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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

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海上の牢獄

・モブレ未遂あり
・山奥が腹黒な感じ
・ジャン君が巻き込まれ型の不幸体質
・ベルは最後にしか出てこない
・未遂だけど一応R18なので高校生未満は閲覧しないで下さい


 ジャンの最後の記憶は大嵐。
 床に体を伏せていても転がってしまうほど激しく揺さぶられる船の中で壁に叩きつけられ、昏倒してしまうまでだった。
 貴族の所有する船の船員と言う、給金も中々にいい仕事を見つけてジャンが喜んでいたのも束の間の事。船上での宴は当初、海の様子がおかしいとの船長判断で港でする予定だったのだが、雇い主である貴族が急に船を出せと言い出したのだ。熟練者である船長の意見も聞かず、無理矢理船を出させた結果がこれだ。大狂乱の船内。煌びやかな衣服や宝飾品を纏った貴族達が思い思いに喚いている。
 喚いた所で現状が変わるはずもなく、大海原の上で華やかな宴を催すほどの財力、権力があるのだと得意がっていた雇い主も船の揺れに合わせてあちらへこちらへと振り回され、悲壮な悲鳴を上げていた。

「はぁ……、ここ、天国か……?」
 呟いてみたものの、そんなはずはなかった。
 目に入るのは年季の入った木製の素材で出来た室内、横たえられた寝台の肌に触れる布の感触は滑らかな絹、左目には微かな痛み、手で顔に触れれば皮膚の温もりが確かにあったからだ。
 上体を起こせば軽い目眩がし、体の至る箇所が痛んだが骨が折れたりはしていなかったようで、頑丈な体に産んでくれた母親に感謝するばかりであった。

 ここがどこなのか確かめるべく、寝台から出ようとしてジャンは絶句する。
 体には布きれの一枚も纏っていない。ただ、その代わりと言ってはなんだが、切り傷や打ち身の手当がされた場所には薬が塗られたであろう痕跡と包帯が巻かれていた。手当のために服が邪魔だったのだろうとの推察は出来るが、そのまま全裸で居させる必要性はなく、ジャンは慌てて周囲を見回すが、着用できそうな衣服は全く見当たらない。

