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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

ジャンのテラリア日記11~20日目

ジャンのテラリア日記11~20日目





・十一日目
 身体も大分回復した。
 武器を作る材料集めに以前見つけた空洞に潜った。
 雪原だけあってくっそ寒い。一応防寒具は作ったけど、焼け石に水だな。迷わないように、目印に松明を置きながら慎重に降りて行くと宝箱みたいなのがあった。中を覗くとブーツや、リボルバー式の拳銃と弾少し。後は薬瓶のような物や、腕輪や手甲かな?そんなのが色々。どんどん潜っていくと宝箱は一つだけではなく、何個もあって色々手に入れた。

 中でも驚いたのは鏡だ。
 顔を映し出すくらいの大きさの丸い鏡なのだが、何となく鏡を覗き込むと一瞬、身体が軽くなって、次の瞬間には家の中に居た。どうもマルコが使った帰還のポーションとやらと同じ効果らしい。
 しかも、ポーションと違って何度使っても無くならない。危なくなった時にこれを使えば一瞬で逃げられる。これは便利な物を手に入れた。

 マルコと一緒に手に入れた鉱石や、道具類の確認をしていると、拾ったブーツが中々良い物らしいと解り、大きさは問題なかったので履いてみた。
 普通に歩く分にも問題は無い。特筆するべき点は、走る速度が異常に速くなる。遠い。なんて思ってた場所があっと言う間だ。こりゃいい、移動が楽になる。銃を手に入れたのも幸運だった。分解して油を差し、手入れをしておく。小さなリボルバーと言うのが少々心許ないが、無いよりは良い。

 だが、問題は弾だ。
 数えてみると大体30発程度。
 この程度で倒せるような相手だろうか?
 先ずふわふわ動き回る敵に向かって当てられるかどうかも疑問だ。
 コニーの弓矢と、この拳銃。決定打が無い。三人揃ってうんうん呻っていたら、現状打開の救世主が現れた。
「お前等、なんで揃って呻ってんだよ?」
 空き放しにしていた扉から声をかけたのはライナーだ。

 青鼠色のロングコートに、目を引いたのはゴツゴツとした金具がついたブーツ。
 腿の所に巻いたベルトに大きな筒がついた銃と拳銃らしい物を二つ装備していた。
 何でも、エレンと偶然会って、ここを教えられたらしい。でかしたぞエレン。偉いぞエレン。今回ばかりは褒めてやるぞ!俺の心は浮き立った。

 切羽詰っている現状を話すと、今直ぐ行くぞ。そう言って慌てて出て行こうとしたから、止めるのが大変だった。クリスタが捕まってるからって、馬鹿になんなっつの。敵を知らないまま突っ込んでいったら、幾らライナーでも同じ結果だ。

 兵法講義でも習った事だ。
 敵を知らないまま向かって行けば、負けるのは必須、勝てたとしてもそれは運が良かっただけ。万全を期すならば、敵を知り、己を知らなければならない。
 これは何も戦闘に限った事じゃない。全てにおいて必要な事だ。立ち向かうべき相手の力を知り、自分がそれに敵うか現状を理解し対策を立てる。
 昨日の俺達が良い例だろう。無策で突っ込み、敢え無く返り討ちにあった。兵法講義の教官が見ていたら、お前達は私から何を学んだんだと怒るだろう。そのくらい無様な有様だったのだから。

 何とかライナーを落ち着かせる事に成功して、悔しいが自分達が完敗した事実を告げた。腕を組んでライナーが考え込んでいたが、おもむろに不敵に笑い。「任せろ」と、言った。
 ライナーの主な武器は銃だ。弾も伝があるから安心しろと言う。

 持っていた銃はショットガンとマグナムリボルバーと言うそうだ。
 俺が見つけた物とは大きさが何回りも違う。
 威力も相応に高いのだろう。

 ショットガンはショットシェルと言う、小さな球が詰まった弾を撃つ、撃てばその小さな球が円錐状に飛び出すため高威力であり、どんな下手糞でも獲物に当たる便利な武器だ。だから、高度な熟練の技術はそう必要ではない。
 反動に耐え得る身体と、敵をしっかり捕らえる目を持っていれば良い。との事だった。

 マグナムリボルバーは無改造だが、ショットガンの方は銃身を切り詰めてあるらしい。何でも、そうする事で発射速度が上がり、弾が通常より広くばらけて飛び出し、命中・威力の上昇も見込めるらしい。が、無論良い事ばかりではなく、銃身を詰めるのだから当然、飛距離が落ち、遠くから撃てば威力も接近時とは格段に下がってしまう。離れれば離れるほど役立たずの弾のばらまき器に成り下がってしまう訳だ。
 元々、ショットガンは遠距離攻撃には向かない。それを更に接近仕様にしている。

 ライナーの説明によるとこんな感じだ。
 外に出て一発撃たせて貰ったが、撃った瞬間見えない何かに押されるような衝撃に後ろに引っ繰り返り、標的からも外れた。地面に転がって呆然としている俺の手からショットガンを拾うと、平然と標的に向かって撃って見せたライナーは凄いと思う。体の作りが違うんだろうなぁ。

 残念ながら、マグナムリボルバーの方は撃たせても貰えなかった。
 ショットガンにも言える事だが、下手に撃つと反動で肩や手首が外れたり、筋力が無い者が撃つと手が跳ね上がって、自分で自分の顔を打つ。なんて間抜けな有様になるそうだ。

