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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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ワンドロ風邪

・2019/09/06
・出来てないけどフロジャン
・風邪ひくジャン君
・お世話係のフロック君






 前日から予兆はあった。
 何とはなしに喉に違和感があり、声が出し辛い。
 残暑がしつこく残る季節、皆が暑い暑いと呻いている中で、ジャン自身はやたらと肌寒く感じていた事も違和感と言えば違和感であった。

 朝起きて、ベッドから降りようとすると、ジャンは眩暈を起こして転んでしまった。
 慌てて立ち上がろうとしても体に力が入らず、ベッドに縋りつくが精々。動悸がする胸を抑え、声を出そうとしても掠れて明瞭な発声は出て来ない。動こうとすれば回る視界、全身を襲う怠さや節々の痛み。やってしまった。と、ジャンはベッドに頭を乗せて項垂れた。

 完全に風邪を引いてしまったようだ。
 声が出なくては助けも呼べず、まともに立ち上がれもしないのでは自らの力で医務室にも行けない。知らず目には涙が滲み、瞬けば肌を伝って敷布を濡らしていく。寒い。けれど頭は茹だるように熱く思考が纏まらない。あまりの具合の悪さから、このまま死んでしまうのではないか。そんな悲観的な妄想まで湧き出す始末。

 どれほどそうして居たのか、自室の扉を叩く者があり、ジャンはいつの間にか落ちていた意識が引き戻され、気力を振り絞って顔を上げ、声を出そうと試みたが、餌を食べる魚のように唇が動いただけに過ぎない。
 再度、扉が叩かれ、返事が出来ないでいると足音が遠ざかって行く。いかないで。との声すら出せず、孤独感に襲われる中、気力も尽きて床の上に伏してしまった。ジャンはうつろな瞳で砂でざらつく薄汚れた床を見詰め、無意味さに目を閉じた。次、目を開けた時はほんの少しでも病状が回復している事を願いながら。

   ◆ ◇ ◆ ◇

「あ、起きたな」
 ジャンが次に目を開けた時には良く知った顔が直ぐ傍にあり、自室のベッドに寝かされていた。
 フロック。と、ジャンが呼ぼうとしても、唇が動いただけで相変わらず声は出ない。
「水飲むか?」
 問いに小さく頷けば、フロックは水差しからコップへと水を移し、背中を支えながら飲ませてくれる。気味が悪いほどに優しい。
「何だよその目」
 コップを空にしたジャンが、訝し気にフロックを眺めていれば、意図を痛いほど感じ取ったのか、忌々し気に表情を歪め、睨んできた。
「俺だって好きでやってねぇよ。団長から命令されただけ、俺だってやる事は山ほどあんのによ」
 ぶつぶつと悪態を吐かれ、ごめん。そう口にしたくても声は出ない。
 ほんの少しとは言え、助けてくれた存在に喜んでしまった自分が居て、それが好意からでない事実に落胆した事は極力表面に出さないように努めてはみたが、溢れるものを押し止める事が出来ず、ぼろ。と、目から水が出てきてしまった。
 フロックはそれに驚き、解り易く動揺を見せて無駄に周囲を見回したり、あの、えっと。と、無意味な言葉を繰り返していた。
「め、飯。取ってくる」
 予想外に泣かれて居た堪れなくなったフロックがジャンを寝かせ、慌てながら部屋から出て行く。ジャンはそれを涙が溢れて止まらない目で追い、何度か目を瞬かせて手で拭った。
 腕に注射痕が見え、変わらず声は出ないながらも体が幾分楽になったのはそのお陰らしいと知れる。

 別に泣くつもりはなかったが、悪い事をした。

 ジャンは枕に顔を押し付け、溢れ続ける涙を押し止めようとはしたが、一向に止まる気配はなく、涙を流している本人も困ってしまっていた。
 酷く疲れている。今の感情を敢えて言葉にするならこれである。今しがたのフロックの言動は問題ではない。全てに疲れていた。風邪によって体が弱ったばかりか、気持ちまでも弱り、揺れ動いた感情が涙として溢れてしまったようだった。悲しい、辛い、怖いのどれとも違う。ただただ疲れた。
 頭にあるのはこの一言のみ。ジャンが幼い頃から望んでいたのは平和で安穏とした生活だったと言うのに、今は休みさえも碌にない毎日で、毎日誰かが傷ついて、傷つけられ、どこかで死んでいる殺伐とした現状に疲れてしまっていた。溜め込んでいた言葉にならないものが、溢れ続けて止まらない。
 
 涙を止める事を諦め、腕で顔を覆い自然に止まるまで待っていれば、扉が開く音と、足音が近づいて柔らかな香りが微かにした。
「飯……、食えるか?」
 ジャンが顔を擦って見遣ればフロックがパン粥が入った器を持って居心地が悪そうに立ち尽くしていた。
 気怠い体を起こし、頷いて見せる。すると、ベッド側に置いてあった椅子へとフロックが腰かけ、匙でパン粥をすくって差し出してきた。どうやら食べさせてくれるようだ。
 気づけば涙は止まっており、素直に口を開けば、出来立てのパン粥を冷やしもせずに口へ押し込まれてしまいジャンは身もだえる。
「水……」
 フロックなりの気遣いだったのだろうが、介護が不慣れかつ性格の不器用さ故に上手く出来なかったのだろう。ジャンが舌を火傷したらしい様子に気付き、匙を置いて目を逸らしつつ、困り果てた様子で水を入れたコップを差し出してくる。

 例の作戦以来、常にどこか刺々しい空気を纏っていたフロックと、今の動揺して気不味そうにしてしょげているフロック。落差が妙に微笑ましく見えてしまい、ジャンは思わず表情を和らげた。
「なんだよ……!」
 声が出ないため言い訳も出来ず、ジャンは首を振るに止め、唇の動きだけで『ありがとう』と、感謝を伝えてコップを受け取り、水を飲んで口の中を冷やした。

 翌日、喉に違和感は残りつつも熱は引いたために職務に復帰したジャンが、今度はフロックが熱を出して寝込んでいると聞き、仕事の合間を縫って世話をしに行く姿が見られたという。
 それ以降、何故かジャンに対しては従順になったフロックを皆、訝しがったが、理由は誰にも察せなかった。

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