 しかし、服を入れてあるであろう洋箪笥があったため、ジャンは狭い室内にも関わらず周囲を警戒しながら洋箪笥へと近づいて、そうっと蓋を開く。
 入っているのは分厚い質感のジュストコール、白い前開きのシャツに黒のパンツと革のロングブーツに剣帯にぶら下がった鞘に収まる剣。そして微かな火薬の匂い。嫌な予感しかしなかった。
「起きたのか」
 これを借りても良いものか、ジャンが逡巡していれば扉が開く音と同時に声をかけられ、ジャンは慌てて洋箪笥の扉を盾に体を隠す。
「散々見た後だ、隠したって今更だろ」
「貴方が手当てをして下さったんですか?」
 実に人の気持ちを慮る心に欠けた発言をする低い声。しかし、それでも助けてくれたのだとジャンは赤い絨毯が敷かれた床を見詰めながら問いかける。
「助けろと命令したのは俺だが、手がこの通りなんで手当は別の奴だ」
 ジャンが言葉に吸い寄せられるように視線を上げれば、そこには薄く髭を蓄えた金髪の厳めしい偉丈夫が居て、この通り。と、示すように、左腕の袖の先が揺れている。手首から先が欠損しているようだった。
「あの、助けて戴いてありがとうございます。良かったら着る物を戴けませんか?」
 偉丈夫は、あぁ。と、思い出したように声を出し、持っていた服をジャンに渡す。
 水色と白の横縞模様のプルオーバーシャツにたぼつくパンツと、簡素なサンダル。
「俺の服は?」
「ぼろぼろだったから雑用の邪魔になるだろあんな服」
 貴族の前に出ても可笑しくないように支給された白いタキシードは確かに雑用には向かない。ただで助けるはずもない。そう納得してジャンは洋箪笥の蓋の裏でごそごそと貰った服を着用していく。
 服事態はかなり大きくて緩く、一九〇センチのジャンでもゆったりと着れた。
「それで、俺は何をすれば?」
「まぁ、待て」
 男性の手がジャンの顔に伸び、痛みで上手く開かない左目の縁を触る。
「目はどうだ?」
「痛いです」
「だろうな、これで覆っておくといい」
 渡された黒い眼帯。
 言葉は足りないが、左目に負担をかけないよう保護しておけとの事らしい。
「お前が居た船は俺等が見つけた頃には横向いちまっててな、ほとんど沈みかけで中は食器やら机の破片が散乱してたからそれで傷ついたんだろう」
「あの、他の人達は……」
 ジャンに怪我の理由はどうでも良く、雇い主は元より来客、そして仲間の状態が気になった。
「生きている奴は回収したが、後は……」
 言いながら、男性は床を指した。否、ここは。
「海の上、ですか、ここ」
「そうだ。俺の船にお前は拾われたんだ」
 あの嵐で生き残れたのは幸運と言う他ない。
 可愛がってくれた船長も、気の良い仲間も海の底なのか、生き残っているのか、ジャンの体から血の気が引いていく。
「治療室を見ていくか?」
 ジャンは無言で頷き、この船の船長らしき男性に誘導されて治療室へと赴く。
 船底にある治療室は所狭しと怪我人が並んでおり、船医とその助手らしい人間が忙しなく働いていた。顔が包帯だらけの者、腕や足を動かないように固定されている者、度合いは様々だが、確実にジャンよりも重傷者ばかりだ。忙しない医療現場、とても誰が誰かを確認して回るような無粋な真似は出来ない。
「そうそう、気絶してたお前の体の上に丁度良く机が被さってたから怪我が少なくすんだようだ。幸運だったな」
「えぇ、本当にそう思います……」
 上手くひっくり返った机に潰される事もなく、寧ろありとあらゆる危険物からの盾となって守ってくれていたのだ。奇跡、幸運以外の言葉はないだろう。
「それで、俺は何をすればいいんでしょうか?」
「そうだな……」
 治療室から甲板へと上がると無精髭だらけの痩せた男が呼ばれ、船長はジャンへ雑用を教えるように命令する。
「お前も船に居たんだろ?やる事は大体変わんねぇよ」
 事もなげにデッキブラシを渡され、先ずは甲板の掃除掃除を済ませ、積み荷の整理をしに倉庫へと入れば、ぞく。と、ジャンの肌が粟立った。
「あの、これは……」
「見覚えあるか?当然だろうな。お前のが居た船に居た連中がつけてたもんだし」
 痩せた男は嫌らしい笑みを浮かべ、ジャンを顧みる。
 嫌な予感はしていた。だが、生存者の治療をしている様子から杞憂だと自分を説得していのに、それが一気に瓦解した瞬間だった。これは海賊の船なのだと察してしまったからだ。嵐に遭い、沈みかけた船と死体からの強奪。あまりにも悍ましい行為を平然と語る姿にジャンは怖気立つ。
「はは、お前もこの船に居りゃその内慣れる」
「そんな……」
「でっけぇ形してて、随分なお坊ちゃんだなぁ。船員じゃなくてあの連中の餓鬼か?」
 下からの睨め上げるような視線。
 腹の底から得も言われぬ嫌悪感が湧き上がるが唾液共に嚥下し、ジャンは首を横に振る。
「い、いえ、ただの給仕係です……」
「だよな」
 小馬鹿にしたような笑いを漏らしながら貴族ではないとの言葉を信じる単純さが今はありがたかった。賊に貴族などと思われれば、何をされるか分かったものではない。
 あの宴で貴族の指、首や耳、髪を飾っていた宝飾品、損傷の少ないドレスも何着かあった。ジャンは決して貴族を好んではいなかったが、亡骸を陵辱するような行為を目の当たりにすれば、胸が酷く悪くなる。
「ほら新入り、ちゃっちゃと手を動かせ。飯抜きにするぞ」
 新入り。このような連中の仲間になったつもりは微塵もないが、ジャンは無言で手を動かす。ここで殺されたりしては生き残った意味が無い。今は目を閉じて、生き残る事だけを考えるのだと、自身に何度も言い聞かせる。
「あれ……」
 手持った宝飾品を小箱にしまおうとしても、何度も位置がずれ、手にしようとしても手が空振り、その度に隣に居る男からねちねちと嫌味を言われた。
「お前、その目元々じゃねぇのか?」
「あ、怪我……、してて……」
 何度も嫌味を言われて萎縮してしまい、ジャンが小声で答えれば男は納得したようで、片目が潰れると距離が解らなくなるのだと説明してくれた。仲間がそうだったそうだ。最初はその仲間がふざけていると思ったが、自分も片目を閉じて行動すると同じように成ったのだと語った。
 こんな話だけを聞けば、仲間を大事にする気の良い人間なのかも知れなかったが、先ず死体はぎをする人間。との前提が出来てしまったが故に、ジャンは警戒を解けない。