 威力が高いのは解ったが、それでも飛んでる相手には効果が無いんじゃないか?と、問えば、任せろっつったろ?そうライナーは快活に笑った。例の目を引いたブーツで地面を蹴るとブーツが発光して、煙を噴きながら羽でも生えたかのように飛んで見せた。そこから、くるりと空中で一回転して、軽やかに家の屋根に乗ってしまった。

 立体機動装置のようにアンカーを刺す為の壁も必要ではなく、一定の距離であれば自由に飛べるそうで、名前はロケットブーツと言うらしい。意味は知らん。とか言い切りやがった。
 俺も欲しかったから手に入る場所を詳しく聞こうとしたら渋られた。ライナーの居た街で、どう見ても人間ではない万屋が売っていたらしいのだが、ライナーがエレンと会って街を出る前に店を移動させたらしい。俺の見つけた靴も、速く走れるのはいいけど、今回は飛べないと意味ねぇんだよな。

 落ち込んでいると、もしその万屋が居たとしても、お前には場所は絶対教えない。
 なんて意地悪な事を言う。乗りのいい奴ではあったが、こんな意地悪言う奴だったか?あからさまに不機嫌な顔つきだったらしく、銃が当たり前のように売られていて、日常的に人が死ぬような治安が悪い街なんだとか言い訳をしていた。
 危ない所だってのは、まぁ、伝わった。服を変えていたのも、兵団服では目立ったからだろう。

 ないものはないと諦めよう。
 今一番大事なのは、ライナーが来てくれたお陰で、難航していたクリスタ救出に光明が見えた事だ。
 惜しむらくはベルトルトが居ないって点か。ライナーは総合成績では次席でミカサの下になっているが、ベルトルトと組んだ時は、持ち前の実力を遺憾なく発揮する。班行動では他の者が着いて来れるように速度を落としたり、配慮をしているが、ベルトルトと組んだ時は別だ。あいつはライナーが全力でやっても着いて来れる実力がある。
 それに、長い付き合いの信頼関係や、お互いを良く知っているからだろう。こう言う場合、相手がどう動くか。それを良く解っている。もし解らなくても、視線の動き、手の合図だけで言葉も無く、的確に互いに行動する。

 二人一組での訓練ならばぶっ千切りで一位だ。
 ミカサは個人の能力は高いが、団体行動があまり得意じゃないようで、班行動になると、少し動きが鈍くなる。あるいはエレンを庇い過ぎて遅れる。勿体無いよなぁ。エレンもミカサを意識し過ぎて偶に動きが鈍くなってるような気もするし。ムカつくけど、お互いに大事に想ってる癖に、どうしてああも擦れ違うかね?

 ムカつく。
 ちっと愚痴になっちまったが、腹ごしらえをして夜を待つ事になった。
 飯食った後は、何故かライナーに手招きされて頭を撫でられた。大事な戦闘前に眠くなるから止めろっつっても、止めないし、こうしてると気分が落ち着く。って俺は犬か猫か。そんな事言われたら拒否し辛い。

 結局、緊張しっぱなしでも疲れるかな。もしかしたら緊張している俺を励ましてくれていたのかも。なんて思ってぼーっとしながら夜を待っていた。

・十一日目~夜~
 ダンジョンの前には相変わらずクリスタが光の無い目をして立っていた。
 ライナーが話しかけると骸骨様の登場だ。出てくると同時に骨の手がライナーを叩き潰そうとしたのだが、咄嗟に飛び退いて避けたのは流石だ。

 前に戦った時と変わらず、ふらふらと無軌道に動く相手に上手く飛びながらライナーが頭に攻撃を加えていく。
 ライナーが主戦力で、俺やコニーが援護射撃って感じだ。マルコにはじっとして動かないクリスタを護って貰っている。主人って言うなら、下僕まで攻撃に巻き込んでんじゃねーよくそが。

 骨の右手、左手を破壊するとふらふら動いていた頭が直線的な動きになって噛み付こうと襲い掛かってきて本気で怖かった。巨人に食われそうになる瞬間も、あんな感じだろうか。噛み付かれまではしなかったが、一度だけ体当たりを食らって意識が朦朧としてやばかった。他の化け物もそうだが、基本的に俺が狙われてる気がする。

 攻撃を食らえば他の標的を狙い出したりはするが、一定の距離を取ると、直ぐに俺の方に向かって来やがる。って事は、俺が囮になって上手く動けば他の連中は難なく攻撃に集中出来るって事だ。
 戦闘は苦手でも、立体機動装置トップクラスだ。動体視力と、バランス感覚は誰にも負けない自信がある。無軌道な予測出来ない動きなら兎も角、直線的な動きなら避ける事は難しくない。一定の距離を保ちながら、円を描くように動けば大分攻撃し易くなった。

 ライナーが壁を蹴って飛び、ロケットブーツから火を噴かせながら骨の頭を蹴り抜ぬき、地面に転がった所にすかさずショットガンで打ち抜くと頭蓋骨は粉々に砕けた。
 砕けた破片は地面に吸い込まれるように消えて、跡形も無い。マルコの慌てたような声に振り返るとクリスタがぐったりとしていた。それにも慌てたが、何でもユミルがこのダンジョンの入り口から中に落とされた。そうクリスタがマルコに伝え、直ぐに気力が尽きたか気絶してしまったようだ。

 ライナーにまだ余力はあるかと訊いたら、愚問と返された。
 コニーとマルコは直ぐ家に戻ってクリスタの介抱を。俺とライナーがダンジョンに潜ってユミルを探す提案をした。ただでさえこの世界に来て時間が経っている。同じだけの時間をクリスタや、化け物の巣に落とされたユミルが過ごしていたのだとしたら、心身共にもう限界のはずで、最悪の場合、手遅れの可能性だってあった。

