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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

ジャンのテラリア日記0~10日目

【ジャンのテラリア日記】
0~10日目




   【ジャンのテラリア日記】

・零日目
 可笑しな事が起こった。俺は今、変な世界に居る。
 周りは背の高い樹木が沢山生えた平原で、身に着けていたはずの装備は無く、側にはマルコだけだ。

 訓練中に事故にでもあって、夢でも見ているのだろうか?
 マルコとも散々話し合ってみたが、帰る方法なんて到底思いつかない。
 だが、無為に過ごすのもどうかと思ったので、記録を取りながら色々探っていこうと思う。

 【先ずは始まりから】
 ある時、訓練中に急に空が真っ黒になってきた。
 誰もが棒立ちでそれを眺め、誰かがこの世の終わりでも来たのか。なんて騒ぎ出した。
 太陽が消えていく。丸い影に少しずつ覆われ、世界が急速に夜に向かっていった。隣に居る人間が誰かすら判らない、新月の夜のような暗闇になった。更なる動揺が訓練兵達の間に広がり出した。それを察したキース教官が声を張り上げて無闇に動くなと怒鳴り、訓練兵達の名前を呼び、所在の確認をする。

 これはあんまり関係ないんだけど、正直、すげぇな。って思った。暗くて手元にある兵士の名前を記載した用紙は見えないだろうに全員の名前覚えてるんだ。俺だって同期全員の名前なんて知らない。

 名前を呼ばれたその時までは全員居たんだ。その後から記憶が飛んでいる。
 気が付いた時にはこの平原で倒れていたらしい。マルコは俺よりも早く目を覚ましたようで、倒れている俺を叩き起こしてくれたみたいだった。
 起きたら顔面蒼白の今にも泣きそうな顔をしたマルコが目の前に居て、色んな意味でびっくりして、生きてて良かったって抱き締めてくれた。勝手に殺すな。って笑っといたけど、こんな訳の判らない場所にいきなり居て、友達が倒れてたら驚くよな。俺もマルコが無事で良かったと思う。
 正直な事を言うと、マルコが居てくれて良かった。もしも独りだったら、途方に暮れるばかりでどうしたらいいかも判らなかったかも知れない。

 ざっと周囲を確認してみたら、変な丸っこい生物らしきものが居た。
 青とか緑色をしたどろどろのべたべたした変な奴。不思議に思った俺が近づいた瞬間、飛びかかって襲い掛かってきて、くっついた部分の服が溶けてぼろぼろになって焦った。どうも酸の特性でもあるのか、肌は火傷して、服はつんと鼻につく焼け焦げた匂いがする。せめて装備があれば何とかなったかも知れないが、素手では皮膚が焦げるばかりで無理だった。
 ほとんど溶かされていたジャケットを脱ぎ捨てて引き剥がすと、それ以降はマルコとひたすら逃げた。

 逃げてどこをどう彷徨ったか。大きな泉の側に小屋が立っていた。もう使われていないようで、中は埃が薄ら積もっていたが一心地は吐ける。
 そうして休憩していると、不思議な事に気がついた。逃げるのに必死過ぎて痛みを感じていないと思っていたが違ったんだ。泉で火傷になった部分を洗おうと傷を見たら綺麗に治っていた。傷跡すら残っていない。夢でも見ているようで、近くに転がっていた石ころで手を傷つけてみたら、それも暫くすると、すーっと消えた。どうなってんだ俺の体。気持ち悪過ぎる。
 けれど同時に良かったとも思った。これなら大怪我をして、動けなくなってマルコの足手まとい。なんて無様な事態は避けられる。マルコにそう言ったら、
「僕もそうみたい」
 と、来たもんだ。逃げる際にあちこち体を擦ったり、枝で切ったりしたものが気が付いたら消えていたらしい。
 不思議だなぁ。二人して首を捻って、考えても仕方が無いと言う結論に至る。恐らくだが、この世界の特性のようなものではないだろうか?

 解決出来ない事態は後にするとして、服があまりにぼろぼろだったので、マルコがジャケットと腰巻を貸してくれた。
 俺の兵団支給のジャケットは脱ぎ捨てたため疾うに無く、中に着ていたシャツも、左肩から腹部の部分までごっそりやられていた。ズボンも腰のベルトの部分が溶けて肌が剥き出し。ズボンが落ちるほどではないにしろ、ほぼ半裸だ。別に寒くは無いが、恥ずかしいので在り難く着ておいた。
 何故かマルコの顔が赤かったので、熱でもあるのかと聞いてみたが、冷や汗を掻きながら走ったせいだとか必死で色々言っていた。別に病気になっても俺はお前を見捨てたりしないぞ。

 あー、違うか、一緒かな。
 足手まといになるのが嫌とか。
 僕を捨てていけとか普通に言いそうだ。
 まぁ、何て言おうが絶対そんな事しねぇけどな。
 親友見捨てて逃げるなんて男が廃るぜ。

・零日目ー夜~一日目
 小屋、と、言うより廃屋だが、中を探ってみると、どうやら採掘小屋だったようで、銅で出来た斧、つるはし、短剣、大槌があった。放置されてそう経っていないのか、少し手入れすれば使えるようだ。
 竈や、製鉄に使われていたのだろう鉄床。大きい作業机。色んな道具がごろごろしている。当座、必要の無いものは端に避け、小屋の中を掃除をすれば、それなりに住めそうな程度には清潔になってきた。
 あの酸で火傷させたり、服を溶かしてくるべちょべちょの丸い変な生き物は、扉を閉めていれば家の中まで入ってこれないようで、一先ず安心だ。

 しかし、不安が去った訳じゃない。
 昼間はあの丸いのだけしか居なかったのに、夜になると変な呻き声みたいなのが聞こえる。ヴー、だかヴぁー、だか。とても人間の声とは思えない。

