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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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美味しい貴方

2022年2月26日
・ケーキバースパロです
・ですが、カニバリズム的な描写はありません
・後半がR18です。高校生以下の方は閲覧不可となります
・(多分)甘口幸せぴっぴです

フロジャンWebオンリーのWeb展示品になります。
と言っても、特に下げる事はありません。
のんびりお楽しみいただければ幸いです。
ケーキバース作品ですが、カニバリズム表現はあんまり?ないと思います。



   ◆ ◇ ◆ ◇

 ありがとう。
 美味しいね。

 いつも何かしらを渡されれば笑顔で受け取り美味しそうに食べるのは自分のため。
「フロックさんってにこにこして食べてくれるから、上げたくなっちゃうんですよねぇ」
 同僚の女性社員がそう言って飴玉を渡してくる。フロックは笑顔で受け取るが、心の中では決して喜んではいない。貼り付けた笑顔も、如何にも美味しそうに、楽しんでるように見える食べ方も自身を守る処世術として身につけたものでしかないからだ。
「食べるの好きなんで」
 白々しい嘘を口にして、フロックは貰った飴を腔内に放り込む。
 本来であれば、砂糖の甘く香ばしい香りと味がするはず、しかし、フロックは何も感じない。嗅覚事態は問題がないにも関わらず、先天的に味覚がないのだ。だが、それを公言すれば今の世では『予備殺人者』とされてしまうため、このような処世術が必要だった。

 何故かと問われれば、世の中、奇妙な現象もあるもので、数は多くないながらも人類の中にはケーキとフォークと呼ばれる人種が確かに存在し、フォークはケーキを無残に殺害し、食べる食殺鬼として忌避されている存在である。
 特徴としては味覚がない以外は見た目も行動もごく一般的な人間と変わりないのだが、フォークがケーキに属する人間と出会えば人が変わったようになってしまう。と、『言われている』。

 何故か。
 フォークにとって、ケーキはご馳走であるためだ。
 味覚がないフォークが唯一味を感じる細胞を持った存在とされ、フォークはケーキに出会えば尋常ではないほどの執着を見せるという。フォークがケーキを殺害、ケーキである子供が誘拐され惨殺された。それらしきニュースは時折報道されるが真実の程は経験がないため解らない。ただ一つ、フロックに解るのは『フォーク』が世間的に大変、忌避されているという事だけ。

 フロックは赤ん坊の頃から食の進まない子供で、両親は懸命に工夫をしてくれていたが、それでもまともに食事をしないため困り果てていたそうだった。フロックが言葉を流暢に話せるようになってから食事を美味しいか訊かれた際、『美味しいって何?』とだけ言った。それだけだった。
 それだけだったが、両親は何かを察してフロックを施設に捨てて消えてしまった。
 恐らくは、『殺人鬼の親』なる汚名を危惧したためであろう。味覚がないからとてフォークではないかも知れない。だが、フォークであるかも知れない。体面を、自身の穏やかな暮らしを重んじるならば、僅かでも可能性があるとすれば危険要素は排除するべきであるのだ。ある意味、賢明な判断と言える。が、それまで愛情を注いでくれていた両親に捨てられた記憶はフロックの脳にこびりつき、『味がしない』と言ってはいけない。いつも『美味しそうに食べる』振りをしなければならないのだ。そう子供心に学び、表面を取り繕う事を必死にやっていれば、いつしか得意になった。
 後に、フォークとケーキという存在を知ると体面を繕うための動作には限りなく気を配るようになっていった。

 フロックは施設が面倒を見てくれる高校までアルバイトをしながら努力し続け、就職もどうにか出来た。だが、毎日がつまらない。食は生命の維持にも必要だが、同時に最大の娯楽でもある。楽しそうに食事をする人々を羨ましく思いながら、生きている意味が見いだせずに生き続ける苦痛。
 食以外の夢中になれるものがあれば行幸と言えるが、残念ながらフロックには全てが色褪せて見え、何をしても上っ面でしか楽しめない自分に落胆するばかり。