 マルコが僕が行く。と、主張したが、この世界の薬の知識や道具の知識が豊富なお前が介抱するのが最善だと押し切って鏡を見せ、ほぼ強制的に帰した。
 まだ何か言いたげだったマルコが戻った事を確認してダンジョンに向かうと、ライナーが俺の頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜて先導して歩き出した。二つも年上だからしょうがないかもしれないが、子供扱いが多いような気がする。

 幸い、ユミルは無事、難無く見つかった。
 少し潜った辺りで不自然に転がる岩とその後ろの窪み。
 そこに隠れるようにしてユミルが横たわって気絶していた。ライナーに地下から這い上がってくる骨の化け物どもを蹴散らして貰い、岩を退けてユミルを背負い、ライナーの手を掴んで俺達も鏡で帰還する。

 どうやって生きていたかは知らないが、大怪我も無くベッドで休ませていれば回復もしているようだった。
 ユミルまで居るとは思わなかったが、二人共生きていて本当に良かった。

 思う所は、あの大型の化け物。
 この世界には多種多様な化け物が居るようだから、同じように他にももっと強い化け物が潜んでいると考えて良いだろう。
 そうだよな、譬えば良く見かける化け物を三メートル級の巨人として、ちょっと強いなら十から十五メートル級、奇行種、更には知性を持ってるかも知れない鎧の巨人や、超大型巨人が控えているようなものだろうか?

 あれよりもっと強い、か。
 俺等、生きて戻れるかなぁ。
 いや今は、一先ず生還した事を喜ぶべきだ。
 あれこれ考えるのは、また今度。何にせよ、疲れた。
 あまり考え過ぎると、本気で胃の中身を吐き散らかしそうだったから、ベッドは病人と功労者に譲って、以前と同じく暖炉の前に布を敷いてお休みだ。

 兎に角眠い。

 以降、文字がぐちゃぐちゃでなんて書いてあるのか自分でも読めない。
 なんて書いてたんだろう俺。

・十二日目
 クリスタとユミルはやつれてはいるが、順調に回復している。
 最初はミルク粥や、果物を磨り潰した流動食を与えて、少しずつ体を癒していく。にしても、今後を考えると、俺一人で全員分の食事を賄うのは結構きつい。今居るのは、マルコ、ライナー、コニー。クリスタとユミルも回復すれば普通の食事を取る訳だからなぁ。単純に手間が増える。

 宝石もそろそろ底を尽きかけてるから金も要る。
 さてさて、どうするべきだろうか?

 マルコにはこの世界の研究をしていて貰いたい。
 コニーは元々狩猟で食ってた村出身だ。狩りを頼めるだろうか?細々とした商品取引なども頼んでいるから、負担が大きいか?ライナーにも手伝って貰って、分担するのはどうだろう?調理に関しては、ユミルは中々小器用だから、体調が良くなれば手伝って貰ってもいいかも知れない。訓練兵団でも当番でやってた事だしな。

 まぁ、今のクリスタとユミルに関しては休むのが先決だ。これは後ででいいか。
 ただ、料理に関してはライナーに任せ過ぎるのは危険だと知った。今日は飯作りをライナーに手伝って貰って、確かに助かったんだが、あの野郎、肉使い過ぎだ。捌いて備蓄しといた奴が全部なくなっちまってた。

 美味かったけどさ。
 明日の朝は目玉焼きとパンでいいとしても、昼飯や夕飯はどうするか。ちっと後で備蓄庫覗いてこよう。
 そうだ、あひるを一杯捕まえて、卵を確保し易くするのはどうだろう?少しでも節約にならないだろうか。肉に関しては、牛だとか豚はここらじゃ見た事ないな。兎とかは良く見かけるんだけど、牛や豚は野性の動物を家畜化して今の姿になったんだっけか?そうなると人っ子一人居なかったこの土地では厳しいか。今まで通り買うしかない。

 兎かぁ。
 確かベルトルトが言ってたけど、兎は年中、発情期らしい。同個体が居れば発情すんだって。上手くいけば繁殖させられたりするんだろうか?管理や育てる方が手間かな?雄は縄張り意識がすげーらしいし。下手に雄同士を同じ場所に置いたら殺し合いしちまうとか言ってたし。
 あんなに可愛いのにちょっと怖いな。

 毛がもふもふしてて、目もくりくりしてて、耳とかぴこぴこ動いて。可愛いのに。
 そう言えば、一匹、鈍間な白兎が居て、逃げないからちょっと撫でたんだけど、うっとりしてるって言うか、目を閉じてじーっとしてんの可愛かった。小さい木の実をやったら凄い勢いで食べて、手を舐めるのも可愛かった。ここにいたら俺等が食っちまうぞ。って言って森の中に追い払ったんだけど、生きてるかなあいつ。

 あー、兎、すげー可愛いよなぁ……。
 飼ったりしたら情が移って食えなくなるかも。あひるも……、飼育は止めといた方が無難かな……。

・十三日目
 ライナーに使った分も合わせて狩って来いと蹴り出した。
 送り出したら、一杯獲ってくるから備蓄庫増やしとけ。だって。一応、裏庭に例の雪と氷で作っては見たが、まさか熊とか獲ってこねぇだろうな。武器も強力だし、ライナーなら出来そうな気がしないでもない。あの化け物に止め刺したのもライナーだし。