 怖い怖い怖い怖い。
 外を確認する勇気が無い。
「お前が怖いといけないから俺が一緒に居てやるぞ」
 とか言って、暖炉に昼間集めた薪をくべていたマルコの側に居たらいつの間にか寝てた。
 マルコは一晩中起きてたみたいで、俺はマルコの膝を枕にして寝ていた。慌てて起きて謝ったら、僕の硬い膝なんかで良ければいくらでもどうぞ。なんて笑ってるし、俺の親友は本当にいい奴だ。自分も疲れてるし、脚も痺れただろうに。
 俺は兎も角、こいつの帰りを待ってる奴は大勢居るはずだ。俺が護ってやらねぇとな。

 とりあえず、周辺を探ってみて、食べられそうなものを探す。
 生きるにも食い物がない事にはどうしようもない。森に中には果物の生った木。香草なんかも結構そこら中に生えている、ババアが教えてくれた知識がこんな所で役立つとはな。他にも兎、栗鼠、あひる、鴨、近隣に結構動物が居る。湖の中も泳いでいるのが見えるくらい魚も居る。
 動物を殺すのは少々気が引けるが、生きる為だ。墓も作るし、ちゃんと感謝して食べるから許してくれ。

 しかし、向こうでは滅多に口に出来なかった肉が食えるって凄いな。
 惜しむらくは調味料が乏しいって事だ。酸味のある果物を加えて食べたりはしているが、不味くはないけど毎回同じ味ってのも飽きる。どっかに岩塩とかねぇかなぁ?塩があれば保存食も作れるし、もっと色々出来るんだが。
 そうは言っても、こんだけ人が居ないって事は、もう何でも採り尽くされて寂れてるっても考えられる。食えるものがあるだけマシか。

・二日目
 以前、ここを使っていたのであろう人の記録が大量に本棚に残っていた。
 色んな生き物の詳細、あの丸い奴の事も絵付きで書いてあった。どうやら、ここには色んな鉱石資源が埋まってるらしい。それを使って様々な物を作る方法も書かれていた。剣だとかの武器のみならず、日常的に使う食器なども作れるようだ。

 俺はと言うと、途中で飽きてしまって気分転換に外に出た。
 折角つるはしがあるので、そこらを掘り返してみる。肉体労働だから当たり前だが、すっげぇきついのな。俺、やっぱ開拓民とか無理だわ。しかし、自分達以外、人が居ない場所で弱音を吐く訳にもいかない。
 今頑張らないで、いつ頑張るんだ。強くもねぇし、体力も他の連中に比べたら低い。いや、他の奴らが化け物地味てるだけだとは思うが、根性だけは負けてないつもりだ。頑張るしかない。

 鉱石集めて物を作る前に、どちらかと言えば塩が欲しいな。
 何度も同じ事を考えながら、つるはしを振るっていると、かつん。と、音が鳴った。石や土とは明らかに感触が違う。もしや求めるものかと期待したが、何かの鉱石のようだ。
 結構一杯ある。ちょっと楽しくなってきてあっちこっち掘ってみた。全身泥だらけになって小屋に戻ったら夜の明かりや暖を取る為に木材だとかを集めていたらしいマルコに驚かれた。

 掘り返した土などは外に置いて、見つけた物をマルコに見せると、錫って鉱石らしい。
 後、鉄も幾らか混じっているそうだ。良く知ってんなお前。俺がそう言うと、ここにあった本に鉱石各種の見分け方が書いてあったんだ。って言いながら、指差す先には古びた大きな本棚。マルコが掃除したのか小奇麗になっていた。
 どうも本棚の中身全部が記録らしく、かなり細かく書かれているとの事だ。読むだけでも相当の時間を要しそうだ。前住んでた人は随分まめな人だったんだな。

 マルコの方も本や木材だけでなく、色々収穫があったらしい。
 お互いに護身用に短剣を一つずつ持っていたのだが、それであの丸いのが倒せたらしい。
 そして、そいつの居た場所に、小さく丸いものが落ちていて、まだ生きていて、それがでかくなって襲ってきたら困るってんで、小屋にあった火打石で完全に燃やそうと火をつけたら、良く燃えたんだと。

 結構、物騒な事考えるな。
 でもまぁ、燃料になるってんで松明を作った。暖炉だけじゃ心許なかった明かりが増えて、小屋の中もより明るくなったし、近くで火打ち石を打てば簡単に火が点く燃料の確保が容易に出来るようになった訳だ。お陰で火を使う作業はぐっと楽になった。

 ただ、明るくなったのは心強いが、やっぱり夜は怖い。
 ヴーヴー、ヴぁーヴぁー。って何だよ。何が居るんだよ。マルコが窓のカーテンの隙間から外を覗いていた。あいつすげぇな。
 マルコが言うに、人の形はしているらしい。しかし、明らかに挙動が人とは違うそうだ。だが、巨人でもないらしい……。大きさは通常の人間と変わらないそうだが、ゆらゆらふらふら変な動きをしているようだ。気味が悪い。正体不明の奴がどんどん扉を叩いている。人間なら喋りやがれ!絶対に開けるもんかよ。
 明るい内に水浴びしておいて良かった。夜に外になんか出て堪るか。

 因みに、今はぼろ切れになったシャツは脱いでいる。
 小屋にあった箪笥の中に何枚か古びているが、一応着られそうな服が入っていて、どんな奴が着ていたか判らないような服に袖を通すのは嫌だったが贅沢は言っていられない。洗濯をして、今は暖炉の前に吊るしている。早く乾かないかなぁ。
 ジャケットやズボンも土汚れが酷いから洗って吊るしている。あぁ、もう、いつまでも濡れた下着姿は嫌だ。気持ち悪い。恥ずかしい。でも、着る物がないのに汚した俺が馬鹿だ。早く乾け。

