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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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それは夢のような

・これのネタは囚人が脱走するゲームしてる時に思いつきました。ある程度調べては居ますが、現実的では無いと思いますが細かい部分はスルーして下さい。
・モブがかなり出張ります
・ジャン君だけどジャン君じゃない感じ
・メリバ
・いちゃいちゃはしてないです。すみません。
・ストーカー拉致監禁で囚人のフロ
・被害者のジャン






 夢に見るほど思い返すのは、愛する人との蜜月のような日々。

 同じベッドで休み、起きればぐっすりと寝入っている顔を眺めてから長めの前髪を指で優しく払って額に口付けて起こす。そして共に朝食を取り、俺が仕事に行く際には愛する人、ジャンが微笑んで俺を送り出してくれた。

 今、目を覚ました時に見えるのは打ちっぱなしのコンクリートで作られた灰色の天井。
 動けばぎしぎし煩い粗末なベッド、見渡せば薄汚い毛布とトイレ、錆びの浮いた手洗い場、そして、外界との接点を阻む鉄扉。こちらが夢であればいいのに。とは何度、考えた事か。
「おい、もたもたするな!」
 扉の外から鬱陶しい声と共に警棒で扉を叩く金属音が響く。
 ベッドから出た俺はトイレを済ませ、面倒な点呼を受けるべく中庭へ赴き、口汚い看守から吐き出される暴言を聞きながら視線は空を眺めていた。俺が鳥だったら、さっさとこんな場所を抜け出して会いに行けるのに。なんて。
「フォルスター!貴様、聞いているのか」
「すみません、昨日、看守殿に殴られたせいか頭がぼーっとしておりまして」
 俺がそう言うと、自業自得だと顔に唾を吐きかけられた。
 良く言う。お前は手前勝手な正義で意味も無く囚人を嬲り倒して気持ち良くなる自慰をしたいだけだろうに。

 吐きつけられた唾液が臭すぎて食事をする気になれなかったので、朝食には顔だけ出してシャワー室へ直行し、顔を洗うついでに着替えて汚れた囚人服も洗っておいた。
 適当に絞り、中庭へ赴いてフェンスにかけておく。
 今日は天気が良くて良かった。
「おい、これ盗まれないように見張ってろよ」
「は、はい……」
 中庭に居たへつらう屑に服の見張りを命じて俺は娯楽室に本を読みに行く。
 朝食が終了した午前中は自由時間で、他は思い思いに遊んだりしているが俺は脱獄の計画を立てるのに忙しいため、他人とはほぼほぼ交流しない。

 本を読みながら考え込む。
 さて、どうやって監視の目をかいくぐって愛するジャンの元へと帰ったものか。
 この収容施設の地図は頭に叩き込んだが、まだ監視員の人数や活動時間の把握には至っていない。
 例えば、外界と施設を区切る柵はニッパーなどの器具があれば切れそうだが、抜け出した所で監視カメラがあり、一番切りやすそうな古い柵の近くには看守の詰め所があった。あそこに詰めている時間は?交代はいつか?隙はあるのか?あるいは別の場所からの脱出方法は?考える事は山ほどある。とても時間が足りない。
「フォルスターさんよう……」
「何か用か?」
 本から顔を上げずに返事をすれば、苛立ったのか低い呻り声がした。
 全く、ここは言葉の通じない動物ばかりで困る。
「拉致監禁の強姦野郎が澄ましてんじゃねぇよ」
 髪を掴んで本から強制的に顔を上げさせられ、臭い息を吐きかけられて俺のただでさえ良くなかった機嫌は地の底まで落ちていく。
「それは大変な誤解だ。俺達は愛し合って一緒に居たのに、周りが勝手に騒いで引き離されたんだ。寧ろ哀れと同情して欲しいな」
 ごつい手を払い除け、顎を上げながら事実と自分の感情を告げれば男は下卑た笑い声を上げた。
「ストーカー野郎はみんなそう言うもんだぜ。てめぇは入ってきたばかりの癖に調子に乗ってるみたいだから躾けてやるよ」
 男が肩を回し、にたにたと暴力に酔った目で俺を見下す。
 全く、どいつもこいつも、ここの囚人共は図体が大きいばかりで知能は猿以下らしい。後ろに二人ほど居る取り巻きも、実に卑劣で脳味噌が足りなさそうな顔で笑っている。
「あいつらもお前みたいなひょろっちい野郎にやられるなんて不甲斐ねぇな」
 猿が言うあいつら。とは中庭に居る俺が服の見張りを命じた囚人だ。
 俺が入所した初日に絡んできたから逆に躾けてやっただけだが、ボスザル気取りにはそれが気に入らなかったようだ。

