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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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歓迎の席にて

・アニメでジャンがおえーしてたのがやたら綺麗だったので、何も食べれてないのでは?から妄想した話。
・↑だったからフロックはジャンが無表情で居ても『具合悪いのかな』で片付けて気にしてなかった可能性。
・思いつくままに書いたので何が言いたいのか良く解らん話です

「お前が仲間になった祝いだ。存分に食べるといい。二人なんだからマナーなんか気にしなくていいぞ」
 フロックがジャンを伴い、食事が用意された個室へと満面の笑みを浮かべて入室を促した。
 部屋の中は暖炉から生まれる暖かな空気に包まれており、出来立ての食事が湯気を立てていた。人を踏みつぶして歩く巨人の存在など無きものかのような平和な光景。まるで、ここだけが空間を切り取られた異世界のようですらあった。

 しかし、そんなはずはない。
 遠くから未だ聞こえる地鳴り。
 足に間隔を集中させれば響く振動。
 耳を済ませれば、人の悲鳴とて聞こえるかも知れない。

「俺は……」
「ほら、早く入れよ。食事が冷める」
 ジャンが固辞しようとするが、フロックは否応なしに背中を押し、部屋へと押し込んで椅子に座らせた。随分と機嫌がいいようだ。
「お前も損な役回りを選ぶな。昔は楽したい。とかばっか言ってたのに」
「昔は昔だろ……、今は責任とか、色々あるから……」
「それに押し潰されそうになってちゃ世話ないな」
 痛い部分を突かれ、ジャンは思わず口を引き結んで押し黙る。
「なぁ、別に無理しなくていいんだぞ?仲間にならなくったって、お前になら安心できる場所を用意してやる」
「なんでそこまで……」
「なんでだろうな。まぁ、俺がしたいんだよ」
 彼が直接語り掛けるほどならばあるいは。ハンジに説得され、ジャンはフロックを欺く計画に加担した。もう蹲って何も見たくない。聞きたくもなかったにもかかわらず、何故、自分は今ここに居るのか。何をするべきか。正しい事をしなければ。そんな焦燥感に駆られて流されているだけなのではないか。自問自答は未だ繰り返し続けている。
「ジャン、食欲がないのか?」
「人が目の前で殺されて食欲なんて湧くかよ」
 ジャンは促されるままに着席し、スープをすくうためのスプーンを握りはしたが、ただ琥珀色をした液体を眺めているにすぎなかった。目を閉じれば間近で頭を吹き飛ばされた義勇兵の顔が脳裏に浮かび、大型巨人とエレンが世界を踏みつぶすための行進をしている事実を考えずにはおれない。食欲など湧くはずもなかった。
「食べておかないと明日持たないぞ?」
 言いながら、フロックは当たり前に食事やワインを口に運ぶ。
 明日、ジャンが仲間になったのだと証明するために敵対勢力、要するに義勇兵を処刑する。
 イェレナとオニャンポコンの処刑。実際に処刑などはしないのに、言葉の響きだけでも目眩がした。

