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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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事故で死んだかと思ったら、嫁の腹にいた自分の子に転生してた=その九=

・104期友情出演。
・ほんのりミカ←ジャン的な描写あります
・エレンが嫌な奴っぽくなってますけど、仲間を大事には思ってます
・ちょっとごたごたする感じ
・メリクリ






 ジャンの様子が可笑しい。
 昨日、伸ばしたままいつも一括りにしていた髪を切りに美容室へ、俺を義母に預けて行ったのはいいんだ。
 偶には一人で出かけたい時もあるだろうし、髪をさっぱりさせたかったんだろう。時間がかかる施設に子供連れで行くのは店に迷惑が掛かるのであまり宜しくはないのも理解する。
 問題は、今日の十二月二十四日になって、妙に浮かれながら服選びをしている点だ。義母が『ママは用事があるから、今日もおばあちゃんと居てね』と、言っていた事からして出かけるのだろう。

 俺を置いて、『どこ』に出かけるんだ。
 義父の姿も見えない。もしや、いつの間にか見合いでもしており、その相手と会うためにめかし込んでいるのか。赦さん。
「んぬぃ!」
 出かけさせてなるものか。
 俺を構って気を逸らそうとする義母を振り切り、出かけようとしているジャンの脚にしがみつき、コアラ宜しくぶら下がる。
「フロック、もう出ないといけないから構ってられないんだ。な?」
 気になっていた服装は、俺とのお出かけ時にも着ているモッズコート。下から覗くのは良く穿いているデニムパンツ。思ったよりも格好は普段と同じだ。変に飾るよりも、普通が一番と思っての選択か。
 俺だって、まともなクリスマスデートなんてした事ないのに、どこぞの馬の骨とだなんて絶対にさせん。
「うぃいー、ぎー!あー!?」
 泣きはしないが、行かせまいとひたすら声を張り上げ、若干喉が痛くなってきた頃、ジャンが俺を引き摺りながら居間のソファーまで行き、腰を落ち着けた。勝ったな。
「ねぇ、フロックちゃん、ジャンは貴方を置いて出て行く訳じゃなくて、ちゃんと帰ってくるんだから、いい子で待ってましょう?」
 義母がジャンの脚にしがみつき、コアラになっている俺に向かって優しく諭すが、顔を背けて力の限り離すまいとする。そんな俺にジャンが眉を下げて笑いながらスマートフォンを弄り、頭を撫でてから小さく溜息を吐いた。
 何だよ。俺が悪者みたいじゃないか。
「あ、大丈夫だって」
「いいの?先方のご迷惑になるんじゃない?気を遣わせるし……」
「はは、身内みたいなもんだし、早めに切り上げればそんなに迷惑にもならないと思うから……、ほら、フロックおいで、お着換えしよう」
「んぇ?」
 ジャンが俺に手を伸ばし、胸に来るよう引き寄せる。
 このまま、体良く置いて行かれたりしないか不安だったが、ジャンは俺のお出かけ用の服を出して着替えさせ、義母が用意してくれたお出かけセットが入ったでかい鞄を持って、そのまま義父が待つ暖房の効いた車へと乗車した。なんだ、居ないと思ったら外で待ってたのか。
「待たせてごめん、お願い」
「手強かったか、小さい頃のお前にそっくりだな」
 義父の苦笑にジャン自身は乾いた笑いで返し、車を発進させて移動していく。
 住宅街から飲み屋街が連なる繁華街へ。目的地の近くへ到着したのか、ジャンは義父に礼を言ってから降車し、手を振って見送った後、のんびり歩いて酒の匂いがする街へと入っていく。
