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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

貴方に花束を

・2018/08/1のライナー誕生日
・ジャン贔屓め
・祝ってるけど祝ってない感じ
・後味悪い感じだと思います
・これと言ってカプはないです





 やるよ。
 訓練後に教官に頼まれた機材の後始末を終え、井戸で顔を洗っていれば、そんなぶっきら棒な言葉と共に渡されたものにライナーは戸惑い、目を瞬かせた。
 手には白や淡い薄紅色、黄色、単色ばかりではなく中が淡く、縁が濃い色で彩られているもの、彩り豊かな美しい花束だ。なんと言う名前かは知らないが。
「これは?」
「コスモス」
 名前ではなく、渡してきた理由を聞いたのだが、伝わらなかったようだ。渡してきた同期、ジャンは口を尖らせ、顔を背けたまま。どこまで踏み込んでいいものか、ライナーは特徴のある眉を器用に片方だけ上げて苦笑して見せた。
「花を渡して愛の告白か?情熱的だな」
「ばっ、ちげぇよ⁉お前、今日が誕生日なんだろ?」
 顔を赤らめ、手をばたつかせながら泡を食ったように説明を始めたジャン。その内容にライナーは驚く。実際に愛の告白でも困るのだが、何故。と、思わず口を吐いた。
「何が?」
 腕を組んで不機嫌を装っているのが良く解る動作でジャンが問いに問い返す。
「誕生日、お前に教えてたか?」
 生まれの話をした記憶はついぞない。今日と言う日を祝われる理由も、祝われる気もないはずだった。ライナーの口から言うはずがない。ならばどこから。
「ん、お前の相棒がやたらカレンダー見てたからさ、予定でもあんのか?って訊いたらお前の誕生日だからどうしようか悩んでたとか言うからさ、それなら皆でお祝いしようなんつー流れになってだな……、つっても俺は金はねぇから花。気持ちだ気持ち」
「あぁ、なるほど……」
 情報の出どころに納得し、笑い飛ばそうとしたはずだったが思いの外、掠れた声が漏れた。自分では見えないが恐らく表情も引き攣っているだろう。
「迷惑だったか?」
「いや、祝って貰えるとは……、思わなくて……」
 心臓がどくどくと煩く、胃がじくじく痛む。
 ただ単純に、『ありがとう』と、言って快く受け取ればいいだけなのに、ライナーは言えない。受け取る資格がないと考えるからだ。
「そりゃ、お前は皆の中心だし、俺もお前には世話になってるしさ、細やかなお礼って言うか……、嫌だったら、すまねぇ……」
「いや、嬉しい、から……、悪いな、俺のために……」
 ライナーがそう言ってもジャンの表情は晴れない。眉を下げたまま、気不味そうに眺めてくる。
 ジャンは良く軽口を叩き、エレンと仕様もない喧嘩をしては和を乱しているが、心根は優しいとライナーは知っている。きっと、この花束も喜んで貰えたら良い。と、考え、訓練が終わった後にわざわざ摘んで来てくれたのだ。その証拠に、服や手が泥や草花の汁で汚れ、草を千切り、掻き分けた際についたのか、指先には傷も出来ている。
「気味悪い事して悪かったな……、捨てとくから、それ……」
 夕日に光るジャンの色素の薄い金茶色の瞳には、何と言いようもない曖昧な表情を浮かべる己が映っている。どう見ても、喜んでいるとは思えない表情の作り方。喜ばれていないと判断したジャンは、気落ちした様子で渡した花束を取り返そうとした。
「あ、違うんだ。その、誕生日を祝って貰った事があんまりなくて……、どう受け取ればいいか、判らなくてな……」
「お前が?」
 伸びてくる手を避け、言い訳をすれば如何にも意外と言った様子でジャンは驚いている。彼はライナーの過去も、出生も知らないのだから仕方がない。今のように振る舞い出したのも、ただの人真似だと言う事も。
「ありがとう。って笑って受け取ればいいんじゃねぇ……?」
 眉を顰めつつも、すんなりと出された解決案。
 あぁ、こいつは純粋に愛されて屈託なく育ったのだと解る。
「そうだな。ジャン、ありがとう」
 促されてやっと素直に出た言葉。上手く作れているか、不安になりつつも言われた通りにしてみる。すると、ジャンも安堵したように笑い返し、一気に上機嫌になって、嬉しそうに肩を叩きながら声を上げた。
「おう、誕生日おめでとう、これからも宜しくな」
 ジャンは、俺が花を渡したとか言うなよ。と、釘を刺してから去って行った。気取り屋のジャンからすれば、誰かのためにせっせと花を摘んで贈った事が面映ゆかったのだろう。後は、他人から揶揄られる事を厭ってか。