 飴が小さくなっていくとそれをペットボトルに入っていた水で喉奥に流し込む。
 だが、それでも唾液に糖分が溶けたねっとり感が口の中に纏わり付いて不快で仕方がなく、フロックは湯を沸かす程度しか用をなさない狭苦しい給湯室まで行って口の中を漱いだ。
 白ご飯はねちねちとした異物、肉類は堅さに違いはあれどゴムを口の中に入れているようでざらざらした油が吐き気を催し、皆が愛するケーキやクッキー菓子は口の水分を奪い、ぼそぼそとしたゴミが詰まっているようで気持ちが悪く、クリームなどは腔内に張り付く糊のように感じる。
 美味しいとはどんな感覚なのか。フロックは本当に自身がフォークと呼ばれる存在なのかは知らないが、ケーキと出会えば気が狂ったように求めてしまうのか。ふとした瞬間に考え込んでしまう。二十歳を超えても、ついぞケーキなどと言う人種には出会った事がないため解らないが。

「フロック君、ちょっといいかな?」
 暫し給湯室で黄昏ていれば温厚な上司に呼ばれ、何かしでかしたかと内心首を傾げるが思い当たる節はない。それもそのはずで、今期から配属された新人の教育係を宜しく。とのお達しだった。
「ジャン・キルシュタインです!宜しくお願いします」
 この春に大学を卒業したばかりなのか初々しさが良く現れている。
「フロック・フォルスターです。俺で教えられる事は教えますんで何でも訊いて下さいね」
 顔に笑顔を貼り付けたまま、フロックがジャンと握手を交わすと、ほんのりと甘い香りが鼻を掠め、あまり香水をつけてこないように注意するべきか悩んだが、然程きつくも、嫌な臭いでもなかったため、とりあえず様子見をする事にしたのだった。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 フロックが教育担当になった同じ歳の後輩は、実に飲み込みが良く優秀だった。
 大卒様はやっぱり優秀なのかね。と、感心と皮肉を半分ずつ交えて漏らした言葉にも怒りはせず、へらへらと笑いながら『フロックさんの教え方が上手いんですよ』などと返す辺り育ちが良さそうだと感じられた。

 時に共に食事をしに行ったりと関係は良好。
 フロックはジャンの側に居ると何故か気分がいいため、最近は作り笑いも控えめになっている。食事も味は相変わらずしないものの、ジャンと一緒であれば生まれて初めてどこかしら美味しく感じてしまうから不思議で仕様がなかった。
「フォルスターさん、新人君を豪く可愛がってるね」
 社内の廊下にある自販機で眠気覚ましの珈琲を買い、一人休憩していると先輩がやってきて茶化してくる。
「まぁ、飲み込み早くてやる事きちんとしてくれますしね。教育担当の俺の評価も上がるってもんです」
 フロックが肩を竦めながらおどければ、先輩は確かにな。と、大笑いする。この先輩は陰で親がなく高卒の自分をかなり馬鹿にして見下していたため好きにはなれないが、表面上はにこやかにしていた方が得だ。フロック自身の評価が上がれば上がるほど、本人に非のない悪口を言う先輩の評価は勝手に落ちていくのだから。
 先輩は笑うだけ笑うとお茶を買って戻っていった。面倒だな。と、思いながら珈琲を飲み干し、缶入れに捨ててフロック自身も部署に戻ればジャンが所在なさげに見詰めてくる。
「どうかした?」
「解らない所がありまして……」
「んー、どこ」
 隣りにある自分の席から椅子を引いてジャンが使用していたパソコンを覗き込み、フロックは懇切丁寧に指導してやる。こういった姿も人は良く見ているもので、やっかまれたりもするが大体は『親切な優しい人』との有意義な印象がつく。無論、『都合のいい便利な人』にならないよう、加減は必要になるが。
「じゃ、あと頑張って下さい。また解らなくなったらいつでもどうぞ」
「はい、ありがとう御座います!」
 ジャンはメモを片手に笑顔を向けてくる。それにそこはかとない高揚を覚えつつも、問題が解決するとフロックは直ぐに自分の机に戻り、自分の業務を進める。総務課の仕事の基本は雑用。業務も対人関係も面倒ではあるが、営業のように客に媚びる接待をせずに済むだけフロックには向いていた。
 業務が終了し、ジャンがつけている香りは何故こんなにも気分が良くなるのだろうかと悩む。香りには様々な効能があると言われているが、フロックは詳しくないため見当もつかなかった。
「あの、キルシュタインさん、相談があるんですが、仕事終わったら飯にでも行きませんか?」
「えぇ、俺でいいんですか?」
「寧ろキルシュタインさんがいいんです」
 行儀悪く座ったままキャスターつきの椅子を転がして近寄り、端的に告げれば、ジャンはどことなく照れたような表情を見せながら申し出を了承してくれた。