「ぬ……」
「あんま、こう言う所に連れて来たくなかったんだけどなぁ」
 俺を抱っこしたまま幾つかの店の前を通り抜け、小さなビルに入ると階段を上り、辿り着いたのは良くある軽食と酒を提供するバーのようだった。そこの出入り口の前に、女が一人立っている。どことなく見覚えがあるような気がするが、気のせいか。
「あ、ジャン!?わー、久しぶり!」
「よく解ったな。久しぶり、ごめんな、子連れで」
「大丈夫よ。誰も気にしないって」
 長い金色の髪を揺らして作った朗らかな笑顔は、女神と信望されていた一人の女を思い起こさせた。まさかな。
「貴方で最後よ。みんな待ってたんだから」
 先導して女が店内に入り、ジャンも一緒に入れば、わ。と、歓声が起こった。それと同時に、黒い影が勢い良く近づき、俺ごとジャンを抱き締める。
「ジャン!お前が大変な時に近くに居てやれなくて、僕は、僕は……」
「ういぃ……」
 飛び込んできた影は低い声からして男だ。
 ジャンと野郎の間に挟まれた俺が苦し気に呻けば他の人間が気付いてジャンからそいつを引き剥がした。正面から見てみれば、顔立ちは大人びていたが、純朴そうに見えるそばかすは相変わらずで、ジャンが幼い頃から兄のように慕っていた一つ上の先輩のマルコだ。
「久しぶり……、遅くなってごめん」
 ジャンは集まっている面々を眺めながら、懐かし気に目を細めて再会を喜んでいた。
 デートじゃなくて、仲が良かった遊び仲間と集まってのクリスマスパーティか、なるほど。友達に気を遣わせず、自分も気兼ねなく楽しみたかったのを邪魔したんだな俺は。
「僕が呑気に暮らしている間に、お前が大変な目に遭ってるなんて全く知らなくて、ごめんな……」
「海外留学までして頑張ってる奴の邪魔を自己都合でするほど無粋じゃねぇよ」
「何を言ってるんだ!僕は、僕は……」
 マルコは滂沱の涙を流しながら、過去を悔やんでいるようだった。
 急に絡んで来て、もう酔っ払ってんのかこいつ。
「マルコ、落ち着いて下さい、ジャンも赤ちゃんも困ってます……」
「う、ごめん……」
「サシャ、悪いな。もうみんな呑んでるのか?」
「マルコはお茶しか飲んでませんねぇ」
 ショートボブのこざっぱりとした髪型で、垂れ目がちの溌剌とした美人な女性は、マルコと同じく一つ先輩のサシャらしい。ポニーテールにしていた長い髪をバッサリと切り落とし、大人っぽい風貌になっている。

 狭い空間を少しでも広く使うために、三台ある長方形のローテーブルを一つに繋ぎ、壁際にソファーを所狭しとおいてある店内。ばらばらに座っている他の人間も見渡してみれば、どことなく面影がある人間ばかり。
「そいつがフロックの……」
「へぇ……」
「あぁ、そっくりだろ?本当は連れて来るつもりなかったんだけど……」
 筋肉達磨で口の周りに髭を生やした巨漢が近づいて来た。こいつはライナーか。記憶にあるよりもやつれているような気がする。後ろから覗き込んでるのっぽはベルトルトだろうな。こいつ、相変わらずライナーの背後霊やってんのか。
 甘ったるいイケメン面は変わらずだが、やはり時間の経過のお陰か頬の丸みが消え、髪をオールバックにしてスーツを着込んだ姿は『出来る男』感がある。この二人は大学へは行かずに就職したんだったか。やつれてんのは仕事疲れかね。
「びっくりするくらいそっくりだね」
「本当にな、俺の遺伝子がどこに消えたんだか」
「立ち話してねぇでこっち来いよ」
 店の奥のソファーに座りながら声をかけてきたお洒落坊主の快活野郎はコニーだな。学年一のちびだったのに、高校に入った途端ずるずる伸びて今や一八〇センチのイケメン。性格も明るくて、弟や妹が居るから小さい子にも優しく、勉強以外では意外と面倒見もいいとなれば、現在はさぞかしもててそうだ。