 ボスザル気取りは無駄な筋肉で肥大した腕が大層自慢のようで、見せつけるように囚人服の袖をまくり上げた。俺から言わせれば柔軟さを損なう無駄な筋肉はつけすぎるべきではない。が、猿にそれを言っても通じまい。
 ただ腕力のみを誇る大ぶりなとろくさい拳を避け、体を捻って手に持っていた分厚い本で思い切り側頭部を張り飛ばしてやった。ボスザルは耳を押さえ、みっともないだみ声で吠える。耳から少々出血がみられるため、上手く鼓膜が破れてくれたようだ。
「おい、何をやってるんだ⁉」
 ボスザルの吠える声を聞きつけたか、看守が泡を食ってやってくる。
「本を踏んだせいで思い切り転んで耳を打ってしまったようです」
 ボスザルの取り巻きはオロオロするばかりで役立たずだったため、代わりに俺が説明してやる。
 看守は取り巻きをちら。と、見たが深く言及はせず、ボスザルの腹を蹴り上げると『面倒事を増やしやがって』そんな言葉を吐き捨てながら医務室へと連行していった。
「お前等は行かないのか?」
「あ、えっと……」
 俺が一歩進めば、二人は一歩下がる。
 手に持っていた分厚い本を揺らし、
「で、お前等はどこを潰して欲しい?」
 そう首を捻って尋ねれば、卑屈な笑みを浮かべながら言い訳を連ね、腰を低めて娯楽室を出て行った。
 俺は本棚の側に座り直し、『前』もあぁして強者にくっついてお零れに預かろうとする屑が居たな。なんて思い返す。とは言っても、厳しい訓練を課す軍隊施設だったから屑も屑なりに知恵も体力もあったし、任務を命じればとりあえずは熟してくれた。

 しかし、ここは凶悪犯罪者が収監される施設であるため軍のような規律はなく、暴力に秀でた者のみが優位に立てる世界だ。とてもではないが目を瞠るような人物は居ない。
 誰かは薬物中毒で人を殺しただの、誰かは暴力事件での逮捕だの脳味噌に糞か筋肉が詰まったような輩ばかり。もう少し、頭の動く奴は居ないのか。暴力を見せつければ容易く従うのは楽だが、それだけの役立たずばかりに見えてうんざりする。

 あぁでもないこうでもないと考えていれば、昼のサイレンが鳴る。
 流石に腹が減って食堂に行くが、猿共がぎゃあぎゃあと吠え合って煩く、何故食事くらい静かに出来ないのか謎でしかない。
 不味い固形食料に申し訳程度の野菜と水を掻き込み、中庭に干した服を見に行く。いい感じに乾いてきていたため、完全に乾くまでの間、暖かな陽光を浴びながら昼寝でもしようと長椅子に寝転がれば、俺と同じく早々に昼食を終えた連中が連れたってやってくる。
「てめぇ、新参の癖に随分と粋がってるみたいだな」
 またか。と、溜息を吐きたくなる。
 脱獄するまで、出来るだけ大人しくしていたいのに状況。いや、収容されている猿共がそれを許してくれない。新参に自分の縄張りを荒らされたような気分になっているんだろう。実に面倒だ。
 俺の顔に反抗的な態度がありありと表れていたのか、話しかけてきた次のボスザル気取りは青筋を立てている。
「殺されてぇみたいだな……」
「へぇ、ここは殺人を許可されているのか、物騒だな」
 俺が寝転がったまま小馬鹿にしたように笑えば、相手はさらにいきり立って拳を上から下へと振り下ろす。どうしてこの手の連中は行動が似通っているのだろう。なにかこいつ等にしか解らない決まりでもあるのだろうか。

