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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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抱擁

・まだイェレナが来る前くらい
・ジャンによしよしされるフロック
・フロックがやや卑屈気味

フロジャンワンドロワンライお題【抱擁】
・2019/3/26に書いたの




 温かいな。
 そう漠然と思った。

 明日が休息日との油断から、ワインの呑み過ぎで机に突っ伏して寝入ってしまったジャンを抱えながら、背中から伝わってくる酒精で上がったのだろう体温をフロックは歩きながら味わう。
 フロックの眉間には、酔っ払いを押し付けられた不満がありありと表れていたが、背中から伝わってくる体温は然程、不快ではなく寧ろ心穏やかになってくる己を自覚した。
 シガンシナ区での戦いから今まで、神経がささくれ立ち、組織に対する不満が募り続け、他者とも中々上手くやっていけず、フロックは何のために兵士を続けているのか自分でも解らなくなっていた。
 すぅすぅ。と、呑気に背中で寝息を立てている人間は、何を思って何を使命として兵士を続けているのか。

 宿舎に着くとジャンをベッドに放り投げ、暫し疲れを癒そうとそのままジャンが眠る場所へとフロックも腰を下ろす。
 二人分の体重でベッドは軋んで音を立てたものの、ジャンが起きる気配はない。

 ベッドの端に座りながら、薄暗い中でフロックは、じ。と、ジャンの寝顔を覗き見る。
 寝顔は案外幼い。普段の目つきの悪さが隠れるせいだろうか。
「なぁ、お前は何で兵士やってんだ?」
 教官に頭突きを受けるほど、高らかに宣言した目標を、獲得した権利を蹴り、エレンとの対立のせいか、忌み嫌っていると表現しても過言ではなかった調査兵団へ行ったと聞いた時、フロックは驚いた。
 しかし、同時に納得もした。

 時に垣間見えた責任感の強さや、真っ直ぐな意志。
 人の世話など面倒だ。と、口では言いつつも世話を始めればやり切る真面目さ。
 気を許した相手にだけ見せる柔らかな表情。
 一切流さない涙。

 エレンと違い、恨みや怒りを原動力にする人間ではないのだろう。
 責任感。
 やるべき事を貫く意志。
 あの惨劇の日を味わい、どうするべきか。
 兵士としてどう在るべきかジャンは選択した。
 そんな所か。

 訓練兵の時代や、調査兵団に入ったばかりの時分には気づかなかったものが、経験を経て、時間を共有するようになって徐々に見えてくるようになった。
 奪還戦前夜に与えられたジャンの言葉の意味も、今では理解出来る。が、理解は出来ても、ではどうすれば良かったのかは、未だ解らない。

 あの時、あの場所で、何をするべきだったのか。
 何が出来たのか。ただ運良く生き残っただけの己が何かを成すだけの人物であるはずもない。エルヴィンをリヴァイの元へ連れて行った行動も、結局は無為に終わったのだ。
「お前は……、いいな」
 何がいいのか。胸の奥に燻る感情は良く判らない。
 優秀な者への羨望か、共に戦いながら築き上げていった仲間との絆や、しかと顔を上げ、確固たる意志を持つ凛々しさを羨んでいるのか。

 ぐずぐずと胸を妬き、焦げ付いて行くもの。
 どうにも惨めになってくる。

 無言で首を振り、疲れているからこんな詮無き事を考えるのだ。と、切り替え、さっさと寝ようと立ち上がれば、小さな呻き声がして振り返る。
「あー、わり……、ねちまってたか」
 明らかな寝惚け声。
 のっそりと大儀な様子で起き上がり、伸びた髪を欠伸をしながらジャンは掻き回した。
「お前が連れて来てくれたのか、ありがとな」
「ん……」
 ジャンが目をしょぼつかせながら擦り、フロックを見上げて首を傾げた。
「どうした?泣きそうな面して」
「んな面してない」
 否定すればジャンは少しだけ眉を下げ、それ以上は何も言わずにベッドの側にあるサイドチェストの棚を開けた。
「担いできて貰った礼」
 立ったフロックに合わせるためか、ジャンはわざわざベッドから降り、フロックの手に紙に包まれた飴玉を握らせてくる。以前よりも物資は豊かになったとは言え、甘味は未だ高級品だ。
 手の中にある小さな長方形の塊をフロックは眺めていた。
「食えば?あんまり置いとくと溶けるし」
「あ、あぁ……」
 促されて口に含めば香ばしくも柔らかな甘さが咥内に広がり、胸に溜まっていた嫌なものも一緒に溶けていくような気がした。滅多に食べない物を食べたせいなのか。
 フロックは口を引き結び、目に力を入れたが、それでも水滴が零れ落ちていく事は止められなかった。舌の上で溶けていく飴玉と連動するように、ぼろぼろ涙が溢れて来る。
「俺で良けりゃ酒でも飯でも付き合うしさ、溜まってんなら出した方がいいぞ」
 ジャンがフロックの体を引き寄せ、抱き締めると背中や頭を柔らかく撫でていく。
 一〇四期の中でも弱音を吐かない筆頭が良くも。そうは思えど声を出す事は叶わず、ほとんど変わらない身長の男に縋りつき、肩に頬を寄せ、服に皺が寄るほど握り締めて声も出さずにフロックは泣いていた。

 衣服越しに感じた体温は、やはり温かく、耳に感じる鼓動は優しかった。

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