 クリスタとユミルの看病と、家の補修と、増築でちょっと忙しい。一階の部屋を幾つか作ってみた経験から、二階も作ろうってなった。良く解んないけど、木材やある程度の大きさの石を重ねれば勝手にくっついて、つるはしで叩くと簡単に外れるから増築や改築は大して難しくないと解ってきた。こう言うのって、釘とか膠とか、色々道具や技術が要るんじゃないか?とは最早、無粋な突込みにしか思えないほど簡単だ。
 コニーはライナーと出ちまったし、マルコには少しでも多く役立つ事を調べとけって、新しく作った書庫に放り込んでおいた。そろそろ腐ってるかな。これ書いたら何か持ってってやろう。

 
 【日記追記】
 夕方になって、ライナーとコニーが帰ってきた。本当に色々獲ってきやがった。
 鳥、兎はまだ解るとして、でけぇ猪まで……。猪は血が臭いから、既に血抜きは済ませたとの事だ。流石。後は小分けに捌いて備蓄庫行きだ。
 しかし、本当にでかい猪で、ざっと三百キロはあったんじゃないだろうか。当分の間は肉に困らなさそうだ。塩もまだたっぷりあるし、幾らかは塩漬けの燻製にしてもいいかもな。保存も効くし、パンに野菜と一緒に挟んで食うと美味いんだよなー。
 いかん、想像したら涎出た。

 猪はライナーやコニーと一緒に捌いたんだが、先ず毛が固い。
 そんで油がすげぇんだ。ナイフが何本も駄目になった。
 服も結構どろどろになっちまった。
 あんまり替えねぇのに。

 コニーに服ねぇ?って聞いたけど服は取り扱ってないらしい。
 べとべとの油だから水だけじゃ落ちねぇし、捨てるしかねぇのか……、燃料にしたら良く燃えそうだな畜生。
 ライナーやコニーは自分達だけ上着脱いで前掛使いやがって。どこで調達したんだ、俺にも寄越せよ、くそったれ。

 まぁ、いいや。
 ユミルとクリスタも結構、食欲が出てきたみたいだ。
 明日辺り野菜と肉を煮溶かしたスープでも作ってやるかな。
 暖炉に引っ掛けられる鍋に材料ぶち込んだら偶に水足したり、灰汁取って混ぜたりすればいいだけだから楽だし、栄養もあって身体も温まるしな。体が冷えてると、余計に病気になり易いし、気分も落ち込んでしまうってババアが言ってたし。

・十四日目
 ユミルが流動食飽きたとか文句垂れやがった。
 てめーの体を第一に考えろってんだ。クリスタはあんま文句言わねぇな。
 大きな怪我もないみたいだし、文句言うだけの元気が出てきたならいいかね。

 そうそう、東に向かえば雪原だとか、クリスタが居たダンジョンとかがあるんだけど、西に向かってみたら、岩が血で染まったみたいに真っ赤な大地があった。洞窟があったから潜ってみたら、蜘蛛とか、目ン玉が一個しかない変な虫みたいな奴。人型のようだが全身が真っ赤、唇のない口からガタガタの尖った歯が見えて、どろっとしてて濁った瞳、鳴き声も砂が板の上を流れて立てるような、ざらざらした気持ち悪い声で、「ぎあー」って鳴く奴まで居た。ここに湧き出てくる化け物の悍ましさは、夜に出てくる化け物の比じゃない。

 ずっとそこに居ると妙にそわそわしてくると言うか、落ち着かなくなってくる。
 次第に苛々してきて、目の前に在るもの何でも壊したくなる衝動に駆られて、偶々見つけた、肉の塊、心臓に似てたか?気持ち悪い。って苛ついて、それを踏み潰してしまった。何であんな事をしたのか自分でも良く解らない。踏み潰さなければいけない衝動にでも駆られたと言えばいいんだろうか?兎に角、あそこに居た時の俺は変だった。

 衝動のままに、躊躇なく心臓を踏み潰した瞬間、凄い怖気が走って、全身に鳥肌が立った。
 でも、冷静になったのは一瞬で、襲い掛かってくる化け物の処理に追われ、自分の足がまた肉の塊を潰したのに気が付かなかった。

 今度は、突然、耳の奥でおぞましい悲鳴が聞こえて、それがあまりにも怖気を誘い、神経を逆撫でするような金切声、同時に腹の中を引っ掻き回すような嫌悪感。べたりと靴に纏わりつく腐った血の匂いに我慢出来ず吐いた。吐き散らしながら化け物の相手なんか出来る訳がない。
 慌てて鏡を使って戻ったが、頭がぐらぐらする。帰ってくるなり立ってられなくて倒れた。そう長くは寝ていなかったようだが、今度は俺が病人みたいになっている。熱でも出ているのか、冷たい濡れタオルがとても気持ちいい。

 大分、体調が戻ったらしいユミルとクリスタに世話をされてしまった。今朝まで看病してた人間に気遣われて看病されるなんて、どうも変な気分だ。
 既に外は真っ暗で、飯つくらねぇと。って起きようとしたら、ベッドに縛り付けるぞ。なんて言って、ユミルが実際に縄を持って言うから洒落にならない。クリスタまで同意してるから止める奴が居ねぇ。