 宣言通り、会社の飲み会で良く使う居酒屋へと連れて行き、小さな個室にて他愛ない雑談をしつつ、香水のメーカーを訊く。
「香水なんてつけてないですよ?」
「じゃあ、シャンプーとか石鹸の匂い?」
「すみません、そんなに臭いですか?」
 ジャンは不安に目を泳がせ、明らかに困っているようだった。自分の匂いは自分では判らないもので、体臭を指摘されれば誰でも動揺はするだろう。
「いや、臭いんじゃなくていい匂いってか……、近くに居ると凄く気分が良くて、ふわふわするみたいな嬉しい気持ちになるって言うか……、あっ、これってセクハラ?」
 訂正しようとして要らない事まで喋り過ぎた。と、フロックは気不味さに頭を掻いた。
 絶対に気持ち悪いと思われただろう。なんて想像しながらジャンの様子を伺えば、なんと耳まで真っ赤にしながら照れていたものだから、フロックもつられて顔に熱が集まっていき、妙な汗までかき出す始末である。
「変な事言って……」
「フォルスターさん、俺も相談って言うか良く解んない事があって……。一緒に居たら妙にドキドキするって言うか……」
 謝罪をしようとしたフロックの言葉を遮り、ジャンが照れながらぼそぼそ驚きの言葉を告げてくるのだから心臓が握り潰されたようになった。
 女性との交際経験はあれど、好きだと告白されたから付き合った。別れてと言われたから別れた。ただ請われたから交際をしただけで、大した情も無ければ執着もない。他人との関係はそんなものでしかなかったはずで、こうして胸が高鳴ったりするような経験は初めてあったためフロックも戸惑うばかり。
 ジャンの顔立ちは美人だと思った。切れ長の目に通った鼻筋、薄いながら唇の形も良く、細面で大変整っている。体つきとて、一九〇センチとフロックよりも上背があり、若さに加えてジムに通っていると言うだけあって引き締まっていた。だが、だからといって恋愛対象なのかと訊かれると首を傾げざるを得なかった。
 ジャンだけが特別なのか。お互いに頭から湯気が出そうなほど顔を赤らめて俯く。
「それは、恋愛の意味の好意と受け取っていいんでしょうか……」
「かも知れません……」
 間違えてはいけない。フロックはそう考えて確認の意味で訊いた。だが、間違いどころか肯定されてしまい、奇妙な汗はうなじから首筋に流れる。
 なんと答えるべきか、フロックの脳は勢い良く回転しているが、唇から溢れた言葉はたった一つだった。

