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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

壁の花のお相手は

・原作で舞踏会
・精神的物理的にもフロックに振り回されるジャン君
・一応調べながら書きましたが変だったらすみません
・ペアで踊るフロジャン






 硬質な石造りの床を靴が叩く。
 物資が入った木箱が積み上げられた簡素な倉庫内には組み合っている男性が二人。
 誰と言おうか、調査兵団に所属するジャン・キルシュタインとフロック・フォルスターの二名である。

 すっかり日も落ちた夜に倉庫内で待ち合わせ、ランタンの灯りを頼りに社交ダンス訓練の真っ最中であるが、彼等は互いに手を握り合いながらも、これから決闘でもしそうな程に睨み合っている。
「お前、俺の足踏みすぎなんだよ!」
 ジャンがフロックの手を乱暴に放し、側にあった木箱に座るとブーツを脱いで赤くなった痛々しい足の甲を空気に晒す。
「お前さ、どんだけ女の足踏む気だよ。ちょっと叱られる程度じゃ済まねぇぞ」
「村の粗野な踊りしか知らない田舎もんですみませんねぇ」
 ジャンが踏まれた足の痛みを散らすように擦り、拗ねて文句を垂れるフロックを睨む。

 今から三日後に、ヒストリアが壁内の英雄を慰労するための舞踏会を催すとの通達があった。
 ただ、舞踏会と言っても招いた本人が上流階級の教育は受けて居らず、飽くまで形式的なものではあるため踊れないならそれで構わない旨は伝えられてはいたものの、招かれる手前、全く出来ないでは格好がつかない。そのための訓練である。
 指導者はどうするか。の、問題は持ち上がったが意外な事にリヴァイが舞踏会慣れをしており、初心者向けのブルースを基準にしてジャンを含む他の招待者への指導は滞りなく進んだのだが、彼を畏怖しながらも敬意を示す部下ならばともかく、フロックは扱いづらかったのか上手くいかなかった。

 フロックは壁の花を決め込むに終わらず、自分はただ無意味に生き残っただけの人間で英雄ではないから参加しない。と、まで言い出してしまう。
 そんな相手をジャンは懸命に説得し、自身が相手役になる事で特訓を了承させたまでは良かったのだが、本人に欠片もやる気が見られない事が最大の問題だった。
「んなこた言ってねぇだろ……、出来ないから練習すんの……」
 靴の圧迫感がなくなった事で痛みが軽減されたのか、ジャンが溜息を吐きながらブーツを掃き直し、ほら。と、手を広げてフロックを招く。
「男性の方から招いて、挨拶して、そしたら女性の方から向かい合ってくれるから右の掌を合わせるように握ってだな……、ほら、早く腰とか背中に手回せよ」
 フロック自身にやる気がないにしても中々上達が見られず、自分の教え方が余程下手なのか、ジャンは頭を悩ませながら指導に当たる。
「お前はこんなのどこで覚えたんだ?」
「母ちゃんに付き合わされて、舞踏会とか行ってみたかったんだと」
 向き合いながら両手を合わせ、フロックの左手が自身の腰に来るよう誘導する。
「へぇ……」
「ちょ、そんなに引き寄せなくていい。手は添えるだけだって言ってんだろ」
 フロックがジャンの腰を抱き寄せ、体を密着させる。
 ジャンの指導のやり方がどうではなく、フロックが全く言う事を聞かないのも上達しない原因だ。
「別にいいだろ?雑魚は雑魚らしく壁の飾りにでもなっとくさ、俺なんて誰も誘わない」
「またそんな……」
「そうなんだよ。俺達は……」
 俺達。を強調しながらフロックはジャンの目を覗き込む。
 フロックとて、超大型と鎧と交戦していたジャン達にあれこれと因縁を吐きつけても意味がない事は理解している。理解はしていても、感情が追いつかないのも事実で、フロックは顔を俯かせながら、ジャンの腰を抱き寄せたまま動かなくなった。
 泣いているのかとも思えたが、フロックは声も出さず、体も微動だにしておらず、ジャンは握った手、肩に置いた手をどうするべきか考えあぐね、同じように動けないで居た。
「お前だって、使い捨てにされたりしたんじゃないか?なのに、どうして戦えるんだ。俺なんかとは別物だと思うだろ……」
「俺は……、自分のために戦ってるだけだ」
 フロックがようやっと顔を上る。
 ランタンの明かりに照らされた顔は真っ直ぐにジャンを見据え、そこには悲壮感や苦悩ではない驚いた表情があった。
「自分のため……?」
「あぁ、するべき事をしないで後悔しないためだ」
 羅列しようと思えば家族や仲間、正義だの故郷を守るだのと、戦う理由は幾らでも並べられた。しかし、それらは大切だが綺麗事過ぎて適切とは感じられず、ジャンは端的に告げた。