 コニーに番を頼んで朝からずっと煮込んでた肉と野菜のスープが出てきて、ベッドの上で一緒に食べた。
 ユミルは美味い美味いってがっついて、がはがは笑いながら何回もおかわりしやがった。お前に女としての慎みとか、恥じらいはねぇのかと。クリスタも苦笑してた。他の連中も何でか俺の部屋に集まって食ってた。まぁまぁ好評だったし、また作ってもいいかな。
 俺も食べるつもりではあったけども、まさかこんな形で食べる羽目になるとは。謎の無念感があった。

 【疑問】
 あの真っ赤な大地は何なんだろう?ただ居るだけで無性に苛々して、神経が昂ぶって、破壊衝動とでも言うんだろうか、人間の持つ、理性的な部分がなくなっていくような感覚だった。

 気持ちが悪い。理性のなくなった人間なんて人間じゃない。
 人間って言うのは、理性や倫理観があるからこそ人間足り得ている。
 少なくとも俺はそう思っている。理性がなく、本能で動くのならそれは、もう人間じゃない。巨人が解り易い例だろう。人の形をしていながら、本能のままに襲い、食らい、無秩序に目の前に在るものを破壊していく。あれを人間だと言う者が居るか?
 例え、人の形をしていなくても、対話が出来、理性があるならば化け物とは言わない。ただの『人間以外の生き物』って認識に変わるだけだ。敵対するかどうかは、それとは別の問題だ。人間同士だって反りの合わない人間なんて幾らでも居るのだから、姿形が違うだけで敵対はしない。

 巨人は知性がない、喋れないと言うけれど、もしも、知性があって話が出来るのなら、色々訊いてみたい。何故、人間を食べるのか。何故、人間だけを襲うのか。何か目的意識でもあるのか。自らの意思もなく、食事も必要のない身体で、人間だけを襲うなんて、まるで人間を殺す為だけに作られた兵器みたいだ。神様が巨人を作ったってんなら、どんだけ人間が嫌いなんだろうな?人間ってか人類?滅ぼされるべき種族なんだろうか。

 どうして、死ななければならないんだろう?
 どうして、殺されなければならないんだろう?
 意味もなく蹂躙されて、殺される。考えるだけで怖い。
 どうして、何故、そこに理由はあるのか?何に為に?理解出来ないものは怖い。

 やっぱり暇だと嫌な事ばかり考えるな。
 少し顔洗って、歯を磨いてさっさと寝ちまおう。

・十五日目
 目が覚めると大分気分も楽になっていた。
 朝食の後に、マルコにあの赤い大地に関する記録がないか訊いてみた。資料室にした書庫に呼ばれて、待っていると数分もしない内に本を一冊、手に持ってマルコが戻ってきた。

 本には真紅の大地。あるいは不浄の大地と書かれている。
 この世の穢れが全て集まったかのような大地。そこでは生き物はまともには生きられないらしい。ただそこに居るだけで穢れに、先ずは精神が、次に肉体が汚染される。
 真紅の大地では、蝕まれた精神は常軌を逸し、血肉に餓えた獣の如く荒れ狂う。穢れた肉体は徐々に形を変えて、醜悪な奇形の化け物に変貌し、ただただ動くものを襲う怪物へと成ってしまう。

 そう書かれている。
 あそこの化け物はここいらで見る化け物よりも強い感じはした。
 自分の為にも、あまり長居はしない方がいい場所らしい。頁を捲っていくと、あの肉塊、心臓のような形をした物の詳細も書かれていた。一方で、不浄の大地と呼ばれるものでは濃い紫色の玉が転がっているらしい。

 一つ壊せば怖気に襲われ
 二つ壊せば精神を蝕む悲鳴が聞こえ
 三つ壊せば醜悪な化け物が現れるそうだ

 やばかった、既に二つ壊していたから、後一個で化け物に襲われる所だった。
 いささか、ぞっとしながら本を閉じる。あからさまに顔色が悪くなったらしく、マルコにまだ寝ていた方がいいんじゃないか。と、心配された。大丈夫。って言っても納得してない感じで、眉間に皺が寄ってた。

 俺の親友は、本当に過保護だな。
 大丈夫つったら大丈夫だっつーの。そんで、マルコから逃げるようにライナーの所に行った。用事が終わったら来いって言われてたし。

 ライナーの専用になった部屋に行くと、火薬の匂いや、手入れする為の油の匂いがして、机に銃の部品を広げて弄っていた。集中してたみたいで、ノックしても返事がなくて勝手に入っても気づかない。肩を突いたら物凄いびっくりしたらしくて、椅子から落ちてた。反応面白れぇ。
 我慢出来なくて、げらげら笑っていたら、顔真っ赤にしたライナーが居るなら居るって言えってぼそぼそ言ってた。ちゃんとノックしたんだから、俺は悪くないと思うんだよな。

 いやー、それにしても面白いもん見たな。
 声にならない悲鳴って言うか、ライナーっていっつも気張ってるっつーの?あんまり人に隙を見せる奴じゃないから、あんなに驚いたり、照れたりする姿は結構貴重なんじゃないか?