 緊張が続く中で船内の雑用を言われるがままにこなし、気がつけば空は茜色になっていた。
 仕事の終わりを告げられたため、疲れて甲板の上に座って居れば食事を渡された。簡素なパンと干し肉に加えてやたら酸味のあるワイン。酸っぱさに顔を顰めれば笑われ、ライムが入っているのだと言う。ライムの絞り汁を飲めば、船上では天敵とも言える壊血病にかからずにいられるのだ。
 ジャンは酸味の強いワインをちびちびと飲み、干し肉と固いパンを囓る。
 たった一日だが、異様に疲れてしまった。緊張しっぱなしだったからであろう。
「おい、名はなんと言ったか……」
「ジャン……、です」
 食べ終わった頃に船長に声をかけられ、ジャンは律儀に答えた。
 すると、船長の口から驚く言葉が続く。
「港に着くまでは俺の部屋で寝ろ」
 と。
「俺が?捕虜みたいなもんでしょう?」
 ジャンは海賊に詳しくはないが、今、彼はこの船の中で一番の下っ端である事は明白で、寝心地の悪い倉庫で布きれ一枚で眠るのだと考えていたのに、船長からこのような申し出を受けて若干頭が混乱していた。
「お前をあいつらと同じ場所では眠らせられない」
「豪い好待遇ですね……?」
「港に送り届けられなくなったら困る」
「リンチでもされるんですか?流石にそんな……」
 ジャンは船長の真意を理解できず、人を信じる根っこの甘さが顔を出す。
 それに呆れたのか、ならば試しに他の部下と同じ部屋で眠れと命令され、案内された。そこは船長の自室とは大違いで、どこか薄汚れて如何にも男臭い匂いがした。
「ったく、ちゃんと掃除や洗濯はしろと言ってるのに……」
 ぶつぶつと文句を零しながら、船長は部屋の隅に置いてあった毛布をジャンに渡す。
 毛布もなにやら臭気を発しているが、ジャンはあるだけマシと口に蓋をする。実際、長い船旅をする上では仕方のない事でもあった。
「まぁ、お前の甘っちょろさにみんなが感動して優しくしてくれればいいな?」
 不穏な捨て科白を残し、船長は船室を後にする。
 やたらと脅された末に上手く眠れるか不安でしかなかったが、傷ついた体と疲れも手伝ってジャンは船室の隅で大きな体を小さく丸めながら眠ってしまった。

   ◆ ◇ ◆ ◇

 瞼の上から光を当てられ、深い眠りから覚醒した暗闇の中。
 何かが肌を這っている感触が気持ち悪く、寝惚けながら虫かと払い除けようとすれば何者かに手を掴まれた。
「な……?」
 上手く動かない頭で必死に整理をするが、本当にリンチをされるのかとの恐怖がジャンの中に湧き起こる。
「や、やめ……」
「なに、大人しくしてりゃ痛くはしねぇよ」
 芯を限界まで細くしてあるのか、頭上にあるランタンの明かりは小さい。しかし、自身にのし掛かる男の気味の悪い表情は嫌でも見えてしまった。
「程良くほぐれたら変わってくれよ-」
「その坊ちゃんは初めてだろうし優しくしてやれよ」
 茶化し、揶揄るような声色が暗闇から幾つも聞こえてくる。
 暗闇から湧き出てきた手に両手を押さえつけられ、もう二本の手が船長から貰った服を剥いでいく。