「さっさとあやしてやれよ。お前の事聞いたマルコがさっきから泣きっぱなしでうぜぇんだが」
 その隣でコロナビール片手にソファーに踏ん反りかえっているそばかす女はユミルか。見た目自体はそう変わっていないし、金髪の女、ヒストリアの肩を抱いて懐いている辺り、行動も変わっていないようだ。相変わらずそのニだな。
「落ち着けよマルコ、泣くこたねぇだろ」
「だって、困った時は力になる。なんて大見得切っといてさ、肝心な時になんにも出来ないなんて……、さっきみんなから色々聞いて自分が情けなくて……」
 ジャンはマルコの隣に座り、嗚咽を上げながら泣いている背を撫でながら話しかけたが、涙の理由を知って目を瞬かせた。俺の事、敢えてマルコには言ってなかったのか。真っ先に連絡が行ってると思っていたが、心配かけると思って黙ってたのかね。
「二人で元気にやってるのかな。会えるの楽しみだな。って思って、帰ってきたら……、まさか、フロックが……」
 そこで言葉を詰まらせ、背中を丸めてしまった。
 泣き過ぎだろ。とは、思うが、小さい頃からジャンを知ってて、周囲の偏見から苛められたりしていた時も庇っていた兄貴としては堪らない気持ちなんだろう。俺とジャンが家を出る際に、何かと力になってくれたし。

 マルコは、一つしか違わないが、理知的で頼りになる人間だ。
 立派な検察官になるのが夢だと良く語っており、知識も知恵も豊かで、ジャンと近しい間柄であるとあって良く相談に乗って貰った。
 子供の我儘とも言える俺の話に真摯に耳を傾けてくれただけでなく、婚姻届けの証人欄に名前を書いてくれたり、二人で住むための物件探しにも協力してくれた。困った時は力になると言い、『幸せになるんだよ』そんな激励と祝福と共に送り出してくれたのもマルコだ。
 それが一年も経たない内に、俺は死んでて、ジャンは一人で忘れ形見産んで未亡人だわ、自分はそれを知らされてないわで嘆きたくもなるか。
「まーこ、だーいじょ」
 まぁ、起こった事は戻せないし、過去を悔いても仕方ない。なんだかんだ元気にやってるから気にすんなよ。そんな気持ちを込めてマルコの背中をべしべし叩けば、涙や鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げて俺を抱き締めてきた。
「んやぁーあ」
 なんか、べたべたして気持ち悪いから顔押し付けんの止めろ。
 恩人でも嫌なもんは嫌だ。
「マルコ、落ち着け、抱き潰す気か……」
「あ、ごべん……、ぅ……」
「きしょー、ぅえ」
 自分の服でぐいぐい顔を拭いながら、俺がぼそ。と、言った科白に傷ついたのか、涙はなかったがマルコがまた落ち込んでいた。なんか止め刺した感があるな。とりあえず悪かった。
「きしょ……、フロック、どこでそんなの覚えんだよ……」
 どこでって言うか、前世の記憶。
 ジャンは俺が汚い言葉を覚えないようにかなり気を使っているようで、ほぼほぼ家で見るテレビは子供番組しか映してないが、残念ながら中身が中身だから無駄な努力なんだよなぁ。
「まーこ、げんき」
「うん、うん、元気だよぉ」
 とは言え、ちょっと酷かったかなとは思ったので、ジャンの膝の上に戻った俺が謝罪の意味を込めてもう一度背中を撫でてやると、おしぼりを顔に当てて、また泣き出した。下手な酔っ払いよりも性質が悪いかも知れない。
「あ、ごめんな、子供連れて来ちまって……」
「いや、別に……」
 対面に座ってるきつめの美人はアニか。
 元々大人びた顔立ちだったし、背も低く、あまり変わってないから一目で解かった。滅茶苦茶目が合うんだが、子供嫌いなんだろうか。