 お付き合いして下さい。

 と。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 週末になるとジャンに誘われてフロックは外出した。
 映画を見て、適当に雑貨屋を眺め、デパートで食べ物を物色する。どうやら手料理を振る舞ってくれるらしかった。
「これは、俗に言うデート?」
「ですかね?」
 フロックの問いに、ジャンは食材の入ったカートを押しながら照れたように頬を掻いた。
 相変わらず、ジャンと居れば気分は浮つき、どこか高揚する。
「俺、片思いばっかりしてたから人とちゃんとこういう風にした事なくて、楽しいですか?」
「それなりに……」
 回答としては悪手な部類に入るが、お互いに自分の気持ちの戸惑っているとあってジャンも多くを追求せず、はにかむような微笑みを浮かべるだけに止めた。

 フロックの中にあるそこはかとない期待。
 ジャンの手料理であれば、初めて味を感じられるのではないかとの。理性的な部分ではそんなはずはないと理解しているが、これほど心に刺激を与えてくれる存在であれば。と、どうしても考えてしまう。

 社宅に住むジャンの部屋は小綺麗ではあったが、どことなく雑然としており居心地が良かった。あまりにも整いすぎている部屋だと、変な緊張をしてしまうもの。フロックはいささか安堵して上がらせて貰い、食材を袋から出し、冷蔵する物は台所の奥にある背の低い冷蔵庫に入れる手伝いをする。
「えっと、なんかする事ありますか……?つっても料理とか碌にした事ないんでなんですけど……」
「いえ、お客様は座ってて下さい」
 小さな台所に立つジャンの周りをうろうろしていれば、部屋の真ん中にある二人がけ用ソファーに座らされ、テレビでも見ていろとリモコンを渡された。
 ジャンが大きな図体で手際良く料理をしている。確かにアレでは碌に料理をしない人間など足手まといでしかないだろう。フロックは時にジャンの背中をチラ見し、料理が出来上がっていく香りにどきどきと心臓を跳ねさせた。
「お待たせしました」
「いや、大丈夫」
 ジャンが長方形のローテーブルに料理を並べていく。
 唐揚げに、キャベツの千切り、味噌汁、白ご飯。なんとなく定食然としている。
「美味そうですね」
「お口に合えばいいんですが」
「ありがとうございます。いただきます」
 意気揚々と箸をつけてみたが、やはり味はしない。残念に感じながらもフロックはいつも通り美味しいと嘯き、綺麗に完食した。それがジャンは嬉しかったのか、破顔して食器を片付けている。
「洗い物くらいしますよ。食わせて貰ったんだし」
「え、でも」
「そのくらいさせてください。それとも自分が洗わないと絶対嫌なタイプですか?」
 ジャンが片付けようとしていた皿を奪い、皿を数枚置いただけで直ぐに一杯になってしまう小さな流しで水を出しながら訊く。
「いえ、そこまで潔癖な人間ではないので……」
 じゃあ。そう言ってフロックが食器を洗い出す。
 手際は良いとは言えないものの、滞りなく洗い終えて水切り台の上に並べていく。
「拭いたりは必要ですか?」
「いいえ、仕事ならともかく、基本自分しか使わない皿に水滴ついてたって死にはしませんから」
 フロックは家事が得意ではないとあって、しなくていいならばしない。素直に納得して手を拭き、ジャンの待つソファーへと移動すれば、先程まで良く動いていた口をきゅ。と、引き締めてソファーの隅へと逃げた。がたいのいい大男が、まるで初心な乙女のような行動である。
「そんなに逃げないで下さいよ。恋人……、でしょ?」
 言い聞かせるように言えば、ジャンは観念したのかじわじわ真ん中へと戻ってくる。
 華奢でも中性的でもなく、自分よりも背が高いどこをどう見ても『男』である彼を見て、何故こうも胸がざわついて落ち着かないのか。緊張ばかりではない。手を伸ばして腕の中に収めておきたくなるこの情動はなんなのか。フロックはそれを何度反芻しても言語化できないでいる。
「触っても……?」
「どうぞ……」
 如何にも恐る恐る触れる手にジャンの頬が紅潮する様を見てフロックの指先が熱くなり、鼻を掠める甘い香りに酔いそうになった。
 掌がジャンの頬を撫でても決して柔らかさはない。だのに、歓喜に打ち震えてしまう自身の体。口の中に生唾が湧きながらも同時に乾きを感じてくびりと呑み下す。

