面白半分に自分を出品して、売れたらどうなるんだろう。
 どうしなければならないんだろう。怖くなって終了時間前に電源を切り、頭から布団を被って震えた。こんなの、ただのお遊びだよな。悪戯だ。
 ぴこっ。と、通知が鳴り、オークションの終了を知らせてきた。画面には、落札額と、落札した奴の名前が記されているが、誰だよ。こんな奴知らない。今直ぐ、ごめんなさい。って言えば赦して貰えるんだろうか。
『直ぐ迎えに行くよ』
 そんなメッセージが来て体の震えは余計に酷くなった。
 こんなはずじゃ。違うんだ。謝って、取り消しにして欲しい旨を伝えようとしても、震えた指では上手く画面をタップ出来ずに意味を成していない文言が綴られるだけ。
「あ、お、とうさ、かあさ……!」
 助けを求めるために、咄嗟に頭に浮かんだのは結局両親で、ベッドから降りて二人が居るはずの居間に行こうとしたはずが、脚は床に触れないまま落ちた。

 自分の部屋でもない、学校でもない、行きたかった公園でもない。
 真っ暗な中に落ちて、落ちて、誰かに受け止められた。

「じゃ、行こうか」

 暗闇の中で、俺を受け止めた誰かが言う。
 どこへ。ここはどこ。訊きたい事は山ほどあるのに、口から言葉は一つも出て来ず、震える事しか出来なかった。

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