忍者ブログ

馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

事故で死んだかと思ったら、嫁の腹にいた自分の子に転生してた=その七=

・クリスマスリースを作る親子
・ちょっと保険とか下衆なお金の話





 どんぐり、松ぼっくり、何かの蔓に赤や緑のリボン。
 居間にて丸く切り抜いた段ボール紙を絵具で金色や銀色に着色し、接着剤でそれらをぺたぺた張り付けて行く。

 作りながら、ジャンが俺をあやすためか神の子の誕生を祝う歌を口遊んでいる。
 きよしこのよる、すくいのみこは、みははのむねに、まぶねのなかに、ねむりたもう、いとやすく。昔は全く考えずに街中に出れば聞こえてくる音楽を聴いているだけだったが、神の子にも母親の胸に抱かれて眠り、慈しまれて愛されていた時期があったのだと改めて知った。
「うーいうー、うー」
 調子の外れた音程で一緒に歌いながらクリスマスリースを作っているが、案外楽しい。
 俺が良い。と、思った位置に、素材を段ボールに置けばジャンが接着剤を使ってそれらを飾っていく。接着剤は肌についたら危ないとの事で触らせて貰えないが。
「お前センスあるなー。綺麗なの出来そうだ」
 そうだろそうだろ。
 餓鬼の感性では出来るまい。
 ジャンに頭を撫でられ、至福に浸っていれば無粋な呼び出しベルの音が鳴り、今日は義母が不在のため、ジャンが慌てて出て行く。宅配か何かだろうか。
 俺は待っている間、暇を持て余し、箱詰めにされたどんぐりや松ぼっくりをソファーに向かって投げる謎の遊びをやるが、どうにも投げるための筋力が足りないのか、座席には届かず跳ね返されたり、届かずに手前で乾いた音を立てながら床に転がりまくるばかり。つまらんな。
「ぶい……」
 結構動けるようにはなってきたが、まだ言葉も不明瞭だし、勢い良く走ろうとすれば転ぶし、ジャンとどんぐりや松ぼっくりを拾いに行ったら妙に楽しくなり、公園から帰りたくないとごねた挙句に軽い風邪を引いて痛い注射を打たれる羽目になった。

 我ながら阿保餓鬼過ぎる。
 それに、なんだか最近、幼児退行が激しい気がする。
 いや、体は幼児なんだから、それで正しいと言えば正しいが、正直、怖くなる時がある。
 きっかけがあればどうにか思い出せるが、時間が経ってくる毎に、徐々に以前の記憶が曖昧になってきた。大人になるまで記憶や気持ちを維持していられるのか。度々熱が出るのは赤子の脳では情報の処理が追い付かずにオーバーヒートを起こしているのではないか。なんて考えるようにもなった。
 俺が熱を出す度に、ジャンが泣きそうな顔で看病してくれているのも気持ちがしんどくなってくる。俺は熱程度で死ぬ気はないぞ。百歳まで生き抜いてやるわ。

 しかし遅いな。
 ちら。と、時計を見上げれば、ジャンが俺から離れて五分は経っている。
 体感的には三十分、下手をすれば一時間は待ちぼうけを食らっている気がする。何やってんだあいつ。配達員にナンパなんぞされてないだろうな。

 松ぼっくり、どんぐり投げにも飽きた俺は、のそのそ移動し、廊下に続く扉を開けた。
「良い保険なんですよ。お子様だけでなく、フォルスターさんご本人もどうか……」
「いえ、だから俺はいいですよ」
「実際にお役に立ったでしょう?万が一が遭って、お子さんが一人きりになられた場合の保障は大事だと思いませんか?お父様やお母様に金銭的な負担をかけるのは忍びないと思いませんか?人生何があるか判りませんよ?自分は大丈夫。なんて保証はないんです。フロックさんも、加入されて直ぐだったじゃありませんか」
 ジャンに対し、営業を仕掛けているスーツの男には見覚えがあった。
 確か、俺の会社に来ていた保険の営業だ。結婚してるなら伴侶となる相手のために、これから生まれてくるであろう子供のために。と、しつこく説得され、最初は鬱陶しかっただけだが、暇潰しに資料を読んでいればその気になって、かなり大きい死亡と医療保険がくっついた保険に入ったような気がする。
 『役に立った』は、そんな意味だろう。俺が事故で死んだために巨額の保険金が入り、あくせく働かずとも子育てに専念出来るのは自分が勧めた保険のお陰だと。しかし、なんて下衆な脅し文句だろうか。

