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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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落ちても気づかない

・2019/09/18
・うっかり恋しちゃうフロック
・マリアシーツジャン君






 与えられた休息日。
 兵士宿舎の自室にて俺は暇を持て余していた。

 なんとなく窓際に枕や布団を置いて干してみたり、軽く部屋を掃除してみたり。
 次から次にしなければいけない事は浮かぶのだが、ただ焦燥感に駆られるばかりで思考の整理もままならず、何も考えられないし考えたくない心境だったから、暇潰し兼無心になれる作業をやっていた。
 部屋を掃き終わり、机も適当ではあるが拭き終わり、窓際に干していた枕の表面を叩いて中へ持ち込もうとしたが、ベッドの上に砂埃がついている気がして取り込んだ物を一旦机に置き、ベッドシーツを剥いで二階の窓から身を乗り出しながら振って埃を払っていれば強い風が吹き、シーツが飛ばされてしまった。
 飛んでいくシーツを目で追い、直ぐに下から聞こえた、ぎゃあ。との悲鳴から、俺の手から離れ、宙を舞ったシーツが人を襲ったらしいと知る。上官であれば面倒ごとになるだろう。全身から冷たい汗が吹き出し、直ぐに謝ればお咎めなしにして貰える可能性も考え、急いで階下へ走り、シーツが人を襲った場所まで行く。
「あの……!」
「あ?」
 頭からシーツを被ったまま顔を出したのは同期のジャンだった。
 なんだ。と、俺は胸を撫で下ろす。こいつであれば、多少怒りはしても謹慎や罰則を与えるような事はしない。
「悪かった。それ、俺が二階から落としたんだ」
「なる。急に目の前が真っ白になって何事かと思った」
 強い風が吹いたんだ。との言い訳をすれば、仕方ないな。とばかりにジャンは苦笑し、被っていたシーツをわざわざ畳んでから渡してくれた。リヴァイ班の連中は、本当に良く躾けられていると思う。
「気持ちは解るけど物臭は止めてちゃんと干場に行けよ。兵長に見つかったらこえーぞ」
「お前は俺の母ちゃんかよ……」
 相変わらず煩い小言にうんざりしながら言い返すと、からから笑ってジャンは俺のせいで落としたのだろう紐で纏められた書類の束を拾って兵舎へと向かって行く。
「あ、俺がここに居たって事は内緒だぞ。いいな」
 ジャンが思い出したかのように振り返り、俺に口止めをしてくる。何故、休息日でもないジャンが兵士宿舎に居るのか、全く考えていなかったが今の科白から、持ち帰った書類を宿舎に忘れてしまい、慌てて取りに来たのだろうと知れた。
「あー、あぁ……」
 自室に戻って埃や落ちていた髪が払われ綺麗になったシーツをベッドに敷き直す。事故が起こったお陰と言おうか、せいと言おうか、程良く頭の中身が空白になってくれた。それはいいのだが、今度はシーツを頭から被って俺に笑いかけるジャンの姿が消えなくなってしまった。
 なんなんだこれは。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 別の日、歩哨任務で兵舎敷地内を見回りしていれば、食堂に小さな明かりが灯っており、訝しんで中を覗けば、誰かが布を被って椅子に座っていた。
 肌寒くなりだした季節、簡易的な防寒をしつつ暖かい飲物でも求めてきたものか。誰だろう。夜中の兵舎内の移動自体は特別、禁止はされてはいないが、緊急事態に召集がかけられた場合、それに遅れれば罰則もある。誰かは確認しておいた方が無難だ。
「あの……」
 近づけば柔らかな紅茶の香りが鼻孔をくすぐる。
 俺の声に反応して振り返ったのは眠そうに目元が緩んでいるジャンだった。書類仕事が立て込んでいるとは聞いていたが、碌に眠れていないのか。
「何やってんだ……」
「ずっと文字見てたら目が痛くてな、休憩中だ」
 言いながら目を瞬かせたジャンは目が充血しており、幾分潤んでいた。
「団長から信頼厚い指揮官様は大変だな?」
「羨ましいなら変わってくれていいぜ」
「冗談だろ」
 皮肉で俺が口を汚せば、ジャンは軽口で返す。
 本当に疲れているようで、人前では滅多に吐かない溜息まで出ている。眠気も疲労も限界なのだろう。シーツを頭から被り、頬杖をついてぼんやりと目を伏せているジャンの横顔は、思いの外、睫毛が長く、無表情のせいか妙に儚げに見えた。
 それもそのはずで、徐々に瞼が落ち眠気に抗えなくなったようで寝息を立てだした。
「おい……」
「ん……」
 肩を揺すってやれば眉間に皺を寄せて薄く目を開けるが、覚醒には至らないのか今度は机に突っ伏してしまった。これは、放っておけば早朝までこのままだろう事は確実だ。
 放っておいてもいいが。

