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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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大空へ

・どうぶつえんコラボの奴
・大ワシのジャん君
・ヘンシン病のネタ
・ミーナとトーマス幼なじみ
・カプはない
・塩漬け発掘



 体の違和感に気付いたのは、十二歳になったばかりの春だった。
 足先に何となく違和感が出て、腕全体が鳥肌が立った時のようにぶつぶつざらざらしていた。
 歩く事に支障はないが、徐々に足の指が三つに分かれてくっつき出し、踵もなんだか伸びてる気がして怖くなってくる。
 体が可笑しくなっていくのを隠したくて、夏になっても家の中でずっと靴下を履いていたら母さんに訝しがられだした。最初こそ、暑いくらいなのに寒いの?風邪?なんて言われたけど、訊かれたら嘘が吐けなくて、正直に可笑しくなってきた脚や、ざらざらする腕部分の肌を見せたら驚いていた。
「変身病ですね」
 母親に連れて行かれた小さな病院で診てくれた若い医者は、血液検査から触診に始まり、様々な角度で俺の全身像から部分部分を大きく映し出した写真を撮り、レントゲンなどでじっくり観察した後、診断を下した。
「じゃあ、俺は動物に成って、大人には成れないんですね?」
 ぽつ。と、俺が零すと母さんがわなわな震えて崩れ落ち、泣き出してしまった。俯いてごめん。そう呟くと、母さんに強く抱き締められ、着ていたシャツの肩の部分がじっとりと濡れて張り付いた。
「変身病の事は知ってるんだね?」
「最近、学校で習ったので……」
 母さんの嗚咽が小さくなってきた頃合いで医者が口を開き、確認をしてくる。
 学校には道徳の時間があり、こういう病気の人が居るから差別をしてはいけない。なんて教えて来た。その時、俺は漠然と『動物に少しずつ変わっていくなんて嫌だな。成った人は可哀想だ』そう思った。無責任な非道い事を考えた罰が当たったんだろうか。
「あの、先生、治療法は……」
 肌色を青褪めさせ、祈るように両手を握り合わせて床に膝をつき、医者に問いかける母親は、首を横に振る姿を見て顔を覆った。母さんは解からないが、俺は原因も不明で治療法がない事も知っている。進行速度に個人差はあれど最終的には完全に動物に成ってしまうのだとも。
「俺は何になるんですか?」
「まだ初期だから種類ははっきりしないけど、鳥類だね。これからの変化を経過観察して、今後の対策を練って行こうか」
 医者は優しく諭すように言った。
 それでも母さんは、どうにかならないのか。と、悲壮な声で医者に縋っていた。

   ◆ ◇ ◆ ◇
 俺は病気の進行が早いのか、一ヶ月もすると肘の辺りから羽が生えだして、とうとう学校の人にもばれてしまった。
 それでも仲良くしてくれる友達は居たけれど、元々俺の事が嫌いか関心がなかった連中は、ここぞと俺を苛めだした。靴をごみ箱に捨てるに始まり、
「動物に成るなら、もう勉強の必要ないだろ、羨ましいな」
 嘲るように言いつつ俺の教科書やノートを破いてばらまいた。
 トーマスやミーナと言った友達は怒ってくれたが、大半の人間は皆は見て見ぬふりか、嗤いながら苛めに加担しだした。『差別はいけません』きちんと教えられても、人によっては弱者と見れば理由をつけてどうとでも嬲ろうとするんだと知る。
 俺と居れば巻き込まれてしまうから、友達の二人を説得して離れて貰うように頼み、教科書がないまま授業を受け、ぼんやりと黒板を見続けた。教師も助けてはくれなかった。既に学校の大人にとって俺は存在していない人間になっていた。
 家では嘘を吐いて学校に行き、図書室から借りた本を読んだり、授業中はただ机に座っているだけの無為な時間を過ごす。俺が変身し切る前に、もしかしたら治療法が確立され、治るかも知れない希望を抱いて心が折れそうになりながらも頑張っていた。

 それが気に食わなかったのか、性格の悪い連中が俺だけでなく、いつも庇ってくれるミーナにまで魔の手を伸ばした。

 ある日の事だ。俺が教室に入ると、ミーナが苛めの首謀者に捕まり、いつも三つ編みにして二つに括っている髪を掴まれ、鋏で切られそうになっていた。泣きながら切られまいと抵抗しているが、そいつも周りも楽しそうにげらげら笑っている。本気で、動物に成りかけている俺よりも、あいつ等は人間ではないと感じた。