 緊張や、予測のつかない恐怖から潤んだ瞳が美しい。
 飴玉のようで美味しそうに見えた。舐めてしまいたい欲求に駆られるが、流石に引かれるだろうとフロックは耐える。
 そっと顔を寄せ、ジャンの唇へ自信の唇を触れさせれば、より甘い香りを感じて酔いは深まり、欲の赴くまま、口づけを深くすれば、フロックはその体を離せなくなってしまった。

 『美味しい』フロックはそう思った。
 匂いだけではない。
 味を感じた。
 濃厚で、深みのある甘さ。
 未だかつて感じた事のない味覚。

 理性などは一気に吹き飛んで夢中になり、気がつけばジャンを床に押し倒して酸欠を起こすほど貪り続けていた。
 勢い良く突き飛ばされて正気に戻ったフロックは、眼下にある息も絶え絶えなジャンを見て、得も言われぬ興奮を覚える。
「悪かった……、つい興奮しすぎて」
 フロックはうっそり微笑みながらジャンを助け起こすと抱き寄せ、胸一杯に甘い香りを肺に取り込む。
「こんな……、ごついののどこに……」
「全部……?」
 ジャンはフロックの豹変に驚いてはいたが、嫌悪はなかったのか大人しく胸に抱かれている。
「ジャン、一生、大事にするから……、お前を俺にくれ」
 愛おしげに名前を呼び、背中を撫でながら告げる求婚にも似た科白。
「じゃあ、ふぉ……。フロックも、俺のだけど……」
「勿論」
 互いに砕けた口調にフロックは目を細め、優しく、心の底からの情を込めて肯定し、きつくジャンを抱きしめる。


 俺の極上のケーキ。
 絶対に放す訳がない。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 ジャンの家に招かれ、初めて口づけを交わしてから考えた事。
 自身の高揚感は極上の獲物を見つけて舌なめずりをするような高揚感ではないか。ジャンが動悸を感じるのは捕食者に睨まれた被食者が感じる本能的な恐怖が表面化されたものではないか。
 フロックは、自分が完全にフォークなのだと理解してしまっていた。
 ジャンを欲する事は、食欲から来る欲求である事も。しかし、衝動のままにジャンを食べてしまうほど愚かではないつもりだった。それに『食べたら無くなってしまう』『勿体ない』。そんな気持ちも強かった。

「俺、お前を抱きたいと思ってるんだけど、そう言う意味で触っても大丈夫か?」
 自宅で夕食を共にした後、フロックにとっては主菜であるジャンを求める言葉を吐いた。
 問われたジャンは、一瞬だけぽかんとした後に、顔を真っ赤にさせて突然立ったり座ったり、小さな範囲をうろうろしたりと明らかに挙動不審になる。大柄な見た目にそぐわず随分と可愛らしい。
「あの、こんなデカぶつだし、別に華奢でもないし……」
「そんなの見りゃ分かる」
 ほんの少し前に貪るような、否、実際貪る口づけをしていた相手に向かってあまりにも戯言過ぎる。
「俺にとって、ジャンがもの凄く魅力的だから?」
「フロックって、人垂らしの才能あるんじゃないか……」
 ややぎこちないため口を聞きながら、フロックは口元を緩ませる。
 ジャンは座椅子に落ち着きはしたものの、顔色は依然、真っ赤なままだ。体温が上がっているせいか、側に居るフロックの鼻先にまで体臭が、蠱惑的な甘い香りが漂って本能を刺激する。