 彼の親友であったマルコが示してくれた道。
 するべき事が解るのに、逃げを打って自分を嫌いにならないで済むために、自分がやるべきだと信じた方向へ進む勇気を持つ。
 上官であるリヴァイも正解が解らない中、自身で考え選択する大切さを教えてくれた。何が正しいか解らないからこそ、己が信じた道を進むしかないのだと。この、後悔しないよう、自分自身にがっかりしないようにするための道が、なによりも苦しいのだと同時に理解もしていたが。
「自分のためか……」
 フロックがぽつ。と、呟く。
「あぁ……、実際、どこまでやるべき事をやれてるのかは解らねぇけど……」
 ジャンはフロックの肩を慰めるように叩き、結局後悔ばかりの数年間を脳裏に浮かべる。
 選択するという事は自分自身で責任を負う事である。自分で選んだのだから誰かのせいになど出来ず、些細な判断の間違いで全てが終わってしまうのだから、それはとても、とてつもなく重いものだ。気を抜けば潰されそうなほど。

 その点で考えれば、エルヴィン団長やリヴァイ兵士長は優しかったのかも知れない。と、ジャンは思う。

 団長や兵長の命令だったから仕方ない。
 彼等の判断だから正しいのだと、盲目である事は心の負担を軽くする。
 人間の大半が自分の心を守るために、意識的、無意識にやってしまう行動だ。
「とりあえず、今俺がやるべき事はお前が恥を掻かないようダンスを叩き込む事で、お前がやるべき事は恥を掻かないようにダンスを覚える事だな」
 ジャンは強引に話題を切り替え、掴んでいた手を握り締めながら足を動かす。
「足さばきだけも覚えて、後は適当に音楽に合わせてゆらゆらやってりゃいいんだよ」
「おい、ちょ、待て……!」
 ジャンに振り回されているフロックが文句を言うが、自身の重くなった気分を噴き飛ばすようにわざとらしくはしゃいで見せる。

 その夜は大した上達は見込めなかったが、次の日から妙にフロックが従順になったため、舞踏会の日まで最低限の技術は仕込めたとジャンは胸をなで下した。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 舞踏会当日。
 ジャンは白い燕尾服に身を包み、団長補佐として細々とした対応に追われていた。
 次第に歓談の時間から、パートナーを選んで踊りを楽しむ時間になった。当初の連絡通り、形式張ったものは気にせずに各々で気軽に楽しむよう再度ヒストリアが皆に伝え、舞踏会に馴染みのない面々はあからさまに安堵していた。
 ジャンも出資者である貴族の令嬢と挨拶がてら軽く踊った後、会場に視線を巡らせれば、黒い燕尾服に身を包んだフロックが見事な壁の花と化して動く様子がない。
 それだけならまだしも、調査兵団の人間と親交を深めようとした女性を手酷く振っているではないか。
「フロック……!お前な……」
「悪いなお前の努力を無にして」
 ジャンが注意しに行けば、フロックは飄々として躱す。
「お前は良くあんな化粧臭い女と踊れるな」
「失礼だろうが……!」
 ジャンは小声で注意をしているが、フロックはずけずけと声量も変えずに喋るものだから胃がきりきりと痛み出した気すらした。
「あぁ、もう、酔った振りでもして座ってろ……」
 ジャンが諦めながら、それでも最低限の礼は守れるよう気を遣い、頭痛を堪えていれば、
「お前となら踊ってやってもいい」
 などと、フロックが宣った物だから目を丸くしてしまったのも仕方がない。
「はあ?」
「散々一緒にやったんだから、お互いの癖も解ってるだろうし踊り易いだろ?女王陛下も仰ってたじゃないか、気軽にやれって。それともお前は俺が気高い女性の足を踏みまくって反感を買った方がいいか?」
 半ば脅迫のような言い分でフロックはジャンの手を引き、会場の中央へと引っ張り出す。
 音楽隊も戸惑ったのか一瞬だけ音が止まったが、流石は熟練者と言おうか、直ぐに演奏を再開する。
「こうだったか?」
「うわっ……」
 言いながら、フロックがジャンを強引に振り回す。
 内情を知る一部からは同情的な視線を送られつつも、ジャンはフロックの動きに合わせ、音楽が終わるまで足を踏む事も踏まれる事もなく踊りきり、這々の体で壁際に設置された長椅子へと座り込む。
「楽しかったな」
「お前だけな」
 給仕に渡されたワインを受け取り、ジャンが疲れ切った様子で口をつける様を、フロックがしたり顔で見下ろしてくるのだから悪態の一つも吐きたくなると言うもの。無論、周囲に聞こえないよう小声ではあるが。
 フロックは舞踏会に満足し、用なしとなった会場からバルコニーへと足を伸ばし、外の空気を吸いに行く。その背中を視線だけで見送り、これなら訓練などしないままでいた方が良かったのか、ジャンは眉間に寄った皺を解しながら小さく溜息を吐いた。

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