 俺の保険はジャンに黙って加入したんだが、保険証が届いた際に勝手に加入した事がばれた挙句に保険料の高額さに叱られまくった。本当に、今考えると阿保みたいに高いのに入ったな。確かに役には立った。だが、あんな糞の成績に貢献したのかと思うとどうにも腹立たしい。
「とりあえず、フロックの学資保険だけで充分ですから、今は考えられないので……」
「いえいえ、学資は貯蓄ですから、ご自身の分も、ね?フォルスターさん用の資料も沢山作ってきたんですよ」
 奴のしつこさに折れたか、俺のための保険には加入してしまったらしい。俺の保険金でたんまり持っている癖に。と、奴の表情が語っているように見える。伴侶を亡くした人間の気持ちを考えず、自分の成績にしか興味がないんだろうな。まるで死体漁りをするハゲワシだ。
「だっ……!」
 俺が覗いている事に気付いていない二人へ向かって勢い良く駆け寄り、ハゲワシ野郎に向かって飛び込む。身長的に、立っているハゲワシの股間に俺の頭が丁度当たる位置だ。
 俺がぶつかれば、虚を突かれたため防御が間に合わなかったのか、低い声の詰まった悲鳴が聞こえた。額にぐにゃっとした感触がして滅茶苦茶気持ち悪い。自分にも精神的被害が来る自爆技だなこれは。
「おまっ、なにしてんだ!?」
「んぎ!」
 ふしゅ。と、鼻息を出しジャンの前に立ちはだかると睨みつける。
「は、はは、げん……、き、おこさ、ん、ですね」
 顔を真っ赤にして表情を歪ませ、内股で股間を押さえているハゲワシ野郎が俺を見下ろす。どうせ糞餓鬼とか思ってんだろ。
「すみませんっ、あの、なんていうか……」
 ジャンがじたばた暴れる俺を抱っこしながら謝るが、必要ないだろ。お前、それ以上に失礼な事言われてんだぞ。阿保か。
「あ、だいじょぶです、しつれ……」
 変な内股でへろへろしながらハゲワシ野郎が出て行った。ざまぁみろ。
 奴の渡してきたジャンの資料をチラ見すれば、俺に提案した時と同じ、どう考えても身の丈に合わない高額なもの。余程の高収入の人間、従業員を抱える社長ならいざ知らず、自宅で育児に専念している人間に億単位の保険金が要るか?入院保障もやたらめったらつけてるな。
「じゃん、めっ!」
 あんな奴の話は聞くな。
 そう言いたいが、舌が回らないため簡潔に叱っておくがどこまで通じたやら。
「俺が絡まれてるように見えたのか?はは、お前は優しいなぁ」
 そうじゃないけど、もうそれでいいわ。
 俺が調子に乗ってあのハゲワシを担当にしたから今に至っている訳だし、責任として、あいつが来るたびに追い払ってやる。
 ジャンに下ろして貰い、鼻息荒く廊下をちまちま歩いて居間に戻ると足裏に激痛が走った。
「ぎゃい!」
 痛みに驚いて足を上げた拍子に体勢を崩し転倒。
 ジャンが後ろに立っていたから直ぐに支えて貰え、頭を打たずに済んだが足の裏が痛くて俺は泣き喚いた。
「フロ……、ぃってぇ!?」
 俺を慌てて抱き上げ、慰めているとジャンも悲鳴を上げた。
「は、なんで床にどんぐり……」
 廊下の壁を支えに俺を抱っこしたまま足の裏を見て、次いで床を見たジャンは、痛みの原因を発見し、ちら。と、俺を見る。
「ごめちゃ……」
 要は俺がどんぐりを投げてばらまいたせいで、床が危険地帯になっていた。尖ってはいないが、硬くて小さな物体を踏むとこんなに痛いなんて知らなかった。
「んもう、ちょっと寒いけど廊下に居てくれよ」
 指で俺を小突いたジャンが膝立ちになり、一個一個落ちていたどんぐりや松ぼっくりを拾い集めている。
「おえも」
 ジャンよりは視点が低いから、落ちている物を見つけるのは得意だ。
 久しぶりにはいはいしながらどんぐりを拾い集め、全部拾い終わった後、もう一度『散らかすなよ』と、叱られた。あれは痛いから、もうしないようにしよう。
「頭にクッションでも付けるかなぁ……」
 ジャンが俺の頭を凝視しながらぶつぶつ悩み、リース作りに戻ったが考え込みながらなせいか作業は最初ほど捗らない。

「ただいま、ケーキ買ってきわよ。お茶でも入れるわね」
「お帰り、ありがと」
「とっ!」
 複数のリースが完成した頃に、仕事帰りに買い物をしてきた義母が機嫌良く台所に向かうと拾い損ねがあったようで、俺のどんぐりトラップに引っかかって悲鳴を上げていたのは、実に申し訳ないと思った。

拍手

PR