「ばぃ……」
 膝から降り、ソファーに移動して、ジャンの腕の下に潜り込んで、せめて視界から外れようと努力してみたが、凄く視線が痛い。元々来る予定じゃなかったのに、異物が紛れ込んできた感じか。
「あの……、だっこしてみていい?」
「あ、いいけど、あの、よだれとかつけるかも……」
「別に構わないよ」
 アニがジャンの傍までテーブルを避けながら回って来て、隣に座ると俺に向かって手を広げて見せた。子供嫌いじゃない?行ってもいい奴かこれ。
「じゃー……」
「お姉ちゃんに抱っこして貰いな」
「あに……、ねーちゃ」
 特別仲良かった訳じゃないし、名前を呼ぶのも可笑しな気がして言い直し、膝に座って見上げると、薄暗い店内でも解るほどアニの頬が紅潮した。
「け、結構ずっしりしてるんだね」
「もう十キロくらいあるからな。生まれた時は普通に三千グラムくらいだったんだけど……」
「柔らかい……、ふかふか……」
 アニが俺に顔を触りながら、感動しているようだ。
 あれだな、きつめの美人で表情筋があまり動かないから分り辛いが、本人は小さい物や可愛い物が好きな、案外乙女な奴かも知れない。見た目で誤解されるって点では、意外にジャンと気が合いそうだな。
「あー、ぷり」
「これ、上げても大丈夫?」
 テーブルに並べてあるつまみの中に、生クリームがちょこんと乗せられたプリンを見つけた俺が手を伸ばそうとすると、アニが遠慮がちにジャンに訊く。駄目って言っても食うぞ。
「はは、いいよ」
 短い俺の腕では届かなかったプリンをアニがとってくれて、更にスプーンですくって与えてくれた。
「ん、ん」
 滑らかで程良い甘さのカスタードプリン。
 添えられた生クリームには砂糖が入ってないのか、程良いアクセントで実にいい。
食べさせてくれるのはありがたいが、めんどくさいから自分で食べたい。だからスプーンとプリンを持ったアニの手を握ってせがめば、口元をうにうに動かして変な顔をした。
「にやけそうになるの我慢してんのか?」
「うっさい!」
 他の奴と喋っていたライナーがアニの対面に座り、一連のやりとりを見守っていたのか変な表情の原因を指摘した。ら、今度は凄い顔で睨まれていた。そういや、モテ男の割にライナーはデリカシーないって評判だったな。
「フロック、ちょっと待て、コート脱がすから」
 プリンをお預けにされた挙げ句、受け皿付きの涎掛けをつけられ、食べる時の格好にされた。
 スプーンで食べてても下手糞で口の周りべたべただし、ぼろぼろ零すから当然の措置ではあるんだが。
「なにこのカップみたいなの」
「自分で食うと、どうしても落とすからな、これつけてると、この中に入るからテーブルや床掃除がちょっと楽になる」
 俺の首につけられたものをアニが物珍しそうに眺め、説明を受ければ感心したように呻った。
「普通の涎掛けしか知らなかったよ」
「赤ん坊が居るとどうしても掃除が増えるから、ちょっとでも手間減らす努力の結果だろうな」
 ジャンが笑いながら、この間のどんぐりトラップを初めに、俺がやった諸々の悪事を暴露していく。やめろ、恥ずかしいだろ。
「結構やんちゃだね」
「動き回るようになったら、見える物が増えるから気になるのかな。案外力もあってな、冷凍庫や野菜室のボックス開けた上に踏み台にしながら登って、冷蔵庫からおやつのプリン盗んでたのはびっくりしたけど……」
「ちーあー!」
 それはだな、ジャンはソファーで転寝してるし、他に誰も居ないし、おやつの時間だしで、自分で自分の世話しただけだろ。盗んだとか言うな。
「お、反論があるらしいぞ」
 ライナーが俺を茶化して笑う。