 ほとんど裸でこれ書いてるのも間抜けな姿だよな。
 それはそうと、マルコはいつまで窓の外を見張っているつもりなんだろうか。暖炉の前に来ればいいのに。
 昨日寝ていないんだから、かなり眠いと思う。呼んでも振り返りもしねぇ。まさか、立ったまま寝てないよな?
 気になって、マルコに近づいて肩を叩くと、物凄い体が跳ねた。多分ちょっと浮いてた。やっぱうとうとしてたのかね?暖炉の前に連れてって 冗談混じりに、今日は俺が膝枕してやろうか?って、からかうと全力で拒否されてしまった。そりゃ、男の生足なんて嫌だろうけど……、あんまり拒絶されると俺でも傷つく。

 冗談が性質悪過ぎたのか、背中を向けて寝ちまった。
 謝ろうと体を突いても全く起きる様子はない。
 明日、普通に話してくれっかな。
 怒ってるのかな。やだな。

・三日目
 夢かな、今日は頭を撫でられてて気持ちが良かった。
 何だかトロスト区の実家を思い出す。
 父さんも良く撫でてくれたな。

 格好悪いから言わないが、実は撫でられたり、強めにぎゅーってされるのは結構好きだ。気持ちいいし、安心する。こっちからも相手を強く抱き締めれば、この人はちゃんとここに居るんだな。って感じて凄く幸な気分になる。

 まぁ、好きな奴限定だけど。
 エレン何かにやられたら即蹴り飛ばすし。
 ライナーとか、武骨なでっかい手で撫でてくれんのは好き。
 わしわし乱暴に撫でてるように見えるけど、結構優しいんだよな。絶妙な力加減とでも言うのか、気持ち良過ぎて眠くなってくるくらいだ。

 あ、嫌な事思い出した。失敗談。
 兵団の宿舎でライナーにじゃれてたら撫でてくれたまではいいけど、「お前、撫でられるの好きだろ?」って笑って言うからさ、いつもなら、うぜぇとか、んな事ねぇよって言うけど、一人っ子の俺としては、頼れる優しい兄貴が出来たみたいで嬉しくて、眠かったし、つい、甘えが顔を出して、うん、気持ちいい、もっと。って半分寝ながら言っちまって、二度と撫でてくれなくなったんだよな。
 そうだよなー、俺なんかになつかれても嬉しくないだろうし、悪人面の俺が甘えたりなんかしたら気持ち悪いよな。気味悪がったとしてもライナーは悪くない。あ、思い出したら落ち込んできた。

 それは置いといて、起きたらばさばさ音を立てて服が床に落ちた。
 寝ている間に乾いた服をマルコがかけてくれていたのだろう。気のつく奴だよな。服を着てからマルコの姿を探す事にした。

 小屋の反対側、泉の奥は小さい滝になっていて、果たしてマルコはそこに居た。
 居たのだが、水浴び。と言うには滝の下で胡座をかいて俯いて微動だにしない。水音に紛れて聞こえないが、なにかしらをぶつぶつ言っている。呼んでも聞こえてない。どうしたのか後で訊いたんだが、教えてくれなかった。
 やっぱり昨夜の事を不謹慎だとか怒ってたのか?優しい奴だから、俺には言わずに気を紛らわしていたんだろうか?

 その時の俺は、何とかマルコに機嫌を直して貰おうと、昨日集めたアヒルの卵でオムオム、じゃねぇ、オムレツを必死こいて作ってたと思う。俺が機嫌悪かったり、泣いてるといつもババアが作ってくれてた好物だ。餓鬼なんてのは単純なもんで、好物一つで懐柔されちまって情けねぇったら。書いといてなんだが、こりゃ関係ないな。

 オムレツと、ちょっとした鳥のスープも作ったな。まぁ、塩がねぇから香草と鳥とか、卵の味ばっかで文字通り味気ないもんだった。
 でも、滝から戻ってきたマルコは美味い美味いって食ってくれたんだよな。やっぱり、作ったもん美味そうに食ってくれたらお世辞でも嬉しいもんだ。機嫌を直して貰うつもりが、俺の方が浮かれてたと思う。飯食ったら、直ぐ外に出掛けて色々探してた。

 甘い林檎の木を見つけたから一杯とって、余ったら煮詰めて保存しておこう。せめて小麦粉でもあれば、窯でパン擬きでも作れるんだけどなー。なんて、考えながら歩いてたら、変な場所に迷い混んだ。

 何と大地が凍ってたんだ。
 ほんの少し土と雪が混じり合った場所から進んでいけば徐々に雪が増えてゆく。山のように標高が高い場所ではなく、多少の起伏はあるものの、同じ平地だ。少し歩くだけで、目の前には雪原が広がっていた。試しに少し掘ったくらいでは底は見えないほど雪は深く、下は硬い雪で、上は降ったばかりなのか、柔らかい雪に包まれていた。
 驚く事に、触れても冷たいが溶けない。同じように、氷らしいものもあったが太陽の光を反射して眩しく光りながらも溶けている様子がない。

 空気は冷たいものの、驚きと、未知のものに対する興奮で全身熱いくらいだった。
 この珍しい雪と、氷をマルコに持って帰ってやろう。きっと、食料の保存にも役立つはずだ。そう考えて、夢中になって採掘をしていると、やらかしてしまった。
 気が付けば、太陽は地平線に沈みかけていて、耳を済ますと、採掘の途中で見つけた氷の洞窟の中から、毎夜聞こえていたあの声がした。小屋の物置にあった箱の中から見つけた、いくら中に物を入れても重くならない不思議な鞄に掘った物を詰めて走り出すが、氷のせいで滑って思った方向に進めない。