 なんだこれは。
 なにをされてるんだ。

「意外に綺麗な肌してんなぁ」
 下卑た声と笑い声。
 ジャンは相手の意図が解らないながらも抵抗しようと手足をばたつかせるが、陸地で暮らしている一般市民と屈強な海賊。鍛え方が当然違う。腕力で敵うはずもなく、ジャンの抵抗も意に介さない男達は穿いていたパンツを完全に足から抜き、足首を掴んだ。
「昼間から思ってたけど、良い体してんなぁ」
 のし掛かる男が舌なめずりをする様に、ジャンは背中から氷柱で刺し貫かれたような恐怖に襲われる。それでも負けじと足を掴んでくる手を振り払い、歯がみして睨み付けた。薄らと涙の膜が張った琥珀色の切れ長の眼、拙い抵抗、それが返って男達の嗜虐心を満足させ、悦ばせるなど知りもせず。
「活きの良い奴は嫌いじゃねぇぜ」
 にたにた嗤う男が腰布を外し、下半身を露わにすればそそり勃った逸物が現れる。
 ジャンは息を呑み、更に暴れようとするが、他の男達が更に足を押さえつけて来たため動く事すらままならない。
「大人しくしてれば痛くしねぇって言ってるだろ?」
 べろ。と、顔を舐められジャンは怖気から全身に鳥肌を立てるが、男達は意に介していない。
「ちゃんと油も使ってやるからさ、優しいだろ俺達は?」
「優しい人間が強姦なんかするかい?」
 こんな場に似つかわしくない穏やかな声。
 伸びてきた足に思い切り蹴り上げられ、ジャンにのし掛かっていた男が横へと吹っ飛び、周囲の男達が明らかに動揺する。
「ふ、副船長……」
 細い明かりに浮かび上がる人影はかなりの長身で、見上げていてもジャンより高く見えた。
「ほら、ライナーが言ってた意味、これで解ったかい?」
 面倒な蠅でも払うように手を振れば男達はジャンを解放し、かしこまったように微動だにしない。
「ごめんね、人数が増えるだけ部下の教育って難しくてさ」
 ジャンが穿いていたパンツとサンダルを拾い、そしてジャン自身を横抱きに抱え上げて副船長。と、呼ばれた長身の男は船室から出て行き、向かった先は船長室だった。
「ライナー、予想通り」
「やっぱりか……、悪いなベルトルト」
 船長室の扉を行儀悪く足で閉め、副船長ことベルトルトはジャンを床に下ろす。
「パンツ穿いたら?」
「は、はい……!」
 ジャンが慌てて服を整える傍らで、船長のライナーと、副船長のベルトルトはジャンを手込めにしようとした部下達の処遇を話し合っていた。分ける食料が勿体ないから手足の骨を折った上で船から投げ落とす、あるいはそいつを樽に詰めて部下の性処理の道具にする。内容はジャンには考えもつかないものばかり。
「あぁ、君も腹に据えかねてるだろうし、ナイフ上げようか?」
「こ……ろせ……、って事です、か?」
 ジャンは思わず声が震え、ベルトルトは肯定の微笑を浮かべる。
「彼らは元々、犯罪者でね。手癖も下半身も中々制御が効かないみたいでさ、僕等も困ってるんだ」
「あれらも一応預かり物だから、よっぽどの理由がないと処分できねぇしな」
 ベルトルトは肩を竦め、ライナーは溜息を吐く。
 なんだかどこぞの管理職のような悩みで、この場にはどうにも似つかわしくないようにジャンには思えた。
「船長よりも、偉い人が居るんですか……?」
 海賊は、持つ船が一つの国のようなもの。
 船長こそが王であり、法であり、唯一神とも言える。
 それよりも上位存在とはいかなる者か、ジャンには全く思いつかなかった。
「俺等も色々しがらみがあるのさ」
 ライナーが苦笑し、再び溜息を吐き、彼の頭を悩ませる姿にジャンはふと、疑問を抱いた。
「なんで助けてくれたんですか……?」
 こんな見ず知らずの人間を助け、部下達と確執が起こるよりも生贄にした方が楽なのではないか。所詮は賊なのだから。
 無論、生贄に捧げられる方は堪ったものではない。あの押さえつけられ、性処理の対象として『使われそうになる』悍ましさ、嫌悪感、恐怖は筆舌に尽くしがたいものであったが、この船を統べる彼等には関係ない。