「抱かせて?」
「う、あの、お風呂とか……」
 直接的な言葉で懇願すれば、拒絶はなかった。
 ジャンのフロックを見詰める瞳は潤み、吐息も熱を持っている。
「駄目、そのまんまがいい」
「フロックって、匂いフェチとかそう言う?」
「違うけど……、いや、そうかも。ほら、体臭をいい匂いだと感じるのは遺伝子レベルで相性がいいとか言うだろ?」
 じっくりとお前を味わいたいから。
 そんな風に言ってしまえば賢いジャンは何かを察してしまう可能性が高い。使い古されてそうな告白文句を告げれば、更に顔を真っ赤にして風呂に逃げ込んでしまった。
「ジャンくーん?」
「今、見ないで下さい……!」
「分かった分かった。石鹸とかシャンプーは勝手に使って良いからな」
 こんな初心な乙女の如き言動も、可愛くて仕方が無いから『食べたら勿体ない』はより加速する。物理的に食さずとも味わう方法は幾らでもあるのだから。
 程なくして水音がし出し、ジャンが体を流しているのだと察する。抱かれる準備をしているのかと思えば心が浮き立った。のんびりとスマートフォンを見ながら、男の抱き方を復習する。インターネットの記事で調べただけで、実践は今夜が最初である。

「おっそいな」
 だらだら適当に閲覧し続けて時間を見れば三十分は経っていた。
 待っている時間はとても長く感じる。
「のぼせたのか?」
 まさかシャワーなどでのぼせる訳がない。
 話しかける口実でしかない言葉をかけながら浴室の扉を叩く。
「あの、まじで幻滅しねぇ?本当に俺でいい訳?」
 磨り硝子の向こう側に見えるジャンの影。それは自信がなさそうに項垂れていた。
「だから今更言う?」
「だって……」
「いいから出てこいって、実践して証明するから」
 抱かれる事に異論は無いようだ。
 素直で大変宜しい。
 好きな相手には尽くす種の人間なんだろう。可愛くて仕方が無い。

 恐る恐ると浴室の扉を開けたジャンの肌に触れれば、少しばかり冷えていた。
 シャワーを浴びて暖まりはしたが、湯冷めしてしまったのだろう。どれだけ悩んでいたのかフロックは今にも押し倒してやりたくて仕方が無くなってしまう。
 体の拭き上げが甘いせいで髪は湿っており、体には水滴が伝っていたが、そんなものは既に関係なく、フロックはジャンの指に自身の指を絡ませながら手を引き、ベッドへと誘導していく。
「服……」
「どうせ脱ぐのに?」
 脱がしていくのも楽しそうではあるが、今はどうにも急いていた。
 もじもじしているジャンをベッドへ押し倒し、口付けて腔内をじっくりと味わう。甘くて美味しすぎて、いつまでも啜っていたくなる。
「フロ……、苦しい」
 ジャンが息を弾ませながらフロックの肩を押し、口元を拭う。唾液が口の端を伝うほど夢中になっていたらしい。それはそうだろう。と、興奮しながらもフロックはどこか冷静に見詰めていた。

 初めて感じた味。
 即ち、これはフロックにとっての初めての食事になる。
 行為の前に感動すらあった。
「出来るだけ、優しくする」
 食事は上品にするもの。
 美味しく丁寧に戴くもの。
 目の前に据えられたジャンに、がっつきたくなる衝動に駆られながらも掌で引き締まったしなやかなな肉体を汗ばんだ手で撫でていく。
「出来るだけ……、か?」
「あぁ、こんなの初めてなんだ。欲しくて欲しくて堪らなくて、こいつじゃないと嫌だってなるの」
「フロック、お、俺も……、こんなどきどきする相手は初めてで……、もうどうしたら良いか分かんなくてよ……」
 ずっと、一緒に居ような。
 抱きしめながら耳元に唇を寄せ、囁けばよりジャンの体が熱を持つ。