 そうだよ、あるんだよ。俺にだって正当な理由が。
「あるかも知れないけど、万が一冷蔵庫に閉じ込められたり、落ちたり、足挟んだりしたらどうすんだ。ん?」
 ジャンが指先で俺の額を突く。
 一番下にある冷凍庫、二段目の野菜室、満遍なく使われているとあって幼児が入り込む隙間はないため、閉じ込められはしないだろうが、落ちたり足や腕を挟んだりありうるか。
「ぬん……」
 それでも納得いかじ。とばかりに、フグ宜しく頬を膨らませながらジャンを睨め上げ、アニの膝の上で足をじたばた動かす。
「子供なりの理屈があるのかもね」
 ベルトルトがライナーの隣でけらけら笑いながら俺を理解するような事を言ってのけた。そうなんだよ。俺には俺の理由があってやってんだ。全部が全部理解しろとは言わないが、見守って欲しい部分もある。
「かなー、自分でやろうやろうってしてる感じはするし……、あぁ、こないだちょっと目を離した隙にトイレに入り込んで便座に嵌った上に漏らして泣いてたな……」
「にゃー!」
 余計な暴露をするんじゃねぇ。
 おむつに漏らすのが嫌で、練習がてらトイレに行ったら便座の穴が思ったよりでかかったんだよ。
 ジャンの腕をばしばし叩いていると、アニの体が微かに揺れ、顧みれば片手で顔を覆って笑っていた。ちくしょう。
「ふーん、随分……、こしゃまっくれた餓鬼だな」
 プリンの事も忘れて頬を膨らませ、恥ずかしさに泣きそうになっていたら突然、服を掴まれ持ち上げられた。
「あっ、そんな持ち方すんなよ!」
「はいはい」
 服の背中側を掴まれ、宙に浮いていた俺を、ジャンが怒って奪い返そうとしたがエレンが抱きかかえ直し、自分の席へと連れて行ってしまった。どういう状況だこれ。
「返せよ!乱暴にしやがって!?」
「大丈夫大丈夫、こいつはこのくらいじゃどうもないって、過保護だなお前」
 確かに大丈夫ではあるが、エレンは他の人間とどことなく俺への対応が違う感じがする。なんだこれは。
「ジャン落ち着いて、エレンも赤ちゃん相手なんだから丁寧に扱いなよ」
 エレンを止める金髪の刈り上げで、丸顔の男。
 アルミンかな。こいつもあまり変わってないが、表情がかなり引き締まってるかな。昔は解り易く女顔で頻繁に揶揄われていたのにな。
 どいつもこいつも大人になっている。俺だけ赤ん坊に逆戻りしてるのが居た堪れない。
「丁寧ねぇ、本当に赤ん坊かこいつ」
「ぶぃ」
 俺の頬をエレンが両手の指で突き、変な顔にしてくる。
 何となく腹が立って手を叩き落とせば鼻で嗤ってしつこく突いてくるので、突こうとするエレンと、手を叩き落とす俺の攻防戦になり、やりとりに笑うライナーとユミル、手や口を出すべきかどうか困るベルトルトとヒストリア、傍観しているアニ、ここぞと飯食ってるサシャ、怒るジャンに宥めるアルミンにコニー、元気な様子にまた泣き出すマルコ。果てしなく混沌とした空間になっている。
 あれ、待てよ。
 良く考えたら仲良しグループに一人足りなくないか。
「みあしゃ」
「あ?みあ……、ミカサか?」
 いつもエレンと一緒に居た女が見当たらない。
 周囲を見渡しても、あの艶やかな黒髪をなびかせていたジャンの初恋の相手とやらが。まさかとは思うが、万が一、なんて事は。
「そういえば、ミカサの姿がないけど……」
 エレンの声を受け、ジャンが室内を見渡すが、トイレかカウンターの中にでも隠れてない限り見つからないはずがない。
「あの、急な仕事とか……?」
 ジャンが不安げに口にすれば、皆が無言で目配せをし合っていた。
「ミカサは……、ちょっと……」
 サシャが明らかに動揺しながら目を左右に彷徨わせている。昔から嘘が下手な奴だったよな。
「あの、ミカサはね、そのー……」