 じり。と、湧き起こる感情。
 鋏の刃が髪に食い込み、切り落とされそうになった瞬間、俺は人間ではない人間に似たモノに飛び掛かり、思い切り蹴りとばして直ぐに馬乗りになって顔を殴まくった。
「お前、調子乗んなよ」
 そして、落ちていた鋏を顔の真横に突き立て、目を合わせながら言えば、そいつは小便を漏らした。臭いし汚い。すると、誰かが呼んだのか、先生がやって来て俺を叱る。
「俺がなにをされても無視してたのに、俺がやり返したら怒るんですか?」
「それは違うだろ、暴力に暴力で返しても……」
「詭弁って奴ですよねそれ。被害者は黙って泣き寝入りしろって事ですか?」
「そ、そんな事は言ってないだろ。ちゃんと話し合って……」
「武器持って暴力を振るってくる相手にどうやって話し合いを持ちかけるんですか?」
 鬱陶しい大人の論点を摩り替えた言い訳が返ってきそうだったから、はっきりと言い切り、教師を睨み上げる。綺麗ごとを重ねる教師にミーナの事を伝え、ちら。と、首謀者を見下ろす。
「おい、これ以上下らない事したら、お前がどこに居ても殺しに行くからな」
「そ、そんな事したらけーさつに……」
「はぁ?お前が言ったんだろ?もう人間じゃないから勉強も必要ないって。じゃあ、人間の法律が適用される訳ないだろ。肝に銘じて足りねぇ頭に叩き込んでろよ。俺は、どこに居たってお前を見つけるぞ」
 俺が言い終わると、そいつはがたがたと震えだし、最終的には泣きながら謝りだした。
 本当に卑怯な人間たちだと思う。相手を弱者と思えば集団で嬲り者にして、強者と解れば何も出来なくなる。
「もう、ミーナにも、トーマスにも近寄るなよ。俺はどんなに離れてても見えるからな」
 俺がなりかけてる鳥の特徴なんだろう。
 白目の部分が以前よりも黄色が勝った色になり、今までは絶対見えなかっただろう遠くにある物が良く見えるようになった。『どんなに離れていても』は、決して誇張表現でもない。

 皆が一様に俺から距離をとって見ている。ただ、ミーナだけは俺の手を握り、微笑んでくれた。
「ジャン、ありがと……」
「別に、むかついたから勝手にやっただけだし」
「じゃあ、私もお礼言いたかっただけだから」
 笑いながらも髪を切られそうになったショックは未だ抜けないようで、涙を浮かべてミーナは鋏を当てられ部分的に短くなったであろう髪を弄る。
「それ、自分で片付けろよ。きったねぇ」
 苛めの首謀者、そして教師を睨み付け、ミーナの手を引いてその場から離れさせ、何もない自分の席に座る。こそこそと、馬鹿の仲間たちが責任を押しつけあっているのが聞こえ、やっぱり糞みたいな絆で出来た仲間は糞なんだな。なんて思った。
 また、俺の大事な友達に何かをしてくるなら、大暴れしてやろうと考えてはいたが、俺の脅しが聞いたのか、当日から苛めはぱた。と、止んで胸をなで下ろす。

 友達の危機だったとは言え、あんなにも感情が怒りで満たされたのは初めてだ。
 自分の縄張りを荒らされた時のような、自分に害をなす敵に威嚇するような動物的な感情なんだろうか。自分が変わっていく、亡くなっていく恐怖。俺は最後まで堪えられるんだろうか。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 例の学校内だけの小さな事件から数日が経ち、相手の親が乗り込んでくるような事もなく平和に過ごしていた。
 ただ、人間ではないモノは俺に殴られた日から学校を休んでおり、そいつの取り巻きは、俺が睨めばへらへら笑い、妙に媚を売ってくるようになった。屑だな。
 つまらない授業を聞いて、トーマスやミーナと話すだけの学校生活。
「あのさ、俺、将来は鳥扱う仕事に就こうかなって思ってんだ」
「なんでまた」
「トーマスとも色々話してんの、あんた野生じゃ絶対生きていけないでしょ?だから私たちがお世話して上げる」
 プチトマトが刺さったフォークをマイクのように持ち、ミーナが得意げに語った。
「はぁ?馬鹿な事言ってんじゃねぇよ。俺なんか気にしなくていいよ」
「するよ!友達だろ?」
 今度はトーマスが俺に迫り、大きな声で叫んだ。
「俺等まだ中学生だぞ?将来決めるのは早すぎねぇ?最初は良くてもさ……」
 否定的な事を言うと、トーマスが悲しげな面持ちになり、『そんな事言うなよ』と、俯きながら言う。俺が意地悪したみたいな感じになった。なんとなく居たたまれない。
「とにかく、俺は本気だから」
 不貞腐れたように口を尖らせつつの宣言。
 喜んでいいのか、困っていいのか。
 俺の病気のせいで、周りが色々変わってる。
 徐々に変わっていく俺を見る母さんの空元気も正直辛い。
 明日にでも、治療法ができないかと期待するが、そんなに上手くいくはずもない。