 驚かせた罰、って事でその後、三十分くらい?
 膝に乗っけられて頭ぐりぐりされてた。もしかしてだけど、小動物とか好きなのか?兎捕まえたら、ライナーに世話させると喜んだりしてな。兵団から支給された馬の世話も、かなり丁寧にしていた記憶がある。

 まぁ、動物の話は置いといて、呼ばれた理由ってのが、新しい装備の事で、整備済みのマスケット銃を渡してきた。
 何でも倒れた時、俺が持ってたらしい。こんな物いつ拾ったんだろう?その時は全然、思い出せなくて、新しい強い武器に浮かれてたんだけど、そう言えば、剣を飛んでる奴にぶん投げて、追い払ったはいいけど武器が無く、兎に角近くにあった物を掴んで寄ってくる化け物を殴ったような記憶がある。
 多分あの肉塊が潰れた血溜りに落ちていた所から拾ったような。

 渡されたマスケット銃をじっくり眺めても、血なんて一滴も付いてない。
 綺麗に磨かれてて、歪みもない。ちゃんと武器として使えるように、
 すげー、頑張って綺麗にしてくれたんだろうな。
 今度、礼に好きなお菓子でも作ってやるか。

 大事を取って、今日は家の事ばかりしていた。
 暇だったから林檎のパイ包み作ってみたら
 あっという間になくなった。

 作り甲斐があるよな、ほんと。

 ユミルがじろじろ見てくるから何かと思えば、俺の表情が随分柔らかくなったな。だと。
 お前の見間違いだって返しておいた。

・十六日目
 とんでもねぇ事が起きた。
 変な化け物が大量に家に押し寄せてきやがった。

 緑の肌に、耳が尖ってて、目がぎょろぎょろした奴だ。
 出入り口を塞いで、籠城体制にしたんだけど、何も無い所から急に現れて、光の玉みたいなのをぶつけてくる奴が凄く厄介だった。家の壁は、剣や斧でガンガン殴られたみたいでぼろぼろになるし、矢が刺さり捲ってる。何とか撃退はしたんだけど、どろどろ溶けていく死体も気持ち悪い……。

 全く、何で急に襲われないといけねぇんだよ!俺達が何をしたってんだ。あの緑の化け物は知性ってもんがねぇのか。あいつらの土地に俺達が勝手に住み着いて怒ったってんなら解らないでもないけど、いきなり襲い掛かってくる事はねぇだろ。
 一応、前提に俺達が侵入者って事で考えてみたけどやっぱ納得いかねぇ。だって、俺、結構あっちこっち探索してるけど、あんな連中は一回だって見てない。てぇ事は、だ。俺達の持つ物資とか、食糧を狙って襲ってきたってのが妥当なのか?

 野蛮人、人、って数えていいのか?あー、もう、最悪だ。
 みんな疲れて暖炉のある部屋でぐったりしている。一応、記録取っとこうと思って書いてるけど、正直、寝っ転がりてぇ。
 ぽつぽつ誰かが何かを言って、誰かが返事をするって状況で、ライナーが、前に居た街で、あれに似た種族を見た事があるらしい。何でも、例の靴を売っていたのが、今日襲い掛かってきた奴等にそっくりだって。
 でも、そいつとはちゃんと会話が出来たし、話もせずに襲い掛かってくるような真似はしなかったってさ。

 話している内に思い出したのか、ゴブリンって種族らしい。
 その万屋の店主は、自分は種族の中でも特殊なんだと言っていたそうだ。自分の種族は頭が悪い奴ばかりで、襲う、殺す、食う、寝るばっかりなんだと。何かを作るって事もしねぇし、生み出す事もしない。諸に野蛮人じゃねぇか……。
 あー、疲れた。もう止め。
 手動かすのもしんどい。
 俺もごろごろする!

・十七日目
 クリスタが捕まっていたダンジョンの探索をする事にした。
 何でも、あの骨野郎が貯め込んでた宝が色々とあるらしいんだ。有用な武器や、道具があるかも知れない。

 そう思って、ライナーに着いて来て貰って(一人だと怖ぇんだよ)どっからか馬鹿みてぇに湧いてくる雑魚を片付けながら深部に潜って行った。道中、鍵のかかった宝箱から色んな物が出てきて、結構使えそうだった。
 鍵は雑魚倒すと出てきたからな。金色の鍵はダンジョンの中で使えたけど、黒っぽい鍵はどこに使うんだろうか?他にも空かない箱があったし。

 最深部に到達して、目を疑った。
 ミカサがダンジョンの骨の化け物共を蹴散らしてたんだよ。立体機動装置のアンカーみたいなのを使って飛び回って戦ってる。それで雑魚もびしばし殴ってるし、何つーか、やっぱミカサは格好いい。つい、うっとりして眺めてたらライナーに加勢するぞって小突かれた。

 ミカサはこっちに気付いてなかったみたいで、加勢に入ると驚いてた。
 相変わらず残念言語だし、表情もあんまり動いてないけど。一通り三人で探索して、家に帰るとみんな喜んでたな。
 案の定、エレンを探していたようで、エレンは偶にだがここに帰ってくる予定だと言うと、私もここに住む。だそうだ。拒否する訳ない。大歓迎だぜ。

 ミカサが使っていた道具を見せて貰うと、使い方はやっぱり立体機動装置とあまり変わらないようだった。
 余っているらしく、一つくれた。これで色々楽になるかも。
 後、凄かったのが、俺が使ってた靴と、ミカサが持っていた靴。ライナーが使ってるロケットブーツだ。それの装置をばらして、組み合わせて改造して見せたんだ。早く走れるし、飛べる靴の出来上がりってやつ。

 どこでそんな技術を?って皆、訊きたがった。
 奇妙な縁と言えば良いのか、エレンを探す過程で出会ったゴブリンの万屋に弟子入りしてたんだと。基本だけ教えてくれて、後は自分で試行錯誤しろと言われたそうで、装飾品を色々改造して、新しい装備に作り替えるための道具もぽんとくれたらしい。万屋ゴブリンすげーな。
 他にも、ダンジョンで見つけた道具や、俺が今まで探索で見つけた道具。組み合わせて強化出来る物は全部やってくれた。やっぱ天才だわ。皆の装備も強化出来て、これで多少何かあっても安心だ。