 アルミンが引き継いで説明しようとした矢先、バーの扉が開き、備え付けられていた鈴がちりん。と、鳴った。
「みんな、……ジャン、待たせて申し訳ない……」
 走ってきたのか息を切らし、髪が乱れた女が入って来るやジャンに近づいていく。
「一歳くらいの赤ちゃんを連れてくると聞いたので、食べられる物がないと思って急いで買ってきた」
 取っ手のついたビニール袋から出てきたのはレトルトの離乳食や幼児用の麦茶、ソフト煎餅や玉子ボーロ。わざわざ買って来てくれたらしい。
「お腹を空かせて泣いたら可哀想だと思って……」
「ミカサ……」
 俺はプリンがあれば満足だし、最悪、ジャンの乳でもどうにかなるが、そもそも授乳する場所がないか。

 おうおう、うっとりしおってからに。腹立つな。
「簡単な離乳食ならキッチンで作れるから大丈夫って言ったんだけど、飛び出して行っちゃって……、スマホも置いてって連絡つかないし……」
「あぁ、そう言う……」
 明らかに安堵した面持ちでジャンがヒストリアの説明を聞いている。
 エレンがぐにぐに俺の顔を弄ってるのが鬱陶しくて、腹癒せに思い切りみぞおちを蹴り、動きが止まった瞬間にソファーの上に逃げ、ジャンの元へと走った。
「あ、お靴履かずに床に下りたら駄目だろ!」 
 ミカサに気を取られていたジャンの脚を叩いて気付かせれば、慌てて俺を抱き上げて持ってきた鞄の側まで移動し、靴下を履き替えさせられた。床は綺麗に掃除されており、物理的に汚れてはいなかったが。
「ヒストリアの店だぜ?ちゃんと掃除してあるし、ぱぱっと払えばいいじゃねぇか、お前そんなに潔癖だったか?」
「こいつ、直ぐ熱出すから……」
 コニーがあっけらかんと宣うが、ジャン自身は深刻な面持ちで、俺を抱き締めながら呟くように言った。
「そんだけ根性の座った餓鬼なら病気の方が逃げ出すだろ」
 腹を押さえてはいたが俺に蹴られた痛みが引いたのか、エレンが投げ捨てるように言った一言でジャンの瞳に涙が滲み、眦を吊り上げた。エレンのデリカシーのなさも相変わらずか。やっぱり、人間根本的な部分は変わらないらしい。
「悪い、これ以上居たら迷惑になりそうだから帰る。ミカサ、気を使って貰ってありがとう」
「ジャン……」
 これは、確実に俺のせいだよな。
 どうしたらいいんだ。
「ごめんなさい、無理に引き留めはしないけど、また会いたいと思ってる……、から」
 ミカサが持ってきた袋をジャンに渡しながら言った。
「あぁ、ちょっと頭冷えたら……、空気悪くして悪かったな。また……」
 堪え切れない感情が苦しげな表情にありありと出ているからか、去ろうとするジャンを誰も引き留めようとはしなかった。
 手早く私物を片付けると俺にコートを着せ、お出かけ用の鞄の中からブランケットを出して全身を覆うように包むと、荷物を持ってジャンは店の外へ出て行く。
「おい、フロック、今度は元気で居ろよ」
 エレンがジャンではなく、俺に呼びかけてきて驚いたが、何かに感づいてるのかあいつ。
「ばーい……」
 ジャンの肩越しに手を振り、扉が閉まるまで見詰め合っていた。
 この体の中身が、赤ん坊じゃないって気付いた。いや、知ってるのか。なんで。

 疑問は解決しないまま外に出れば冷たい風が頬を撫で、先程まで皆と一緒に居たビルを見上げれば物悲しさが増す。
「ごえしゃい……」
「別に、お前のせいじゃないよ……」
 次いで大きな溜息。
 きっと、心の中で後悔が渦巻いてるんだろうな。
 どんな意味や形の後悔かまでは、俺には判らないが。
 俺が無理矢理ついてこなかったら今頃、のんびり酒でも飲んで、皆と思い出話でもしてたかも知れない。勝手な思い込みと嫉妬心から本気で余計な事をしてしまった。
