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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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独白と瞑目

・2017/04/17くらいの
・ベルトルトを思うアルミンとジャンの話

・自己満足
・21~22巻の重大なネタバレ
・特にカップリングでもないプラスな感じ。
・でも書いてる奴が好きなので若干あるかも知れない腐臭




 夜になり、自室の扉をくぐる。
 扉に背を向けるように窓際に置かれた机にはジャンが座っていて、僕を一瞥すると『お帰り』短くそう言って読んでいた本に再び視線を落とした。
 外には雨が降っていて、樹木の葉や屋根を緩やかに流れ、叩く音が声のないどこまでも静かな部屋をしっとりとした水音で満たしていた。その空間を侵さないためか、ジャンが音を立てないように本の頁をゆっくりと捲る。
「早く入ったらどうだ?」
 何故か、ジャンの姿を捉えたまま扉の前に立ち尽くしていた僕に入室を促してくれた。
 簡潔で、どこか冷たい響きを含んだようにも聞こえる声。
 だが、その心の内は知れない。あまり、弱みを見せる事を良しとしない人間だから。

 服を着替え、ジャンに背を向けてベッドに腰かけると、なぁ。と声がした。
 特に返事はせずに次の言葉を待っていれば、たっぷり間を置いて、再びジャンはゆっくりと、噛み締めるように言葉を紡いだ。
「ベルトルト、死んだな……」
「そうだね」
 お互いに顔は見ない。
 いや、僕が背を向けているから見えないだけか。
 ジャンが今、どんな表情なのか僕は見ない。絶対に。
「俺達に助けて、って叫んでた……」
「そうなんだね」
 その場に誰も居ない独白のように、ぽつりぽつりと吐き出される言葉に相槌を打つ。
「でも……、はっとして最後はライナーや、アニを呼んだ」
「そうだね。彼等は仲間だから」
 微かに、ジャンの声が詰まる。
 息を吐く音、それすら震えている。
 もう、喋らない方がいいんじゃないか。
 そう思ったけれど、僕は敢えて止めず黙っていた。
「……でも、俺達の事も仲間だって言った」
「そうだね」
 この言葉を受け取るのは、きっと誰でもいいのではなく、僕だから零しているのだろうと思う。そして、僕には聞く義務があるのだろうと感じる。
「本心だよな」
「そうだね」
 悩んで、苦しんで、彼なりに出した結論だったんだろう。
 そこに、決意と、意志はあれど、偽りはなかった。また、大分、間が空いた。本を閉じる音。何度も、何度も、深く呼吸を繰り返しているが、震える呼吸は中々整わず、身動ぎをしたのか木製の椅子が軋んだ。
「お……前の中に、ベルトルトは居るんだよな?」
「違うよ。彼じゃない。ただの巨人の力だ」
 あの強大な力をただの。と、言うと語弊があるだろうが、『巨人』を如何にも強調して返せばジャンが息を呑んだ。
「でも、記憶とか、受け継ぐん……だろ?何か、見えたのか?」
 判り易く途切れ途切れに発する声に僕は眼を閉じた。
「見えないよ。僕には」
 脳裏に浮かぶ涙を流す巨人の顔。
 そして……。これを、伝えた所で何になる。伝える必要性など皆無だ。皆無だなのだ。
 頭に浮かぶ絵を僕は黙殺する。懲罰房の椅子で耐えきれず眠りに落ちた束の間、訓練兵団の頃の夢。場面場面が目まぐるしく切り替わって行く映像の、その中心には必ずジャンが居た。正面や後方、横から見たもの、遠く、距離を取って見る姿。時折見える、何度も、伸ばそうとしては、引っ込んでいく長く節くれ立った大きな手。
 いつからか、ジャンの方から近寄ってくる。遠かった距離は近くなり、傍らで笑う、怒る、不貞腐れる表情。くるくると移り変わって見ている彼も笑っているのか、細められる視界。元々、表情が豊かなジャンだけれど、こんなにも彼に色んな表情を見せていたのか。
 そして、笑い合っていたのかと、目を覚ました後に思った。
「そっか……」
「そうだよ」
 小さくなる声。

 何を訊きたかったんだい?
 何を知ろうとしたのかな?
 知って、どうしたかったの?

 意地悪な質問が頭の中に浮かぶ。
 僕は眼を閉じたまま、肯定の答えだけを返す。
 ぱた。と、静かな音が嫌に響いた。本を机に置いたのだろう。乱暴に置いた訳でもないのに、やたらと耳はその音を捉えた。
「この本さ……いや、やっぱいいわ……」
 さりさりと何かを撫でる音が雨音に交じって聞こえる。
 音を鋭敏に拾ってしまうのは眼を閉じているせいなのか。
 手を組み、落ち着かず指を遊ばせる。もう、横になってしまおうか。自分の心臓の鼓動が、煩い。苦しい。これは、兵団に捧げた僕自身の心臓なのか。あるいは。

 椅子が軋み、一歩、靴底が床を擦る音がした。
 腕を上げたのか衣擦れの音。耳が、ジャンの一挙手一投足を捉えようとしている。
 微かな音すら聞き逃さないように。
「アルミン、嫌かも知んねぇけど、ちょっとだけ我慢して貰ってもいいか……?」
「それで君が彼の死を受け入れられるのなら」
 ベッドに膝をつき、そっと肩に触れてくる手。
 頭部を包むように回される腕。
「すまねぇけど、こっち、見ないで欲しい……」
「見ないよ……」
 今、ジャンがどんな顔をしているのか、見なくても解る。
 手も、声も完全に震えていて、髪を伝って首を流れてきた暖かい雫。
「なんで……っ」
 それ以上の言葉は紡がれなかった。
 何を言おうとしたのか、僕には判らない。
 ただ、いつだったか、ジャンがポツリと言った科白を僕は思い返している。
 あいつらが、最初からここに産まれていれば。そこまで言って言葉を切った。たらればの話をした所で現実は変わらない。それに気が付いて、子供の愚痴だと口を噤んだのだろう。
 更に項垂れる頭。肩が濡れる。ねぇ、居るのかい?心の中で問いかけるが、無論答えはない。彼の戦士として、兵士として、そして、ただの人間として生きた証が、僕の頭の中には眠っているのだろう。

 彼だけじゃあない。
 数多の戦士達の記憶が。
 彼の生の証は数多にある中の、一つの記憶として埋もれていくのだろう。
 そして、その内、僕も。雨音と、ジャンの嗚咽を聞きながら、ねぇ。ともう一度、意味もなく問いかけてみる。ねぇ、僕等にとっての裏切り者の君。君にとって、この涙は価値があるかい?でもね、僕は『いい人』ではないから、残しては上げないよ。

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