 何度か転んで、逃げる内に見てしまった。
 人間の形をしているが、肌が爛れている程度ならば、まだマシな部類で、あちこち肉が溶け崩れて、部位の欠損、中には内蔵や骨が露出している者も居た。
 巨人とはまた違った悍ましさを感じる化け物だ。幸い、動きは鈍いようで手を俺に向かって突き出し、歩いてくるが、囲まれなければ逃げられない速さではなかった。

 ただ、数を増やすほどに、鼻をつく何とも言えない嫌な臭気。間近で見た訳ではないが、きっとあいつらは腐っていて、あの声は声帯が潰れてしまって、声を発しようとしてもまともに出てこないのだろう。あんなに何を言ってるんだろう。何か伝えたい事でもあるんだろうか?
 よもや、あれは元々ここに住んでいた住人の慣れ果てなのか?いや、あまり考えるのはよそう。攻撃出来なくなっちまう。

 あいつら自身は動きは鈍いし、ちょっと攻撃するだけで体が崩れて倒れてしまう。
 動きが速かったり、異様なほどの膂力を有する巨人と比べれば楽なものだが、疑問は尽きない。何故、腐ったまま動いたりするのだろうか。どう言う原理だ。更には空飛ぶ目玉なんてものも居て、叩き潰すと湾曲した硝子のようなものが出てきた。気持ち悪かったが、マルコに見て貰うために一応拾って帰った。

 逃げて逃げて、小屋の中に入ってマルコの顔を見た途端、腰が砕けて扉を背に座り込んじまった。巨人ほどではない。とは書いたが、悍ましいものは悍ましい。本当に何なんだよ、この世界は。普通の動物と得体の知れない化け物が同時に存在してやがる。
 それを言うと俺達の元居た世界も巨人と動物と人間だが。何と言ってもこの世界の化け物は多種多様らしい。あのべちょべちょ丸いのも見る限り、何種類も居るようだ。まぁ、遠目に見ただけだと、外観や色や大きさが違うのが判るだけで。中身まで違うのかまでは判らないけど。
 水辺とかに同化してたり、酸さえ警戒していれば、そう怖い相手でもない……、かなぁ。多分。切ってもべちょってなるだけで、あんまり攻撃が通ってる感じがしないんだけど。何にせよ、今日は疲れた。マルコに見つけた物を見せるのは明日でいいか。

 マルコにはちゃんとした物を作ったけど、俺は少し果物を食ってから直ぐに寝る準備をする。
 服と同じく箪笥の中から見つけた大きな布を洗い、暖炉の前に敷いただけの寝床だ。安心して寝れるだけ外よりマシだが、床で寝るのもな、硬くても兵舎のベッドが懐かしい。ベッドが欲しいなぁ。風呂も欲しい。水浴びは外に出ないといけないし。寒くなってきたら水だけじゃ辛いよな。ここも昼間は暖かいけど、夜は案外冷えるし。
 水引いて、排水作って……、うーん、手間だな。火を炊いてお湯を沸かす構造ってどうなってんだ?一々お湯沸かして浴槽に入れるのもなー。マジで面倒なんだよなあれ。

 そうそう、化け物共が沢山追いかけて来ていたから、念の為に出入り口の扉の前に机や椅子を置いて塞いでおいた。なんだか、今日は昨日にも増してがんがん叩いている。まさか扉を壊して入って来たりしないよな?外を見ていたマルコが呟くように、今日は月がいやに赤い。と、言っていた。気味悪いな。怖いから窓も本棚で塞いでおこう。

 がんがん、ヴーヴー、ヴぁーヴぁー、べちょべちょ、とんとん、煩くてちっとも眠れねぇ。

・四日目
 昨日と違って最悪の朝だった。
 中まで進入される事はなかったが、煩過ぎて結局眠れたのは明け方頃だ。眠くて、頭が重くて、目がまともに開きやしない。

 マルコも同じようで、ぼんやりと椅子に腰掛けていた。
 二人してだらだらしていると、こんこん。と、扉を叩く者が在った。もしかして、昼間もあいつ等がうろうろするようになったのかとも思ったが、それにしては叩き方が大人しい。人間なら喋れ!

 その思いが通じたのやら、偶然か、
「おーい、誰もいねーのー?」
 なんてのんびりした声が外から聞こえた。生きた人間だ!
 どこか聞き覚えのある声だった。後から考えたら当たり前なんだが。マルコと二人で扉の前に置いていた机やら家具類をどかして扉が開くようにした。

 自分達以外にも人が居た事が嬉しくて、一気に気分が晴れた。出迎えれば、そこには見慣れた坊主頭が立っていた。
 いつもはくっそうざい馬鹿だが、豪く感動した。思わず抱き締めちまったくらいには。コニーだったんだ。たった数日だが同期の顔はとても懐かしく感じた。

 招いて話を聞くと、何でもコニーは、気が付いたら大きな商業区がある町に居たらしい。
 そこで気のいい人が面倒を見てくれたんだが、もしかしたら自分のようにどこかに飛ばされた仲間が居るかも。そう思って、探す事にしたんだと。流石の行動力だな。馬鹿だけど。