 俺は殴られる前に体を反転させ、長椅子から転がり落ちて地面に逃亡し、ブレイクダンスのように体を回して相手の膝に足を絡めて引き倒す。踏みしめられて固いとは言え土の上に倒れた程度では然程ダメージは負っていない。ただ、仲間の手前、馬鹿にしていた相手にやられたとなると威厳も矜持もずたぼろになった事だろう。
「俺は平和主義者なんだがな。放っておいてくれないか?」
 体を起こして服についた土を払い、こちらに闘争する意志はないと伝えているのに頭に血の上った連中は俺を取り囲んで鼻息荒く興奮していた。本当に、ここが動物園にしか見えない。
「てめぇ……、ふざけやがって」
 ボスザル気取り二号も立ち上がり、俺を睨み据えて中腰でボクシングのような構えをとる。
 だが、路上での喧嘩だけで格闘経験は無いだろうと直ぐに理解できる隙の多さ。見た目の威圧感と腕力だけでのし上がってきたのだろう。
「その澄ました面ぐっちゃぐちゃにしてやる……」
 目の前に伸びてきた拳から目を逸らさず手首を掴み、思い切り捻りあげ、分厚い腹を蹴りつけた。鳩尾に上手く入ったようで、蛙の潰れたような声が短くボスザル二号の口から鳴り、畳みかけて更に腕を捻り、一気に肩の骨を抜いてやった。先程まで暖かな陽光で満たされて穏やかだった中庭に汚い悲鳴が木霊する。
「で……、お前は殺されたいんだったか?」
 問うてみたが、ボスザル二号は泡を吹いて気絶していた。
 人に暴力は振るっても、自分が暴力を振るわれるのは慣れていなかったらしい。この手の人間には良くあるものだ。
「お前等はどうしたい?」
「俺達は……、別に、なぁ……?」
 へへ。と、媚びた笑いを浮かべる取り巻き共。
 ここに来て、既に何度か見た光景だ。
 悲鳴を聞きつけた看守がやってきて、取り巻きが蜘蛛の子を散らすようにいなくったせいで俺が問い詰められる。俺は被害者で、正当防衛だと訴えても聞きやしない。俺は自分の身を守っているだけに過ぎないというのに、理不尽な話だ。

 話を聞かない看守に警棒で強かに打ちのめされ、俺も医務室に運ばれる事になってしまった。
「貴方ねぇ。もうちょっと大人しく出来ないの?」
「俺は悪くありませんけど」
 初日から世話になっているせいで、医務室に居る看護師から苦言を呈されるが、それは先に運び込まれた動物たちへ言ってほしいものだ。
「しっかし、貴方強いわねぇ?なにか格闘技とかやってた?」
 体も痛いし寝たいのに、看護師は気さくに話しかけてくる。
 無視しようかとも思ったが、親しくしておけば今後役に立つかも知れないと考えて、適当に相づちを打つ。
「特には。運動は好きですけどね」
「格闘技オタク?」
「いえ」
 収容される以前、ジムには通っていたが『前』程、体は鍛えていないし、格闘技も習っていない。しかし、体の中に知識と経験があるだけでも動きは違うものだと自分でも感心した。
 なにしろ格闘技も素人で素手の人間相手だ。何メートルもある巨人や特殊技能を有した超人、軍事訓練を受けた人間に比べたら怖くもなんともない。攻撃してこようとする相手を真っ直ぐに見据え、動きを見る。ここに居る程度の悪漢ならばこれでなんとかなりそうだった。
「へー、度胸が据わってるのね」
「ただ鈍いだけかも知れませんよ」
 看護師と軽口を交わした後、眠くなって夕食の時間まで眠った。
 あまり目立ちすぎると独居房に閉じ込められるそうだから、それは避けたい。が、大人しく嬲られる趣味もないから悩みどころだな。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 どうも、俺が昨日倒した猿は、この施設で一番強い雄だったらしい。
 朝起きて点呼に赴けば、周りの視線がやたら熱く、正直気持ち悪かった。
 しかし、これを利用しない手はない。

 看守へは適度に取り入り、自分が一番になろうと絡んでくる囚人を適当に伸していれば従順になる猿は徐々に増えていった。中でも馬鹿で愚鈍だが、言う事だけは良く聞く猿を選定し、ありとあらゆる情報を調べるように命じる。
 例えばそれぞれの看守の勤務態勢や態度、好きなもの。警戒が薄そうな場所などだ。脱獄の方法は一つに固執せず、幾つかの手段を考えた方が融通が利く。

