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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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ワンドロワンライ『料理』

・風邪引きジャン君と料理センス皆無なフロックのお話
2019/11/06






 ぽろ。と、俺の目から涙が落ちる。
 残念な事に、これは悲しみでも、感動でも、歓喜の涙でもない。
「そんなに嬉しいか……」
「うん……、ありがと」
 額には冷えピタが張られ、温かいもこもこの服を着こんだ俺は絶賛、風邪引き中。
 高熱のために体中が痛く、食欲も湧かなかったため、ひたすら自分のベッドで寝ていた。すると、同居人のフロックが雑炊を作ってくれた。

 作っても、インスタントラーメンや焼きそば、温めれば食べられるパウチ式のレトルト食品ばかりの男が一体何の気まぐれだ。晴天の霹靂としか言いようのない行動に、俺は熱で夢を見ているのだと思い、一時は背中を向けて布団に潜り込んだ。
 すると、背中を蹴られたため、現実なのだと理解した。そして、今正に、件の雑炊を口にした所な訳だが、余りにも不味過ぎて涙が出た。若干鼻づまりでも解る不味さ。何を入れたらこんな味になるのか、怒りではない、悲しみでもない、ただただ辛くて涙が出た。
 他人の作ってくれる料理が、こんなに苦行となる場合があるのだと、俺は初めて知った。
「美味い?」
 折角作ってくれたのだから。と、肯定しようとしたが、言葉が一瞬出て来なかった。
 なんか妙にすっぱくて、油っぽいけどコクはない、変な甘さは砂糖と塩を入れ間違えた?黒いつぶつぶは黒胡椒だろうか。一体どんなレシピを見てこれを作ったんだろう。皿に盛りつけられず、鍋をそのまま渡されたため、大量の謎雑炊を前に、もう辛さしか感じない。
 言葉が出なかった代わりに、ほろほろと涙が出た。
「そんなに感激すんなよ。照れるな」
 フロックは俺の涙を都合良く受け取り、勝手に照れている。
 絶対味見してないなこれ。
「は、半分食うか?」
「いや、お前用に作ったもんだし、俺はさっき味噌ラーメン食ったから要らねぇ」
 一口食べれば伝わるかとも思ったが、そっか、俺のためか。慣れないのに頑張って作ったんだよな。食べてやらないと。
 手をプルプルさせながら鍋の中身を匙ですくい一口。本当に何を入れたんだろう。酒も入れたのかな。何となく酒臭い。上手くアルコールが飛んでないようだ。油っぽいのはバター、いや、冷蔵庫にバターは入れてなかったはず。買っておいたのはバター『風味』のマーガリンだ。
 椎茸が丸ごと入っているのは具と出汁をとったつもりだろう。ぱさぱさした変な感触は鶏肉か。恐らく冷凍庫にささ身があったはず、酸っぱいのは酢?いや、でもなんかえぐみがあるな。
 もしかして、腐ったものを入れてないか。
 恐る恐る中をほじくってみると、かにかまが入っていた。確か大分前に賞味期限が切れて、ちょっと異臭を発してた奴だ。捨てるのを忘れていた。あれかな、なんとなく酢で締めてみた。とか。いや、黄色いなにかが入っている。檸檬の皮?の、苦味?えぐみ。せめてそうであってくれ。
「フロック、ありがとな、ありがとう……」
「なんだよ改まって……」
 フロックは確実に褒められていると思い込んでいる。
 頭を掻きながら頬が紅潮しており、視線がうろうろあちこちを彷徨っているのだから間違いない。
 気持ちは嬉しいんだ。本当に嬉しいんだ。きっと、病人の体に良さそうで、かつ冷蔵庫に入っていた物を色々入れて、なんとなくマーガリンや、胡椒や塩、砂糖を使用し、勘で『味を調えた』んだろう。だが、お前は間違っている。美味しい物に美味しいものを加えれば、イコールで『更に美味しい』ではないんだ。フロック。世の中には調和や組み合わせってものがあるんだ。
「ごめん、もう胸が一杯だから……、後で食うな」
「そうか?じゃあ、ラップでもして台所に置いとく」
 フロックの頑張りや、気持ちを無下に出来ず、曖昧にしてしまった。
 これじゃフロックのためにならないとは思えど、熱がまた上がり出したのか体が怠く、なんとなく吐き気までしてきて、物を言う気力がなくなってきた。心が切なくなるほど不味い雑炊の入った鍋を渡し、布団の中に潜り込んだ。

 すると、ほどなくして遠くから『おえっ!?』との激しく嘔吐く声が聞こえ、フロックは自室に籠り、出て来なくなってしまった。自分が作ったものが不味かった事が、そんなに衝撃的だったのか。
 一眠りしてからトイレに目を覚まし、何の気なしに台所を覗けば、雑炊は残飯笊の中に捨てられていた。やはり食べてみたようだ。可哀想に。

 朝になり、熱も下がって大分回復した俺は風呂に入り、朝食の準備をしていた。
 昨日、延々と引き籠っていたフロックがぼさぼさの頭で部屋から出てきて、胡乱な眼差しで俺を見て、視線を残飯笊へと動かした。もうそこは片付けてあるので痕跡も何もない。
「あれ、美味かったか……?」
「……美味かった、けど?」
「即答しないって事は不味かったんだな。分かった」
 俺の半端な誤魔化しなど直ぐにフロックは見抜き、歯を磨きに行った。
 洗面室から戻ってくると、俺が料理をしている様子を物凄い目で凝視して来る。
「なんでお前はそんなに上手いんだ?」
「なにが?」
「料理」
 極一般的な範囲の腕だと思うが、全く料理が出来ない人間からすると相応に見えるのか。
「んー、まぁ母ちゃんと一緒に良くやってたし……」
 常に母親に纏わりついていた幼少期。
 母の手で形を変えていく食材が、まるで魔法のように見えて面白そうで、餓鬼ながらに台所に立ち、良く母親の手伝いがてら練習をしていた。
「一緒にやってみるか?」
 誘ってみれば、フロックは逡巡しつつも俺の隣に立つ。
 試しに包丁を握らせてみればぶるぶる震えて手つきが怖い。昨日を思い返せば、雑炊に入っていた具材は手で千切ったか、丸ごと放り込んだような物ばかりだった。
「包丁の背中に人差し指を添えると安定する。あと、食材をあんまり強く握るな、転がるから」
「おう……」
 不慣れな手つきでフロックは皮をむいたじゃが芋を二個分切り分けて行く。たったこれだけの作業に十分。俺がやればきっと二、三分もかかるかどうか。しかし、俺が手伝いと称して邪魔をしていた頃、母親もこんな気持ちだったのかな。なんて考えながら、嬉しそうに不ぞろいのじゃが芋を指差すフロックに微笑みかける。
 切り分けられたじゃが芋をお湯の中に投入し、粉末出汁を入れて味噌を溶かす。
 出来上がった味噌汁は、いつもより美味い気がした。

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