 荷物をやたらと持ってたから訊いてみたら、あちこちうろうろするなら、うちの商品を宣伝して歩け。と、言われて色々持たされたらしい。商人って抜け目がねぇな。
 目を引いたのが豚の形をした貯金箱。と言う名目だが、入れられるのはお金だけじゃない。これもあの不思議な鞄と同じようで、幾ら物を入れても重くならない。ついでだからここで書くけど、本当にあの鞄は仕組みが解らない。
 それこそ、何でも入るんだ。かと言って無限に入る訳ではないが、普通の鞄ならどう考えても無理だろ。って大物まで入る。
短剣やつるはし何かは良く使うから腰に履いたり、手に持ってるが、鉱石でも拾った物でも何でも入れられる。それで、中を覗くと、小さい塊になってるんだ。手を突っ込んで取り出し、設置すると元の大きさに戻るって感じ。
 見た目はどう見てもただの布の鞄なんだが……、本当にこの世界は解らん。つるはしでかつん。と、叩けば物が小さくなるなんて原理も意味も解らなさ過ぎだ。

 そして更に訳が解らないのは豚の貯金箱。
 今は原理は解らないまでも、使い道は解ったがな。

 一通り話し終わると、拾ってくれた商人に言われた通り、コニーは律儀に宣伝をやろうとする。この世界の情報を得られるかと、聞いてやっていれば、興味深いが解り辛い説明を繰り返され、俺は少しばかり苛立ち始めていた。
「だから、貯金箱は全部、中身が同じなんだってば」
 と、コニーが必死で説明してくれたが、さっぱり解らない。
 何度、聞いても解らない。こいつの説明が悪いのか、俺の理解力が悪いのか。
 ずっと仕様も無いやりとりを続けていたら、マルコが見かねたように、説明だけでなく実演して貰うのはどうだ。そう提案してきた。その手があったか、あいつの説明だけで理解しようとしてた俺が馬鹿だった。
 この方法を二人も雁首揃えて思い付きもしなかったとは。

 まぁ、それはいい。
 コニーが先ず豚の貯金箱を二つ机に並べた。
 それで何か、ここにしかない物を貸せと言う。
 適当に箱の中に突っ込んでた鉄鉱石を渡すと貯金箱の中に入れた。

 取り合えず、コニーが鉄鉱石を入れたのが豚一としておく。もう一つを渡され、これを豚二とでも。
 中身を覗いて見ろと言われ、中を開くと鉄鉱石が入っている。にやにやしているコニーが持っている豚一を奪って同じく中を開けば、鉄鉱石が入っていた。出してみると豚一からも豚二からも鉄鉱石は消えた。
 まるで自分の手柄のように、凄いだろ!と鼻息を荒くするコニーが少し鬱陶しかった。

 要は、中身が共通の空間になっていて、道具を入れておくと離れた場所でも中身を共有出来るようだ。
 こう言うのは何度目か解らないが、本当にこの世界は何なんだ。今までの常識とかそう言ったものがことごとく覆されていく。

 必要だが、使用頻度が低い物を入れておいて、適宜取り出せば鞄を圧迫せずに済むかも知れない。
 本当に便利な物があるもんだ。こいつの持ってる鞄も似たものらしい。別の場所から店主が補充したり、新しい道具を追加してくれたりしてくれているそうで、売り上げを入れておけば店主がいつの間にか回収してるらしい。

 何とまぁ、効率のいい事で。
 店主は他人に移動販売をやらせれば家に居ても自動で金が入ってくる仕組みか。
 そうは言っても、簡単な方法ではないだろうが。性質の悪い奴だと道具だけを盗んで、消えちまう奴も居るだろうからな。コニーは馬鹿だけど、人を騙すとか、利用するなんてもんとは無縁の奴だから、信用は出来るだろう。見る目はある店主のようだ。

 何はともあれ、折角、再会出来たんだ。
 今日は出かけるのは止めて飯作ってやった。
 味がしない。不味い。とか言いながらしっかり完食しやがった。
 食べ終わった後は取引の話になった。金は無いが、宝石の原石らしいものは見つけたから、それと交換で塩とか、調味料みたいなもんを買えるよう頼んでくれないか。と、言っておいた。
 欲しい物や、店主がやって欲しい事がある場合は手紙でやりとりしてるそうだからな。幸い、この世界の言語は俺達の世界と変わらないようだ。

 本当に便利だ。
 こんなもんが俺達の世界にもあれば物流も盛んになるし、物の受け渡しも楽になるのに。
 遠い他兵団へのお使いもなくなる。あれ怠いんだよ。無駄に緊張するし、粗相でもすれば即効で開拓地送りにされるかも知れないし。訓練兵なんかに重要書類持たせんなっつーの。どんだけ人手がないんだよ。
 一番嫌だったのは調査兵団に使いに出た時で、例の人類最強と鉢合わせしちまって、視線合わせただけで殺されるかと思うほどの凶悪な目つきで怖かった。あと、思ったよりちっこかった。
 俺も目つきが悪いとか、悪人面とか散々言われるが、アレには流石に負ける。勝とうとも思わないけどな。

 五分くらいは無言で、じろじろ上から下まで眺められた。
 あの人は団長の護衛のような仕事もしているらしいので、見知らぬ者に対して当然の行動かも知れないが、汗が吹き出ているのに、寒くて堪らないなんて希少な体験はもう二度とご免だ。だが、憲兵団に行っても、そう言う仕事もあるんだろうな。面倒だし、少なくとも調査兵団への物は辞退したい。それくらい肝が冷えた。
 平然とアレとまともに会話出来る団長ってすげぇよ。団長は、俺の親父が生きてたらあれくらいかな?優しそうだったし。人類最強が団長室から退出した後、慰めてくれたし、美味い紅茶とクッキー食わせてくれたし。きっといい人だ。多分。

 そうだ、菓子作るのもいいな。
 マルコは本棚に並んでいる前の住人が残していた記録にご執心で、毎日、遅くまで熱心に読み耽っている。声をかけないと飯も忘れちまう。
 今までは探索がてら集めてた果物を合間に食わせてたけど、塩とか調味料だけじゃ無くて、コニーに色々と頼んでみるか。きっと高いだろうけど、宝石だし、結構価値あるんじゃないか?コニーが来てくれたお陰で、物資不足はどうにかなりそうだ。
もっと色々探してみようかな。

 俺は動いている方が性に合ってるし、情報の整理はマルコの方が得意だからな、記録の解読や、纏めの方は任せてしまおう。

 今日は擦ったものと、小さく刻んだりんごを混ぜて例の溶けない雪と氷で作った冷室で軽く凍らせた冷たいお菓子だ。
 マルコに出す前に味見してみたが、しゃりしゃりしゃくしゃくしてて結構美味かった。我ながらいい出来だ。コニーも大喜びで食ってたし、また作ろう。他の果物でも出来るかな?