 今日の飯はちょっと作り過ぎた。肉とかも一杯使ったし。
 そしたら、何かみんなして、にやにや笑ってる。何なんだよ!つっても、やっぱにやにや。言いたい事があるなら言えっつーの!まぁ……、ミカサが美味しいって言ってくれて、マジで嬉しかった。

 明日は、何にしようかな。

・十八日目
 ゴブリンにぼろぼろにされた壁をコニーの案で、土に水と藁を混ぜて壁に塗って、木材で覆うってやり方で補修した。壁も強くなるし、断熱になって、熱い時期は外からの熱を防いでくれて、寒くなってくると部屋の中が冷めにくくなるそうだ。
 あいつって馬鹿の癖に実は色々知ってるよな。変に鋭かったりもするし。野生の勘?知恵?

 凄い凄いって褒められて、俺天才だから。とか、なんか調子に乗ってたからムカついて蹴っといた。しょうもねぇ喧嘩になって、喧嘩両成敗でライナーに拳骨貰った。痛い。
 そんな事もありつつ、飯作って、昼からは採掘に出かけた。色々と足りなくなってきてたしな。

 いい具合に宝箱も見つけたし、鉱石や宝石もかなり入手出来た。
 夕方くらいに帰ってくると、家は更に増築されてて、中々どうして、ちょっとした屋敷のようになっている。特別な建築法なんてものは誰も知らないから、見事なまでに四角いが。最初は平屋だったのに、増築に増築を重ねて今は四階建てになっている。壮観だった。
 まだ夕方で明るかったから外で水浴びしてたら、水辺でクリスタが呼んでた。素っ裸だったから、近づきはしなかったけど、服を作ったから着て見てだって。布の肌触りも良いし、大きさも問題ない。クリスタすげーな。

 ユミルの方は、ちょっと出てくる。つって、
 どっかに行っちまった。暫く戻ってくるつもりはないようだ。
 ミカサの話に随分興味を持ってたようだから、考える所でもあったんだろう。

 クリスタも着いて行きたがったけど、危ないからって無理矢理、置いて行っちまった。お陰で、女神様のご機嫌はずっと斜めになったまま。
 寂しいのは解る。だから甘いもので元気出せ、つっといた。

 それまでは問題なかったんだけど、夜に大騒ぎが起きた。でっけぇ目玉が……、夜になったら出てくる奴じゃない。兎に角でかい。俺の十倍はありそうな奴。そして、やっぱり基本的に俺を狙って襲い掛かってくる。
 俺が外に出ると追いかけてきたし。

 そうそう、驚いたのは、壁とか意味ないんだ。アレ。
 すー、っと壁を貫通して移動しやがる。銃で撃っても、地面に潜られたら土に銃弾が減り込むだけで、全然攻撃出来ない。
 そして、最初はただのでかい目玉だったんだが、途中からばくっと真ん中から割れたかと思えば牙だらけの口。がっちんがっちん歯を鳴らしながら襲い掛かってくるのは本気で怖かった。
 何とか皆で頑張って倒したが、気が付けば空が少し明るくて、朝だなぁって思った。目玉が死んだ後に、石が沢山落ちていた。調べたいけど眠い。戦闘に参加した奴は、暖炉部屋で皆して眠った。凄く腹も減って、喉も乾いてたけど、寝るのが優先だった。
 少しだけ、って思って寝たんだけど、起きたらお昼も過ぎてて、マルコやクリスタが簡単に飯を作ってくれて美味かった。
ライナーやミカサはまだ寝てて、休んでろ。って言ってくれたから、俺ももう一回寝る事にした。

 あぁ、二度寝、すげー気持ちいい。
 俺、布団と結婚するわ。

・十九日目
 あのでかい目玉から落ちた石をマルコが調べていたみたいだ。
 クリムタンって言うらしい。ぼんやりと赤く発光して、何だか不気味な鉱石?うん、鉱石でいいよな。竈の中に入れたらインゴットが出来たし。つるはし作ってみたけど、何と言うか、持ってると脈打ってると言うか生きてるみたいに生暖かいし、血管みたいなのも通ってる気がする。

 うん、本気で気持ち悪い。
 あんまり長く使いたくねぇな……。

 あんまり、って言えば、あの真紅の大地の先が気になったから行く事にした。
 そしたら砂の大地が広がっていた。どこを見ても砂ばっかり。エレンに貰った地図を見ながら歩いていると何かに足がぶつかった。砂の塊って言うか砂の石だな。少し砂をどかしてみると、規則的に積まれている。何かの建造物だろうか?そんなに硬くはない。少し掘ってみると直ぐに空洞が現れた。

 外は凄まじく暑いのに、中はからはひんやりとした空気が流れてくる。
 影に入って人心地ついてから、松明を持って潜ってみると、中には人の骨とか、石ばかり転がっててかなり不気味だった。中腹くらいに箱があったから開けてみたら絨毯と、中で砂がぐるぐる動いてる変な小さい瓶。面白そうだったからカバンの中に入れて持って帰る。
 砂の石の建造物は、底の方は水が溜まっていて、進めそうになかった。