 特に扱い易かったは薬物依存、快楽に弱い奴だ。
 そんな手合いは人間にも依存し易いため、多少飴を与えれば容易く従う。
 猿に従っていた取り巻きも同じ。強者による庇護という安心と美味しいお零れを与えれば、自分の意思などないそいつ等は長いものに巻かれるようになる。ただし、手下にするに簡易である分、立場によっては簡単に寝返る人材とも言えるため、使い捨てが最適解になる。
 最後は暴を誇るような例のボスザル達だが、こいつらは厄介そうに見えて頭が悪く、快楽にも弱い。密かに施設に流通している薬と、親しくなった看守側の人間を宛がってやりながら整然と俺につく利を説いて従えていった。こいつらが元々仕切っていたグループが自動的に傘下に入るため、これは効率が良く楽で良かった。

 日々、得た情報を有効活用しながら看守に近づき、懐柔していく。
 看守だって所詮は人間で聖人じゃない。金に転ぶ人間も居れば、女だって性欲を持て余していたりする。こんな遊ぶ場所もない僻地での過酷な業務の連続。心労に飽いた心と体に体力が有り余った囚人は快楽と刺激を与えてくれる都合のいい存在になっただろう。
 イェーガー派として動いていた『前』よりも随分と仕事は楽で、暑さが和らぎ、寒くなり出した頃、脱獄の手はずが整い俺はうっそりと笑う。
「ねぇ、本当に行っちゃうの?」
「なんだ、密告でもするか?」
「まさか!貴方に嫌われるような事なんてしないわ……」
 看守の更衣室にて、囚人服から看守の服、要するに警察官へと姿を変ながら俺は女の看守と声を潜めながら会話をする。

 帽子を被り、サングラスまでかけて着替えを終え、女のIDを用いて収容所から共に出てパトカーで街へと赴いた。
「あの、これ……、頼まれてた奴」
「ありがとう。愛してるよ」
 有用な情報と一時金、連絡用の通信機器をくれた女に薄っぺらい愛の言葉を囁き、警官に扮したまま俺はとある小綺麗なアパートの前に立った。
 
   ◆ ◇ ◆ ◇


   ◆ ◇ ◆ ◇

 夢に見るほど脳にこびりついて離れないのは悪夢のような現実。
 志望していた大学へ見事合格し、これから広がる世界を想像しながら歩き出したばかりだった。

 大量の汗をかいて悲鳴を上げながら飛び起き、周囲に誰も居ない事を確認しながら安堵の吐息を吐いて暴れる心臓を落ち着けるために胸に手を置いた。
 あいつは、フロックはもう居ないんだ。既に裁判も終わり、有罪判決も出て今頃は遠くの収容所へと送られているはず。

 なのに、この身に刻み込まれた恐怖は未だに俺を蝕んでいた。

 最初の印象は、良く知らないけれど子供の頃に一緒に遊びでもした人だったかな。だった。
 彼は俺を『ジャン』と知らない名で呼び、町中で親しげに話しかけてきた。少し年上で、青年実業家然としたフロックは非常に魅力的に見え、俺はこれも面白い切っ掛けだとして彼の勘違いに乗ってしまった。

 それがそもそもの間違いだった。
 いや、否定自体は直ぐにしたんだ。
 俺はフロックが知る『ジャン』ではない。と。
 しかし、フロックは頑なに俺を『ジャン』と呼び続けた。
 俺が覚えていないだけで幼い頃の愛称か何かだったのか?そう悩みもしたけれど、思い当たる記憶は微塵も無かった。彼は、その内思い出すさ。なんて言っていたけれど、本当にそんな記憶があるか半信半疑。寧ろ、彼の記憶が間違っているのだと考えていたくらいだ。

 それでも、フロックは俺に良くしてくれて、共に居るのはとても心地好かった。
 彼は大きな一軒家に住み、いつでも高級品を身につけ、洗練された空気を纏って俺の知らない世界を沢山見せてくれた。決して貧乏ではないにしろ、裕福ではない俺にとっては夢のような時間だった。本物の『ジャン』に悪いな。そんな罪悪感を抱くほど。

 フロックが可笑しくなったのは、俺に彼女が出来たと報告した時だ。
 いつも優しくて、俺が大学生活を謳歌している事を喜んでくれると思っていたのに、突然殴られた。『お前は俺のだろう?』そう言われ、混乱したまま地下室のような場所に閉じ込められた。恐らくは有事の際のシェルターか何かだったと思う。
 何故、自分がそんな目に遭うのかも理解できず、フロックが何故こんな真似をするのかも解らず、俺はただただ彼と話そうとしたが、まともな対話は出来ないまま悪戯に時間は過ぎていった。