・五日目
 もう不思議って感覚も無くなって来た。
 竈に鉱石を投げ込むだけで精錬されてインゴットに。
 作業台の上に必要な道具を置けば勝手に物が出来るとか。マルコの指示に従いながら新しい家具、道具、装備各種を作っていく。

 鉱石や宝石、結構集めてたと思ったけど、色々作ってみると少ないもんだな。
 今までお世話になったぼろい調理器具や、食器、家具を片付け、新しい物に入れ替えると中々どうして、それなりに見られる内装になったのではなかろうか?

 作業がてらに、コニーにもこの世界の情報を求めたが、あいつもまだ良く解ってないみたいだ。しかし、俺達以外には化け物しかしなかったから、考えもしなかったのだが、教官達や、他の一〇四期の連中もどこかに居るのだろう。無事だといいけどな。本当にこの世界は得体が知れなさ過ぎる。
 傷が直ぐに治ってしまうのは解っているが、万が一死ぬほどの致命傷を負った場合はどうなるのか。
 頭が吹っ飛んじまったり、でかい化け物に踏み潰されたりしたら?今の所、そんな致命傷を負った事はないが考えるだけでも気持ち悪い。怖い。

 まぁ、今日一日、特に変わりは無かった。
 マルコやコニーと一緒に色々作ったりしてたらいつの間にか夜だ。
 夜に出歩くのは危険だからな。今日は大人しく寝ちまおう。

・六日目
 今日は一日中雨だ。
 しかも、視界が利かないほどの大雨。
 こんな日は外に出られなかった時間を利用して、家の掃除や、道具の整理なんかをするに限る。
 下手に出歩いて事故にでもあったら堪らん。昨日の続きに没頭していれば、何故かコニーがはしゃいで外に出ようとしたもんだから、しっかり怒っておいた。
 嵐にはしゃいで外に出るとか本気で止めて欲しい。まともな医療器具もない所で大怪我したらどうするんだよ、あの馬鹿。ほんっと馬鹿。一日中目を光らせて、俺の手伝いをさせていたもんだから、普通に動き回るより疲れちまった。寝よ。

・七日目
 今日は昨日が嘘みたいに快晴。ちょっと暑いくらいだ。
 水捌けがいい土地なのか、昼頃には家の周りもからっと渇いてきたので、家の改築をする事にした。
 建築はど素人だが、まぁ、ここの基礎を使ったり、参考にしながらやれば何とかなるだろ。怖いから取り敢えず平屋建てだけどな。

 三人であーでもない、こーでもないとすったもんだしながら何とか隙間風だらけのぼろ小屋の修復と、二部屋完成。
 夕方に差し掛かった頃だろうか、誰かが扉を叩く。
 「誰か居ませんかー?」なんて間延びした声で問いかける化け物なんか居ない。
 扉を開けてみると、見慣れた顔がまたあった。エレンが居たんだ。エレンが驚いた後に、感極まったように涙を浮かべて飛びついてきた。こいつも色々苦労したようだ。床で後頭部を打ってしまったが、落ち着くまでじっとしてやっていた俺って優しいよな。ほんと。こうやって抱き付いてきたのがミカサだったらもっと良かったけど。
 まぁ、以前なら蹴るか殴り飛ばしてるだろうが、知ってる顔を見つけて安堵と感動をしてしまうのは理解出来るからな。だが、これも運命だとか、結婚しようとか口走ってたのは理解出来ない。寂し過ぎてとうとう頭に虫が湧いたか。コニーやマルコも居るぞ。つったら、他が目に入っていなかったのか顔を上げて固まってた。

 マルコがそれじゃ落ち着いて話も出来ないから座ろう?
 そう言ったら嫌そうな面して気怠そうに立ち上がってた。なんなんだあいつは、マルコ大好きだっただろ。どうして声かけられて不満気になってんだ。

 取り敢えず、椅子に座らせて、コニーから買った紅茶を淹れて話を聞いた。
 エレンが居た場所は、コニーと同じく商業の街だったらしい。だが、エレンは誰かの下につくと言う事はなく、そこで売買の基本だとか、商品の価値や、見定め方などを教えて貰い、簡単に纏めた本などで勉強しつつ旅して世界を見て回っていたらしい。何より驚いたのはここでは塩や砂糖が貴重品ではない。って事だ。コニーの野郎……、商売するもんの端くれなら、生活日用品や消耗品の価値くらい覚えとけ、全く。今まで滅茶苦茶ぼったくられてたんじゃねぇのかあれ。ちょっと今度、交渉してみないと、金が幾らあったって足りなくなる。

 まぁ、それはそれ、愚痴はいい。
 エレンは、ここに来る途中で海ってもんを見たようだった。
 泉なんか比じゃない、終わりがないように思えるほど、見渡しても、どこまでも続く水。舐めるとしょっぱくて、海自体が塩の塊なんだと言う。それで塩が貴重品ではないらしい。他にも様々な事を興奮気味に聞かせてくれた。
 海の不思議な匂い。砂ばかりが広がる大地。見た事もない町並み。ただでさえ、巨人をぶっ倒して外の世界に行くんだと豪語していただけあって、壁も無く、どこへでもいけるこの世界が楽しくて堪らないようだったが、少し無理しているようにも見えた。