 抱っこされたまま自己反省をしつつ、景色をぼけっと眺めていれば、繁華街の離れにある公園に差し掛かってジャンがベンチに腰を下ろした。

 きちんと管理されていないのか、ちかちか明滅する切れかけの街灯が周囲を照らす中で、ジャンは白く濁った息を肺から絞り出し、星空を見上げる眼は潤んでるように見える。
「フロック……」
「うい」
「あぁ、ごめん、お前の方じゃなくて……、お父さんの方」
 俺の事思い出してたのか。
 どうしたこんな時に。
「お父さんとはさ、クリスマスをまともに一緒に過ごした事ないんだよな。学生の頃は気恥ずかしかったもんだから『家族と過ごすもんだろ』なんて知らん顔して誤魔化して、結婚してからは仕事に慣れるのに必死で、お互い疲れててさ……、まぁ、ケーキくらいは食ったか」
 そして、餓鬼が出来て今度こそ『家族』で一緒に過ごせると思えば、翌年には俺が死んで。と、本当にロマンチックな思い出など一切ない人生だった。
 求婚は必死になり過ぎて、卒業前に『俺を棄てるな』なんて、あまりにもみっともない懇願にしか見えないもので、ジャンが意図を察して頷いてくれなかったら、危うく駄目男の見本のような馬鹿野郎になる所だった。
「唯一の形見がお前とこれだもんなぁ……」
 襟の中に指を突っ込み、引っ掻けて出したのは鎖に通した俺達の繋がりを表す指輪。
 これは、結婚指輪と言うにはあまりにも相応しくない安物のシルバーリングだ。どうにか就職先を見つけてからの卒業後、付き合いに反対する大人達から逃げるように家を飛び出したため、支援は一切受けられず、春休みでこちらに帰って来ていたマルコに助けられつつ引っ越したり、最低限の家具を揃えたりした。
 当然、式を上げるような金はなく、だが目に見える繋がりが欲しかったから、初めて貰った給料の中で、今後かかる金の心配を振り払いつつ苦心して選び、買った物だ。別に良かったのに。とは言いつつも、ジャンが嬉しそうに、心底幸せそうに微笑んでくれたのが唯一の救いだったか。
「しゃーわせ?」
「あぁ、お前みたいな可愛い子と一緒に暮らせて不幸な訳ないだろ」
 思わず訊いてみたが、正直な気持ちとしては『俺はお前を不幸にしたんじゃないか』との想いが強い。絶対に幸せにするんだと息巻いて、裕福で不自由がない暮らしが約束された小鳥を、無理矢理、籠から寒空に引っ張り出したようなものだ。
 ジャンは、自分や、俺を肯定するために不幸だとは絶対に言わないが、後悔はないんだろうか。選択を間違えた。とは。
「じゃー」
「大丈夫、大丈夫だって……」
 俺がジャンのコートに縋りついて名前を呼んでも微笑んで大丈夫としか言わない。
 ジャンの心の中はジャンにしか解らない。心の中で何を考えていても、軽々に吐き出す人間でもない。自分の選択に責任を持ち、苦しくとも背筋を伸ばして、しかと目の前の現実を見るような人間だ。
 こんな世話されるばかりの赤ん坊じゃお前の隣に立てない。今の状況が、俺にとって悲運なのか、幸運なのか、本当に判断がつけ辛い。お前の我欲のせいでジャンが不幸になったんだ。それを見ていろ。と、言われている気すらする。

 ぐるぐる考え過ぎたら、頭が痛くなってきた。
「あ……!」
 俺の真っ赤になっているだろう顔に手を当て、表情を曇らせたジャンが慌てて立ち上がり、国道まで走ってタクシーを捕まえようとするが、クリスマスとあって忙しいのか空車のタクシーがない。
「あちゅー」
「ごめん、直ぐ病院に……」
「ちあー、あつー!」
 もこもこのインナー、ズボン、靴下、コート、更に体を包むブランケット。もっと言えばジャンがしっかり抱き締めてくれてるもんだから、普通に熱い。どれか取ってくれ。