 閉じられた世界で俺の精神は次第に不安定になり、フロックの考えが解らないまでも彼の言葉が全て正しいと感じ始め、どんな理不尽も受け入れるようになってしまっていた。理不尽と言っても、従順にしていればフロックは凄く優しくしてくれたのだけど。

 『従順にしていれば』だが。

 俺が優しくしてくれるフロックに安心して『外に出たい』なんて言おうものなら烈火の如く怒り、どこに行くのか。誰と会うのか。そんな質問攻めが始まって首を押さえつけられ、苦しくてこのまま死ぬのかと恐怖を抱いた。
 懸命に謝れば元の優しいフロックに戻ってくれたが、何が地雷になるか判らない中での生活は息苦しく、独りで居る間は訳も分からず涙が出た。

 帰りたい。も駄目。
 友達に会いたい。も駄目。
 家族にすら会わせて貰えない。
 要望を口にしただけであの怒りようであれば、逃げ出せば死ぬよりも非道い目に遭いかねない恐怖に縛られ、外に出るなんて発想は微塵も湧かず、かと言って自ら命を絶つような勇気も無い。
 
 太陽が見れないため夜なのか昼なのか、曜日も日付の区別もつかない空間では思考も上手く纏められなくなり、ただただフロックの望むように振る舞いながらの暮らし。警察の服を着た人達が俺を迎えに来てくれた時は、都合のいい夢かと無感情に眺めてしまっていたくらいだ。
 俺が行方不明になっていたのは時間にしてほんの数ヶ月だったが、外界と断絶されて時間の感覚が無かった俺にとっては数十年にも、あるいはもっと短くも感じられ、入院している間に時間感覚を取り戻すのに苦労してしまった。

 今はもう大丈夫。
 フロックの事は全部、弁護士に任せている。問題は無い。
 外に出るのも未だに動悸がして、赤毛で身長の高い男を見ると変な汗が出るが、安定剤も毎日飲んで、復学もできたんだから改善はしているはず。
 大きく深呼吸をして洗面所へと顔を洗いに行き、朝の身支度を済ませて冷蔵庫に入れてある薬を出そうとした時だ。

 ぴんぽーん。
 呼び鈴が鳴り、来客を告げる。
 過保護な親友がもう迎えに来たんだろうか。
「どうした?来るの早いな……」
 言いながら、俺は無警戒に扉を開けた。
 開けて直ぐ見えたのは警察官の制服。いつも気にかけて見回りをしてくれるお巡りさんが来てくれたのかと帽子とサングラスに隠された顔を見て、一瞬で全身の筋肉が硬直した。
「『ジャン』会いたかった」
 上手く息が出来ない。
 吐く事も出来ない。
 俺は貴方が求める『ジャン』じゃない。
 帰ってくれ。もう関わりたくない。そう言って扉を閉めればいいだけなのに、視界が滲んでいくばかりで体は一ミリだって動いちゃくれなかった。
「お前も俺に会えて嬉しいよな?俺達は愛し合ってたのに、分からず屋共に引き離されちまって……、可哀想に。淋しかっただろ?」
「なんで……」
 好き勝手な放言をするフロックの言葉に返答するよりも、やっと絞り出されたのは疑問の言葉。
「なんで?お前に会いたいから出て来たに決まってるだろ?なに、こっちで商売が出来なくなるだけだ。お前は気にしなくていいから、さぁ、俺達の家に帰ろう」
 サングラスを外し、優しげに細められた目。
 弧を描く口元。
 くずおれた俺の肩に添えられた手。

 頭の奥がずきん。と、うずいて酷い目眩に襲われ、俺は玄関で倒れた。
「今度こそ、ずっと一緒に居ような。『ジャン』」
「ふろ……」
 フロックに横抱きにされ、愛おしむように抱き締められる。
 その際、首に見えた切り傷にも見える大きな痣に目を奪われ、次から次に涙が溢れた。
 この痣はあの地下で何度も見たはずなのに、こんなに胸が締め付けられるのは初めてで、自分でも意味が解らない。
「あぁ、俺だ。車寄越してくれ。新しい服も用意してるだろうな?」
 フロックが俺を抱き締めたまま、どこかへと連絡している。
 
 俺は、もう逃げられないんだろう。
 その確信だけはあって、涙の止まらない顔を覆った。

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