 小さく舌を打ち、食堂を離れれば他の歩哨任務についてる兵士に説明し、ジャンを自室に連れて行く事を告げた。
「あぁ、あの人、いつも忙しそうだもんな。風邪でも引いたら事だし分かった」
 快く送り出してくれた同僚に場を任せ、俺が食堂に戻るとまだジャンは眠りこけていた。
「おい、部屋に戻るぞ」
 声をかけても表情を歪めるだけで、全く起きる気配はない。良くこんな薄ら寒い中で眠れるものだ。それだけ疲れが溜まっているのか。
「くっそ、重いな……」
 ジャンのわきの下に両手を入れ、抱き起して背中に背負う。ずし。と、全身にかかる重みに嫌な事を思い出しそうになったが、頭を振って記憶を払い、兵士宿舎へと歩を進めた。途中、何度も放り投げたくなりながらジャンの自室の前に辿り着く。両手が塞がっている状態で、どう扉を開けるか逡巡していれば『フロック』と、小さく声をかけられた。
「起きたなら自分で動け」
「あぁ……」
 背から大男を下ろせば、頭も体もぐらぐら揺れて心許ない。肩にかけていたシーツも落ちそうになり、ジャンの着ていた服ごと掴んで扉を開け、中へと引き込み、ベッドへと誘導する。
 ジャンが横になれば俺の仕事は一段落。そのはずだが、横たわった状態で、ほとんど瞬きもせずに薄く目を開けたまま無表情で居る姿に、嫌なざわつきが胸中を支配する。
「寝るならさっさと寝ろ」
 一見、死体にも見えるジャンの靴を脱がせ、布団を被せて目を手で塞ぐ。
「でも仕事が……」
「明日やりゃいいだろ」
 眼を塞いだ俺の手を外そうとジャンは抵抗するが、無理をすれば、どちらにせよ効率は落ちる。一旦睡眠をとり、すっきりしてからやった方が余程良いのだ。そう言い聞かせていれば、ベッドに手が落ち、抵抗を止めた。単純に限界を迎えただけだろうが。
 確実に寝入った事を確認し、書類が重ねられている机を見た。

 様々な報告書。
 食料から装備に必要な機材、ありとあらゆる物資の仕入れ報告から、兵籍にありながら違反を行った者の名前を記した書類など、さして重要機密に当たる書類はなさそうだった。
「役に立たねぇな」
 概ね、雑用に等しい物ばかり。
 大事な機密事項に当たるものは団長に任せ、集中出来るように煩雑な業務を請け負っているのだろう。書類を確認、横流しの不正などがないかの検品、問題の可否の報告を上申する。加えて訓練もあり、指揮官の立場故に指導に当たる事もある。面倒だが誰かがやらねばならない業務の数々、細々と忙しい訳だ。
 ジャンが眠るベッドへと戻り、隈が色濃い顔を眺める。

 なんなんだろう。
 この、眺めていると気持ちが落ち着くと同時に、滅茶苦茶にしてやりたくなる気分は。寝息を立てているジャンの額を腹癒せに指で弾き、また舌を打って部屋を出る。
 全く、何もかもすっきりしない上に疲れた。
 これもそれもジャンのせいだ。

 あいつが一々、俺に小煩いから。
 優しく笑いかけるから。
 あぁ、鬱陶しい。

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