 学校が終わり、友達を別れを告げて定期検診のために病院へ行く。
「うーん、これは……、肉食の鳥っぽい鉤爪だね」
 俺を診る医者は鳥になった足先をじっくり触りながら呟いた。脚は爪が太く丸くなって鋭く尖りだし、靴や靴下を破るようになって困り果てている。猫は知っていたけれど、鳥もこんなに爪が鋭いんだって初めて知った。
「何かは解らないんですか?」
「そうだね、羽を貰おうかな。そしたら種類も解るだろう」
 肉食か。
 どうせなるなら格好いい鳥がいいな。
 医者は腕に生えた小さい羽毛を採取し、結果は分かり次第伝えてくれるらしい。

 家に帰るといい匂いが漂って、母さんが晩ご飯を用意してくれていた。
「お帰り」
「ただいま。今日何?」
「オムライスとレタスサラダよ。あんた好きでしょ?」
 うん。と、小さく頷いて食卓に座り、スプーンでオムライスを削って口に入れる。
 鳥に成ったら、もうこれが食えなくなるんだな。要らない事を考えると、甘い卵に包まれたオムライスが途端に塩っぱくなってしまった。
   ◆ ◇ ◆ ◇

「あー、いい天気」
 鳥化が進んで学校に行けなくなってきた。
 尖った爪が硬くて普通の爪切りじゃ切れないから靴が履けない。
 ミーナやトーマスが学校のプリントを毎日届けてはくれるが、持って行く事はもう無いだろう。

 後日、医者が伝えてきた俺の種類は大鷲。
 スマートフォンを使って大鷲を検索すると、全体的には黒い羽毛を纏っているが、肘らしい腕の部分や足は白い羽毛で目つきが鋭い強そうな鳥だった。悪くないかも。
 格好いい鳥で良かった。どうせ治らないのなら、前向きに考えた方が得だ。

 自分の部屋で何をするでもなく、ベッドの上でうとうとしたり、ぼけっと空を眺めて居れば、青から赤くなり始めた光を体に浴びながら服を脱いで肌を確認する。だぼつく服でもそろそろ隠せなくなってきただろう伸びた羽。体つきも人間とは離れてきた。
 
 空を見上げる度に思う。
 最近は、特に鳥に近くなっているんだろう。人間らしい理屈ばった思考は形を潜め、空へと落ちていきたい欲求が高まるばかり。二階の窓から屋根へと出て更に上へとよじ登った。

 秋に入った生ぬるい太陽光。
 逆行で影の塊になった鳥たちが巣へと戻っているのか風を切りながら飛んでいる。
 それに釣られるように屋根を歩き、足場を失って落ちた。

 が、
 次の瞬間に体が浮き上がり、衝動のまま風と踊りながら鳥の影を追いかけた。
 その鳥たちは俺が怖かったようで散り散りに逃げてしまい、悪い事をしたな。なんて考えながら羽を動かし家の玄関先にある門へと降り立つ。
「ジャン……?」
 手に紙の束を持ったミーナに名前を呼ばれたから、きゅい。と、鳴いて返事をする。
 もう俺は完全に鳥の姿になっていて、大事な友達の名前も呼べない。
「ジャン、俺達が解るか……?」
 隣に立っていたトーマスが、べそべそと泣き出すもんだから俺は途方に暮れてしまう。喋れないのにどうやって伝えようか悩みつつ、首を傾げて二人を見詰めながら、きゅい。と、もう一度鳴くとトーマスが俺を捕まえて抱き締めてくるもんだから苦しくて堪らない。
「おれ、決めた。鷹匠になる」
「い、いいと思う!」
 ミーナまで泣き出して、俺は苦しいからトーマスの腕の中で暴れる。
 母さんが早く帰ってこの場を修めてくれる事を願うと同時に、俺はいい友達に恵まれたな。そう思った。
 この自分の意思がいつまで続くかは解らないけれど、完全に鳥に成ったとしてもきっと、俺は幸せで居られるだろう。

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