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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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桜に奪われる


2020/03/24
・ただの妄想
・地鳴らし止められなかったIF
・フロックは幸せ
・我儘フロック

※31巻のネタバレを含みます※





 隣に立つジャンの呆けた面を見て、俺は愉悦に浸る。
「綺麗だろ?」
 俺が話しかけても答えないほど魂を奪われ、ジャンが見ている『それ』はキヨミから献上させた『桜』と、言う木だった。
 エレン率いる超大型の群れは順調に敵対する勢力を制圧し、世界のほとんどの人間が踏み潰された。生き残った全てはエレンに、ひいてはエルディア帝国にひれ伏し、俺は代弁者として相応の地位を得た。
 エレンの意志が次代へ受け継がれるまであと数年。寿命が残り少ないエレンに代わってやる事も多く、苦労は絶えないが俺は満足していた。欲しい物は手に入ったのだから。

 そう。
 手に入れたんだ。
 作戦が失敗し、ただただ命が踏み潰されていく光景を呆然と眺めていたジャンを連れ、中央に位置する一等地の邸宅を宛がい俺と共に住まわせた。俺を裏切った残酷な仕打ちは忘れていないが、俺は優しいからな、今後、誠心誠意尽くすなら赦してやらない事もない。
「きれい……、か……?」
「なんだ?気に入らないか?」
 ヒィズル国の視察に赴いた際に良い土産になると思い、特に蕾が多く、枝ぶりも立派な物を選び、庭に植えさせたが考えていたよりも反応は悪い。見た目にそぐわず妙に夢見がちな表現、可愛らしい物を好むジャンなら、もっと手放しで感動する様子を見られるはずだった。
「あ、いや、嫌に儚い感じがして……、ちょっと怖い気がしたんだ……」
「怖い?たかが花がか?」
「なんて言うか……」
 ジャンは言葉を選びながら、桜へと近寄り幹に手を添わせ、切なげな視線で見上げた。なんとなしに腹が立つ。
「別に枯れてもないのにひらひら花弁が落ちてって、まるで……」
「まるで?」
 ジャンが口籠った先を促してやれば、暫し逡巡しつつも口を開く。
「人の命みたいだと……」
「ふぅん……、そんな捉え方もあるのか」
 船での移動中、植え替えの際にも随分と花が散った。蕾が多かったお陰でどうにかジャンにも咲き乱れる花を見せてやれたが、妙な投影をするとまでは想像がつかなかった。
「お前が気に入らないなら撤去させるが?」
「いや、いい。わざわざ持ってきてくれたんだろ……、ありがと……」
 薄い紅色の花弁を撒き散らす桜を背に、薄く笑うジャンは妙に似合っていた。ひらひら、ひらひら簡単に落ちていく命を背負い、戦い続けて疲れただろうに、もう自由だと言うのに、まだ抱え込むつもりか。
「ジャン、もういいだろ?部屋に戻るぞ」
 側に舞っていた花弁を掴んで握り締め、じ。と、包み込んだ拳を見詰めていたジャンの手を引き、家の中へと戻る。あれを持って帰ったのは失敗だったか。最近は特に従順で、しっかり俺だけを見ていたと言うのに、変な情け心を出すのではなかった。少し、躾け直すか。
「ジャン……」
 寝室にて頬を撫で、名前を呼んでやればジャンの瞳に映るのは俺だけ。
 これでいい。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 翌日から、いささか面倒な案件が入り、家に帰れなかった。
 三日ほど元王家が住んでいた城で寝泊まりし、昼頃やっと自宅に帰れば、俺を待っているはずのジャンは桜に背を預け、落ちて来る花弁をただ眺めていた。ジャンの監視兼世話役を任せている部下に訊けば、食事も碌に取らず、日がな一日そうして居るらしかった。
「何してんだ?」
「ヒィズル国には花見って風習があるらしい……、季節によって花を愛で、星を愛で、月を愛で、雪を愛で、情緒豊かな民族だな」
 緩やかな風に乗って、ほんの少しだけ漂ってくる酒の香り。
 よくよく見れば、ジャンの直ぐ側に、酒のボトルとグラスが置いてあった。少し前に控えるよう言い聞かせていたはずだが、花なんかで酒が進むとは、らしいと言えばらしい。
「どれくらい呑んだ?」
「ほんの少し。グラス一杯くらいだよ」
 地べたに置いていたグラスを手に取り、俺の前に掲げて見せるが、問題は酒だ。随分と強い物を呑んでいるようだ。決して強くはない癖に酒好き故かジャンは呑みたがる。困ったもんだ。
「その程度にしておけ、後で風呂に突っ込んで酒を抜いてやる」
「はは、気持ち良く呑んでるのに、無粋だなぁ。好きにしろって言ったのお前だろ?」
 渋々との様子で立ち上がったジャンの脚は、若干ながらふらついて、視点もふらふら彷徨っている。俺ではなく、出てきた風に乗って飛ぶ花弁を追っていた。
「あだっ……、酷いな……」
「好きにしろとは言ったが、醜態を晒せとは言ってない」
 俺を見ようとしないジャンの頬を張り、手を引いて自宅へと引き込めば素直についてくる。数日前にしっかり躾けたつもりだったが、足りなかったのか。
「花見は禁止だ」
「俺に見せるために植えてくれたんだろ?」
「もう十分、見ただろ。酒も控えろ」
「お前も綺麗って言ってたじゃねぇか……」
 ジャンは未練がましく桜を顧み、次いで悲し気な眼差しで俺を見る。そうじゃない。そんな目で見て欲しい訳じゃない。
「眠い」
「あぁ……」
 一言告げれば直ぐにジャンは頷き、寝室の窓際に置かれた長椅子の端に座ると俺を迎え入れた。ベッドだと熟睡し過ぎて仮眠にならないため、いつもこうしている。が、
「ったく、酒臭いな……」
「はは……」
 文句を零しつつ太腿に頭を置けば、ジャンは柔らかく俺の髪を撫で始めた。酒が入っているせいか幾分眠そうに目を瞬かせながら俺を見下ろす。
 景観が良くなるかと庭に植えたが、こんなはずじゃなかった。当てが外れ捲って不機嫌になりつつも、疲労から眠気に抗えず目を閉じ、心地好い温もりに身を委ねた。