「あちー……」
 ブランケットを脱ぎ捨て、ジャンの肩によじ登り、涼しい場所を確保して俺がほっと息を吐いていると、やっと空車表示のタクシーが見つかったのか、ジャンが手を上げて止め、行きつけの病院を指定して向かって貰っていた。
「あじゅい」
 車の中は暖房が利いており、南国気分になるほど暑かった。
 靴下、コートを勝手にぽいぽい脱いで俺がシートに伸びていればジャンが困ったように笑っている。
「着せ過ぎてたか……」
「うい……」
 いつだったか病院で、剥いても剥いても出て来ない蓑虫扱いされた事もあったか。
「ついな……」
 俺が風邪を引かないよう、熱を出して苦しまないように、もこもこ着せているのは判るんだが、偶に汗を掻くくらい暑くて、汗が冷えて返って風邪を引きそうになる。
 上手く伝えられないし、寒いよりはましかと俺も黙っていたが、今回はちょっと我慢出来なかった。思い出に浸ってる所を盛大に邪魔したが、逆に良かったのかな。

 座席のシートで快適になった俺がごろごろしていると、
「あの、すみません……、場所変更してもいいですか?」
「はい、構いませんよ」
 運転手が目的地の変更を快く受けてくれ、俺達はそのまま自宅へ。
 暑い車内から降ろされ、家の中に入ると適度な室温で、快適過ぎて走り回ってたら、また熱くなってしまい、ひんやりした廊下の床が気持ち良くてへばりついていた。
「フロック、ここ寒くないか……?」
「きもちー」
 帰って直ぐ、コートの代わりに半纏を着て、もこもこになっている寒がりのジャンには、この暑さが解らんのだろう。空気は冷たいが、体温が高いせいか案外快適だ。勿論、やりすぎたら寒くなるんだが。
「ジャン、なんかさっきからあんたの携帯鳴ってるよ」
「え、なんだろ……」
 寒い廊下から適温の居間へ行けば、ソファーに放置されていたスマートフォンがぴこぴこ鳴っていた。通知を見るにグループライン辺りで会話がされてるらしい。
「はは、楽しそうだな……」
 俺を膝に乗せ、ジャンがスマートフォンの画面を眺めながら笑う。
 画面には、あのバーで撮った写真が落書き付きで送られていた。変なポーズを決めて一緒に写るコニーにサシャ、困り顔のアニを中心として女達でくっついて撮った写真、男共で集まった暑苦しい写真。後は全員集合の写真と、エレンが単体の物。
「なんだよゴメンニャン。って……、くく」
 写真を加工するアプリで撮られた物なのか、エレンのただでさえでかくて威圧感のある目が気持ち悪いほどキラキラしており、猫のしおれた耳や、舌を出した口元が合成されて送られていた。ジャンや俺を苛めた罰だろうか。
 エレンの明らかに不貞腐れている表情が言葉を台無しにしているが、俺だってこんな合成されたらいやだな。
「動画もあるな……」
 エレンが映っている動画を再生すれば、それはジャンに向けたもので、『色々言って悪かった。またな』と、謝罪をしつつ再会を望むものだった。あの後、こっぴどく叱られたのだと見える。
 それに対して『俺も感情的になって悪かった』そうお互いに謝り合う様子は、学生の頃は絶対になかった。直ぐ喧嘩になって、お互い意地になってたしな。やっぱり大人になってるんだな、皆。

 俺も、死ななかったら今頃、一緒に馬鹿騒ぎでもしてただろうに、あの俺を轢いた軽薄チャラ男め、どっかで不幸な目に遭ってろ畜生。
「じゃー」
「また、皆に会いに行くか……」
 俺が頷けば、少しばかり悲し気に笑んで、送られてきた写真をジャンはいつまでも眺めていた。

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