 最高の味。
 極上の香り。
 堪らない。
 おれのもの。

 感動に浸りながら暖かい肌を舐り、体を開かせてしっかりと解していく。
 血などでもきっと美味しいには違いないが、そこは十年以上は猫を被ってきたのだから我慢は出来た。急いては事をし損じるとも言う。逃げられようものなら、何をしでかすかも分からない。今は忍耐の時である。
 本能で感じる恐怖を快楽に、苦痛を愉悦に、じっくりと飼い慣らしていかなければならないのだ。
「うぅ……」
「痛いか?」
 フロックが丁寧に丁寧に体を解していれば呻き声が聞こえ、視線を上げればジャンは恥ずかしそうに顔を覆う。
「なんか……、居たたまれなくて……」
 見目に気を遣い、軽そうな割に妙に生真面目な性格上、女性とも気軽に関係を持つとは考えづらく、まして男との行為など、どうしたらいいか判らないのだろう。それどころか、心の奥底では今にも捕食される恐怖に舐め回されているはずだった。本人は、吊り橋効果とでも言えば良いのか恋心と都合良く勘違いをしているようだが。
「ジャン、可愛いなぁお前……」
 今にも逃げ出したいはずなのに、懸命に耐える姿に無性に口角が上がってしまい、興奮に息を弾ませながら言えば、きゅ。と、ジャンは口を引き結び何言い返せなくなっていた。
 本人曰く、面長でつり目の特徴的な顔立ちは『悪人面』などと揶揄されやすかったようで、『可愛い』などの言葉には全く免疫がなかったのだろう。恥ずかしさに恥ずかしさが上乗せされ、頭が煮え立っていると見えた。
「可愛いな……」
 言い聞かせるように、両の頬を包んで語りかけてやる。

 俺の可愛い可愛いケーキ。
 甘くて美味しい、俺だけのケーキ。
 俺だけが食べる事を許される大事なケーキ。

「俺のジャン」
 言いながら腰を抱き、十分に解した部分に性器を押し込む。
 求める心のためか心地よさまでもが至上のもので、直ぐに夢中になった。
 体を掻き抱きながらジャンの汗ばんだ肌を舐め、時に傷つけない程度に首筋に歯を立てる。この肉を食い千切ったらどんな表情になるだろう。驚き、そして泣くだろうか。そんな想像すら楽しい。
 体内を貫きながら、ジャン自身の性器も手で嬲ってやる。これは気持ちいい事なのだと脳味噌の奥から躾けていくために。その内、射精がなくとも達するようにしてやりたい。と、フロックは考えている。自分なしでは居られなくなるように。

 丁寧にしつこく行為をしていても、終わりは来る。
 フロックは息を吐き、ジャンに唇を寄せ、呆けている目元に口付けた。
「良かったか?俺も男は初心者だしさ」
 浴室から出てきた時よりも濡れた柔らかい髪を撫でながら訊いてみれば、ジャンは小さく頷く。最初にしては上場だろう。フロックは自分の成果に満足感を得、風呂で体を流そうとは思った。

 思ったのだが、ジャンの中々に豊満に見える胸がゆったりと上下し、呆けて蕩けきった表情で気怠げな息を吐く様。咽せ返るような精の匂いに触発されたか、フロックの下半身にむずむずとくすぐられた。
「お前さ、結構体力あるって言ってたよな?」
「え、あぁ?運動部だったし……」
 何を問われているのか解っていないだろう返事に独りで納得し、風呂を中止にしてフロックは再度ジャンにのし掛かる。

 もう一回くらい食べても良いよな。

 独りで結論を出し、しとどに濡れた孔に押し込めば、一度は受け入れた場所は容易くフロックを受け入れ、侵入を悦ぶように締め付けてきた。
「もっとしよう」
 一方的に告げて体を揺らせば、ジャンは堪えきれず声を上げた。
 感じているような可愛い声である。

 益々興に乗ったフロックの食事は中々終わらず、それはジャンが泣き出すまで続いた。

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