 それからも、ジャンは桜の側に居た。
 聞くに、酒は控えているようだが俺が居ない間の一日の内、一回は根元に座ってぼんやりしているようだ。苛立ちが募る。桜の何がお前をそこまで惹きつける。
 花弁が地面に落ち、茶色く汚らしい残骸になってもジャンは寄り添っていた。そこに座って一体誰を想っているんだ。異様に苛立ち、腹が立つのはそのせいか。
「おい、行くぞ……」
「うん……」
 全く、何度目だ。
 花はあっと言う間に散ってしまい、枝は既に裸の状態。もう見る物などないだろうに。怖いだとかほざいた癖に。なんなんだ。
「寝る」
「解った」
 再び俺はジャンの膝を枕に寝室の長椅子に横たわり、疲れを癒す。
 明日見てろよ。

「フロック、何してんだ⁉」
「見ての通りだ」
 翌日には部下に桜を切り倒すよう命じ、斧で叩き割られた幹が音を立てて折れ、倒れて行く。その様をジャンは青褪めた顔色で凝視していたが、構わず油をかけ靴裏で燐寸を擦り、火を点けて桜へと放ってやった。
「案外良く燃えるな。もう枯れかけてたんじゃないのか?弱い木らしいしな」
 俺の言葉にジャンは返事もしない。しかし、膝をついて燃え朽ちて行く桜を眺めている表情に胸が空いた。
「ジャン、『お前は賢いから』俺がどうして欲しいか解るよな?」
 ジャンの琥珀色の瞳には桜を燃やす炎が映り込む。
 それが、いつかの光景を思い起こさせた。
「いいんだ。お前はもう、死体を焼く炎を見る必要はない、もうお前は囚われなくていいんだ。言っただろ、自由なんだから……、なぁ?」
「……あぁ」
 ジャンの顔を両手で固定し、しかと目を覗き込む。そこには、きちんと俺が映っていた。うっそりと目を細め、微笑む俺が。

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