 砂を高熱で溶かすと硝子になるってマルコが調べていた資料にあったから、砂もある程度採集して帰る事にした。これが結構きつい。暑いし、焼けるし、汗が滝のように出て体力が減る。頭の部分は日差し避けに布被ってたからマシだったが、出してた腕が火傷したみたいになった。お陰で薬を塗って包帯だらけの姿だ。肌が真っ赤になって熱くて、体が焼けて堪らない。寝苦しくて夜だけど水浴びに行った。クリスタの提案で、水辺に水浴び小屋みたいなのを作っておいてくれたようで助かった。

 思いつかなかったけど、当たり前だよな。野郎だけなら素っ裸でいいけど、流石に女にそれをしろってのは酷だろう。風呂の作り方をマルコに調べといて、って頼もうかな。
 少し肌が冷えたからか、幾らかすっきりして、水浴びから戻ったらコニーが起きてた。痛そうだなー。とか言いながらべたべた肌を触るから、いてぇったら。痛そうだと思うなら触るんじゃねぇよ。
 水浴びで落ちた薬塗ったり、包帯巻くのを手伝って貰えたから助かったけど、一々痛いわ、くすぐったいわ。わざとかお前。

 ま、この世界だし、朝には治ってんだろ。
 少しずつだけど赤みも、痛みも引いてきている。

 砂一杯持って帰ってきたし、家の一番上に硝子の大きい一室作ってもいいかもな。
 雨でも洗濯物干せるし、夜でも安全に外を眺められるし。眠れないからこれ書いてるけど、コニーが煩い。さっさと寝ろつっても聞きやしねぇし。明け方頃まで適当に話してたと思う。

 あー、くそ眠い。
 飯作ったら寝よう。


・二十日目
 鞄に入れっぱなしにしていた絨毯と瓶を出してみた。
 赤くて金糸で装飾された豪華な感じのする絨毯だ。埃を落として、昼くらいまで干してから、皆が集まる暖炉の部屋に置く事にした。そして、飯作ってたら何か暖炉部屋が騒がしい。

 見に行って、思わず、はぁ⁉とか叫んじまった。
 敷いてた絨毯が浮いて、その上でコニーが騒いでやがった。丁度、ライナーが恐る恐る足を乗せようとしてた所で、悪戯心が湧いて、手に持ってた紙袋を膨らまして、叩き潰したら、破裂音に驚いて目測を誤って転んだ。

 いやぁ、良い反応だった。
 こんなに遊び甲斐がある奴だったとは。
 クリスタに転んだ間抜けな姿を見られて、落ち込んでたのは流石に罪悪感が湧いたので、昼飯の肉をライナーの分だけ大目にしておいた。
 例の絨毯は、資料によると、『空飛ぶ絨毯』なんだとか。あぁ、確かに浮いてたな。みたいな感じ。コニーが気に入ってたみたいだし、敷いていればただの絨毯だからそのままでいいかな?

 昼からは竈に砂を入れて、昨夜、考えていた硝子の屋上を作る事にした。他の奴は休んでたり、他の事をしてたり、どこかに行ってたから俺一人でこつこつやってたら、出来上がった頃には殆ど日も落ちかけていたが、西日が眩しいくらい入ってきて、これが意外にぽかぽか暖かい。屋根の上に出れる出入り口も二つある。熱かったら扉を開けて換気すればいい。日当たりもいいし、箱の中に土とか入れて種植えたら何か栽培とか出来ないかな?

 香草とか、繁殖力強いし、料理にも良く使う。
 探して採りに行く手間を考えると、そちらの方が便利かも。栽培用の底に穴の開いた箱は粘土で作ってみよう。あ、水撒き道具も要るな。
 色々考えていたら暗くなってきたから。明日だな。切りの良い所で折り合いをつけて下に降りて暖炉部屋で寛ぐ事にした。
 働き過ぎは良くない。良くないよな。明日回せる事は明日した方がいい。だよな?

 食卓囲むのも兵団の頃と違ってちょっと楽しい。
 皆、普通に笑ってっからかな?前は訓練で疲れてたり、巨人の不安とか、壁に囲まれた狭い世界で過ごす将来性のなさだとかここじゃ関係ないもんな。自由にどこへでも行ける。変な化け物は居るけど、倒せないほどじゃない。
 特に、ライナーが穏やかに笑うようになった気がする。前から面倒見が良くて、良く笑ういい兄貴分だったけど、どこか張り詰めた感じがあって、偶に壁を感じる時があった。だけど、今はそれがない感じがする。

 最初は、前の世界に帰りたい。って思ってたけど、順応してくると良く判らなくなった。
 コニーとか、あっちに家族が居る奴は、どう思っているか判らないけど、待ってる人間が居ない奴は?巨人に襲われた、って聞いた事はある。でも、それだけだ。家族の話は誰も聞いた事がない。ライナーもベルトルトも、家族の話題は聞くばかりで、自分からはしていた記憶がない。エレンのような場合もあるから、皆、何となく他人に家族の話題は振らない。クリスタやユミルも、考えてみれば聞いた覚えはない。俺も得には話さない。

 こっちの世界は、変な事も多いけれど、楽しい。
 帰りたいか?あんな、苦しくて、辛くて、残酷な世界に?確かに悪い記憶ばかりじゃない、けれど、その分、嫌な記憶も多い。

 判らない。
 どうしたら良いか。
 どうするべきだと思う?
 誰かに訊けば、答えは返ってくるか?
 でも、きっと、自分が望む答えじゃないと納得しない。だから、やっぱり自分で答えを探すしかないんだろうな。
 例えば、例えば、だ。帰る手段を俺が見つけたとして、俺は、その手段を、みんなに教える事が出来るだろうか?

 だって、独りは、嫌だ。

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