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馬房

小説は妄想と捏造甚だしい。 原作のネタばれ、都合の良い解釈。 R18、グロ(精神的にも)、暴力表現などが含まれます。 冒頭にざっと注意を書いてありますので、それを読んだ上での 閲覧を宜しくお願い致します。何かあればご連絡いただければ幸いです。 基本的に右ジャンしか書きません。 萌が斜め上です。無駄にシリアスバイオレンス脳です。 拙い文章ですが、少しでもお楽しみ戴ければ嬉しく思います。 右ジャン、ジャン総受けしか書きません。あしからず。

せんとらるのいっとうち

・エレン止められなかったIF
・捏造妄想
・フロックだけが幸せ
・最新話ネタバレあり(2020/4/10時点)
・ただぐだぐだ回想したり喋ったりしてるだけ
2020/04/10





「また増えたな」
 自室で針仕事をしていたジャンが俺の声に反応し、視線を寄越した後、おかえり。それだけを言ってまた子供向けに可愛らしい姿に誂えられた熊のぬいぐるみを縫いだした。
 捕らえた当初は激しく暴れたものだが、今ではすっかり大人しくなり、左手首につけっぱなしの拘束具も最早必要ない物になってはいるが、ジャンが俺の所有物だと知らしめるため、旧体制を制圧した象徴でもあるため付けっぱなしにしてある。
 アルミンがジャンの死を口にした際はいささか驚きはしたが、結果的にジャンは生きており、俺の手中に落ちた。相応に手痛い反撃は食らったが、猫が噛みついた程度と思って赦してやる事にした。とは言え、手放しで。とはいかないが。

「器用なもんだな」
「小さい頃、母親と一緒に作ってた。どっかに卸す商品だったんだろうが……」
 掌大の布を縫い終えると裏と表をひっくり返し、一部だけ縫い残した穴から端切れ、糸屑などを詰め込んで生き物の形にしていく。詰め終われば穴を塞ぎ、目の前の机の上に並べた。そこには既に二体の完成品があり、赤、青、緑の色違いの兄弟のようだが、赤い熊は黒いマフラーを身に着けていた。
 ジャンが何を想いながらぬいぐるみを黙々と縫っているのか、なんとなく察せようというものだ。部屋の中には大小無数のぬいぐるみがあり、目立つ物で言えば、そばかすついたの熊や、クラバットを巻いている熊も居る。恐らく、死んだ人間を投影しながら作った物も多数あるのだろう。これは、こいつなりに鎮魂のつもりなのか。
 馬鹿々々しい。死んだらただの無だ。思いを背負うだの、誰かが許してくれないなど、結局は生き残った人間の自我の摩り替えであり、本人の思いの形の一つに過ぎない。
「お前の気がそれで済むなら勝手にすりゃいいが、このまま増えてったら置く場所が無くなるな」
「まだ大丈夫だ……」
 ベッドの上も机の上も、既に熊で埋め尽くされている。
 全てが踏み潰され、物資が足りない中で発覚すれば批判を受けそうだが、エレンが居なくなった今、全ての権威は俺に集中している。ぐだぐだ煩い小蠅は叩き潰す。俺は、今が一番幸せなんだ。邪魔をする奴は皆、敵でしかない。
「そうか?やる時とか大分、邪魔だろ」
 熊の虚ろな目に見られながらの行為をお望みならそうしてやるが。
 そう付け加えると、無表情だったジャンの顔が険しく歪んだ。
「ここでしなきゃいいだろ……」
「約束は出来ないな」
 様々な種類の布を重ねてある机に腰を下ろし、ジャンの頭に唇を寄せ口付けた。
「机……、針とか鋏置いてあるから危ないぞ」
「心配してくれてるのか?ありがとう」
 俺がジャンの細い髪を弄り回しても針仕事を止めない。自分が危ないから。ではなく俺を気遣う辺りが心地好い。
「今日、良い肉が手に入ったんだ。ニコロに美味い物を作らせている。あぁ、適当に布や糸も見繕って来てやったから使うといい」
「お前、いいのか?」
「なにが?」
「皆、大変なんだろ……?王城にばっかり物資が集まったら反感買って暴動とか……」
「気にするな、お前には安穏とした生活を享受する権利があるんだから」
 壁の中も地鳴らしによって相応の損害を被り、復興するにも常に人手が足りていない。
 俺達が住む王城は無論、無事だが、島の外へ向かうほどに世界は荒れ果ててしまっている。住民へは適宜、物資の配給をしているが、それでも足りていないのが現状。自分ばかりがこんな生活をしてていいのかとの罪悪感、矢面に立つ俺へ反感が集まる事を心配してくれているんだろう。
「俺の方は上手くやるさ。後ろから撃たれて死ぬような馬鹿にはならねぇよ。しぶとさには自信がある」
「だといいな……」
 一瞬、俺を憐れむような表情を作り、ジャンは新しい熊を作り出した。
 布に紙を当て、それに従って布を切っていく。手つきは慣れもあって淀みなく、切り離された布が熊に形成されていくのかと思えば中々面白いものだ。
「ほら、そろそろ行くぞ」
 布を切り終え、針山に刺した針を手にしようとした所で止め、部屋に繋ぎ留めておくための拘束具を外し、手を握り込む。
「美味そうな匂いがしてきたな」
「あぁ、そうだな。ニコロの飯は……、美味いしな」
 俯いたまま覇気のない声。
 随分と気が塞いでいるようだ。
 手慰みになるとはいえ、日がな部屋に籠ってぬいぐるみを作っていれば気疲れもするだろう。
「食事が終わったら、散歩にでも連れて行ってやるよ」
「あぁ、どうも」
 へら。と、ジャンが俺に笑いかける。手を引いて片足を引き摺るジャンを支えてやり、ニコロが食事を用意している食堂へと向かう。
「飯終わったら、脚の消毒して、包帯巻き直すか」
「うん……」
 立った際に、足首に巻いてある包帯に血が滲んでいる様子が見えた。
 もう二度と走れないよう、飛べないよう、俺を裏切れないように、丹念に切り刻んだあの傷を見ると、ジャンが俺のものになったんだな。と、感慨深くなる。あの山のような熊のぬいぐるみも、作り終えた所で燃やしてやったらどんな表情を見せるんだろう。

 今から楽しみだ。

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