「ご期待に添えなくて申し訳ないけど、僕等はそういうの嫌いなんだよねぇ」
「別にして欲しかった訳じゃ……」
 ベルトルトは、優しげな相貌で声色や立ち振る舞いから穏やかそうな人間ではあるが、どこか人と自分の間に大きな線を引いているような掴み所の無い男だった。
 対してライナーは情緒に欠ける部分は大いにあったが責任感が強く、常に様々な事で頭を悩ませているような様子が垣間見え、決して悪人には見えなかった。何故こんな人間が海賊の頭領などをしてるのか首を傾げてしまうほど。
「あの、俺はどうしたらいいですか……」
「そうだね、僕と一緒に寝る?流石にあいつらも僕が一緒ならあんな事出来ないだろうし」
 一見優男に見えるベルトルトであるが、副船長を務めるからには海の荒くれ者達に負けないほどの実力があった。万が一、不満を持った船員が報復を考えてもどうにか出来る算段があるからこその提案だったが、ジャンは首を慌ただしく横に振り、拒否を示す。
「僕は強姦なんかしないけど?」
 如何にも心外だとベルトルトは眉根を寄せる。
「いえ、そうじゃなくて、偉い人と一緒に寝れるほど俺は肝太くないので……、助けてくれたのは本当に感謝してます」
「偉いって、ふふ、そんな風に言ってくれる人初めてだなぁ」
 何が面白かったのか、ベルトルトはにこにこと機嫌良く笑いながらジャンの頭を撫でる。一九〇センチの大男をまるで子供扱いだ。
「そう、なんですか?」
「勝手に軽蔑されたり怯えられる事はあったけど、感謝や尊重されるなんて滅多にないからさ、君は良い子だね」
「俺、もう十九なんですが……」
「僕の一つ下だね。君、この船にずっと居なよ」
 副船長を務める彼が自分とたった一つしか違わない年齢と聞いてジャンは驚き、ここへ連れてこられた時のように横抱きにされて二重に驚いて声も出なくなってしまった。
「おい、ベルトルト」
「僕がこの子の面倒見るよ」
「猫の仔じゃないんだぞ」
「解ってるよ」
 ベルトルトは住み慣れた船内とあってか、ジャンを抱えたまま暗闇の中を平然と歩いて行き、自室であろう扉を蹴って開くとジャンを柔らかいベッドへと座らせる。
「僕ももう寝るから、君も休んで」
 暗闇から聞こえるのはベルトルトの優しい声色と、ジュストコールを脱ぐ衣擦れの音。害意は感じられず、自身を守るための善意だろうと理解できた。
 だが、
「俺は部屋の隅を貸して戴ければ……」
「まぁまぁ、独り寝も寒いもんだしさ、二人なら暖かいよ」
 ベルトルトが宙を手探ってジャンを捜し当てると髪を何度か撫で、ベッドの奥へと押しやり布団をかけ、早く寝ろと急かすように肩を叩いた。
 下っ端の船室で眠った時とは別の緊張で、襲われかけた恐怖はジャンの心をヤスリのように削っていく。しかし、二人なら暖かい。ベルトルトの言う通り、肌に感じた悍ましい熱とは違う暖かさがじんわりと体に染み、今更ながら助かった安堵が胸を満たした。嵐に襲われた際はもう終わりかと思ったが救われ、今度も最悪の状況から救われた。
 ライナーとベルトルトの言を考えれば、根拠もなく人を信じようとするジャンは痛い目を見なければ自身の言葉の意味を理解しまい。と、わざとあの状況へ放り込んだ事も理解する。きちんと助ける算段を立てた上での行動だ、恐ろしかったが恨みはしない。実際、経験しなければあんな悪意が存在するなど考えもしなかっただろう。
「あの、ありがとうございました……」
「お人好しだね、君……、本当に解ってる?」
 欠伸混じりの眠たげな声がして、ジャンの返事よりも先に寝息が聞こえてきた。
 
 ジャンも奥に追いやられ、身動きが取れなくなってしまったため、観念して目を閉じる。
 明日がどうなるかの不安はあったが、今はどうしようもなかった。

   ◆ ◇ ◆ ◇

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