 大丈夫なはずだ。と、ジャンは脳裏で反芻する。
 銃の音を合図に巨人化したピークが処刑場に突入し、捕らえられている二人とジャン自身を回収する手はずではあるのだが、万が一失敗すれば全員殺されてしまうだろう。
 フロックの傘下に入った振りをしながら仲間を助けられるように立ち回る。責任重大な立場だ。一歩間違えれば自分のせいで誰かが死ぬ。何度経験しても慣れるようなものではなく、ジャンは重圧に潰されそうになりながらも懸命に立っていた。
「顔色が真っ青だな。そんな事で明日、仲良くしてた連中を処刑なんてできるのか?」
「出来る出来ないじゃなくてやらなきゃならないんだろ……」
「そうだな」
 ジャンの答えはフロックの意に沿ったようで、機嫌良く笑って見せる。
「じゃあ、せめて乾杯でもしようか」
 フロックが自分の空いたワイングラスにワインを注ぎ、グラスの首を持って目を細める。
「安心しろよ。脊髄液は入ってない、いいワインだ。ワイン好きだろ?」
「好きだけど……」
「じゃあ笑えよ。俺達の未来は祝福されている」
 呪われているの間違いじゃないのか。そう、ジャンは反論しかけたが、結果口を閉じる。
 地鳴らしと言う手段がなければ物量で劣るこの島は他国の侵略によって蹂躙され、再び他民族の奴隷となるしかなくなるのだ。巨人の力も万能では無く、この島の人間達に他国の安寧のための生贄となれ。などとは言えない。それには自分自身、自分にとってかけがえのない家族も含まれている。何が正しくて間違っているのか。
 否。これは正しい正しくないで測れる事なのか。誰もが正解なんて解らない中で足掻いている。全員が正しくて間違っている。自分が正しいと考える方向へ向かうしかない。
 これは、何度も皆と話し合い、ジャンも納得した結論ではあるのだ。しかし、頭の中は『他に最善はなかったのか』と、休まる事はない。
「フロック、お前はどうしてエレンに賛同したんだ?」
「簡単だ。夢も島も守れる」
「夢?」
「俺だって勇ましい英雄に成れるんじゃないか。って荒唐無稽な夢」
 あぁ。と、ジャンは小さく呻った。
 自分を見詰める瞳に何を思ったのか、フロックは皮肉げに顔を歪めた。
「勘違いするなよ。俺が王になろうってんじゃない、自分の立場は解ってるさ。別に何の才能も無い、使い捨てるしか能の無い雑魚。それは今も昔も変わらない。でもな、俺だってここで生まれ育ったんだ。矜持も情も、守りたいものもある。だから、俺はエレンに賭けた。それだけだ」
 フロックはむき出しにしてしまった感情を飲み込むように、乾杯するのだと言って注いだワインを一口に飲み干した。喉仏が動き、唇についた赤い液体を手の甲で拭う頃には、いつか見た弱々しい苦しげな表情からイェーガー派の指揮官へと成っていた。
「何のために戦うのか。何をするべきなのか。どうしたら自分にとって大事な物が守れるのか。必死で考えたさ。でも俺一人で何が出来るのか、結論はいつも一緒だった。俺にはエレンという名の武器が必要だった。エレンには俺のような都合の良い手足が必要だった。利害の一致だ」
 フロックと話していれば、ジャンの中に『本当に自分達はエレンを止めるべきなのか』そんな迷いが生じた。
 『虐殺は駄目だ』ハンジを含めた仲間の行動原理はただこれのみ。
「皆で話し合えば……、もっと……」
「他の方法なんかない。もう、散々語り尽くした。他国に居たエルディア人だって、この島に、俺達に責任をなすりつけて生贄にしようとした。そんな連中よりも仲間や故郷を優先して守りたいって思うのは、間違ってるか?」
「間違ってない。と、思う」
 これはジャンの本心でもあった。
 道が分かたれただけ。
「そんな悲しそうな顔をするな。お前は背負い込みすぎなんだよ。昔みたいに『楽したい』とか『面倒事は嫌いだ』『成績の良い奴は俺のために早く脱落して欲しい』つってたみたいにいい加減になって気楽になればいいんだ」
 昔の自分は、フロックに対してそんな適当な事ばかり言っていたのか。『いい加減で生意気なクソヤロー』とは、昼間に評された過去の自分であるが、聞けば確かにそう感じる科白の羅列であり、ジャンは頭痛がして額に手を置いた。
「良く覚えてんなぁ……」
 ジャンが苦々しく笑う。そんな虚勢ばかり張って露悪的に振る舞う自分が嫌いだった事まで思い出してしまったからだ。
「覚えてるさ」
 フロック曰く、怠惰な言葉ばかりを口にする割に上位の常連。大きな口を聞くが有言実行する行動力や能力の高さ。好き嫌いがはっきりしていて開けっぴろげで、それで人に嫌われてもなんとも思わない豪胆さ。なのに、気の置けない親友を得られる幸運にも恵まれていた。
「妬ましかったよ」
 乾杯の事はすっかり忘れたようで、フロックは机にグラスを置き、フォークで切り分けられた肉を突き刺して口に運ぶ。咀嚼している間は実に静かで伏せられた眼には何の感情も浮かんでいないように見えた。
 フロックにも仲の良い友人は居たはずで、訓練兵時代を共にし、かつての特攻作戦で散った仲間の事でも思い出しているのか。今、フロックが何を考え、想っているのかジャンには測れない。

 何もしないで居る事も気不味く、フロックに習ってジャンも肉を口に運ぶが何度か咀嚼すると吐き気が込み上げ、とても飲み込む事が出来なかった。
 ジャンが口を押さえ吐き出す事も出来ずに狼狽えていれば、フロックがハンカチを差し出してくる。
「皿に出すのが嫌ならここに吐け」
 む。と、小さく呻ってジャンは逡巡するが、迷っている余裕はなく、ハンカチを受け取って咳込みながら肉の欠片を吐き出す。サシャがこの場に居たら、『なんて勿体ない事を!』と、憤るのだろうな。そんな場違いな想像を巡らせながら。
「本当に具合が悪いみたいだな。食事は部下にでもやるか……」
 フロックが部下を呼んで水を持ってこさせ、グラスに注いでジャンに渡す。随分と甲斐甲斐しい。
「今日はもう休め。明日は忙しいからな」
「あ、あぁ……」
 水を飲めば幾許かは気分が落ち着き、ジャンは小さく息を吐く。
 休むために通された部屋は個室。立場的には捕虜であろうに、随分と好待遇だ。
「じゃあ、明日起こしに来る」
「別に逃げやしねぇよ」
 ジャンが軽く悪態を吐けばフロックは眼を細め、じゃあ。それだけを言って扉を閉めた。

 明日。
 明日を乗り越えなければ、未来はない。
 ジャンは大きく息を吸い込み、長く細い息を吐つくとベッドへと倒れ込んだ。

 きっと、夢も見ずに朝がやってくるだろう。

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