 話が終わった頃に、ミカサやアルミンはどうしたんだ?って訊くと一気に悲しそうな表情になった。俺は訓練の時もマルコと一緒に居たから、マルコと同じ場所に来れたと思っていたんだが、決してそうではないようだ。
 世界が真っ暗になって、気が付いたらぽつん。と、独りで立っていたらしい。幾らミカサやアルミンを探しても影も形も無く、最初は絶望しか感じなかったとの事だ。やっぱり空元気も混じってたらしい。色んな場所を旅出来て嬉しいのは確かだろう。でも、それはアルミンとエレンの二人の夢であって、独りでやるもんじゃない。
 反発ばかりしているが、唯一の家族であるミカサと離れたのも辛かったのだろう。すっかり項垂れてしまったエレンの頭を叩いて、飯食ってけ。つったらにまーっと笑った。

 エレンの野郎がしょ気ていると、どうも落ち着かない。
 大体、落ち込んでる面なんて似合わねーんだよ。あいつは馬鹿みたいに突き進んで、大声張り上げてりゃいいんだ。いっつも必死で、がむしゃらでどうしようもない奴だけど認めてはいるんだ。
 絶対、言ってはやらないけれどな。

 夜になると、どこで寝るかってのが問題になった。だって、ベッド三つしか作ってねぇしよ。他の奴が見つかる前に、もうちょっと余裕持たせた方がいいかな?

 俺がマルコと寝るからお前、俺のベッド使え。
 そう言ったら、マルコがえっ⁉なんて驚きやがった。最初からそのつもりだったんだが、俺なんか可笑しな事言ったかな?いつも宿舎では一緒に寝てたから、別にいいだろ。なんて勝手に思ってたんだが、実は俺と一緒に寝るなんてご免だって思われてたのか?もしかして、寝相悪くて蹴り捲くったとか、寝言ひっでぇとか。
 ちょっと涙ぐんで、ぐるぐる考えてたら自分の個人的な事情だとか言ってた。マルコは寝相もいいし、寝言言ってるのも聞いた事ねぇんだけど。やっぱり俺が知らない間にやらかしてた、っつーのが最有力候補なんだが。その事情とやらを訊いても教えてくれないし、一人で動揺して、変な挙動になっていたと思う。

 エレンがじゃあ俺と一緒に寝ようなんて言い出したから、やだ。って即拒否ったら、言い合いになりかけて、マルコがエレンの頭を鷲掴みにして新しく出来た自分の部屋に引き摺っていった。エレンと一緒に寝たかったのか?マルコの方で何か積もる話でもあるんだろう。部屋の中からぼそぼそ聞こえるし。

 床にエレンが被っていた帽子が落ちていたから拾ってやった。エレンの格好は、深いやや青緑がかったロングコートに、同じ色のシルクハットに似た帽子。そして帽子には大きな白い羽が飾られていた。
 話している時に、大陸から大陸へ渡っていく鳥の羽は自由の象徴で、色んな場所を渡り歩く旅商人の印でもあるそうだ。エレンには似合っていると思う。

 床に落ちてついた砂埃を払って机に置く。
 コニーの野郎が何か言いたそうにこちらを見ていたが知らん。

・八日目
 エレンの奴にも家作りを手伝わせた。
 やっぱり一人でも増えると作業が分散出来て楽だ。
 合間合間に休憩を入れて果物を剥いてやったりしたが、人が増えると消費も増えるから備蓄があっと言う間に減っていく。森に入れば沢山生っているから困りはしないが、少し遠いんだよな。今度コニーでも連れて行って多めに持って帰ってこようかな。

 そうだ、材料が手に入ったから窯でクッキーを焼いてみたが、一回目は火加減を失敗して焦げた。外は黒焦げ、中は生。すっげぇ不味かった。菓子作りって中々難しいな。焦げた匂いが充満した部屋の中で、皆、笑ってて楽しかったからいいんだけどさ。
 後、エレンが凄い地図をくれた。歩き回るだけで地図上に絵が浮かび上がって、地形を記録してくれるそうだ。建物を建てたりしても反映され、常に最新の状態を表示してくれるそうだ。
 試しに広げてみたら家と、その周囲の泉や森の一部が浮かび上がった。どんな不思議な力があればこんなもの作れるんだ。しかも、驚く事に、これは決して特別な物ではなく、一般流通してる地図らしい。本当に何でも便利な物があるんだな、この世界は。

 何となく、この地図使ってればお前迷わなかったんじゃねーの?って言ったら、ぽかんとした顔して固まってた。思いつきもしませんでした。って言う顔。
 肝心なとこで抜けてるのは相変わらずらしい。道に迷ったお陰でお前に会えたんだからいいだろ。ってのは、確かにそうなんだろうけど、言い訳は見苦しいぞ。だとか、調子に乗ってここぞとばかりに思いっきり馬鹿にしてやった。
 一通り喧嘩した後、マルコに叱られて他の一〇四期生も居るのか?と、話題は移る。少なくとも、ここには俺、マルコ、コニー、エレンが居る。
 あの場所には大勢居たんだ。もっと紛れ込んでたって可笑しくはない。コニーだって、そう考えてあちこちうろうろしてたんだし、コニーに会って俺達もそれが気になり出した。そうしてエレンが現れた。きっと他にも居るはずだ。急にこんな所に来て、戸惑っている奴も多いだろう、中にはとっとと独り立ちしている奴も居るかもしれないが、仲間の誼だ。向こうが嫌でなければ助け合えたらと思う。