 渡された十数本の花からなる花束を見詰める。
 赤い紐で丁寧に長さを揃えて纏めてあり、このまま放っておけば枯れてしまうだろう。花瓶など、洒落たものは持っていただろうか。ライナーは不要になったコップでも貰って宿舎の棚にでも飾っておくか悩みながら食堂に行けば、既に食事がトレイに用意され、同期達に手招かれた。
「ライナー、誕生日らしいですね、半分上げます……」
 そう言って、パンを半分どころか先端をほんの少し千切ってサシャが渡してきた。マルコからは鉛筆が、エレンはスープをくれて木皿に溢れんばかりになり、アルミンからは本に使う栞、コニーからはサシャと同じくパンだったがこちらはきちんと半分、クリスタとユミルはジャンと同じように二人で摘んできたらしい小さな花束を。
「いつもエレンが迷惑をかけてすまない。おめでとう」
 ミカサには謝罪と共に機械の手入れをするための油を渡された。アニは正面に座り、口だけ動かして面倒そうに『おめでとう』と、言った。その隣に座るベルトルトは曖昧に笑んでいた。情報の発生源、なんか言え。と、ばかりに数秒ほど眺めてみたが目を逸らされてしまう。
 その後も食事をしながら多数の人間から物だったり言葉だけであったり、様々なものを貰ってしまった。誕生日だからと片付けも免除され、早々に宿舎に返されてしまい、食べ切れなかったパンを紙袋に詰め、片手に抱えたものを時に零しそうになりながら宿舎の自室に戻る。

 中央に据えられた長机の上に紙袋と贈り物各種を置くと、ライナーは祝われた人間とは思えないほどの重々しい溜息が漏れ出した。誰も居なかったのは幸いだ。祝って貰った癖に何故嬉しそうでないのか。などと非難されずに済む。
 嬉しくないのか。そう自問自答しても解らないとしか言えなかった。胸をぐずぐずに突き刺す痛みは罪悪感なのか。
 両手で顔を覆い、小さく呻った後にまた溜息を吐く。
「ごめん……」
 聞こえた声に慌てて顔を上げるとベルトルトが側に立っていた。
 他の同期ではなかった事にほっと胸を撫で下ろし、少しばかり睨むように見上げる。
「訊かれても適当に誤魔化しときゃ良かったんだ……、こんなもん、俺は……」
「うん、だから、うん……、ごめん」
「いやいい、俺の方こそ嫌なものを言ってすまなかった。祝ってくれようとしたんだろ……」
 ベルトルトの申し訳なさそうに沈んだ声と沈痛な面持ちに、ライナーの胸に別の痛みがちくりと刺さる。押しの強いジャンに迫られて嘘が吐けなかったのか、祝いを貰って責めるのも非道な行いのような気がして頬を掻き、責めた事を謝罪した。
「……あの、おめでとう、これ僕から」
 背中に隠していたらしい小さな白い花を、そっと、一輪ベルトルトは机の上に置いた。
 吹けば飛ぶような小さな花だ。名前すらないかも知れない。
「大したものなくてごめん」
「いや、気持ちだろ。ありがとう」
 井戸前で言われた事を思い返しながらベルトルトに向かって笑えば、ぎこちなく笑い返してきた。
「いつも気を張ってるみたいだから、今日くらいって思って……、さ……」
「まぁ、当面、食料も手に入ったしな。悪い事ばかりじゃねぇさ」
 半端に千切れたパンが入った紙袋を指差して笑っていれば、ようやっと安心したのかベルトルトの表情が緩む。
「少し疲れたから、先に休ませて貰おうかな。お前も本ばっかり読んで夜更かしするなよ」
「うん、気を付けるよ」
 他愛ない会話をしてから贈り物各種を片付け、洗面具を持って洗面室に行くと、ライナーは口の中を洗浄し泡を吐き捨てる。壁にかけてある鏡に映る顔はどうにも浮かない表情だった。

 好意が込められた贈り物が重いなどと初めて知ったのだ。ここに来て、初めての事ばかりだ。どれだけ自分が物知らずだったのかを痛感させられてしまう。
 顔を拭き、じっと鏡の中の自分を見詰める。幼い頃の面影はあるが、成長した。体つきも逞しくなった。ほんの数年しか経っていないはずなのに大分変わった。
 顔を一撫ですると気持ちを落ち着けるために深呼吸をした。

 大丈夫。
 明日からも頑張れる。
 皆の求める人間で居られる。
「おめでとう……」
 鏡に映る人物へ向かって呟くと、ライナーは無性に可笑しくなって笑った。
 一体、誰を祝っているのか、判らなくなってしまったから。

 鏡の中に居るのは。

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