 夕飯を食うと、早速他の奴を探してくると言ってエレンが旅立っていった。
 出て行く際に少し振り返り、寂しそうではあったが、お前の部屋は作っておくからさっさと行け。と、言えば破顔して手を振って走って行った。
 俺達は俺達で別の場所を探すとしよう。

・九日目
 あの氷の大地を越えた先に、明らかに人口の建造物らしいものが見えた。
 遠目にも、それは荒れ果てて見え、人が居るとは到底思えなかったが、念のために近くまで行って確認してみる事にした。

 するとどうだ、一人の少女がぽつんと立っていた。
 思わず走り寄って肩を掴み、名前を呼んでもぼんやりとこちらを見上げるだけでほとんど反応が無い。記憶にある彼女、クリスタは、そばかすの相方と良く一緒に居て、愛らしい笑顔を振りまいていたはずだ。

 独りなのか?ユミルはどうした?どうしてこんな所に?
 根気強く話しかけると、ようやっと口を開いたが、望んだ返事ではなかった。「夜に来て」「ご主人様がそう言っている」これだけを告げて、また、だんまりになってしまった。手を引いても首を振るばかり。埒が明かなかったため、担いで帰ろうと小柄なクリスタを抱き上げようとしたが、地面に根を張ったように体が持ち上がらない。
 クリスタ自身は、虚ろな表情のまま、ふらふら建造物の周辺は歩いているのに、連れて行こうとすると途端に石造のようになってしまう。
 誰だよ、主人って。そいつに何かされたのか?悔しかったが、一旦、諦めてマルコに相談しにいった。コニーは直ぐに助けに行こうと喚いたが、マルコに止められた。暫し待てと言って本棚を漁っている。参考になるものがあるのかも。

 待っている合間にこれを書いている。何にも出来ないってもどかしいな。

 【日記追記】
 一時間ほどして、マルコが部屋から戻ってきた。
 何でも、人を呪いで縛り、自分の下僕にしてしまう化け物が居るらしい。そいつは呪われたダンジョンとやらの主であるが、それ故かダンジョンから外へは出られず、また夜にしか顕現出来ないため、それを補うため、昼間に動ける下僕を欲するそうだ。
 クリスタはこちらに来てから、どうもそいつに捕まったようだ。くそったれ。まだ日は高い。夜に来いってんならいってやらぁ。

・九日目ー夜
 結果を先に書く。
 惨敗だ。何なんだアレは。
 クリスタを連れ出そうとした途端、骨の化け物が現れやがった。

 昼間や、夜に地上に湧いて出てくる化け物どもの比じゃない。
 行く途中に出てくる人型や、目玉の化け物なんてもう見慣れたもんだ。倒し方だってもう解って敵じゃない。だから油断もあったんだと思う。

 そいつのでかさは十五メートル級の巨人くらいあった。
 念の為にと、装備は整えていったが、ふわふわと無軌道に空を飛んで、ちっとも攻撃なんざ当たりもしない。

 巨大な上に、空を無軌道に飛ぶとなれば、こちらからは何の手出しも出来ず、向こうからすれば地上をうろうろするしかない俺達なんかただのいい的だ。薙ぎ払われ、叩きつけられ、散々嬲り者にされた。悔しい。
 マルコが機転を利かせて、家まで帰還出来るポーションとやらを使っていなければ、きっと殺されてた。せめて立体機動装置があれば届くのに。

 まだ体中がぎしぎし痛い。
 痛いって事は生きてるって事だから喜ばしいが、これはこれで辛い。痛くて寝れもしねぇ。マルコもコニーも床に伸びて呻いてる。
 くっそ、早く治ってくれねぇかな。コニーが傷の回復を早める薬をくれたお陰で俺はちっとはマシだ。お前が飲め、つったのに、無理矢理口に突っ込んで飲ませやがった。

 馬鹿の癖に馬鹿の癖に馬鹿の癖に。自分の怪我を見ろよ。馬鹿野郎。
 あれだけ息巻いてたのに、こんな様になっている自分も情けねぇ。

・十日目
 傷も朝には何とか回復してた。
 二人も動けるようにはなったようだ。

 食い易い物を。と、思ってミルク粥を作ってみた。
 マルコに無理するなと言われたが、食うもん食わなきゃ治るものも治らない。俺もだが、二人とも消耗し切ってぐったりしている。みんな動きはのろのろとしたもんだ。
 粥を食べながら、早くクリスタを開放してやりたいと、気ばかりが焦った。食料はきちんと与えられているのか?水は?薄汚れた格好で、日差しに炙られながら立っていた姿。訓練所にいた頃よりも、頬がこけていたような気さえする。

 空に居る怪物をどう打倒するか。
 届かないなら届くようにすればいい。
 ここまで考えつくのは簡単でも、立体機動装置を作るのは流石に無理がある。弄れる分くらいなら構造を覚えていても、秘匿されている部品や構造までは、どうにもならない。研究するとなるとどれだけ時間を費やすやら。時間ばかりを浪費して、クリスタが衰弱死でもしたら元も子もない。遠距離武器が必要だ。銃や弓辺りはどうだろう?
 これだけ変な道具があるんだ。銃くらいならばありそうな気はする。俺がそう言うと、銃は無理でも弓くらいなら作れるかもしれない。作り方の一覧を見た覚えがあるとマルコが言った。
 だが、残念な事に俺は弓は使えない。悩んでいるとコニーが俺の肩を突いてきて、「俺を忘れんな」と、胸を反り返らせた。そういやこいつは狩猟で食ってる村出身だった。これで戦力一人分は確保だ。コニーのちょっと髪の伸びた頭を撫で回しておいた。
 じょりじょりしてていい感触だった。やり過ぎて最終的に怒ったけど。

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